ゲンソウカイキ~ファンタジー世界で怪談話~ 作:京谷ぜんきまる
「ここは、魔法が使えないエリアだ。気をつけろ」
パーティーリーダーのロイが、仲間達に注意を促した。
彼らは、地下ダンジョンに入っていた。
このダンジョンは、ランダムで様々な箇所に
この不安定な空間の通路には、貴重な遺物、モンスター、鉱物資源などが存在している。
冒険者達は一定の時間が経過すると消滅するこの混沌の渦の中で、探索や採掘など様々な活動行っているのだった。
地下ダンジョンは多くの階層に分かれており、それぞれに特徴があった。
今、彼らがいるのは、第四階層だった。
この階層には、魔法が使えないという不思議な現象が起こっていた。魔法使いのリンは、その理由を説明した。
「いつもこの階層に来ると、自分の魔力そのものが無くなったかのような不安に駆られるわ……魔力まったく感知できなくなるからね。だから、ここでは魔法が発動しない。魔法使いとしては、とても不便だよ」
アリスは、魔法の杖を持っていたが、ここでは役に立たないので、魔法の代わりに、短剣を手に持っている。おぼつかない手つきだ。
戦士のガレスは、魔法に頼らない自分の力を誇示した。
「魔法なんていらんさ。俺の剣と盾があれば、この辺のどんなモンスターも倒せる。魔法使いは、俺の後ろに隠れてろ」
ガレスは、鎧と兜を身につけていた。
剣と盾を構えて、先頭に立っていた。その後ろを歩くナルナは、魔法に興味がなかった。
「魔法が使えなくても、あたしは関係ない。いつものように“渦”のなかに罠があったら解除して、宝箱的なのがあったら解錠して開けるだけ~」
一方、神官のユリウスは、魔法に対する信仰があった。
「魔法が使えないというのは、不思議なことだ。しかし、神の力は、どこでも使えるはずだ。神は、私たちを見守ってくださっている」
ユリウスは、螺旋十字のシンボルを持っていた。
彼は、神聖魔法の使い手。仲間の回復や補助を担う。
しかし、ここでは、神聖魔法は使えない。彼は、それを以前から不思議に思っていた。
「神聖魔法は、魔法とは違う。神の恵みを受けるものだ。なぜ、ここでは使えないのだろうか」
彼は、そうつぶやいた。ロイは、彼に忠告した。
「ユリウス、魔法は魔法だ。神聖魔法も、ここでは使えない。無駄に霊力を消耗するな。ここは、素早く通り抜けるのが賢明だ」
ロイは、冷静に判断していた。リーダである彼はパーティーのまとめ役だ。
一行は第四回層に来るまでに、できるだけ魔法の使用を控えて、道中のモンスターと戦っていた。
深層部に行けば行くほど、モンスターの強さは増していくからだ。
彼らは魔法が使えないエリアを通り抜けようとした。
このダンジョンの探索は初めてではない。
混沌の渦が定期的に発生するこのダンジョンは尽きること無くなんらかの宝や貴重品をもたらすからだ。
だから、ロイ一行はこの魔法不可エリアを何度も何度も通過している。
しかし、今日は
ダンジョンの深層部から出てきた強力なモンスターに襲われたのだ。
モンスターは、巨大な蜘蛛のような姿をしたカオススパイダーだった。
驚くほど俊敏で重装鎧のような硬い表皮をしている。危険なモンスターだ。
数は二匹。カオススパイダーは、彼らに襲いかかった。
「くそっ、なんで第四層に湧いて出てるんだ!?」
ロイは、長剣でモンスターと戦った。
ガレスも、剣と盾でモンスターと戦った。リンは、短剣をしまい、短弓を構えてモンスターに矢を射た。ナルナは、スピードを活かしたヒット&アウェイ戦法でロイとガレスの攻撃をアシストする。
ユリウスはというと……仕える神の掟で武器を所持していない。
だから彼は、神に祈った。
「神よ、私たちにお力を。私たちを救ってください」
彼は、そう祈った。すると、彼は、不思議な感覚を覚えた。
そして——神聖魔法が使えるという確信が芽生えた。
「神が、私たちにお力をくださった。神聖魔法が使える。みんな、聞いてくれ。神聖魔法が使えるんだ」
ユリウスは、そう叫んだ。しかし、他のパーティーメンバーは、彼の言葉を信じなかった。彼らは、彼に言った。
「ユリウス、何を言ってるんだ。魔法は使えないんだ。むだに霊力を消耗するな。モンスターに集中しろ」
「違うんだ。神が、私たちにお力をくださったんだ。神聖魔法が使えるんだ。信じてくれ」
ユリウスは、そう言った。
しかし、仲間達は彼の言葉を信じなかった。
「ユリウス、やめろ。ここではあんたの神にお伺いをたてることはできない。自分で戦え」
ナルナはそう言った。
ユリウスは悲しくなった。
神を信じていた。
神聖魔法を使いたかった。
しかし、仲間の言葉に従うことにした。
神聖魔法の使用を思いとどめ、シンボルをしまい、彼はモンスターに向かって走った。
ナルナが予備のショートソードを渡す。
神官の彼は武器を所持できないが、他者から借りれば武器を使って戦うことが許されるのだった――。
× × ×
カオススパイダーはその数を増やし、二匹から五匹になって戦闘は激化した。
ガレスが重傷を負い、パーティーは大きな危機を迎えたが……結果的にはモンスターの殲滅に成功した。
しかし、その過程であり得ないことが起こっていた。
ユリウスが、神聖魔法を使えたのだ。
彼は仲間を助けるために、神聖魔法を使った。
ガレスが深いダメージを負ったとき、彼は神に祈りを捧げた。
すると、やはり感じたのだった。
理屈では無かった。心から湧きあがる、神聖魔法を使用するときの神の存在を感じる歓喜にも似た感覚だ。
「神が、私たちにお力をくださった。神聖魔法が使える。みんな、見てくれ。神聖魔法が使えるんだ」
ユリウスは叫んだ。
そして、シンボルを取り出し、神聖魔法を唱えた。
すると、彼の周りに、白い光が差した。
光は、仲間たちに届き。回復や補助の効果を与えた。
ロイは驚愕して目を瞠った。
「ユリウス、本当に神聖魔法が使えたのか。どういうことだ」
「た、助かったぜ」
「ありえない……」
「なんでもいいじゃん。ありがとね♪ ユリウス……あれ?」
ナルナは周囲を見回した。
さっきまで側にいたユリウスが、消えていた。
「ユリウス、どこにいるんだ。ユリウス?」
ロイ達は、ユリウスを探した。
唯一、螺旋十字のシンボルだけが、地面に落ちていた。
しかし、ユリウスの姿はどこにもなかった。
× × ×
ユリウスは、転移していた。
さっきいたところとは全く違う場所に。
ユリウスは、ハッと気がついた。
(意識を失っていた? なぜ……)
ユリウスは、目の前に気味の悪い人型の何かが立っていることに気づいた。
そいつは、
「久しぶりの生け贄だ」
と、歯をむき出して笑ったの。歯は真っ黒でタールのような涎を滴らせていた。
瞬間、地面の感触が無くなりユリウスはぞっとして下を見た。
下には果てしなく続く縦穴が見えた。
混沌の渦の入り口に似ていた。だが、渦の入り口は空間に扉のように生じるもので、地面に穴を穿ったりはしない――はずだ。
「ヒッ――」
ユリウスは悲鳴を上げたがどうにもならなかった。
真っ逆さまに、深淵の底に墜ちていった。