例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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弱さが故に

ヒナ「……分かったわ。お望み通り殺してあげるからそこを動かないで」

 

ミカ「……ありがとう」

 

悪魔のような翼を広げてこちらへ近づいてくるヒナ。しかし至近距離まで到達した彼女はそのまま通り過ぎてトリニティの方に向かう。あれだけ殺意を向けていたのにも関わらず。

 

ミカ「……ちょっと。私はここだよ?どうして通り過ぎちゃうのかな?」

 

ヒナ「殺してあげるわよ。精神から」

 

ミカ「えっ……」

 

ヒナ「手始めに大事なものを奪われる苦しみから味わうといいわ。貴女がそうしたように」

 

ミカ「っ……」

 

彼女にかける言葉が思いつかない。こうなってしまった原因を作ったのは他でもない自分なのだから。止める権利なんてあるのだろうか。

 

ミカ「それでも……他の人達が傷つけられるのを黙って見過ごす訳にはいかない。だから行かせないよ」

 

ヒナ「他人に対してやった行為を自分がされるのは嫌だなんて、随分と都合が良いわね。トリニティの傲慢さが伺えるわ」

 

ミカ「罪は受け入れる。だから……」

 

ヒナ「もういい。これ以上は話しても無駄。退かないなら殺す」

 

ミカ「………」

 

見つめ合う2人。息を呑んでその時が来るのを待つ者、憎悪に任せて引き金を引こうとする者。そして彼女が引き金に手を……

 

ホシノ「はいはいストップストップ」

 

かける前に久方振りに出会った友人が割って入ってきた。何故ここに……という困惑をしてしまう。

 

ホシノ「ヒナ、どうしちゃったのさ。そんな眼をして……」

 

ヒナ「……どいて。私はそこにいるトリニティの生徒を殺さないといけないの」

 

ミカ「私がその子の大事な人を死ぬ手前まで追い込んだの。だから私は命で償うしか……」

 

ホシノ「……ヒナは本気で殺そうとしてるの?」

 

ヒナ「うん。分かったのならどいて」

 

ホシノ「そっか……ねえヒナ、歯を食いしばってね」

 

ヒナ「えっ」

 

ホシノはヒナの頬を全力でビンタした。遠くで様子を見ていた黒服に音が聞こえる程の威力で。何が起こったのか理解していないヒナの肩を掴みただ「目を覚まして」と真剣な表情でその一言を伝えた。

 

ヒナ「……ぁ……」

 

ホシノ「………」

 

……ホシノにとって友人に手を出す事自体が初めての行為だった。彼女を叩いた右腕は未だに震えている。嫌われてしまうかもしれない。もう友達ではいられないかもしれない。それでも壊れてしまいそうな友人を放っておけなかった。

 

ヒナ「わたし……は……ただ大好きな人を守りたくて……2度と同じ事が起こらないようにしようと……」

 

ホシノ「その気持ちは分かるよ。大事な人を傷つけた相手が許せないのも。でもね……大事な人は復讐して欲しいなんて望んでないんだよ」

 

ヒナ「そんな事分かってる……!でも他にどうすればいいのよ!こうするしか守れる方法がないの!このやり方しか……」

 

ホシノ「ダメだよヒナ……そのやり方で1番傷付くのはベアさんなんだよ……」

 

ヒナ「ぅ……ぅぅ……」

 

理解しているつもりだった。母が望む筈がないと。そんな事をしても悲しませるだけだと。……ただそれらを言い訳にして憎悪に導かれるがままに行動していただけ。感情のコントロールも出来ないくらい自分が弱い、ただそれだけの話だ。

 

黒服「終わりましたか?」

 

ホシノ「……うん。ヒナはきっと大丈夫。もう迷わないよ」

 

黒服「どうやら彼女も到着したようです。私達も準備をしましょうか」

 

ホシノ「そうだね」

 

後の役目を彼女に託して2人は立ち去る。姿はボロボロ、脚もおぼつかない。それでも泣いている娘の元へ近寄る者。いつもと変わらぬ声で「ヒナ」と言いながら抱きしめ、彼女の冷たくなってしまった心を暖める母。

 

ベアトリーチェ「こんなにも涙を流して……心配をおかけして申し訳ありません」

 

ヒナ「………」

 

ヒナは何も言わずただ抱きついて離れない。そんな彼女の頭を優しく撫でつつ近くにいる生徒に声をかける。ビクッと反応した後気まずそうに近寄ってくる。

 

ベアトリーチェ「次貴女に会えたら言おうと思っていた事があります」

 

ミカ「……うん。どんな言葉でも受け止めるよ」

 

ベアトリーチェ「貴女の手は……とても美しいですね。まるでお姫様のように」

 

ミカ「……え」

 

ベアトリーチェ「貴女に殴られながらずっとこう伝えたかったのです。『その綺麗な手を私の血なんかで汚してほしくないと。その透き通るような手を大事にして欲しい』と」

 

ミカ「……なんで?なんでそんな事言うの?だって私は貴女を死ぬ手前まで……」

 

ベアトリーチェ「だから何だと言うのです。確かに死にかけはしましたが私は生きています。それに生徒に何をされようが大抵の事は笑って許すのが教師というものです」

 

ミカ「………」

 

ベアトリーチェ「こちらへ向かう途中に真実も教えてもらいました。だからこそ私はこう言います。『貴女は何も悪くありません』だからそんな悲しい顔をしないでください。笑って欲しいのです」

 

ミカ「……違うよ。私は悪い子なの……だから、ごめん」

 

ベアトリーチェ「あっ……何処へ行くのです……うっ……」

 

ヒナ「!?マザー大丈夫!?」

 

ベアトリーチェ「……ええ。問題ありません。少々腰を痛めて……」

 

リオ「下手な嘘はつかない方がいいわよ」

 

フウカ「そ、そうですよ!まだ完治していないんですからね!」

 

ベアトリーチェ「大丈夫ですよ。ヒナを抱きしめているだけで意識は保てますから」

 

辛うじて意識を保たせている中、生徒を2人連れてこちらは向かって歩いてくる姿を見た。

 

マエストロ「マダム、痩せ我慢はやめておけ」

 

ベアトリーチェ「……何故ここに?」

 

マエストロ「手の掛かる生徒を保護しようと思ったのだが……どうやら居ないようだな。……ん?そこに居るのはリオだな」

 

リオ「……ええ。久しぶりね、先生」

 

フウカ「この人がリオさんの……初めまして。リオさんにはいつもお世話になっています」

 

マエストロ「あ、ああ。こちらこそリオを面倒を見てくれて感謝する。……そうか、ゲヘナに居たのか。色々話したい事もあるが……今は時間がない」

 

彼が指し示す方向には無数の亡霊のような大群がこちらに向かって進行してきている光景が見える。

 

ベアトリーチェ「何ですかあの痴女のような格好をした軍団は……淑女のセンスを疑います」

 

マエストロ「マダムにしては珍しい発言だ。ヒナに着せる的な事を言うと思っていたぞ」

 

ベアトリーチェ「ふざけた事を言える状況ではないでしょう……とはいえあの大群を相手にするのは骨が折れそうです」

 

マエストロ「そうだな。だが生徒の為なら苦でもないだろう?」

 

ベアトリーチェ「当然です」

 

ーーー

 

淑女「……準備は整いました。堕落した人間共よ、覚悟しなさい。この世界を制圧し、全てを我が手中に。私の復讐はここから始まるのです」




次回から淑女攻略戦が始まります
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