一般日本人が転生する話。 作:あうん
最後の一匹は、タンス最上段。その中にいる。
どうやって入ったんだよ……。
残り一匹の所在は分かった。分かったけど。
なんでよりによってタンスの中に隠れるかね。
服全部洗ってもらわなきゃじゃない?最悪か?
ずっと最悪だけどこれほど最悪なことも早々ないと思う。
とりあえず回収だけはしておかねばならない。
俺は例の如く引き出しを糸で引っ張った。
「……」
分かってたけど。この角度じゃ開けられるものも開けられない。
緑のあれはタンスから出ていく様子はない。じっとしている様子。
俺は写輪眼を切った。
チャクラの減りが著しい。あれをタンスから叩き出してから一戦交えなくてはならない。
にしてもうるせぇなぁ……。
カエル二十九匹の妨害がやばすぎる。なんだよこれ。幻術か?こんなの現実とか嘘だろ。
現実逃避もそこそこに。やることをやるべきだ。
鍵は、かかってるのかな?一度穴にチャクラを突っ込む。糸三十本分のチャクラを合体。密度は十分に過ぎるな。
……。開いた?分かんない。
じゃあもう一回開けてみましょう。って角度が悪いんだから無理ってさっき。
いやいや、俺は諦めないよ。
方法は一つ。
無理やりこじ開ける。
脳筋戦法だ。
俺の筋力では厳しい。
だが、俺は覚えている。
食事部屋の机に罅を入れたのを。
前世死んだからか俺は火事場の馬鹿力を持っているようだ。
例の件は、きっとそういうことに違いない。
普通に考えて三歳児が木造の机を叩いただけで罅が入るわけないのだ。
よーし。
もう一度引っ張る。
……力入ってる?馬鹿力は出てない。
なんで?
思い返す。
あの時は頭がカッてなって。イライラの頂点にいた。
当時の怒りを再現すればいいのか?
いや、そんな簡単に気持ちの再現とかさぁ。
ムカついてはいるが、暴れたい感じではない。元気がないのだ。死に体である。
死にたい。だけに。
カエル地獄から解放されたしもういいか。一匹くらい。
マダラが起きたら取ってもらおう。そのくらい働いてもらわねば。
……。
二十九匹入りのカゴ。
まーじでうるさいんだよなぁ。
目にも悪い。詰め込められてキモの極地だ。腹に何か入れてたら確実に吐いてるレベル。
マダラはいつ起きる?
待ってる間、この拷問をじっと耐えねばならないとか無理な話だった。
気を紛らわすために、やっぱりタンス、開けようかな。
チャクラ糸。三十本をひとまとめにした状態。
ツヤツヤしている。カエルの液体のせいで。キモ〜。
そもそも三十本も用意する意味なかったな。だって同時に使わないし。カゴに戻したらその分使える糸が増える。
……俺ってほんと考えが足らない……。
タジマの顔がよぎる。
なんで俺があいつに気を遣わなきゃいけないんだよ!
飯抜きとか本当にふざけてる。
いっそ餓死してやるろうかな!?いやそれはちょっと苦しすぎるかも……。もう少し楽な方向で……。
あぁ〜お腹空いた〜。昨日の夜も吐いちゃったし。朝ごはんもないってことは夜ご飯まで待つってこと?なんで昼ごはんないの?最近スルーしがちだったけど、全然俺昼ごはん食べたいよ。
……。
死ぬか〜。
首にチャクラ糸を絡めた。グッと引っ張る。
首が絞まる。ギューって。絞め続けた。
「……ぅ」
当然息ができない。当然苦しかった。
糸が緩んだ。
無理だ。自分の手じゃ、どうにも。
何かに吊るす?やっぱり本物の糸じゃないから集中が切れて失敗しそうだ。
首にカエルの粘液がついた。最悪。
苦無か。やはり。
タンスに糸を伸ばす。苦無入りの引き出し。
引っ張って。やっぱり鍵がかかってる。
瞬間的に、頭が熱くなった。
ムカつく。
俺の邪魔ばっかりしやがって!!
「死ね!!」
糸をもう一度。思いっきり引っ張った。
ガタ。
引き出しが鍵のせいで突っかかる音。カエルの音に紛れて聞こえた。
何もかもうまくいかない。なんでこんなことばかり。
引っ張る腕が痛くなった。それでも何度も。
「死んじまえ!!」
腕が引かれた。抵抗がなくなった。
腕の勢いそのままに、タンスが動いた。
畳を擦って近くまで。引き摺られて。
グラと。傾く。こちら側に。
倒れて。
潰される?
ゆっくりとタンスが迫ってくる。
死ねるじゃん。圧死ってこと?痛そう。
でもいいか。
タンスの陰。暗かった部屋が余計暗くなる。
マダラが身じろぎした。
「っぅ゛!!」
火事場の馬鹿力ってやつだった。タンスを動かしたのも、今この瞬間も。
マダラの手を掴んだ。離れないよう。
踏み込んだ布団に足を取られる。粘液で濡れていた。転げながら布団から抜け出る。
振り返った。
時間が遅く感じられた。畳とタンスの隙間。
カゴが。
「は、」
マダラを引き剥がした。こんなにも簡単に。
まだ寝てる。畳の上も濡れていた。
よかった。
生きてる。
息を吐いた。
カエルの声が止んでいた。
しゃがみこむ。
考え無し。タジマは言っても言わなくても分からないって。その通りだった。
マダラの頭を撫でた。
いつか分かる日が来る?来ねぇよ。
馬鹿は死んでもなおらない。
俺にピッタリな格言だ。文字通り。
なおってたら、こんなことしてない。
あのまま潰されていたら死んでた。マダラごと。
死ぬのに巻き込むつもりなんてなかった。
マダラに糸ようじ教えるのも忘れてた。渡すものもあるのに。髪だって。
ここで死んでちゃ、さあ。
何もかも中途半端。
苦無もこれじゃ回収不可能だし。
そもそも、死ぬ気なんて、あったのかよ。
あぁ俺って、本当に馬鹿なんだなぁ。
マダラの胸に顔を押し付けた。
部屋が静かだった。雨音だけが聞こえてくる。
こんなにも静かなことがあっていいのかとすら。カエルの幻聴が聞こえてくるようだった。
ゲコ。
幻聴。
ゲコゲコ。
本当に幻聴か……?
顔を上げた。音の方を見る。
カエルが一匹。
タンスの中にいたやつ?
どうやって出てきたんだよ……。
生き残りを捕まえた。
繭越しのカエルを見る。
「お仲間は皆いなくなっちゃったよ」
返事はない。
「お前、これからどうすんの?」
返事は返ってこない。
おいおい。さっきまでうるさかったのに。
俺の独り言の相槌ぐらいはしてくれてもいいだろ。
カエルを放り投げた。
ぴょこぴょこ跳ねてな。
べちゃりと畳に落ちた。
動かない。
強く縛り付けていたせいだろうか。
カエルは死んでいた。
「……」
死骸を糸で拾い直した。
部屋を出る。母の元へ向かう。
マダラとタジマとカエルとタンスのせいでややこしくなったが、そもそもそういう話だったじゃないか。
三十匹が一匹になって、それも死んでしまったけど。誤差だよ誤差。母なら許してくれる。
ダメだったら全部タジマのせいにしてやればいいのだ。
手の先。水風船みたいに繭が揺れている。
それがなんだか無性におかしかった。
「あはは!」
笑い声は雨音に掻き消された。
走った。
もう何が何だか分からなくなっていた。
襖を開ける。
「母上〜!!」
「イズナ。お待ちしておりましたよ」
母の微笑みに安堵した。
母に繭を差し出した。
「母上!カエル!見て!!」
「えぇ」
母がカエルを受け取った。手掴み。まじか。
「タジマ様が?」
「俺が捕まえた!」
嘘は言ってない。
「あら、そうでしたか。頑張りましたね」
「でしょ〜!?」
母はカエルを持っていない手で頭を撫でてくれた。癒される。いや本当に癒される!!
母は頭を撫でてくれた後に俺の目を覆い隠した。
「目を閉じていなさい」
「母上?」
「写輪眼が出ています。制御できていなようですね」
え、いつの間に……気付かなかった。
「熱もあるようです。少し、眠りなさいな」
母はそう言って布団に俺を寝かせた。
首に指が触れた。
「くすぐったいです!」
「……おやすみなさい。イズナ」
母は子守唄を歌ってくれた。聞いたことのある。マダラが歌ってたやつだ。
母の美声の方がよっぽど良い。歌手行けるぞ母。