一般事務員オペレーター   作:オニギリムシ

4 / 11
第4話

「……んぅ……いまなんじ……」

 

枕元に置いてあるアナログ時計を手に取り、針を見る。

それはもう少しで私が働くことになる時間の、一時間前を指していた。

私はベッドからモソモソと出て、仕事の準備を始める。

服に名札に携帯に……着替えて、必要な物をポケットに入れて、準備よし。

時計を見てみれば、まだ時間は充分あった。

私はそれならと、食堂に寄ることにした。

 

 

食堂でシェフの少女からサンドイッチを受け取り(その時少しだけじっと見られた)、食堂の端の方の机で食べ始める。

ドクターがロドスに戻ってきてから、ここの食事がより良くなった気がする。もともとロドスの食事は悪くは無かった方だけど、美味しいのならそれに越したことはない。

そんなことを考えながらハムとレタスが挟まったサンドイッチを頬張っていると、隣と前に誰かが座った。

 

「やあ、最近ぶり」

「おいっす~」

 

誰かと思えば、ただの事務の同僚だった。

口の中にあるサンドイッチをお茶で流し、二人に挨拶を返す。

 

「おはよう二人とも」

「ねえねえ、あれってホント?」

 

挨拶を躱して、前に座った同僚が何かを聞こうとしてきた。

私は分からないので、聞き返す。

 

「あれ?」

「あれだよ、ドクターの秘書になった、ってやつ!」

「あー、本当よ」

 

同僚の質問に素直に答える。特に隠すことでもないし。

それを聞いた同僚二人は小さい悲鳴を上げる。

 

「マジ!?ドクターって今まで秘書取ったことないらしいけど、その初めてがアンタなんだ!」

「ねね、どうやって秘書になったの!?」

 

隣に座った同僚がずいっと近づいてそんなことを聞いてくるけど、彼の秘密を言うわけにもいかない。

さっきとは真逆に、適当なことを言う。

 

「私の見た目がタイプだったのかもね」

「えー?アンタが志願したわけじゃないの?」

「さあ、どうでしょうね」

「どっちよ」

 

はぐらかしながらサンドイッチを食べ進める。結構ボリューミーだけど、パクパク食べられる。

すると、隣の同僚が突然声を潜めて話しかけてきた。

 

「で、どうなの?」

「どう?」

「付き合えそう、ってこと!」

 

私は一瞬、息をするのを忘れた。

そして息を吸って、吐いたと同時に呆れる。

 

「私はそういう関係を求めてないわ」

「またまた~」

「どう考えても付き合うためでしょ。だってドクター、偉い人だし。これも良さそうでしょ」

 

目の前の同僚はそう言いながら、親指と人差し指をくっつけて輪にする。

 

「それに顔も悪くない方だし?結構優良物件じゃない?あの人」

「え、私ドクターの顔見たことないんだけど」

「たまに顔出してるよあの人。ちょっと細くて、白い髪で……少し病人っぽい。中の上ぐらいには良い顔だよ」

 

そこからロドスの美形の話を始めた二人を放って、私はトレイを返して仕事場に向かった。

二人は軽く手を振って、私を見送った。

 

 

 

 

 

軽くノックをしてから、執務室に入る。

扉の奥には、既に仕事を始めているドクター()がいた。

 

「おはようございます」

「……ああ、おはよう。今日もよろしく頼む」

 

そう挨拶を返す彼の声は、少し眠そうだった。珍しくバイザーを外している顔からもそれが読み取れる。

それもそのはず、昨日も夜遅くまで仕事をして、今日も朝早くから仕事。ちゃんとした睡眠時間も取れていないのだろう。

 

「……これ、持ってきました」

 

私はそんな彼に、サンドイッチを渡す。

きっとまだ食べていないだろうと予測して、彼の分の貰っていた。

 

「ありがとう、いただくよ」

 

彼はそう言って、サンドイッチを手に取って食べ始める。

私は彼の部屋に入り、そこにあるキッチンでコーヒーを作る。

お湯を沸かし、インスタントの粉を二つのマグカップに入れて、お湯を注ぎ、持っていく。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

一つを彼の机に置いて、もう一つは私が飲む。

上司の部屋に勝手に入り、勝手にキッチンを使うのは失礼な様にも見えるけど、彼から入っていいと言われたので、問題ない。

苦みを含んだ黒が喉を通り、僅かな眠気を消し飛ばす。

私は自身が使う机にコーヒーを置き、椅子に座って仕事を始めた。

書類を確認したり、書類を作ったり、まとめたり……たまに他の人の所へ持って行ったり、と事務仕事をする。

ちらと隣を見てみると、彼も仕事に取り掛かっている。

 

「なぁ」

「どうしました?」

「これなんだが――」

 

こうやって会話をすることもある。

大概は仕事関係だけど、たまに雑談することもある。

 

 

「はぁ……」

「今度はなんでしょう?」

「いや、ちょっとな……これを見てくれないか?」

 

頭を抱えながら渡してくる紙を受け取り、声に出して読んでみる。

 

「我らの光の秘書化計画……?」

「一部のオペレーターから崇拝されている、スズランって子がいてな……どうやら秘書にしてほしい、ということらしい。優秀だからだとか、本人も望んでいるだとか……」

「はあ……貴方の気持ちは?」

「いい子なのは分かるが彼女の思ういい大人を演じ続けられる自信が無い……」

「貴方も優しいわね……私が適当に返しておきましょうか?」

「……頼む」

 

 

こんな風に悩みを聞いてあげたりすることもある。

そうして、私達の仕事は進んでいく。

 

 

 

 

 

私が思う()()()()は、ただただ、普通の人。

悩んで、苦しんで、もがいて……それでも前に進もうとする、普通の人。

決して強い人とは言いたくない。だって、彼は……それを演じるのが辛いだろうから。

こうして話すことになるまでは、彼の人となりは人づてから聞くことしかなかった。

 

曰く、正確無比な戦闘指揮。

 

曰く、絶対に仲間を死なせない。

 

曰く、優しい人。

 

そんな人らしいというのは真実はともかく、知っていたけれど……

優しい、それだけはハッキリと分かった。

そんな彼を頼りきって、苦しめてるのは……思わないこともないけど、理解できる。

まあ本人が仲間達に素を見せないのも問題かもしれないけど。優しすぎなのも考えものね。

見せてもいい、と彼が行動するまでは私も何もする気はない。

でも、いつかは一人でも増えてほしいと思う。

 

……あと、誰と付き合うか、気になるし。

 

 

 

 

 

私は昼食を取るために、今日二回目の食堂に来た。

彼は昼から会議があるため、また後で持って行けばいいらしい。

つまり今日はここでお昼を食べるということ。

食堂には朝とは比べものにならない程人がいた。

ちらちらと私を見る視線が感じる。何故か、はなんとなく理解している。

私は特に気にせず、食べ物を取りに行く。

 

「すいません、日替わりA一つ」

「分かりました。ドクターの分は……」

「今日は少し遅れるらしいので、私が食べ終わる頃に用意していただいてもよろしいでしょうか?」

「大丈夫です。今日もお願いします」

 

面倒な注文も嫌な顔せず受け取ってくれるのは、きっと彼の人望もある。

大柄の角の生えた男性から頼んだものを受け取り、朝と同じ位置に陣取る。

バランス良く整えられた定食を見て感心しながら、食べ始める。

 

「ここいい?」

 

丁度汁物を口に含んだ時に、目の前からそう声が聞こえた。

聞きなれない声だったけれど、首を縦に振って了承を伝える。

ありがと、と言って目の前の声は座った。

顔を見てみると、何度か見たことのある綺麗な顔。そしてそれに合う綺麗な銀の髪。

 

プラチナ。確かそんな名前だった。

 

何でここにと思ったけど、人が多いからかと一人で納得しておかずを食べる。ご飯と合う揚げ物で、どんどんお箸が進む。

 

「……」

 

付け合わせの漬物も美味しい。サラダには手作りドレッシングがかかっていて、これもまた美味しい。彼もきっと喜ぶ味。

目の前の女性は私と同じ日替わりAのようだけど、何故か私を見るだけで食べない。

特に注意することでもないから無視して食べ進める。

 

「はむっ、むぐむぐ……」

「……」

「ずずっ、んぐ……」

「……」

「ゴクッゴクッ……ふぅ「ねえ」……なんでしょう?」

 

食べ終わり、トレイを返しに立とうとすると、ついに声を掛けられた。

 

「これだけ見られて何ともない顔することなんてある?まあ、いいんだけど……」

「何か聞きたいことでも?」

「いや、大したことじゃないんだけど……」

 

そう言いながらも、プラチナさんは目が鋭くなった。

 

「どうやって、ドクターの秘書になったの?」

「どう、ですか?」

 

私はその言葉を聞き返す。

心の中で、少し笑いながら。

 

「私の知る限り、あなた達は関わりが無かったはずだけど……変だな、なんて思ってね」

「そうですか。確かに、関わりは薄かったですが……たまたま、仲良くなる機会がありまして。そこから秘書に……」

「へー……」

 

訝しげに私を見るプラチナさんは、そのまま質問を続ける。

 

「私がどれだけ頼んでもさせてくれない秘書になれるくらい、仲良くなる機会ってどんなことなの」

 

素直に答えるわけにもいかず、とはいえはぐらかすのも――

 

「もしかしたら、万に一つかもしれないけど、ドクターを狙う暗殺者かもしれないしね」

 

――こんな風にだし。

どうしたものか……そんなことを考えていると、気付く。

私に向けられた視線が増えた。本当、面白い。

なら、あえて火を付けよう。私は悪戯心に火が付いた。

 

「もしくは……」

 

私は身を乗り出し、プラチナさんの耳元に近づき、呟く。

 

「恋仲、かも?でしょ」

 

元の位置に戻って、トレイを持って立つ。

顔を見てみれば、目を見開いて、少し睨むように私を見ている。

少し微笑みながら彼女に言葉を続ける。

 

()()、違いますが、いつかはそうなるかもしれませんね」

「……そう」

「では、ヒントだけ。少し()のことを考えてみては?私はこれで」

 

そう言って、私はトレイを返しに歩いていった。

意図せず彼のことを言ってしまったけれど、まあ大丈夫でしょう。

これ以上はしない。彼を傷つけたいわけじゃないから……

 

それはともかく……ふふっ、恋に悩む子を見る時が一番楽しいわ。




今回の要約

プラチナ「ドクターに急接近するのおかしくない?(ペガサスアイ)」
事務員「(おもろ……せや!火つけて膠着状態壊したろ!)まだちゃうで。ま、だ(^^)」
プラチナ+その他「!?!?!?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。