一般日本人が転生する話。 作:あうん
「もう、いい加減大丈夫だろ」
「うーん……痛くない?」
「あぁ痛くねぇ」
「痛いやつは皆そう言うんで」
「じゃあなんて言ったら納得すんだ……?」
俺には判断つかないんだもの仕方ない。
マダラの手を見る。最初よりは薄くなった気もするが、未だ赤かった。
これ以上冷たい水に手を当て続けてもいいのかもわからない。痛くないのだって冷たすぎて感覚がなくなってるだけかもしれない。
お医者さんはいらっしゃいませんかー!!?助けてくださいー!!
「本当に痛くないね?」
「おう」
「本当の本当に?」
「本当の本当に」
「……後で母上のとこ行くんだよ」
「……」
「返事はァ!?」
「わかったわかった!」
縁側の引戸を閉める。ちょっとしか開けないのに床がびしょ濡れである。ほっといたら勝手に乾いてくれないものか……。この寒さでは期待できないな……。
まあ朝脱いだ服を雑巾がわりに使えばいいのだ。なんとかなるだろう。
部屋に戻って脱ぎ捨てていた服を拾う。やっぱりしっとりしている。きもい……。濡れた手を拭った。
マダラの袖がびしゃびしゃなので絞って、服で床の水を拭いた。ちょっとまだ濡れてるけどこんぐらいは自然乾燥に任せるしかない。
「今度こそ、服、なんとかしねぇとな」
ええ……もういいよ……。
「いいって……」
「上着ねぇと寒いだろ」
「兄さんの貸してよ……」
「俺これしか持ってねぇ。濡れちまったしだめだ」
「なんで!?」
確かにいつも同じの着てると思ってたけども!同じデザインとかじゃなくて!?
「洗ってないの!?」
「風呂入ってる時に女中がやってくれてる。多分」
え、毎日!?あの短時間で!?洗濯機あんの!?じゃあ濡れた服洗ってすぐ着れるじゃん!
……いや、そんなわけない。この時代に洗濯機だけあるとかおかしすぎる。
……こいつが着替えてるの風呂の時しか見たことないな……。
「兄さん自分のタンスの中見たことある?」
マダラは一度考えて。
「ねぇな」
……こいつ自分で着替え用意したことないんだ!!
俺はマダラの部屋に走った。そしてタンスをチャクラ糸でこじ開けた。タンスによじ登る。
雷遁は発動しなかった。俺のタンスだけかよ……!くそタジマッ!!
引き出しを覗く。
あ、あれっ!?
「空っぽ!?」
どこを開けても何も入ってない!どうして!?
マダラが俺を見上げている。
「なんで何も入ってないの!?」
「知らねぇ。別にいいだろ?」
「何もよくないが!?使ってないの!?」
「別にタンス使わなくても困ったことなかったからな」
「着替えたくなる時とかなかったの……?」
「なかったな」
野生児すぎる……。いやこの時代ってそんなもん?俺が間違っているのか?
でもタンス空なのはおかしくない??一切使ってないじゃん……。俺の方はいっぱいあったじゃん……。
「……」
「そんなことより、イズナの服だろ」
マダラが俺の部屋に戻っていく。
「何か妙案が!?」
「もっかいやる。今度はヘマしねーよ」
もっかいって、また雷遁食らうつもり!?!?
慌ててタンスから降りてマダラを追う。チャクラ糸のおかげで降りるのが楽だ。
「バカ言うなって!死んじゃうだろ!」
「んなわけないだろ」
マダラは笑った。何がおかしい!?
「さっき火傷したばっかじゃん!だめだよ!」
「しょうがねぇだろ。そうしねぇと、取れねぇんだから」
しょうがなくないと思うけど!?
「とにかくやめて!!」
「じゃあどうすんだ?」
「えっ」
「その格好じゃだめだろ。どうすんだよ」
どうするって……。
「か、考えるから、待って」
「あぁ。飯の時間までな」
時間制限!?
えーと、どうしようどうしよう。
……案は、ある。
うまくいく自信がない。でもやるしかない。迷っている時間が、もったいない。
チャクラ糸を出す。
これで服を掬い出す。
やってやる!
いやこれ無理だろ……。
俺は早々に諦めかけていた。
だって俺の見ているとこって引き出しの裏側だぞ?
手探りだって手の感覚を頼ってるのに、チャクラ糸には触覚が搭載されてない。目隠しでゲームを遊んでるような。服に触れているのかさっぱりだ。
しかも使えるのは一本の糸。引っ掛けても滑ってんじゃないかな。見えないから本当、全然分かんないけど。
「うぅ……」
「どうだ?」
「もうちょっと!もうちょっとだから!」
「そうは見えねぇけどな……」
「兄さんの目は節穴だね!!」
「……」
「……」
マダラは俺の様子をじっと伺っている。
やばい。このままじゃまたマダラが怪我する。絶対それは防がなきゃいけないのに。
「そこから中見えてんのか?」
「見えてるわけないじゃん!?」
「だよな……」
当然のこと聞かないでくれる!?頑張ってるのに気が削がれるだろ!
あーもー!なんで俺がこんな思いしなくちゃいけないわけぇ!?
全部タジマのせいだ!
雷遁なんて危険な物使いやがって!!くたばれ!!
「見えたらできんのか?」
「そりゃあね!?」
それができたら苦労してないんだわ!!
「わかった」
え、何が!?
マダラは俺を抱き上げた。本当に何??
そのまま俺を抱えて壁に向かう。
壁に足をかけた。登っている。
垂直に。
!?
「ちょっ、な、何してんのっ兄さん!?」
「壁登り」
「いや!?次元が違う、と思う!」
「んなことねぇよ」
マダラは壁のてっぺんまで行くと、そのまま天井に足を踏み入れた。
逆さに。なった。
い、意味が、分からない……!!
俺はマダラにしがみついた。
マダラは平然と話しかけてくる。
「じゃあイズナ。これで服見えるだろ」
「ぇへえ!?兄さんこれ大丈夫なの!?落ちない!?」
「大丈夫だって、早くやろーぜ」
ちゃんと練習したんだ。もう失敗しないさ。
ニッと笑うマダラ。
何の練習したらこんなんできるようになるんだよ!バカ!?
……いやいや怖い。怖いってぇ!!どうゆうことなの。頭に血が昇る。理解不能の状況に頭がどうにかなりそう。
早く、早く終わらせなければ。命が危ないっ!!
タンスを見る。
……確かに。確かにだ。上から見たら引き出しの中身がよーく見える。
うわ、ぐちゃぐちゃになってる……。そりゃあれだけかき回したらそうなるよね……。
綺麗に整頓したいが、そこまでの余裕はない。
さっさと服を回収して地上に降りて、マダラの治療に行かねば。
チャクラ糸でぱぱっと服を絡め取る。引き寄せて掴み取った。
か、簡単すぎる……。さっきまでの苦労は一体……。
視覚の重要さをまざまざと感じぜざるを得ない。
「おぉ」
マダラが感嘆する。全然嬉しくない!
「やったな!」
「うん!早く降りよう!?」
「ああ」
マダラが頷いて。
浮遊感。
重力に逆らった状態から正常な状態に戻った。
つまり落下した。
は!?
ななな、なんで!?
ちょま、死ぬ!死んでしまう!?!?
練習したんじゃねぇのかよ!?失敗しないって言ってたじゃん!!マダラの嘘つき!!
や、やだぁー!!
「ぎゃーー!!」
「っと」
すとっ。
伸身の新月面が描く放物線は栄光への架橋だ。を披露したマダラ。
い、生きてる……?
「はぁ、はぁ……」
「うまくいったな」
マダラは喜色満面といった様子。
こいつほんとバカ。バカすぎる。
その超人的身体能力を見せびらかすのもいいけどさぁ。
俺の心臓に悪すぎるんだけど!?
お前が天才児ってのはよくわかった……!
畳に降ろされた俺はぐったりとした。
愛しき地上よ、ただいま……。
「ほら、早く着ろ」
「……うん」
着替えた。これ和服じゃん前どっちにしめるんだっけ?いいや適当で。
……サイズでかいな……。袖がぶかぶかだ。裾が膝下まである。俺用ではないな?
マダラの?
全部俺の方のタンスにしまってたの?マダラが困るだろうが!おいタジマァ!!
「兄貴のだ。懐かしいな」
「……」
左様で……。
亡くなった長男のね。
確かにマダラにもこの服はデカそうに見える。
って今はそんなこと気にしてる場合ではない。治療だ。治療に行かないと。
「にいさーー」
「マダラ様、イズナ様。お食事のご用意ができました」
「ちょうどだな。行こうぜ」
「……」
障子の外から女中さんが呼んでくる。
お腹はすこぶる空いているけど、流石に優先順位は間違わないよ。俺だって。
マダラの左手を掴む。
「母んとこ行くよ」
「いや、今飯できたって……」
「それより手を治す方が大事でしょ」
マダラは愕然とした表情を見せた。
「お前、そんなこと言えるんだな……」
……。
「俺のことどう思ってるわけぇ!?」
「飯食わないとキレる」
「キレたこと人生で一度もないから!!」
「……」
「……」
何だよその顔は……!
「……行くよ!?」
「……どうしてもか?」
マダラはなぜか渋る。
どうしてもってなんだよ!行かない理由がなくない!?
マダラを引っ張る。
「何!?行きたくないの!?絶対行くからね!」
「……母上は、俺に会いたくないと思う」
何それぇ!?
俺(初めての)気絶事件で叱られたことまだ引き摺ってんの!?
「そんなわけないじゃん!大丈夫だって!母上優しいから!!」
「……」
「何がなんでも連れてくからね!!」
「……わかった」
ヨシ!
「俺一人で行く。イズナは先飯食ってろ」
えぇ〜?いいの〜??マダラ優しい!
が、だめ!
「信用ならん!」
「何でだよ!ちゃんと行くって!」
「出発進行〜!」
俺はマダラを連れて母の元まで行った。
母は微笑んでいる。
「ーーという訳で、兄さんの手を治してください!」
「まあ。大変でしたのね。イズナ、怪我はありませんか?」
「大丈夫です!兄さん、手出して!」
「……」
母はちらとだけマダラの手を見て、俺の方を向いた。
着物の前を直してくれた。逆だったみたい。
「イズナ。先に食事を摂りに戻りなさいな」
母優しい……!
「はーい。じゃあね兄さん」
「……あぁ」
マダラを母に任せて俺は部屋に戻った。あ〜お腹ぺこぺこ!!
いただきま〜す!
ズズズ……。みそ汁うめぇ……冷えた体に沁み渡る……。
今日は筍ご飯だった。美味すぎる……。混ぜご飯の美味しさは異常。
秋になったら栗とかさつまいもご飯とか出るのかな。人生の楽しみが増えた。
あと残り五年。美味いものを極めていきたい。
程なくして、マダラが戻ってきた。
マダラの右手には包帯が巻かれていた。
治療を受けたらしい。よかった。
「兄さんおかえり〜。筍ご飯やばいよめちゃ美味しい。冷める前に早く食べて」
「ん、そうだな」
マダラは手を合わせて、ご飯を食べ始めた。
……なんかマダラの表情が、にやついている。さっきまでイヤイヤ期だったのに。
飯中に話すのは行儀が悪いが、指摘してくるタジマのアホはいない。
「兄さん、なんかいいことあった?」
「え、」
「顔、にやけてるよ〜」
俺はニヤリと笑った。
マダラは顔を触って、気恥ずかしそうにする。
「そ、そうか?」
「うん。で、どうしたの?」
「母上に、褒められた」
ほう。
「へぇ〜なんて褒められたの?」
「イズナを、守ったこと……」
マダラはこらえきれなくなったのか破顔した。それはそれは嬉しそうな笑みだった。
そんなに褒められて嬉しかったの。
まあ確かにあの火傷を耐えて褒められたら嬉しかろう。
しかし、やっぱりマダラが勝手に母に苦手意識を持ってただけだったようだ。
「よかったね〜!母上、優しかったでしょ?」
「あぁ」
マダラはニコニコだ。俺たちは食事を再開した。
俺の方が先に食べていたのに、マダラの方が先に食べ終えた。俺食べるの遅い??
味わって食べているということにしていただきたいッ!