一般日本人が転生する話。 作:あうん
ごちそうさまをして。
マダラはまた修行に行くと言った。
修行バカすぎる。
一日ぐらい休んでもバチは当たらんだろ。
俺は行こうとするマダラを背後から糸で縛った。
三歳児相手にこんな簡単に取っ捕まるって。やっぱりマダラの言ったことは嘘なのでは?
「おいっ何すんだ!?」
「兄さ〜ん……」
上からマダラを見下ろす。
無様にビチビチと暴れる姿はまるで地上に打ち上げられた魚のようだった。
フッ。ちょっと笑いそうになるが、今はそれどころではない。
俺は大真面目だった。
「な、なんだよっ」
「歯は、磨いた?」
「歯……?」
俺は首を振った。今のは正確な質問ではない。
「ううん。違う。今はまだ、磨いてないもんね。改めて聞くけど……最後に、磨いたの。いつ?」
「……」
マダラは視線を泳がせた。
おい。なに目まで魚になってんだ?
泥遊びをした日の夜の歯磨き。その次の日はいなくなって、もう次の日は夜には……寝ていたな?帰ってきてから、果たして、磨いたのかな?
この様子では、磨いてなかろう。
「歯磨きは一日にしてならず、だよ。兄さん」
「いや、でも、仕方なくねぇか……?」
言い訳しようとするマダラ。
「厠以下って言ったの、覚えてないの……?」
「……しょーがねぇだろ!磨く余裕なんか、なかったんだよ!」
こいつ、開き直った!?
許せん……!
くわと目を見開く。
「口の中は常在戦場だよ!!」
「……!!?」
「戦なんかよりよっぽど過酷なんだから!!」
「そ、そうだったのか……!?」
俺は頷いた。
マダラはごくりと唾を飲んだ。今の唾の中にどれだけ菌がウヨっているのか……ああ恐ろしい恐ろしい。
拘束を解く。マダラは、逃げなかった。
凛々しい表情。
そんな顔もできるのか。頼もしいじゃないの。
「行くよ。次の戦場へ」
「あぁ!」
歯磨き。
真剣に歯を磨いているマダラを見る。
歯磨きに積極的になってくれて何よりである。俺が死んでも元気に磨き続けるんだぞ。
俺は腹をぐるっとさせた。
糸ようじ。
これだけは一応満足のいく質を確保できている。
まだまだ足りないものだらけ。生きがいがないなぁ。
マダラの歯磨きが終わった。
チャクラを練り直して手渡した。
「はい」
「……」
「?」
一向に糸ようじをしないマダラ。
「新品だから綺麗だよ?」
「いや、そこじゃねぇけど……」
じゃあどこなの……?
俺はマダラを挑発した。
「なに、怖いの?」
「……」
えぇ……?
「兄さん……それはないよ……」
「なにも言ってねーだろ!」
そういえばこの前も妙に糸ようじを渋っていた。怖かったのか。
困ったな。糸ようじは大事だ。歯医者さんがそう言ってた。
一々俺が縛って糸ようじをしてやるのも面倒だ。手がベタベタになるし。なんで俺がマダラの涎で手を汚さないといけないわけ?
早急にマダラには糸ようじを克服してもらわないと。死ぬに死ねない。
「……ちゃんと磨けばいいんだろ。糸なんか使わなくたって」
「そうやって妥協すると、気付いた時には何もかも手遅れで泣いても取り返しがつかなくなってるんだよな」
「うっ……」
虫歯はね。痛い時にはもう歯医者行く以外ないから。ドリルでガーッだから。
予防が大事なのだ。お前は若いからまだわかるまい。永久歯になったら本格的に取り返しつかないからね?
糸ようじが乗っかっているマダラの手を掴む。それを口まで持っていくが抵抗される。無駄に力が強い!
「兄さん。頑張ろ!」
「う、うう……」
「兄さんならできるよ!!」
だめだ!マダラは青ざめている。こんなことで!
「糸ようじのなにが怖いわけぇ!?」
「……こ、怖くねぇ!」
秒で嘘つくなよお前!?
「嘘つき!」
「つ、ついてねーよ!証拠は!あんのかよ!」
こいつっ浅知恵つけやがって……!!
「あっそ!怖くないんだ!じゃあできるね!?口開けて!アーンって!」
「っ……!!」
逆に口を閉じやがった!お前さぁ!!
俺はめんどくさくなった。
抵抗するマダラを再び縛りあげる。暴れないよう丁寧に手足も固めた。指一本動かせまい。完璧な芋虫状態。
過去一チャクラの練りが冴え渡っている。
仕方ない。今日のところは俺が糸ようじをしてやる!
「はい。マダラくん。お口、アーンしてください」
「……」
膝にマダラの頭を乗っける。上から覗き込んで気分は歯医者さんだ。マダラは患者さん役。
歯医者さんごっこ!楽しいね〜!?
口を引き結ぶ患者さん。
おいおい。非協力的な患者さんがいたもんだなぁ〜??
「……お口、アーン。ですよ〜」
「……」
イラッ。
「……アーン!」
「っ……!?」
一向に口を開けようとしないので鼻を摘んだ。
しばらく頑張っていたマダラだが、流石に一生息を我慢することはできなかったようだ。
口を開けた。
待っていたぞ。この瞬間をよォ!!
「ぁっ!?」
「はーい。そのままじっとしていてくださいね〜」
指を突っ込む。これで口は閉じられない。
舌で抵抗してくるが力自慢のマダラでも流石に……。いや結構力あるな。押し戻される……!?
ヤダァ!感触がきもい!地味にくすぐったい!俺は糸で舌を縛った。
ビビるマダラ。
「っ!?」
「じっと、してて、くださいね〜?」
「……っぅぅ!」
頭を動かして逃げようとするので、足で頭を挟んだ。それでも動くので、写輪眼を発動した。未来予知的な視界で動くマダラの歯の間に糸を滑らせた。
糸ようじをギコギコやる。勢い余って歯茎にブッ刺さるがこれはもう仕方ない。その度にマダラがビクつく。
俺だって手が血まみれになるの嫌だよ。更に言うなら涎。
だが今俺は歯医者さんなのだ。その程度のことで臆するはずがない。
患者さんのお口は俺が守護る……!
にっこり笑顔で患者さんを見る。明らかに怯えていた。
「もうちょっとですからね〜」
「……!……!!」
涙目マダラ。
なんか俺がマダラいじめてるみたいじゃん?愛の鞭ってやつだから。許して。
奥歯やるの何気むずいんだよな。歯もちっさいし。俺の手も小さいからイーブンってとこだな。
えいえい!入った?入ってない。えいえい!入った?多分入った。
よーし。
上の歯、下の歯全部に糸を通した。
「ふぅ」
「……」
ひと段落。
マダラの歯に指を滑らす。
うーんやっぱり木ブラシじゃねぇ。ちゃんと取れてる気がしないって言うかぁ。
すっかり大人しくなったマダラ。
目が死んだ魚になっている。
しゃーないここまで来たら、歯磨きの仕上げもやったろうじゃないの。
やるならとことん、だ。
マダラから手を離せないので糸で木ブラシを引き寄せる。……これどっちのだ?多分マダラのだけど……。後で名前掘った方がいいな。
ゴシゴシ。
「お疲れ様でした!」
「……」
俺は手を洗った。マダラはぐったりしている。
歯医者さんごっこ楽しかったな〜。またやろうかな!?
「兄さ〜ん」
「……」
「生きてる?」
「……」
ダメみたい……。
死んだ魚になってしまったマダラを見下ろす。
しゃがみ込んで足をくすぐった。跳ね起きるマダラ。生き返った。足を隠した。
口を手で覆い隠して俺を睨んでくる。
言わ猿か?魚から小猿に進化したマダラ。
俺はにこやかに話しかける。
「……」
「歯医者さんごっこ面白かったからさぁ」
「……」
「一人でできないなら。次も、やってあげようか」
「!?」
マダラは横に首を振った。何度も。
俺は手をしならせた。糸を手繰って遊ぶ。
水に濡れて光を反射している。キラキラで綺麗〜。
「えぇ〜?遠慮しなくてもいいのに〜」
「いい!一人でできるっ!!」
小猿から言語を獲得して人間に進化したマダラ。
残念だな〜。
しかし言質はとった。これで第一段階クリア。
第二段階があるの?もちろんある。
俺が死んだ後もいつでも糸ようじができるようになってもらうために。
マダラに、チャクラコントロールを覚えてもらわないとね。
正しい歯磨きの作法は、糸ようじ→歯磨きです。
夕飯後の歯磨きで改善するので許してください。