一般日本人が転生する話。 作:あうん
朝食を食べて今日も俺は絶好調である。
今日はタジマに連れられ、初めての正式な外出である。
歩いて通り過ぎる人たちが毎度毎度タジマに挨拶していく。ついでに俺にも皆挨拶してくる。幼児の満面の笑みと挨拶を返しておけばいいだけだから気楽なもんだ。
いやしかし、うちは一族ってほんとでかい集落なんだなぁ。家がいっぱい建っている。全員名字がうちはってのも壮観よな。
しばらくのんびり歩いて、集落の外に出た。更にそこからも歩いて、着いたのは例の巨大池。
「マダラとここに来たことがあると聞きました」
「はい」
マダラのせいで気絶したところですね。
「うちはは代々火遁を得意としています」
「火遁を……」
道すがら挨拶した人たち皆口から火吐けるってこと?やば〜。
「本来なら父親が子に火遁を教えることが仕来たりなのですが……」
マダラが先に見せてしまったようですからね。タジマは苦笑しながらそう言った。
父親の威厳見せる系のイベントをマダラに潰されてかわいそう。
「えーと、でもほとんど覚えてないので!」
「そうですか?」
気絶しましたからねぇ!だからほら。
「父上の火遁、見てみたいです!」
「イズナ……。お前は本当に、」
何かを言いかけて、タジマは口を引き結んだ。可愛い息子がおねだりしてるんだからさっさと終わらせてくれよな。
「そうですね。では、豪火球の術を見せますから、よく見ておきなさい」
「はい!」
マダラの使ってたやつね。前はびっくりして気絶したけど今度はきっと大丈夫。
「いきますよ。火遁 豪火球の術」
ゴウッという音。マダラのより遥かに大きい火炎。火球によって生み出された熱風に、足がすくんだ。赤々と輝く炎の眩さに思わず目を細めてしまう。
池の中央まで飛んだそれは水面にぶつかりーーまるで爆発でも起きたかのように。
火傷してしまいそうなまでの強烈な風が吹き付ける。高く上った水飛沫がキラキラと輝いていた。
なんというか、人間じゃない。化け物か?
お口の何十倍でかい火を吹いていらっしゃる?体内にガソリンスタンドでも内蔵しているのかな?マダラの比じゃないんだが。
「イズナ。どうでしたか」
タジマが俺に話しかけてくる。
どうでしたか、だって?率直に言えば気絶したい。今の夢ってことにしてもらってもいい?
まあ、ひとまず。
「兄さんよりもすごかったです!父上かっこいい!」
おべっか。これに限る。
「そうですか。それは、良かった」
タジマは嬉しそうだ。そろそろドッキリ大成功の宣言してくれてもいいですよ。
「イズナもいずれはこのぐらいできるようになりますよ」
えっ。それはちょっと無理かなって。
タジマはしゃがんで、俺と目線を合わせた。
「やり方を教えます。まずは印の結び方ですね」
タジマが手遊びをし始めた。いん?なになに?
「ほら、真似てみなさい。これが巳です」
こう?見よう見まねでやってみる。ミ、ヒツジ、サル、イ、ウマ……って干支かぁ!?
「最後に、寅。これが火遁 豪火球の術の印です」
「とら……」
と、タジマの手を見て最後の印を結んだ瞬間。お腹の中でぐるぐると、違和感が。やだ、朝ごはんで何か当たった……?そう思う間もなくナニカが喉に迫り上がってきた。やばい!吐く!!
ボフッ
「わぁ!」
口から火が!超近距離に出現した火に思わずのけぞって小石に引っかかって転んで気絶した。
「う〜ん?」
いつの間にか寝ていたらしい。よく寝た!元気いっぱいだ。って暗!まだ夜か〜、二度寝する?いや、こっそり抜け出して厨房を探しに出ようかな。小腹空いたし。
真っ暗闇で何も見えないので這い這いで壁を目指していると。
……?話し声が聞こえる。声の方へ向かって、壁に触れた。手触りからして襖。横にずらせば先に進める。誰かがいる。
襖に耳を当てる。
盗み聞いちゃお〜。
「ーーですから、あれほどおっしゃいましたのに。やはりイズナに外はまだ早かったのでしょう。まだ三歳ですのよ。タジマ様が火遁を使われるようになったのはおいくつでしたでしょう」
「いや、それは……」
「やってみないとわからない。そうでしょうね。だから一度は任せたのではありませんか。それがこの様ですのよ。イズナが虚弱であることは散々、伝えたつもりでしたが。まだ足りなかったとは思いませんでしたわ。そもそも、マダラとは違うのですよ。子供は皆同じだと思っていませんか。マダラは丈夫に生まれてきたといって、イズナもそうだと思っていませんか、考えが甘すぎです」
「考えが甘かったことは認めますが、」
「甘かったことを認めれば失敗を許されるとでも?一度の失敗で失ってしまう命なのですよ。子を甘く見過ぎです。信用なりません。命がいくつあっても足りません」
……これ、母とタジマが話してる?うへー母激おこ……。タジマが何か言おうとするたびに上から被せるの嫌すぎる。
「あなたがイズナを抱えて来た時、わたくしがどんな気持ちになったかわかりますか?わかるはずがない。三日。たった三日ですよ。ほとほと呆れて……」
「モミジ」
「はい?」
「イズナが起きたようです」
ファ!?なんでバレてんの!?
襖が開く。蝋燭の光を背に母が立っていた。顔は見えない。いや、目だけは、赤く煌々と。ひ〜こわ〜!
ついでにタジマが部屋の先で座っていた。
「あぁ良かった。イズナ。気がついたのですね」
母が俺を抱きしめた。実家のような安心感。赤ちゃん返りしてしまう……!
「イズナ。ずっとここで暮らしましょう。大丈夫です。ここには恐ろしいものは何もありませんからね」
うーん。母の腕の中は最高だ。ちょっと揺れる。口から平然と火を吐く世界で生きていける気がしないもんな。
「また母乳だけの生活に戻りたいのであれば止めませんよ。イズナ」
タジマはとんでもないことを言い出した。絶対嫌だが!?
「それはちょっと……」
「好きな物を何でも用意しましょう。以前おっしゃっていた、はんばーがーもけーきでも、何でもです」
「本当ですか!?」
「ええ」
マ!?おいおいこんなん決まりだろ。
というかマジなら最初から提供してくれよ!
「まさか、イズナと心中するつもりですか?」
ええ!?
「そんなわけないでしょう。ずっと、ここで暮らすだけです。心中など。そんなはずないではありませんか」
「永遠にこの部屋に閉じ込めることが、お前と運命を共にすることが心中でなくて何というのです」
「……」
「お前の時間は限られています。今は腹の子を無事産むことだけを優先しなさい」
「……」
母は返事をしない。俺を抱きしめる力が強くなって、震えるだけだった。
「行きますよ。イズナ」
「えっ」
タジマは立って、そのまま部屋の襖を開けて出ていってしまった。オレンジ色の光が差し込んで眩しい。
「……」
「母上……」
母が泣いていた。瞳が、歪んで見えた。
「ごめんなさい」
「え?」
「こんな母でごめんなさい」
「……」
「イズナ、離れていても、わたくしはあなたを愛しています」
外は夕方だった。夜じゃなかったね。ほんとあの部屋は時間感覚狂うわ。寝起きなのに疲れた〜。
ま、夕方ということはこれから夕飯ということだ。俺は気を持ち直した。タジマの後を背を追いながら今日の夕飯に思いを馳せる。
今日の味噌汁の具は何かな。朝は玉ねぎと豆腐が入ってて良かった。それと、山菜系がなかなかバカにできない美味しさでさあ、昨日のふきのとうがほんとに美味かった。今まで食べたことがなかったけど、人生損してたな。今日も出るかな。
あーお腹空いてきた〜。
「イズナ」
「……んぇ!は、はい父上!何でしょう」
「話、聞いてましたか?」
聞いてないです。
「えっと、今日の献立の話ですね?」
「……全く違います」
他に優先すべき話題があっただろうか?いやない。
タジマはため息をついた。
「体の調子はどうですか」
「お腹がすこぶる空いています」
「そうではなく……いえ、大丈夫そうですね」
「はあ」
「……」
そこから沈黙が続いて、またタジマが話しかけてきた。
「お前の母についてですが……」
うーん。
「お腹が空きすぎて……」
「はい?」
「お腹が空いていると、頭が働かなくなりませんか?」
その話後にしてもらってもいい?
「……そうですか」
そうです。
タジマはまたため息をついた。幸せが逃げちまうぞ。
「いずれ話します」
りょ〜。
タジマのいずれがいつになるかわからないのでここに記載します。
すごい独自設定。
「天岩戸」
視力の保つかぎり永続の瞳術。
幻術の空間を作り、その中では術者の思うままに情報を書き換えられる。限定空間での無限イザナギが可能。
あらゆるものを用意できるが作り出したものは空間外に持ち出せない。
あの空間で現実だったものは人物を除いて、母の食していた和食と衣服のみ。
粥も美味しい饅頭も全て幻術。栄養価0の最強ヘルシー食品。
主人公の幻術以外の食事は母の乳のみだった。
三人目の子供が流れた時、死の間際に開眼した。