例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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復讐の序章と白猫

私は何度この悪夢を見るのだろう。形は違うものの毎回私を絶望させようとしてくるそれは徐々に身体を蝕んでいる。……しかしいつもなら地獄絵図が始まるであろうタイミングになっても何も起こらない。泣き叫ぶ生徒の声も肉の焼けた臭いもしない。

 

セイア「これ以上見なくてもいいのだろうか……」

 

淑女「いいえ、貴女には永遠に悪夢を彷徨ってもらいます」

 

セイア「なっ……淑女!?」

 

淑女「ご機嫌よう、醜い鼠さん」

 

目の前に居る淑女はこちらを見て不敵な笑みを浮かべている。やはり彼女がこの悪夢を私に見せているのだろうか。

 

淑女「前回同様接触してくるとは貴女も命知らずですね」

 

セイア「前回……?何を言っているんだい?」

 

淑女「貴女は知る必要がない事です」

 

そう言って白い銃を取り出す淑女。標的は……当然私だろう。

 

セイア「残念ながらその程度の銃では私にダメージは与えられないよ。キヴォトス人は丈夫だからね」

 

淑女「ええ、そうでしょうね。普通の弾なら」

 

セイア「……何が言いたいんだい?」

 

淑女「私がその程度の事を理解していないとでも?当然対策していますよ」

 

セイア「っ!?な、なんだいこの弾は……」

 

淑女が撃った弾が右腕に当たった直後にとてつもない痛みが走る。まるで内側から抉られているような激痛に現実と夢の区別がつかなくなってきていた。

 

淑女「どうやら効果があるようですね」

 

セイア「何故こんなにも痛みが……ここは夢じゃないのかい……」

 

淑女「何を勘違いしているのかは知りませんがここは現実ですよ」

 

セイア「……参ったね。貴女の事は夢でしか見た事がなかったから勘違いしてしまったよ」

 

……さて、この状況をどう打破しようか。右腕の感覚はなく、持っていた銃は床に転がっている。遮蔽物もなくそもそも淑女との距離が近い。逃げようにも彼女が出口を塞ぐように立たれているのでそれも困難だろう。仮に外に出られたとしても逃げられるとは限らない。……八方塞がりかもしれないね。

 

淑女「私の復讐の為に不安な要素はなるべく取り除いておくべきだと思いまして。ですが殺しはしないのでご安心を。死んでしまえば貴女から搾取が出来ませんから」

 

セイア「それは物騒な話だね。お断りするよ」

 

淑女「嗚呼、理解できません。何故貴女達は自らに拒否権があると思っているのですか?」

 

セイア「なんて横暴なんだ……」

 

淑女「横暴?私は大人として当然の発言をしたまでです」

 

淑女は再度銃口をこちらに向ける。そして弾丸が発射される……刹那に1枚のトランプが淑女の手に当たり照準がズレた。

 

淑女「……この私の邪魔をするとは何者ですか?」

 

「……ある者は、私を盗人と蔑み──そしてまた、ある者は私を咎人と罵る。そんな中1人、私を理解し歩み寄った理解者が居ました。人は生まれながらにして名を持つわけではありません。呼び名とは、他者から与えられるもの……」

 

名乗り口上が一区切りついた後、指を鳴らす音が聞こえたと思えば目の前に白いスーツを着た女性が現れる。

 

助手「故に私はこの名を受け入れました。そう、我が名は──『芸術家の助手』」

 

淑女「それで、その助手が私に何の用ですか?」

 

助手「生憎私は貴女のような醜いものに興味はありません。こちらの芸術品であるお嬢さんを失う訳にはいかないと頼まれただけですので」

 

セイア「誰だかは知らないけど……助かったよ」

 

淑女「……まあいいでしょう。鼠が2匹に増えたところで何も変わりはありません。まとめて葬って差し上げま……」

 

マエストロ「私の生徒に何をしようとしているのだ、マダム」

 

淑女「おや……まさか貴方まで教師なんてくだらない役職に就いているとは思いませんでしたよ。崇高である芸術は捨てたのですか?」

 

マエストロ「そこに居る生徒が私の芸術品だが?」

 

淑女「では貴方の目の前でそれらを壊して差し上げま……!?」

 

助手「失礼。余りにも隙だらけでしたので急所を突かせて頂きました」

 

淑女「……ここまで私を愚弄するとは実に不愉快です。今この場で貴方達を殺すのは簡単な事ですが今は退くとしましょう」

 

マエストロ「待て。逃げる前に私の生徒を返してもらおうか」

 

淑女「お断りします。あの女はまだ利用価値がありますので」

 

そう言い残して淑女の幻影は消える。そして緊張が解けたのかセイアはその場で座り込んでしまった。

 

セイア「助かった……2人とも、ありがとう」

 

マエストロ「礼はいい。それよりも右腕を見せろ。助手は念の為に私の部屋から包帯を持ってきてくれ」

 

助手「分かりました」

 

彼女の腕は損傷こそしていないものの撃たれた部位の周辺から神秘の反応がしない。恐らく淑女が何かしらを行ったのだろうが……

 

マエストロ「しかしこれなら数日経てば回復するだろう。一時的に体内に秘めている神秘が消失しているだけだからな」

 

セイア「それならいいんだ。……いや、それよりも重要な事がある。淑女が動き出したという事は……」

 

マエストロ「ゲヘナとトリニティの戦争が実現してしまう可能性が高い……という事だろうな」

 

セイア「それだけは止めないといけない。しかしどうすれば……」

 

マエストロ「猶予はない、か……せめてマダムと連絡が取れればな」

 

セイア「マダム?さっき淑女の名前を呼ぶ際に発していたような……」

 

マエストロ「ああ、お前には言っていなかったか。今この世界には今2人の淑女がいる。1人は先程までここに居た淑女、もう1人はゲヘナの教師だ」

 

セイア「淑女が2人……もしかしてあの戦争の夢で見たボロボロの淑女が?……まさか戦争の火種となったのは……」

 

ーーー

 

「"補習部の子達、個性的だけど可愛い子ばかりだったなぁ……あれ、ベア先生じゃん"」

 

淑女「おや、奇遇ですね。会いたかったですよ、シャーレの先生」

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