一般日本人が転生する話。 作:あうん
肩を揺さぶられる。優しい。
そうだよこうでなくちゃ。マダラとは大違いだ。
「う〜ん」
「イズナ。ご飯ができましたよ」
「ご飯!?!?」
目を覚ます。
目の前に粥。
は?
なんで。マダラは!?
そんな。
見渡した。
いつもの部屋。
嘘だろ!?俺はここから解放されたと思ったのに!!
粥だけ生活とか勘弁してくれ!!
襖の方に駆け出した。腕を掴まれる。母の正面に座らされた。お決まりだった。俺の定位置。
「イズナ?いかがしましたか」
母が微笑みの中で首を傾げた。匙を俺に差し出してくる。
「うっ……」
俺は匙を受け取った。拒否しても無理やり食わされる。抵抗は無意味だった。
おかしいな、もう歯は生えてる。なんでこんなもんを食べなきゃいけないんだ。
お椀をもらった。粥。白い。触感なんて皆無の。もはや白色の水。味なんてない。薄すぎて。それを何杯も。
母を見上げる。微笑んでいる。ずっと。恐ろしいまでに。
「母上……」
「はい」
「もっと別の物が、食べたいです……」
母は頭を撫でてくる。
「お前にはまだ早いのですよ」
「もう三歳です」
「そうですね」
何度このやりとりをしたのか分からない。
「後どのくらいですか」
「さぁ」
「さぁ、って。具体的にないんですか」
「そうですね……。わたくしが死ぬまででしょうか」
……。
「じゃあ、早く死んでください」
母は頷いた。
「そうですね。もう少しの辛抱ですからね。イズナ」
「……」
「それまでどうか。わたくしの我儘に付き合ってね」
ずっと微笑んでいた。
「……」
夢である。どう考えても夢だった。
三歳時点で既に俺はあの見るも悍ましい和食の成れの果てを食していた時期。
白粥は卒業済みだった。
粥であることには変わりない。けど。
なんでこんなこと今更思い出すかな。記憶の彼方に永遠に封印されていればいいものを。
目を開ける。
薄暗い部屋。
大丈夫。さっきのは夢。今は母とは別の部屋で過ごしている。今日はたまたまここにいるだけ。
身を起こす。
「起きましたか?」
「はい」
母が微笑んでいる。何にも恐ろしくない。優しげな。安心する。
「イズナ。ご飯ができましたよ」
「……」
目の前に粥と匙。
……夢、だよな?
顔が引きつった。
え?俺この部屋に逆戻りしちゃった?
血の気が引く。
そもそも全部夢だった?外で過ごした時間が?
全部。
受け取る。
白い。粥。
またこれを食べ続けないといけない?
食べて。寝て。それだけ。
嫌だ。
「は、母上……」
声が掠れる。
「はい」
「これは……?」
「蛙です」
?
「は?」
「イズナが持ってきてくれたでしょう?」
「……」
母は微笑んでいる。
なーんだ!やっぱり夢か!!
俺は食べた。
美味しい!!
鳥肉みたい!
肉料理今生で初めて食べたかも!!
あっカエルって肉扱いでいいのかな!?
美味しいならどうでもいいや!
ぱくぱく。
……。
俺は平げた。
空腹には勝てなかったよ……。
「美味しかったですか?」
「はい!とっても!!母の料理で一番でした!」
「そうですか。良かったです」
母は微笑んでいる。
嫌味なんだが?
「なんでカエルなんですか?」
「イズナの夢のお手伝いですよ」
夢??
「美味しいものをいっぱい食べたいのでしょう?」
「……」
美味しかったけどなんか違うと思う。
なんかもっと無難な感じの美味しいものを味わいたいかも……。
ハードルの下をくぐってるよ。
やっぱ母はどこかずれてるな……。
「母上にとってカエルが美味しいものなんですか?」
「そうですね」
えぇ……?
「今日の朝食は抜きだと聞きましたよ」
「あ、はい。そうです……」
そういえばそうだった……。タジマの野郎……。
「ですから」
母は人差し指を口に当てた。
「このお食事は、タジマ様には内緒ですよ」
「は、母上〜!!」
そのためのカエル!?女神か……?聖母がいる!!後光が差しているようだ!
俺は食事を抜かれても生き延びられる。母がいるから!!
「大好きです!!」
「わたくしもですよ。イズナ」
母に抱きつく。優しく受け止めてくれる。幸せ。
そんな幸せ空間をぶち壊す邪魔者が。
襖の開く音。
「イズナ!」
「あら、タジマ様」
げぇ!!
部屋にズカズカと入ってくる男。お、怒ってるかも!?
「何ですかあの惨状は。何をしたらああなるのか説明しなさい!」
完全に怒ってる!!?
「母上!父上が怖いです〜!」
俺は母の胸に顔を押し付けた。いい匂いがする。
「タジマ様、あまりイズナを怖がらせないでくださいませ」
「モミジ……」
庇ってくれる母。天使。
タジマの怒りが少し引いた。良かった〜。
「イズナが何かいたしましたか?」
「……箪笥をひっくり返して蛙を押し潰していましたね。部屋中が濡れていました」
母は俺の頭を優しく撫でる。
「あら、そうなのですか?イズナ」
「し、知りませ〜ん」
「とのことですが。タジマ様の勘違いではありませんか?」
「そんなことは、」
タジマの言葉を遮る母。
「イズナの言うことを信じてあげないのですか?イズナが可哀想と思いませんか」
「……」
黙るタジマ。
母はちょっと俺を過信しすぎでは?
「そうでしょう?イズナ?」
「う、うん……」
嘘をつくのに心が痛むことあるんだ……。
ちらりとタジマを見る。うわ目が合った。すぐに母の胸に顔を隠す。怖いよ〜ママ〜!。
「そもそも、箪笥をひっくり返すことの何が問題なのですか?」
「問題だらけでしょう」
「そうでしょうか?そんなこと」
母は告げる。
日常茶飯事でしたよ。と。
え?
「母上……?」
見上げる。母はやっぱり微笑んでいた。
「でしょう?イズナ」
「……」
聞かれても困る……。
「イズナはよく癇癪を起こしていたので、部屋にあったものは軒並み使い物にならなくなりましてね。勿論箪笥もです」
「……」
「子とはそういうものですのよ。タジマ様」
「……」
そうだったかなぁ!?覚えてないや!
俺は自分に都合の悪いことは忘れることにしている。覚えてないならやってないも同然である。
よーし。
タジマをまたチラ見する。
目頭を抑えていた。ドライアイか?
「そうですか……」
「えぇ。そうなのです。目を離せないでしょう?常に見張る必要があるのです」
ちょっそれはキツイよ。
「……そうですね」
「えっ」
タジマは同意した。
「ですが、四六時中は、やはり無理です」
俺も同意した。
「そうですよ母上!そんなの息が詰まって窒息死です!」
「イズナ、それはどういう意味ですか?」
「……」
俺はタジマの質問を聞こえなかったふりをした。
背後からため息が聞こえる。母の鼓動で掻き消されたことにする。
「窒息死してしまうのは困りますね。昼間はわたくしがイズナを見ますから、せめて夜だけでも見てやることはできませんか?」
「……考えてみましょう」
「是非。お願いいたしますね」
そういうことになった。
え、どうなるの?俺。
話も一段落。話題が移った。
「イズナ。私の部屋に駆け込んできた時の、マダラの動揺ぶりが分かりますか」
そういえば放置してたな……。やばい……。
「すみません……」
「マダラに言いなさい」
「はい……」
ため息。
「イズナ。ここまでしておいて。言わずとも理解できていると信じていますが、朝食が無いことは。忘れていませんね」
「あ、はい」
お腹も膨れてあんまりダメージがない。
「……?」
タジマは目敏かった。
まずいっバレる!
「あー!残念だなぁ!すごい残念!!ご飯食べれないなんてすごい不幸!!悲しい〜!!!」
母にひしと抱き着く。
「あらあら。何て可哀想なイズナ……」
「ううう母上〜!!俺は世界一可哀想です!!」
「あぁ、よしよし……」
母は背中をぽんぽんしてくれる。
「……まぁいいでしょう。ではモミジ。イズナを頼みましたよ」
「はい。タジマ様。お任せくださいませ」
ため息ひとつ。タジマは去っていった。
「……」
「……」
「……ふふ」
「っふ、母笑っちゃダメです」
「イズナこそ」
母の胸から顔を上げた。微笑み。
鼻をツンと突つかれた。
「イズナは悪い子ですね」
「母もでしょ!」
「ふふふ。そうですね」
タジマを騙した。共犯だ。
母は俺を膝から下ろして、ゴソゴソと布を用意し始めた。
また裁縫の続きをやるつもりなのだろう。
でもその前に。
「兄さんに謝ってきます!」
「……そうですか。では言伝をお願いしてもよろしいですか?」
「何です?」
母は布を手渡してきた。風呂敷ってやつだった。
「蛙を何匹か捕まえてきてほしいのです」
えぇ……?
カエルは毒があるので調理には気を付けましょう。