ホシノ「せん……せい?」
倒れた彼の返答はない。どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。このままだと彼が死んでしまう。とにかく応急処置をして病院に連れていかないと。
ホシノ「だ……大丈夫。まだ助けられる。今までだってそうだったもんね」
ゆっくりと彼に近づいて手を握るとまだ暖かい。よかった、まだ生きてる。まだ間に合う。
ホシノ「ごめんね先生……この包帯、お薬塗り込んでるからちょっと染みちゃうかもしれないけど、許してね」
淑女「そこの生徒、やめなさい。そんな事をしてもすでに死んでいる人間に対する冒涜ですよ」
ホシノ「うるさい……黙ってろ」
淑女「屑が私にそのような口を聞くなんて……黒服も教育が下手ですね。常識がないのでしょうか」
ホシノ「黙れと言っただろうが!」
淑女「耳障りですよ」
淑女はまた銃を構えて弾を放つ。それは彼女をすり抜けて彼の……黒服の頭に撃ち込まれた。
ホシノ「あっ……」
淑女「これで貴女がやろうとしている事は無駄になりました」
ホシノ「ああ……あああ……」
徐々に冷たくなっていく彼の身体。あの時砂漠で触った先輩のように生気を感じないそれに触れて彼女のキャパシティは限界を迎えた。
ホシノ「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
響く慟哭。彼女は絶望する。1番大切なものを守れなかった事に。何も出来ない無力な自分に。そんな絶望に打ちひしがれている光景を嘲笑うように眺め愉悦に浸る淑女。
淑女「素晴らしいですね。これぞまさに芸術と言えるでしょう」
ナギサ「……ミカさん、これが貴女が望んだ光景ですか?」
ミカ「ち、違う……私はこんな事を望んでない……」
ナギサ「望んでない。そう言えば許されると思っているのですか?1人の生徒を不幸にしてよくもまあそんな子供の様な事を言えますね」
ミカ「わ、私は……」
淑女「いいえ、誇りなさいミカよ。貴女は私のよき従僕として貢献したのですから」
ミカ「こんなの誇れないよ……ゲヘナとかトリニティとか、そんなの関係ない……他人の幸せを奪うような事なんてしたくないよ……」
淑女「何を言っているのです?生徒1匹が不幸になる程度大した問題ではありません」
ミカ「違う……誰だって他人を不幸にする権利なんてないんだよ……どうしてそんな簡単な事すら気づかなかったの……」
淑女「いい加減気づきなさい。選ばれし人間というのは他人から搾取して生きる権利が与えられて……」
ホシノ『おい』
淑女「……おや、もう黒服との別れは済ませたのですか?では私に搾取されてもらいま……」
す。という言葉を言う前に視界が暗転した。気づいた時には地面に伏した状態になっている。何が起こった?理解できない。
ホシノ『立てよ』
頭上から声がする。嗚呼、この愚か者は私に攻撃をしたのだろうか?であれば到底許される行為ではない。即刻殺さなければ。
淑女「生徒風情が私にこのような仕打ちを……絶対に許しませ……ん……?」
顔を上げるとそこには宇宙が広がっていた。そしてその宇宙は私を見下ろしている。憎しみと殺意がこもった眼で。数秒経ってようやくこの宇宙のような生命体が先程の生徒という事に気づいた。何故このような姿になったのか理解は出来ないがとても憎たらしい。
淑女「……調子に乗らないでもらえますか?貴女程度いつでもひねり殺す事だって……」
突如視界が変わり今度は空が見えた。いつの間にか雨が降っていたようで全身が濡れ始めている。ホシノが近寄ってきた後、口に何かを押し込められる。その刹那口内で爆発が起きた。どうやらグレネードを入れられたようだ。
淑女「……流石の私でも今のは堪えましたよ。ですが今度は私の番で……」
ホシノ『お前に発言権はない!』
至近距離からショットガンを放たれて思わずのけぞってしまい、そこから地面に叩きつけられた後空中に投げ飛ばされる。……この生徒は本気で殺しにしていると理解した。
淑女「調子に乗るのも大概にしろ!」
ホシノ『発言権はないと言っただろう!!』
ーーー
ナギサ「ホシノさんが淑女を圧倒している……本来であれば喜ぶべきなのでしょう。しかしあまりにも犠牲が大きすぎます……」
ミカ「私は……私は……」
ナギサ「ミカさんも今冷静ではいられないようですし……この状況をどう打破すれば……」
黒服「ええ。どうしましょうかね」
ナギサ「……先生!?何故……?」
黒服「私があの程度で死ぬと思っていたのですか?マエストロから話を聞いた時からこうなる事を想定して準備はしていましたのでね。それにしてもやはりホシノは素晴らしいですね。埋め込んだ恐怖を利用して自ら反転させるとは」
ナギサ「反転?」
黒服「ええ。我々が辿り着いた1つの答えがあります。『神秘の反転は恐怖』。つまり今のホシノは『
ナギサ「テラーですか……」
黒服「ひとまずホシノの事は私に任せてください。貴女は……そうですね、そこに倒れているシャーレの先生をどうにかしてもらえますか?」
ナギサ「えっ……あっ……そうでした。彼も死なせる訳にはいきませんね」
黒服「ええ。貴女にしか出来ない事です。任せましたよ」
ナギサ「承りました」
ナギサは先生を抱え、ミカを引きずるように運んでいった。トリニティが近いとはいえお嬢様らしからぬ運び方に少々困惑しつつもホシノの方に向き直る。相変わらず淑女を圧倒しているようだ。
黒服「これがマエストロの生徒が見た夢の光景だとしたらあのマダムはこの世界に属していない存在という事でしょう。それはそれで興味深いですが……」
淑女「……まさかこんな恐ろしい生徒が居るとは思いませんでしたよ。ここは1度仕切り直すとしましょう」
ホシノ『逃げるな!お前はここで死ね!』
ホシノの怒号も虚しく淑女は転移して逃走した。やがてホシノは力尽きたのか元の姿に戻りその場に仰向けになって倒れた。
ホシノ「……先生……」
黒服「何ですか?」
ホシノ「………」
黒服「実に素晴らしい光景でしたよ、ホシノ。まさか貴女の潜在能力があんなにも高水準だとは思いませんでした」
ホシノ「………」
黒服「ホシノ?」
ホシノ「うへへ……先生……先生だぁ……もう離さない♡」
黒服「……あの、ホシノ?何故顔を近づけているのですか?」
ホシノ「うへへへ……」
───同時刻のとある場所
ヒナ「傘……持ってくれば良かったな……」
豪雨の中母を探す1人の少女。彼女は導かれるようにとある路地裏を進んでいる。突き当たりの角を曲がった先にその人は居た。
ヒナ「見つけた……もう、こんな雨の中寝っ転がっていたら風邪を引いちゃうよ……」
眠っている母を抱きしめた際に違和感に気づいた。服に生暖かいものが付着した感覚があるのだ。そしてそれが服を赤く染めている事にも。
ヒナ「ぁ……」
……それは年端もいかない彼女にとっては受け入れ難い光景であった。
ホシノのテラー化詳細
メリット
・身体能力の向上
デメリット
・10分程動けなくなる
もっとえげつない設定をつける予定でしたが共犯者の助言により簡易的なものになりました