ナギサ「救護騎士団の皆様、急患です。どうか彼の治療をお願い致します」
セリナ「……とナギサ様が直々に運んで来たこのお方ですが……」
ミネ「まずは体内に残っている銃弾の処理を行いましょう。ハナエ、メスをください」
ハナエ「ありません」
ミネ「何故無いのですか?早く取り除かねば患者の生死に関わるんですよ」
ハナエ「数分前に団長が暴れた際に床に散らばってしまったので除菌中です」
ミネ「暴れてなどいません。あれは救護です」
セリナ「あの……患者さんを……」
ミネ「とりあえず全身麻酔をしてから考えましょう」
数分後、紆余曲折あってどうにか体内に残っていた銃弾を取り除く事が出来たが更に問題があった。徐々に身体を蝕み死に至らせる猛毒が銃弾に付着していたのだ。このままではいずれこの患者は死んでしまうだろう。
セリナ「成分分析は完了しましたが……その……解毒薬の調合に必要な薬草がゲヘナにしかないものでして……」
ミネ「分かりました。今から私が全速力で取りに行くのでセリナとハナエは準備を……」
チナツ「その必要はありません」
ミネ「貴女は?」
チナツ「その患者の彼女です。こちらの薬草を届けに来ました」
セリナ「そ、それです!これで解毒薬が作れます」
ミネ「どなたかは存じ上げませんが感謝します」
チナツ「……彼の事をよろしくお願いします。それでは急いでいるので」
ミネ「ご協力頂きありがとうございました……治療を再開します」
ーーー
チナツ「(先生、あなたにとってこの状況は過酷な試練となるでしょう。ですがあなたは必ず乗り越えてくださると信じております)」
ハナコ「チナツさん、用事は済みましたか?」
チナツ「はい。先生は数日経てば回復するでしょう」
ハナコ「それを聞いて安心しました。……では私達も行きましょう」
チナツ「私達は私達にできる事を……ですね」
ーーー
ナギサ「さて、聞かせてもらいましょうか?」
ミカ「………」
ナギサ「ミカさんにはトリニティ内の治安維持を頼んだ筈でしたが……何故淑女の言いなりになっていたのでしょうか?」
ミカ「それは……その……」
ナギサ「言っておきますがあまり猶予はありません。言い訳をしようものならこのまま牢に……」
マエストロ「その必要はない。私が全部説明しよう」
ナギサ「マエストロ先生……それにセイアさんも。ご無事だったのですね」
セイア「私は無事とは言えないけどね」
マエストロ「順を追って説明しよう。まずは……」
彼が語った事はにわかには信じ難いものだった。淑女の正体は別の世界から襲来した異邦人。そして特定の人間に対して憎悪と殺意を抱いている事。ミカは淑女に洗脳されて利用されていたに過ぎない事。……そしてここまでがセイアが夢で見た光景通りに進んでいるという事実も。
マエストロ「順当に行けば次に訪れる悪夢はゲヘナとトリニティの戦争だろうな。心配するな、既に手は打ってある」
ナギサ「……そうですか。結局私達の行ってきた事は無駄だったのかもしれませんね……」
マエストロ「そう自分を卑下にするな。独断で行ったとはいえナギサの行動は1人の人間を救う事に繋がったからな。そこは誇っていい」
ナギサ「……はい」
マエストロ「ミカもだ。よく自力で洗脳を解いたな。流石私のげ……」
ミカ「やめて……私は褒められるような生徒じゃないよ。悪い子なんだから……そんな優しい言葉を言わないでよ」
マエストロ「手の掛かる生徒ではあるが悪い子ではないだろう。放課後補習部の件も……」
ミカ「やめてって言ってるじゃん!私はもう良い子になれない!ただの悪人なんだから!もう放っておいてよ!」
セイア「ミカ、何処に行くつもりだい?」
ミカ「しばらく1人にさせて。お願いだから」
マエストロ「帰って来ると約束出来るなら良いぞ」
ミカ「………」
マエストロ「仕方ないか……2人とも、もう少しだけ働いてもらうぞ」
セイア「構わないよ。片腕は動かないけどね」
ナギサ「ええ。私に出来る事ならなんなりとお申し付けください」
ーーー同時刻のゲヘナ学園
ゲヘナの病室がとても騒がしい。それも仕方ないだろう。運ばれてきた怪我人はゲヘナ生にとってかけがえのない母なのだから。
ヒナ「………」
冷たくなっていた母を運んできた彼女は縮こまっている。未だに現実が受け入れられるような精神状態ではなく今にも泣き出しそうになっている。そのまま数時間が経過した後、集中治療室の扉が開き手術の終わりを告げられた。
セナ「処置が終わりました」
ヒナ「!!」
セナ「ギリギリですがどうにか生きています」
ヒナ「……良かったぁ」
セナ「ですが死体……ではなく患者の意識は戻る目処が経っていません。永遠に戻らない可能性が高いです」
ヒナ「生きてくれてるならそれでいい。命を繋いでくれてありがとう」
セナ「医学部として行動したまでです。それで患者と対面しますか?」
ヒナ「……ううん。私にはやる事があるから」
セナ「分かりました」
ーーー
彼女は強がった。本当は対面して抱きつきたかった。また母の温もりに触れたかった。けれど彼女は自身の内側にある憎悪を優先してしまった。……母が倒れていたのはトリニティの自治区。そして最近相次いで起きているゲヘナ生の失踪。彼女の中でこの2つが結びついて確実なものと信じて疑わない結論が出ていた。『トリニティを絶対に許さない』と。あの時母と対面してしまったらその覚悟が揺らいでしまうと気づいていたから我慢をした。
ヒナ「私の幸せを奪ったトリニティに裁きを……」
光のない瞳で前を向き歩み始める1人の少女。憎悪に導かれて行動している姿はまるで淑女のように見えてしまう。
次回は過去編を挟もうかと思います