一般日本人が転生する話。 作:あうん
「イッター!?」
「イズナ!?」
弾け飛んだ湯呑みの破片が俺の手をまあまあ、そこそこに?ズタズタにした。
幸いなことにマダラに怪我はない。
俺が手で湯呑みを抑えてたからね。全部俺の手にダメージが入った。衝撃波が手に走ってビビったよ。手の中で湯呑みがボンってした。怖ァ……。
手を見る。破片が手にサクサク刺さっている。痛みはそれほどではなかった。でも見た目のグロさで気絶しそう。
「な、なんじゃこりゃぁー!」
「い、イズナっ」
マダラがまたもや青ざめている。
もうこんなんばっかだな!俺はマダラを苦しませることしかできないんじゃないか!?
開き直った方がいいかもしれない。
俺はマダラを不幸にするために生まれてきたんだ!
勿論冗談なんだけどね!?ワハハ。
見たことない負傷の仕方のせいで若干ハイになっている自覚はある。
「大丈夫だよ!全然痛くないから!」
どう見ても痛そうでしょ。もうちょっといい言葉はなかったのか。咄嗟のワードチョイスが最悪すぎるぜ俺!
破片をチマチマとる。イテ、イテ、イテテ。
「兄さん、本当に大丈夫だから。こんぐらいへっちゃらーー」
マダラは俺を抱き抱えた。
物凄い勢いだ。瞬足履いてる?裸足だわ。
母のとこに向かってる模様。
まじでマダラ号は早い。新幹線マダラ号だ。
現実逃避しているとすぐに母の部屋についた。
「母上!」
部屋に押し入るマダラ。微笑みの母と、タジマがいた。振り返って俺たちを見てくる。
お前夕飯一緒に摂らずに嫁とイチャイチャしてたってわけぇ!?許せないんだけど!!
「母上、イズナが!」
「まぁ……!?」
「えへへ。治してください!」
俺は母に手を見せた。
母はすぐに手当してくれた。一瞬で治って感動する。破片も全部取られた。
「母上すご〜!」
「イズナ?あのような傷を、一体。どうしたというのですか?」
母が微笑んでない。
目が赤い。ヤダァ!!!
超絶怒ってる!!まずーい!!
「え、えーと、これには深い事情が……」
タジマがため息をついた。
呆れた表情。
「イズナ。また何かやらかしましたね」
ギクリ。
「イズナが……?タジマ様、どういうことでしょうか?」
母がタジマの方を向いた。
タジマめ……余計なことを!
「早く風呂に入って寝なさい」
お?
「タジマ様!」
「マダラ、イズナ、早く行きなさい」
「はーい!お休みなさい!母上父上〜!」
タジマは追い払うようにシッシと手を振った。
俺は立ち上がった。
マダラを引っ張って襖に向かう。
「イズナ、お待ちなさい!」
「あぁ〜!!行こう兄さん!!」
俺は母の声を聞かなかったことにした。
「イズナ!!」
母のガチギレ声を背中に浴びる。こっわ!!
あーあー聞こえなーい!俺は聞か猿になった。
そして俺はマダラを連れてトンズラした。
夫婦の時間を邪魔するほど俺は空気が読めない訳では無いのだ。
母は任せたぜ!タジマァ!!
ビターンと襖が勝手に閉まる。母の声が聞こえるような気もするが気のせいだ。
トコトコ部屋に戻る。
「いやぁ〜怒られるとこだった。父上いて良かったね!母上怒るとヤバいからさぁ。知ってる?幻術って」
「……」
マダラの返事がない。
「あ、あぁ〜っとねぇ。幻術ってのは、俺もよく知らないんだけど、幻覚?見せてくるんだよ。兄さんも母上怒らせないよう気を付けようね!」
「……」
「……」
沈黙。気まずい。
「……」
「ごめんね?」
何に対して謝ってんだろう。色々やらかしすぎて分かんないや!
「俺のせいだろ」
「っあ〜」
振り返ってマダラを見る。へこんでるへこんでる。
朝はあんなに機嫌良かったのにね。
「……俺には才能がないから、イズナを怪我させたんだ」
「そんなことないって!」
むしろ才能ありすぎて大事故起こしただけだと思う!
にしてもすごいへこみよう!なんてかわいそうなんだろう!一体誰がこんないたいけな子供をこんな表情にさせちまったんだ〜!?
ま、俺なんですけど。
「大丈夫だって!次はきっと上手くいくよ!俺も方法考えるから!」
「もうあの修行はやんねぇよ!」
「ええー!?」
そんな!?修行大好きマダラが!
糸ようじは絶対だ!!諦めさせてたまるか!
「一回失敗したぐらいで落ち込まないでよ!失敗は成功のもとって言うじゃん!」
「聞いたことねぇ」
教養がねぇなぁ!?
五歳児相手に言葉一つ選ぶのも一苦労だ。
「兄さん!でもさ!よく考えてみてよ!」
「……?」
「俺がさ、また怪我した時、一々母上のところに連れていくつもり!?」
「それは……」
「俺、母上に叱られたくないんだけど!!」
マダラは微妙な顔をした。
「そこは叱られときゃいいんじゃね」
「やだよ!兄さん俺を守るって言ってくれたじゃん!」
母から俺を守ってくれよ!
「そういう意味で言ったんじゃねーよ!?」
「俺が死にかけてる時に一々母上のとこまで運ぶの!?俺、兄さんの腕の中で死んじゃってるかもね!」
グッとマダラが怯んだ。
ちょっと言い過ぎたかも〜。反省!反省は次に活かそう!
「兄さん〜これ見て!」
俺は両の手のひらをマダラに見せた。
「完璧に治ってるでしょ!」
母マジすごい。
傷が跡形もない。痛みも全くない。何したらこんなことできるようになるのかさっぱり。
「そうだな……」
「兄さんなら、チャクラコントロール覚えたらすぐできるようになるよ!」
知らんけど。
「そんなこと、」
俺はマダラの言葉を遮った。
「次怪我したら兄さんが治してね!」
「わ、わかった……」
ゴリ押した。
チョロいチョロい。
これで糸ようじへの道は繋がった。糸だけに……!
あとは頑張って糸ようじを作れるようになってもらえば、ミッションコンプリート!
俺は悔いなく死ねる。
食事部屋に戻ってきた。食べかけだったのに全部下げられている。そんな……。
おやつもなしかよ!?ぐわああ!!
悲しみながら歯を磨く。おやつ抜きは効いたなぁ。
マダラも食事をちゃんと食べきれずになってしまった。申し訳ない。俺の存在が害悪すぎる。早く消えねば……。
そもそも食事中にやることじゃなかったし。
湯呑みも綺麗に片付けられてたけど、女中さん仕事が早すぎる。
腹でチャクラを練る。この作業いい加減簡略化したい。俺はズボラなのだ。
最初から手に練ったチャクラを置いとけばいいか?維持すんのに集中力がいる。面倒だな。
後数日の命だし、別にいいか。
糸ようじをする。
はたと気付く。
……糸ようじと歯磨きって、順番どっちだったかな。
どうしてたっけ?
……。
あ、糸ようじが先じゃん。間違えてた!
歯ブラシ生活に後から糸ようじが参入してきたせいだ。
危ない危ない。マダラの歯の健康寿命が短くなるところだった。
歯を磨くマダラに話しかける。
「兄さんや」
「ん?」
「歯磨きより先に糸ようじやるのが先だったんだけど……」
「……」
糸ようじを見せる。
マダラの非常に嫌そうな顔。
そんなに糸ようじが嫌いかね。君。
「明日からでいいから、ね?」
「……ん」
そういうことになった。
歯磨き後の糸ようじをしっかりマダラはやってくれた。偉い。偉いぞ……!
「兄さんすごいよ!」
「……」
「最高!かっこいい!」
「……こんぐらい、できて当然だ!」
褒められて満更でないマダラ。本当にちょろすぎる。
一人で糸ようじも歯磨きもできるようになった。
歯磨きの精度はまだ若干の不安があるが、それも練習を繰り返していけば良くなっていくだろう。
失敗もあったけど、順調に事は進んでる。
これからも頑張ろうね。マダラ。
お風呂。
足湯でバシャバシャしながら考える。
写輪眼がないとチャクラは簡単には見えない。
最初にチャクラを見えるようにする。という発想は悪くなかったはず。
問題だったのは湯呑みだ。あんま丈夫じゃないし、割れると危ないしで。
マダラのチャクラ量が多すぎたってのも原因だけど。そこはまぁ。
チャクラを包み込むのに何かいいものはないものか。
風呂場を見渡す。
肩まで浸かってのんびりしているマダラ、熱すぎるお湯、木の風呂、木の桶、木の風呂椅子、使いにくい石鹸、体を洗う手拭い、しっとりしている木の壁、ヌルヌルの木の床。
桶……。はまた爆発すると危なそうだなぁ。木片が飛び散る。気がする。それに幅も広いしでチャクラ込めるより外に出ていく量のが多そう。
後は……。
手拭いを掴んだ。
風呂に浸かる。熱いぜ全く。
一度絞ってから平たく風呂に浮かべる。両外側を掴んで真ん中に集めて手で輪っかを作る。そのままそれを沈めた。
手拭いの中央がぷくりと水面から浮いてくる。
「何やってんだ?」
「クラゲさん」
「??」
空気の膨らみを得て丸く浮いている部分を指で突く。
プシューと縮まった。
「おお……」
マダラが目を輝かせている。初見か?
手拭いを渡す。
「兄さんもやってみる?」
「!あ、あぁ」
マダラが同じようにやる。クラゲの完成だ。
指で突ついて遊んでいる。
「全部沈めてみるのも面白いよ」
「こうか?」
お湯の中に沈んだクラゲ。
小さな気泡がクラゲから出てきた。
「握ってみて」
「ん。……おお!?」
マダラがクラゲを握りつぶした。潰れると同時に気泡が大量に吐き出される。
面白いよね〜これ〜。
夢中になって何度もクラゲを作ってマダラ。
俺の手拭いが取られてしまったのでマダラの手拭いを拝借する。
手拭いなら爆発しても大して危険でなかろう。せいぜい破けるだけ。
試しに自分でやってみる。
クラゲを作る。クラゲの下に手を添えて、中にチャクラを詰める。チャクラを詰めるたびに空気が指の隙間からこぼれていく。
こりゃいい。チャクラがどれだけ入ったか一目瞭然だ。
空気が出なくなった。チャクラでいっぱいになったのかな?
チャクラクラゲを沈める。僅かの気泡も出てこない。
いけるな……。
俺は風呂から上がった。熱い。のぼせてしまう。
チャクラクラゲ作戦は明日が本番。
「兄さん、そろそろ上がるよ〜」
「も、もうか?」
「……モウチョットダケネ」
マダラがにっこりと笑った。
いいよ。好きにクラゲで遊びな。子供は遊ぶのが仕事だからね。
俺は足湯を再開してマダラがクラゲに飽きるのを待った。
……。
「いい加減出るよ!?」
「も、もう少しだけ、いいだろ!?」
「だめ!!」
どれだけ待っても飽きないマダラをふん縛って風呂から上がった。
マダラの頭をめちゃくちゃ拭く。俺がいる限り絶対生乾きで寝かせねぇから!!
「もういいだろっ」
「だめです!!」
うざったそうにするマダラ。縛り上げているのでなされるがままである。
布で拭くだけじゃどうしても乾き切らない。
ドライヤーないのぉ!?火遁の風圧で実質ドライヤーっていけないかなぁ!?危険すぎるか……。
「ウギギ……」
「……」
無理だ……。
ある程度は自然乾燥に任せるしかないのか……。悔しい……。
ズグリと。
心臓が痛んだ。
うわ。
たったこれだけ。
これだけのことにすごく苦しい。
足湯だけでのぼせた?ありえない。
吐きそう。
深呼吸をした。だめだ。意味ない。
風呂場に駆け込んだ。湯気が息苦しい。足が滑りそうになった。空っぽの桶を掴む。
「イズナ……?」
背後からマダラの声がする。
縛っていて良かった。本当に。
涙がこぼれる。数滴だけ。
拭えばもう大丈夫だった。
お湯で口をゆすいだ。水場で助かった。全部、流せばなかったことになる。
もう一度深呼吸した。
大丈夫。今度こそ。
大丈夫。
マダラを糸から解放した。
服を着替えさせて、俺も服を着て。
「じゃ、行こっか!」
「あ、あぁ」
俺は笑った。
マダラは笑ってくれなかった。
イラつく。
マダラの手を引っ張って歩いた。
マダラの顔を見たくなかった。
「おやすみ!」
「……おやすみ」
さっさと布団に潜る。
マダラも布団に入ってきた。
自分の布団で寝ろよ。なんでこっち来るんだよ。
マダラは俺に抱きついてきた。
俺は抱き枕じゃねぇんだけど!?!?
身じろぎをする。なんなら肘鉄でも食らわせてやろうかとすら思った。
腕ごと後ろから固められている。まるで動けない。なんなんだこの力の差……。
じんわり背中から熱が移っていく。俺、いつの間にこんな体冷えてたんだろ。足湯じゃだめなのかなぁ。
いや、マダラが風呂に浸かりすぎなだけだ。そうに違いない。なんでのぼせないわけ?俺達兄弟なんだよね?性能差酷くない?
なんだか急に眠くなってきた。
湯たんぽなところは健在だな。
俺は寝た。