一般日本人が転生する話。   作:あうん

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一日三食。食わねば飢えて死ぬ。

母が腹の子に執心であるので俺の世話をパタリと辞めた。そのくらいできるでしょう。もうお兄ちゃんになるんですよ。と。

あまりにも母の変わり身に愕然としたが、これを機に生まれ育った部屋から、マダラの隣の部屋を与えられた。これからはマダラと飯を共にすることになる。そこにたまにタジマ様が混ざるとか女中が言ってたがどうでもいい。何はともあれ食事である。飯だ飯だ!

 

お出しされたのは液状の物でなく、形のある、噛みごたえのありそうな品々。そう。そうなのだ。ついにまともな飯をありつけるようになったのだ。ツヤツヤな米にほかほかな魚、輝く味噌汁、漬物に葉物野菜。美味そうな匂いが俺に早く食ってくれと囁いている……待っていた……この時をよォ……!

いただきまー!

 

「ごめんな。何もしてやれなくて」

 

米を口に入れようとした瞬間、つまり俺の人生最高の瞬間に水を差したのはマダラであった。

 

「守るって、言ったのにな」

 

渋々米を茶碗に戻し、箸を置く。俺は正面にいるマダラに顔を向けた。マダラは俯き眉をしかめ口を引き結んでいる。楽しい食事風景に相応しくない表情である。というか守るってそれ俺達の母親について?五歳児にできることなくない?気にすんな気にすんな!

 

「兄さん!」

「……なんだ?」

 

僅かばかり顔を上げたマダラ。全くそんな顔が正面にあると飯が不味くなる。というか構ってる時間はない。せっかくの人生初の晴れ舞台。和食にありつけられるのにこのままでは冷めてしまう!

 

「兄さんと一緒にご飯が食べられて俺嬉しいよ!早く食べよ!」

「あ、あぁ」

 

ニッコリ笑顔でさっさと話を終わりにする。

マダラには悪いがこちとら生まれてこの方これを食べたいがために生きてきたのだ。

箸を取り、改めて米を頬張る。これだ。これこそが本来の米!噛み締める度にじんわりと甘みが口に広がる。そこに解した魚を一口。ああなんて絶妙なコラボレーション!魚の味を米たちが優しく包んでくれる。そして更に味噌汁を加える。ほどよいしょっぱさとねぎにダイコンの食感。もっと味わいたいのに飲み込むことを止められない!喉へと流し込まれた美味みは胃に落ち脳へともっとよこせと悲鳴をあげる。分かってるさ。俺は欲求に赴くままにもう一口、もう一口。もう俺は止まらない。否止められないのだ。この喜びを。ありとあらゆる全てへの感謝が止められない。今俺は生きている!

 

そんな様子をマダラはポカンと見ていた。暫ししてやれやれと。

 

「まったく……野菜も食わねぇとでかくなれねぇぞ」

「分かってるよ!今は魚のターンなんだって!」

「はは!なんだそりゃ」

 

 

 

 

 

 

美味しい美味しい最高の朝食の後。修行があると名残惜しそうに去ったマダラを見送り、新しい俺の部屋で満腹のんびりゴロゴロしている時だった。

 

「イズナ。入りますよ」

 

勝手に障子を開けて勝手に侵入してきたのは、初見の男。声からして離乳食の恩人、かつ母から解放してくれた恩人?

タジマ様だっけ。

 

「話があります。ついてきなさい」

 

畳の上で転がっている俺を一瞥した多分タジマは、そう言って背中を向けて行ってしまった。

ええ〜。

 

渋々タジマの背中を追いかける。

 

「マダラとは仲良くしているようですね」

「え、まあ……」

 

兄弟の団欒を盗み聞いてたの?やだ陰湿……。

 

「……」

「……」

 

気まずい!

 

「ええと、そのせなかの……」

 

黙って歩くのもなんなので話を振ってみる。その背中の卓球のラケットマークよく見るんですけど。

 

「これですか、これはうちはの家紋ですよ」

「かもん?」

「一族の証です」

 

ほー。うちはの家紋ね。前世にあった家紋とは違ってなんというか。シンプルっすね!

 

「お前もうちはの一人として、この家紋を背負って生きていくんですよ」

「はぁ……」

 

もうちょっとかっこいいのなかったの……?

 

 

 

 

 

 

目的地はさほど離れた場所ではなかったらしい。男は障子を開けて、

 

「どうぞ中に」

「しつれいします」

 

そそっと入って中を見回す。結構広い部屋だ。襖に色々絵が描いてああって、部屋の奥が一段高くなっている。雰囲気は大名の謁見室って感じだ。

後ろでピシャリと障子が閉じられる音がした。

 

「そこに直りなさい」

 

俺は男の指示通りに正座して、男も俺の正面に座した。なんだか急に緊張してきた。

 

「さて、何から話しましょうか。……何か聞きたいことは?」

 

そんな急に無茶振りな。というか話があるって言ってたのに何話すかちゃんと決めてなかったの?

 

「ええと、なんとお呼びすれば……?」

 

恐らくタジマであろうが、これで違っていたら失礼どころではない。早いうちに名前を確定させてしまおう。

男は少し目を見開き、ため息をついた。怒らせた?

 

「うちはタジマ。うちはの頭領です。私のことは父上とでも呼ぶと良いでしょう」

 

父!頭領!

 

「し、しつれいしました。もうしわけございません……」

「いいえ、今まで顔を合わせたことがなかったですからね」

「い、いやぁ」

「今まで、何もしてやれず申し訳ない」

 

そう言ってタジマは頭を下げた。ちょ、

 

「頭をあげてください!ち、父上にも事情があったんでしょう?」

「……イズナ。お前は優しい子ですね」

 

苦笑して、タジマは姿勢を正した。

 

「改めて、これからよろしくお願いします。イズナ」

「はい。よろしくお願いします。父上」

 

幼児相手に誠実に謝罪ができる男。タジマ。いい父親そうである。

 

「母親から、うちは一族についてどれほど聞いていますか」

 

なんも聞いてねぇ……。俺が知っているのはマダラ経由の戦自慢話ぐらいである。

 

「そうですか。では一から教えてやった方が良さそうですね」

 

ありがとう!

 

そこから語られたのは衝撃の事実。なんとうちは一族、武士ではなく忍の一族だった。忍は火を吹けるのか〜そうか〜。

うちは一族は歴史が古く、忍家業一筋だという。

火の国に拠点を置いていて、雇われては日々戦いに明け暮れているらしい。うちは一族は結構強い方らしくて、写輪眼という血継限界を持っている。とのこと。

タジマは写輪眼を見せてくれた。母が怒ってた時の目だ!黒目が急に赤くなるの怖いぃ!俺がビビったのがわかったのかすぐに黒目に戻してくれた。気遣いのできる男である。

 

「写輪眼は戦いの中で発現します。写輪眼を開眼すればお前も一人前のうちはと認められるでしょう」

 

一生認められなくていいんですけど?

 

「この話は一先ずこれぐらいにして、文字の読みを教えます。これは読めますか」

 

タジマは巻物を懐から取り出して広げてみせた。文字表かな。喋りも日本語だし、文字もやっぱり日本語みたいだ。昔のミミズ文字で読みにくいけど。

俺が難しい顔をしたのを読めないと判断したのか、タジマが一つ一つ読み上げてくれる。やっぱ日本語だぁ。

 

「復唱してみなさい」

「あ、い、う……」

「一度聞いただけで……ずいぶん物覚えが良いですね」

 

ぎくり。

 

「流石は私の子です」

 

タジマはうんうんと満足げである。ただの親バカかよぉ!

 

「今日は読みだけにするつもりでしたが、書き取りもしてみましょうか」

 

タジマは懐から書写セットを取り出した。なんで懐に入れているの?

 

 

 

 

 

 

「タジマ様、お食事のご用意ができました」

「もうそんな時間ですか。イズナ今日の勉強は終わりです。お疲れ様でした」

「あ、ありがとうございました……」

 

お、終わった……朝からぶっ通しで文字の書き取り……疲れた……。正しい姿勢、正しい筆の持ち方、書道むずい。しかし奥深くて、かなり熱中してしまった。タジマも根気よく俺に付き合ってくれた。素晴らしい父親だと思う。

それはそうと手が墨で真っ黒なので早く洗いたい。畳に墨をぶちまけなかったの偉すぎる俺。あとめっちゃお腹すいた……。

 

「片付けはしておきますので、先に行きなさい」

「はい。しつれいします」

 

立とうとして、っ……!!

 

「どうしましたか?」

「あ、あしが……」

「しびれましたか」

「はいぃ」

 

俺が蹲っていると、タジマが手を伸ばしてきた。

がし。タジマは俺の足を掴んだ。!?

 

「〜〜〜!?!?!?」

「しびれた場合はさすると早く治りますよ」

 

ぎゃあああああああああああ!手から逃れようと暴れても、追尾性能が高すぎる!やめろやめろぉー!離せぇー!!

 

「……」

「どうですか?」

「……」

「イズナ?」

「……大丈夫です。……もうすっかり治りました」

 

俺、タジマ嫌い……。

 

 

 

 

 

 

足のしびれも治り、手もしっかり洗った。

待ちに待ったお昼ご飯である。和食!和食だ!!

はあ〜いいにおい〜!みそ汁最高!!

手を合わせ、

 

「いただきます!!!」

 

うま〜。勉強を頑張った後の飯は最高っすわ!

米の糖分で脳が回復していく感覚たまんね〜。漬物のしょっぱさが沁みるぜ……!

 

美味しさを噛み締めていると、マダラが話しだした。

 

「イズナ、今日な修行でーー」

 

タジマはお椀を一度置いて、

 

「食事中は話してはいけないと教えたはずですよ」

「う……申し訳ありません」

 

そうだぞ。タジマわかってんじゃん。食事は黙って味わう。これ人生のマナーね。

マダラが朝食で話しかけてきたから、ここではそういったルールはないのかと思っていたがちゃんと黙食文化があったらしい。これからは気をつけるんだぞ!

 

「食事が終わったら話せばいいでしょう」

「は、はい!」

 

マダラが嬉しそうに笑いかけてくる。俺もにっこり笑顔を返す。

拗ねかけた子供の対応が実に見事。やはりできる男である。

 

楽しい楽しい昼食の時間も終わり、家族団欒の時間である。タジマは食後去っていったが。母に会いに行くのだろうか。

マダラは今日の修行の内容について色々話してくれた。水面歩行がどうだか。手裏剣投げがうんたか。ちょっとよくわからないですね……。

 

そのあとは一緒に風呂に入った。シャンプー系が現代よりもはるかに劣化していて不快だったが、いや〜いいですな!熱めのお風呂は!もうそれで全部許せる!

 

部屋に戻ると布団が敷かれてある。旅館みたい!流石は頭領の息子の扱いは手厚い。転生SSRか?

 

「じゃあなイズナおやすみ」

「うんおやすみなさい。兄さん」

 

俺は布団を被った。

 

 

 

 

「兄さん!」

 

スパーンと障子を開け、隣のマダラの部屋に駆け込む。マダラは布団から飛び上がった。

 

「うぉ!?どうした!」

「兄さん夕飯は!?!?」

「夕飯?さっき食べたろ?」

「食べてない!」

「はあ!?」

 

食事は一日三食でしょうが!なんで寝ることになってんだ!

マダラは困った顔をして、

 

「朝、俺と一緒に食って、勉強してたんだろ?父上と一緒に飯は食わなかったのか?」

「父上と……?」

 

食べてないが……?

 

「俺は修行の途中で握り飯を食った。イズナも、途中で休憩はしただろ?」

 

休憩してないが……?

 

「……」

「……」

 

「とりあえず、今日は寝ようぜ!な!イズナも疲れたろ!」

 

マダラは問題を先送りにした。そういうのよくないと思う!

俺を布団に引き摺り込んだマダラはぽんぽんと俺の背中を叩きながら下手くそな子守唄を歌い始めた。

……仕方ねぇ。ここは兄貴ヅラするマダラの顔を立ててやるか。

 

「兄さん」

「ーーん?」

「おやすみなさい」

「あぁおやすみ」

 

マダラは俺が寝るまで背中を優しく叩き続けてくれた。

 

とりあえずタジマは絶許。

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