トリニティ自治区の辺境にある誰も寄らない場所。そこには1つの家がある。私はその家の無機質な白黒の玄関をノックして返事を待つ。
「……誰だ?」
セイア「私だよ」
「ああ、セイアか。今開けよう」
開いた扉から出てきたのは異形の姿をした大人。彼こそトリニティの先生だ。見た目はあまりにも怪しいが私にとっては数少ない信用に値する人間である。
マエストロ「ここに来るなんて珍しい……いや、そうでもないか。何の用だ?」
セイア「ちょっと大事な話があってね。少々時間をもらってもいいかい?」
マエストロ「構わないぞ。今はそんなに急用もないしな」
セイア「助かるよ。他の人間にはあまり相談出来ない事だからね」
マエストロ「勿体ぶらずに早く話してくれ」
セイア「すまない。……最近変な夢を見るんだ。1回2回の話じゃない。何度もだ」
マエストロ「変な夢?そのようなものは誰だって見るだろう。だが連続して見るのはセイア自身の問題ではないか?」
セイア「それはそうなんだけど……夢の内容が異質でね。目が覚める直前に必ず憎悪に満ちた淑女が現れるんだ」
マエストロ「淑女?そいつはどのような見た目なんだ?」
セイア「白いドレスに身を包んでいて身体は赤い。まるで化け物のようだった」
マエストロ「(……マダムの事か?しかし何故セイアが夢の中でマダムと邂逅するのだろうか?それに憎悪とは?私の知る彼女からはかけ離れている感情だが……)」
セイア「先生?何か心当たりでもあるのかい?」
マエストロ「いや、何でもない。知り合いに似ていると思ったが気のせいだったようだ」
セイア「そうか……私はこの夢には意味があると考えているんだ。これはあくまで予想でしかないけれどあれを放っておくと近いうちに大きな被害が出る」
マエストロ「被害か……現状はセイアが夢で見た情報しかないので大きな対策は出来そうにないがなるべく被害を抑えられるように出来る事はやっておこう」
セイア「話した私が言うのも何だけど……私の夢の話を信じてくれるのかい?」
マエストロ「セイアがくだらない嘘をつくような性格をしていない事くらい知っている。それに万が一の事もあるしな。準備を怠って私の芸術が壊されたら困る」
セイア「すまない……いや、ありがとう。やはり先生に話してよかったよ。これで私は失礼する」
マエストロ「また何か分かったら教えてくれ。……さて、一応確認がてら電話をしてみるか」
普段なら絶対にかけることのない人間に通話を発信する。2.3コールした後に通話は繋がり「何の用です」と少々不機嫌そうな声が聞こえた。
マエストロ「マダムか。今時間はあるか?」
ベアトリーチェ『ないです。今から生徒が作ってくれたミラクル5000を堪能しなければいけませんので』
マエストロ「その生徒に関わる話があるんだ」
ベアトリーチェ『……ならば聞きましょう』
マエストロ「とはいえそこまで時間は取らせない。……何か最近憎悪や怒りを感じた事はあるか?それも数日、いや永遠に引きずるような」
ベアトリーチェ『憎悪や怒り?まあ……人前でいちゃつく黒服にはしょっちゅう八つ当たりをしますが……永遠に引きずりはしないですね』
マエストロ「そうか。時間を取らせてすまないな」
ベアトリーチェ『貴方まさかこんな質問をする為だけに私の時間を奪』
通話を切った。やはり自分の知るベアトリーチェは憎悪で行動するようなタイプじゃない。怒りもその場限りのものだろう。
マエストロ「ならばセイアの言っていた淑女とは誰の事なのだ……?」
謎はまだ深まっていく。
このように3部は複数のゲマトリア視点からお送りしていこうと思います