例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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かつて淑女だった存在

初めはこの世界を支配するつもりだった。自分をこの世界の頂点だと信じて。生徒を搾取する為の道具として利用する為に彼女はゲマトリアに加入した。

 

ベアトリーチェ「アリウス分校。手始めにここを支配して私の計画を始めると致しましょう……おや?」

 

悪い大人としてその地に降り立った彼女は1人倒れている生徒を見つける。その身体はとても痩せており手足があまりにも細い。風が吹いたら飛ばされてしまいそうな程だ。

 

ベアトリーチェ「こんなのが大量に居るとなると……この地区はハズレかもしれませんね。せめて道案内でもしてもらえるならまだ利用価値はあったのですが」

 

そのまま放置して先に進もうとしたが何故か放っておけないと感じてしまう。死にかけている価値のない道具に対して抱く必要のない感情に困惑したものの携帯食料を置いた。少女はそれに気付いたのか一心不乱に食べ始める。携帯用なので大した味でもないそれを涙を流しながら食べている姿を見て胸が痛くなる感覚を覚えた。

 

ベアトリーチェ「……名前は何ですか?」

 

アツコ「……秤アツコ。貴女は……」

 

ベアトリーチェ「ああ、私の事はマダムと呼んでください」

 

アツコ「分かった。マダム、ありがとう。こんな美味しいものが食べれたのは初めて」

 

ベアトリーチェ「そんなつまらない冗談はやめてもらえますか?早速ですが私の為に働いてもらいますよ?手始めにアリウス分校まで案内してもらいます」

 

アツコ「いいけど……何の為に?」

 

ベアトリーチェ「私の計画の為、ですよ」

 

道案内を頼み歩きながらアリウス分校の話を聞いた。常に物資が不足しており飢えに苦しむ生徒が多発している。その日を生きるのが精一杯なのだとか。

 

ベアトリーチェ「何故そのようなところにいつまでも居座るのですか?他の自治区に行けば多少はマシな生活が出来ると思いますが」

 

アツコ「前に私の友達4人と一緒に試したの。でもアリウスから来たってだけで差別を受けて迫害されたから諦めたんだ」

 

ベアトリーチェ「差別ですか。くだらないですね」

 

アツコ「マダムは私達を差別しないの?」

 

ベアトリーチェ「私の役に立ってくれるのであれば関係ありません」

 

アツコ「……マダムは優しいんだね」

 

ベアトリーチェ「優しい?そんな筈がないでしょう」

 

この生徒は先程からおかしな事ばかり言う。それに警戒心もない。疑う事を知らないのは人間として未熟だがこちらとしては利用しやすいので問題はない。精々搾取し尽くしてやろう。

 

ーーー

 

アツコ「着いたよ」

 

アツコに案内されて到着した場所は屋根すらなく、学校とは思えない程のボロい小屋だった。辛うじて風は凌げるが雨には濡れてしまうだろう。

 

ベアトリーチェ「……私を馬鹿にしているのですか?こんなものが学校な訳がありません」

 

アツコ「これが学校だよ。他は紛争に巻き込まれて崩壊しちゃった」

 

ベアトリーチェ「………」

 

こんな状況では計画もクソもない。搾取出来る生徒も居ない、学校もない、全てが足りないこの地で何をしろと言うのだろうか。こんな価値のない場所に用はない。そう思い踵を返そうとした時、4人の生徒を見た。全てに絶望してただ死を待っているような瞳で空を見上げている。その姿を見ていると胸が痛くなる。気がついた時には何とかしなければ

と行動していた。

 

ーーー

彼女達との出会いは淑女にとって大きな影響を与えた。いつしか自身の崇高に反していると理解していながらも彼女達を利用するのではなく、親のように親身に接するようになっていった。

 

ベアトリーチェ「……何故私はこのような事をしているのでしょう」

 

何も生まれない、崇高も満たせない。それなのに彼女達が年頃の女の子のように笑って過ごしているのを眺めているだけで何かが満たされるような感覚に陥る。その原因は理解してはいないが悪くない感覚だった。

 

アツコ「お母さん、話があるんだ」

 

ベアトリーチェ「何ですか?」

 

アツコ「私達……アリウスを離れるよ。もっと色々な世界を知りたい」

 

ベアトリーチェ「本当に宜しいのですか?」

 

アツコ「うん。全員賛成してくれたよ」

 

ベアトリーチェ「……ではこちらの『転入届』を受け取ってください」

 

アツコ「……ありがとう」

 

ベアトリーチェ「……今夜は貴女達5人の新しい門出を祝いましょう」

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「……懐かしい夢ですね。彼女達は今元気に過ごしているのでしょうか……」

 

1人暗闇の中を彷徨いながらそう呟いた。これはきっと走馬灯というものなのだろう。志半ばで倒れてしまったようだ。

 

ベアトリーチェ「……これはヒナとの出会いの記憶……初めてヒナと会ったのは2年前……なんだか初々しいですね」

 

最初に会った時からヒナは強がりな女の子で……人知れず無茶をしているような子だった。けれどほんの些細な出来事で心を開いてくれたのを覚えている。

 

ベアトリーチェ「そうそう……私が食あたりを起こして苦しんでいるところを目撃してから甘えてくれるようになったのでしたね。今思い返すとくだらない出来事ですよ。……ただそんな日常が私にとっては崇高のように素晴らしい日々の1部になっていたのも事実です」

 

だからこそ自分は弱かった。1人の生徒に手も足も出さず無抵抗で嬲られたからこうなっているのだから。……しかしそのおかげで彼女の未来を奪わずに済んだのだ。それだけは誇りたい。それと同時に淑女にも怒りが湧いてくる。生徒を道具のように利用しただ傷つけるだけのやり方しか見出せなかったあの悪い大人を。

 

ベアトリーチェ「私の選んだ道が例え間違っているとしても……だとしても……生徒の幸せを奪うやり方は見過ごせません」

 

『やはり貴女を選んだ私に狂いはありませんでした』

 

ベアトリーチェ「貴女は……」

 

『私の分まで彼女達の事をお願いしますね』

 

ベアトリーチェ「……ええ。全てが終わった暁にはいちごミルクで乾杯でもしましょうか」

 

こうして彼女は暗闇から引き上げられるように光に包まれていく。教師として、母としてやるべき事をなす為に。

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「………」

 

意識を取り戻したと思ったらとてつもない痛みが身体を襲う。起き上がる事すら困難な状態だ。それでも彼女は立ち上がる。

 

セナ「おはようございます」

 

ベアトリーチェ「ええ、おはようございます。随分と長い間眠ってしまっていたようです」

 

セナ「1時間46分です」

 

ベアトリーチェ「治療して頂き感謝致します。それでは……くっ」

 

セナ「無理に動いたら本当に死体になりますよ」

 

ベアトリーチェ「私にはまだ成すべき事があるのです!この程度の怪我で……」

 

セナ「……素直に休んでください。ゲヘナ中の全生徒が貴女を心配しているのです」

 

ベアトリーチェ「気持ちはとても嬉しいです。ですが私は今動かなければ絶対に後悔します。どうか理解してください」

 

セナ「……貴女ならそう言うと思いましたよ。それでは手筈通りにお願いしますね」

 

リオ「ええ。分かったわ」

 

ベアトリーチェ「リオ?一体何を……」

 

フウカ「こっちですよー!」

 

ベアトリーチェ「フウカまで……」

 

リオ「部長、対象を乗せたわ」

 

フウカ「ありがとうございます。……しっかり捕まっていてくださいね!」

 

ベアトリーチェ「待ってください、まだシートベルトを付けてな……グェ」

 

リオ「一直線で行けば10分も掛からない計算よ」

 

フウカ「それなら追いつける!」

 

ベアトリーチェ「さっきから何を急いでいるのです?」

 

フウカ「ヒナ風紀委員長を止めて欲しいんです!」

 

ベアトリーチェ「……ヒナを?」

ーーー

 

ヒナ「………」

 

ミカ「………」

 

ヒナ「銃を構えないの?」

 

ミカ「うん。貴女に殺して欲しいの。ゲヘナの生徒である貴女に」

 

ヒナ「トリニティだからどちらにせよ生かしてはおかないけど、理由を聞かせてもらうわ」

 

ミカ「私がゲヘナに迷惑かけちゃったから……ゲヘナの先生ってだけで暴力を振るって……生徒も誘拐して……」

 

ヒナ「ゲヘナの先生……暴力?……そう。お前か」

 

ミカ「………」

 

ヒナ「お前が……お前が私の幸せを……許さない。絶対に許さない。死んでも許さない。お前みたいな他人を不幸にする人間を生かしてはおけない」

 

ミカ「……私もそう思う。だからお願い、殺して」




需要があればもっと濃密なベア先生の過去を日常の方でいずれ書くと思います
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