まごころを、ぼくに   作:赤坂緑語

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お待たせしました。
今回はいつもより長めです。
予告通り、アスカ&ミサト回になります。


アスカ、人の造りしもの

 

ジュー、と食欲をそそる音がする。

家庭用の焼肉プレートの上に置かれているのは色とりどりの野菜と――肉。

香ばしい匂いが部屋中に充満している。

換気扇はつけているが、後で窓を全開にした方が良いだろうなとシンジ少年はぼんやり思う。

 

彼の向かい側で真剣な表情を浮かべているミサトは不意に口を開いた。

 

「そういえば、明日ね」

「明日? ……あぁ、進路相談のこと?」

「そう。何着て行こうかなと思って」

「普通に去年と同じスーツで良いんじゃない? あっ、これもういいと思うよ」

「シンちゃんが先に食べなさいな」

「ほんと? じゃあ、お先」

「じゃあ、私はこれね」

「……」

 

シンジ少年は焼きたての牛肉をタレにつけ、白米の上に乗せてから――思いっきり頬張った。

 

「うん! 美味しい!」

「ホント、美味しいわね。日本のワギュウってやつ? 脂が乗ってていい感じね」

「……」

「ところでさ、その進路相談って、ナニ?」

「現時点の成績を見て先生にお説教される会だよ。もう少し学期が進めば真剣にどこの高校に行きたいとかも相談するらしいんだけどね。今回は緩いと思う」

「へぇー、日本の学校ってそんな感じなのね」

「……」

 

ミサトが目を付けていた肉をかっさらい、美味しそうに食べながらさらっと会話に混じって来た少女。

クタクタの状態で仕事から帰ってきたら当たり前のようにテーブルに付いていたのでツッコむ気にもなれなかったが、今更ながらミサトは思った。

 

えっ、なんでいんの? と。

 

「なによ、ミサト。私の顔をじっと見て」

「……これも焼けたわよ。食べる?」

「食べる! ……いや、ミサトにあげるわ」

「遠慮しなくていいのよ」

「……じゃ、じゃあ、食べる!」

 

嬉々とした表情で焼肉を頬張る彼女の名は惣流・アスカ・ラングレー。

この間のシンちゃん退院祝い以降、葛城家へ何かと理由をつけて出現するようになったエヴァンゲリオン弐号機の天才パイロットである。

 

「えぇと、アスカ? 加持君はどうしたの?」

「今日も忙しいんだってさー。仕方ないから、()()()()()()()()()()()()ですって。私も本当は加持さんと一緒にいたいけど? 仕事できる男の人の邪魔をするのも忍びないからね。こうしてここで安いお肉食べてるってことよ」

 

そう言いながらパクパクとお肉を食べまくるアスカ。

ちなみに彼女が遠慮なく食べているそれは、シンちゃんの退院祝いにとミサトが奮発した高級焼肉である。

 

「いや、これ結構高いお肉らしいよ」

「ホント⁉ じゃあ、なおさら私が食べないとね」

「……まぁ、ほどほどにね」

 

やんわりと注意しながら、ミサトは脳内で加持リョウジをボッコボコにしていた。

 

ちなみに、加持は忙しいとは言ったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

言っていないが――アスカの見事な誘導話術に引っ掛かり「何かあったら葛城に相談しろ」という言質だけを取られていた。

 

アスカはその言葉を上手く使い、

「お腹すいた」→「このままだと餓死する」→「葛城家でご飯食べよう」という素晴らしい三段活用をかましていた。

 

まぁ――色々と言ったが、結局のところ素直になりきれないアスカが忙しい加持を言い訳に、気になってしょうがない葛城家へお邪魔しているというのが実態であった。

 

「そういえば、アスカは学校に行かないの?」

「なんで今更行く必要があるのよ。私、もう大学出てるんだから」

「えっ⁉」

 

そういえば、とシンジ少年は思い出す。

赤木リツコから弐号機パイロットは天才だと教わっていたのだった。

だが、それにしたって同い年で既に大学を卒業するほどの頭脳を持っているとは思わなんだ。

 

「て、天才じゃん……」

 

畏怖するような目でアスカを見るシンジ少年。

 

「そ、そうよ! もっと褒め称えなさいよ!」

 

素直なシンジ少年からの称賛に頬を赤く染めて気を良くするアスカ。

だが――

 

「盛り上がっているところ悪いけど、アスカも通ってもらうわよ。学校に」

「は、はぁ⁉」

 

今度はアスカが驚く番であった。

そして驚きからすぐに怒りの視線へと切り替わり、呑気にお肉を食べているミサトを睨みつける。

 

「なんでこの私が日本の学校に通わなくちゃ行けないのよ!」

「理由は色々とあるけれど……まずはここが日本という国で、あなたは未成年だからよ」

 

あとは集団生活の中で協調性を養い、その攻撃的な性格を矯正するため――

裏の目的は流石に口には出さなかった。

 

「くっだらない。ただ法律に従ってるだけじゃない。NERVが聞いて呆れるわね」

「NERVだって好きで法律を破っているわけじゃないわ。普段はきちんと従う必要があるのよ。特に、逆らう意味がないものについてはね」

「私の意思はガン無視ってわけ?」

「あなたにとっても悪いことばかりじゃないんじゃない? 貴重な青春を体験できるのよ」

「青春? エヴァのパイロットに何言ってんのよ」

「あら、隣のシンちゃんは青春を謳歌しているみたいよ? ねぇー、シンちゃん」

「うん。学校楽しいよ。ちなみに、通うとしたらアスカも同じ学校になるの?」

「そうね……護衛対象のチルドレンがバラけるのもあれだし、同じ学校になるでしょうね」

「そっか。アスカも学校行こうよ! ホント、楽しいからさ」

 

眩しいばかりの笑顔でシンジ少年が提案する。

 

「うっ……」

 

アスカは純粋さを体現したようなこの笑顔に弱かった。

 

「……し、しょうがないわね! そこまで言うなら通ってやってもいいわ」

「うん。それから、もしよければ勉強教えて欲しいな」

「しょうがないわね!」

 

喜んで。

ミサトにはそう聞こえた。

 

別にシンジ少年の成績は悪くない――どころか、非常に優秀なのだが、敢えて言うのであれば英語を苦手としていた。

だから、マルチリンガルであるアスカから直々に教えてもらおうという魂胆である。

実に強かだ。

 

(英語話せたらカッコいいし、便利だよね。やっぱり僕って国際的な活躍をするべきだと思うし)

 

大いなる野望を内に秘め、シンジ少年は優秀な英語の先生ができたことを喜んでいた。

 

「――で、私はいつから学校に行けばいいのよ」

 

気が早いというべきか。

すっかり乗り気になったアスカは焼きたてのジャガイモにタレをつけて食べながら尋ねる。

 

「そうね……少なくとも、来週以降になると思うわ」

 

ミサトはビールを飲みながら答える。

水面下でアスカの編入調整は進んでいた。だが、何事にもタイミングというものがある。

特にネックになっていたのは彼女の保護者問題だった。

 

彼女の護衛を務める加持リョウジは――どうにも信用できない。

特に、日本へ着いたばかりのアスカを放っておいてドイツへ一時帰還していたという話がミサトの中で小さくない疑念を生んでいた。

それに、ここ最近はアスカが言ったように「忙しい」といってまともに彼女の相手もしていないらしい。(デキる男は忙しい素振りを見せないという台詞はなんだったのか……)

色々な意味で保護者として適切な人物であるとは思えなかった。

 

だったらミサトが保護者になればいいという話かもしれないが……彼女は彼女で思うところがあり、いまいち踏ん切りがついていない。

 

というわけで、アスカには非常に酷な話だが、現状では彼女の保護者問題は有耶無耶になっており――保護者が関わる必要がある進路相談を終えてからの編入が検討されているのであった。

 

(アスカ……アスカか。どうしたものかしら)

 

考え込むミサトはビール瓶を傾け、その中身が殆ど残っていないことにようやく気が付いた。

 

「あっ、ミサト、ビールのお代わりいる?」

「そうね。貰おうかしら。……勝手に飲むんじゃないわよ?」

「もう懲りたよ」

 

この間の大騒ぎ以来、流石にシンジ少年はビール飲みたいアピールを控えていた。

いつものプロレスが減ってミサトもシンジ少年も寂しい気持ちはあるが、これはこれでいいのだろう。

 

冷蔵庫からビール瓶と自分用のオレンジジュースを取り出したシンジ少年が食卓に戻って来た瞬間のことである。

 

()()()()()!」

「うわ⁉ ど、どうしたのアスカ……?」

 

何故かシンジ少年が手に持っているビール瓶を奪い取ろうとアスカが襲い掛かって来た。

優れた反射神経を持つシンジ少年が本能的に彼女の突進をひらりと躱す。

攻撃を躱されたアスカは忌々しそうな表情でシンジ少年を睨んだ。

 

「いいから貸しなさいよ!」

「未成年の飲酒は禁止なんだよ⁉ 僕が言うのもなんだけど!」

「私が飲むわけじゃないわよ!」

「えっ」

 

じゃあ、なんで。

動揺するシンジ少年からビール瓶を奪い取ったアスカは席に戻り、正面に座るミサトに笑いかけた。

 

「ミサト! 飲むでしょっ」

「えっ、そ、そうね……じゃあ、頂こうかしら」

 

そしてシンジ少年から奪い取ったビール瓶を傾けてミサトに酌をするアスカ。

ミサトは困惑していた。

分からないのだ。どうしてアスカがそんな行動に出たのかが。

 

思えば、この間の退院祝いを終えてからのアスカは少し変だった。

 

積極的にお皿を運ぼうとしたり、やけに明るく元気に振舞ったり、出来もしないのに料理をしようとしたり、そして今のように酌をしようとしたり。

 

(変ね……)

 

ミサトは困惑しながら思う。

 

(まるで、シンちゃんの真似をしているみたい……)

 

彼女の考察は当たっている。

 

惣流・アスカ・ラングレーは、()()()()()()()()()()()()

 

彼女がそうなるに至った原因はもちろん、前回の飲み会で互いを思いやるミサトとシンジの姿を目にしたからである。

アスカにとってその光景は衝撃だった。

血の繋がりがない2人が――エヴァで繋がった2人が本物の親子のように愛し合っている。

 

彼女は思った。自分もあの輪の中に入りたいと。

 

だが、根本的に自分を曝け出すのが苦手で、恥ずかしがり屋の彼女はどうすればいいのか分からず……結果、シンジ少年に目を付けた。

 

分からないのなら、学べばいい。

根が勤勉な彼女はシンジ少年を見て学習していく。

その仕草、その笑顔、その立ち振る舞い、その言動。

 

そして彼女は結論付けた。この国の人間には()()()()()()()()()が重要であるということを。

自分が文化の違う国から来たということを自覚しているアスカはシンジ少年の真似をし始めた。

 

流石に全部を真似するのは憚られたが。

だってそれじゃあ――彼女の嫌いな人形と一緒だから。

 

そうして、アスカは自分の個性を維持したまま何とかシンジ少年の真似をしようと苦心していた。

結果としてちぐはぐな感じになったとしても、必死な彼女は気が付けない。

 

そうしたら誰からも愛されて、頭を撫でてもらえると思っていたから。

 

それは、あまりにも痛々しい――幼い少女なりの精一杯のアピールだった。

 

しかし、葛城ミサトは気づけない。

シンジ少年のこととなれば恐ろしいほど冴えわたる彼女だが、本質的に他者に対して無関心なところは治っていないのだ。

アスカの変化についていけず、ただ首を傾げることしか出来ない。

 

(アスカ……)

 

シンジ少年はそんな彼女の心境を、全てではないが何となく察していた。

だって、今のアスカには見覚えがあったから。

 

“辛いことを知っている人間の方が、それだけ人に優しくできる”

 

孤独だった日々を抜け出すため、クラスメートたちを観察した。

そして、最初の内は彼らのことを真似した。

 

今となっては唯一無二の自分を手に入れたシンジ少年だが、あの日々のことは鮮明に覚えている。

 

アスカに注がれるがまま、ビールを飲まされているミサトを見る。

 

肝心の彼女はアスカに何が起きているのか、いまいちよく分かっていないらしい。

彼からそれとなく伝えることはできる。

だが、ミサトは不器用な人だ。

きっと、聡いアスカを前に下手な同情心を晒せば嫌われてしまうに違いない。

 

そして、シンジ少年が気づいた素振りを見せたとしても、プライドが高いアスカはますます拗らせてしまうだけだろう。

 

よって――非常に歯がゆい話ではあるが、今の段階でシンジ少年にできることは何もなかった。

 

下手をすれば今の良好な関係が全て壊れかねない、危険なアスカの変化。

 

だが、彼はそこまで心配していなかった。

 

だって――

 

(まぁ、ミサトなら何とかしてくれるでしょ)

 

シンジ少年は、心の底から葛城ミサトという人間を信頼していたから。

 

 

 

 

 

 

「あ~~~~~、頭痛い」

「どうしたの? 二日酔い?」

「まーね……」

 

初号機の修復状況について確認すべく、赤木博士の部屋を訪れていたミサトだが、頭を抱えながら苦しそうに頭痛薬を飲んでいる。

 

「最近はお酒控えているんじゃなかったの?」

「昨日、アスカにしこたま飲まされたのよ……急にどうしちゃったのかしら、あの子」

「あら、弐号機パイロットも貴女のところで引き取ることにしたの?」

「いいえ。ただ、最近やたらと家へ来るのよ、あの子」

「シンジ君目的だったりしてね。彼、モテるから」

「……あり得る話ね」

 

ミサトの視線が鋭くなる。

アスカとシンジ少年の関係は非常に良好だった。

ミサトの見立てでは、あのまま接触回数を増やしていればアスカの方からコロッと落ちてしまうだろう。

 

だが――

 

「でも、アスカって私にもすごいちょっかい掛けてくるのよね……何なのかしら、あれ」

「貴女がシンジ君を独占しているからじゃないの?」

「それも考えたんだけど……なんか、ちょっち違う気がするのよね……」

 

アスカのことが分からないと半ば匙を投げ掛けているミサトだが、それでも本能的なところで彼女が自分のことを嫌っておらず、寧ろ構って欲しがっていることは察していた。

 

「保護者も色々と大変ね。……ところで、明後日出張って言ったら2児のお母さんは怒るかしら?」

「出張は怒らないけど、その後の誤解にはキレそうだわ」

 

ギロリと親友を睨みつける。

「まぁ、怖い」とわざとらしく怖がるリツコ。

 

(私はシンちゃんのお母さんじゃなくて、姉だっつーの)

 

もしくは、それ以上の何かか。

 

「――で、出張ってことは、例のあれ?」

「そう。あれよ。貴女が急に欲しいって言いだしたあのポンコツ」

「ジェットアローンね」

 

仕事の話と察したミサトが意識を切り替える。

 

ジェットアローン。

日本重化学工業共同体、通産省、防衛庁がNERVのエヴァンゲリオンに対抗して共同開発した人型ロボットである。

 

エヴァの支援火器を探してあちこち奔走していたミサトは、赤木リツコが散々こき下ろしたこのロボットに可能性を見出していた。

 

「もう一度聞くけど、本気なのミサト?」

「えぇ、もちろんよ。これがあればエヴァの可能性がもっと広がるわ。資料は提出したでしょ?」

「目は通したけれど……」

「だったら分かるでしょ? 歩くエヴァの外部バッテリー。今は格闘性能しかないらしいけど、改造すれば銃器持たせてサポート役に回ることもできるかもしれない。それにほら、この間のポジトロンライフル! あれ持たせたら強いんじゃない? 電力もジェットアローン自身で何割か賄うことができるし」

「そう上手いこといくかしらね……あんなポンコツに期待するより、エヴァの新武装開発に予算を回した方が効率的だと思うけれど」

「……もう、エヴァにばっかり頼ってられないのよ」

 

(シンジ君に、でしょ)

 

心の中でリツコが言う。

口に出すことはなかった。分かりきっていることを尋ねるほど彼女は非合理的な人間ではない。

 

「だけど、構造的には欠陥だらけよ、あれ」

「何事も最初のうちは上手くいかないものでしょ? 巨大な電力源を確保できるって言うだけでも安いものだと思うけど」

「……問題は日本重工がこれを私たちへ売る気になるかどうか、ね」

「まぁ、そこら辺は私に任せておきなさいよ。いざとなったらNERV特権で根こそぎ奪ってやるわ」

「野蛮ね」

「人類ですもの」

 

最悪の皮肉だった。

 

 

 

 

 

2日後。

 

「本日はご多忙のところ、ジェットアローン完成披露記念会へお越しいただきまして、誠にありがとうございます」

 

今日中には帰るから夕飯の餃子は残しておくように! とシンジ少年に伝え、意気揚々と訪れたジェットアローン完成披露会。

 

NERV及び、エヴァンゲリオンを貶めようと彼女たちを招待した日本重工の時田だったが、まさかNERVの作戦課部長からしつこくスペックについて追及された挙句、「ジェットアローン買わせろ。出来るだけ安く」と価格交渉されるとは予想できるはずもなかった。

 

自分たちの発明品が評価されているのは嬉しかったが、ジェットアローンをエヴァの支援ユニットとしてしか見ていないミサトと価値観が相容れることはなく。

 

結局、議論は平行線を辿ったまま起動実験を迎えることとなった。

 

「―――で、まさかの暴走、と」

「ミサト、大丈夫?」

「えぇ、何とかね。リツコも元気そうで何より」

 

突如として暴走を始めたジェットアローン。

観覧者が集まるドームをあっさりと踏み抜き、停止信号も受け付けないまま歩き続けている。

 

「そ、そんな……信じられん! JAにはあらゆるミスを想定し、全てに対処すべくプログラムが組まれているというのに! このような事態はあり得ないはずだ!」

「……」

 

怒りと困惑で震える時田を見たミサトは少し考え込み、

 

「あの暴走を止めたら幾らで売ってくれますか?」

 

至極真面目な表情で言った。

 

「まだ言ってるのか⁉」

 

しつこいというか、空気を読めていないというか。

目的を達成するためなら過程諸々無視してとことん突き進むタイプのミサトは、研究畑で育ってきた時田にとって未知の人種だった。

 

「しかし、このままでは貴方たちの立場もないのでは? 我々NERVであればあのジェットアローンの暴走を食い止め、有効活用することができます」

「……この暴走する状態を見てもそう言えるのですか」

「えぇ。次から暴走しないようにうちのOSに書き換えればいい話です」

 

暗にお前らの発明で価値があるのは電力部分だけだと言わんばかりの台詞。

気を悪くした時田が眉をひそめる中、何ら気にした様子がないミサトは続ける。

 

「それに、私たちは同じ志を持つ同志のはずです。違いますか?」

「……私たちと、あなたたちNERVが? 何をバカなことを――」

「使徒を倒す。人類を守る。それが志ではなかったのですか? それとも、単に利権に溢れた腹癒せをしたいだけだと?」

「ッ‼」

 

カッと頭に血が上り、時田の顔が真っ赤になる。

否定できない要素ではあったからだ。

だが、こう真正面から追及されれば思うところがある。

そこにある感情は怒りが大部分だったが――大人げない自分への“恥”も含まれていた。

 

彼の葛藤を見て取ったミサトが優しい声音で語り掛ける。

まるで、飴と鞭を使い分けるように。

 

「あなたの目的を思い出してください時田さん。私たちは共に戦う同志なのです。使徒を倒すため、人類を守る為、私たちはここにいます。……14歳の子供たちを戦いの生贄にして」

「……」

「我々のやり方が気に入らないことも分かっているつもりです。しかし、例えいけ好かないところがあっても割り切って共に戦う――それが、大人なのではないですか?」

「……」

「停止パスワードを教えてください。一先ずは、大人としてここにいる人々を守ることから始めましょう」

 

希望。

 

それが、ジェットアローンに託された彼の想いだった。

 

 

 

 

「――で、どうするつもりよ。ミサト」

 

シナリオの行く末を知っている赤木リツコがロッカーに寄りかかり、腕を組みながら親友に尋ねる。

ミサトは防護服に着替えながら、軽い調子で答えた。

 

「エヴァンゲリオン弐号機を出撃させるわ」

 

 

 

 

 

「――で、使徒が暴れているわけでもないのに私が呼び出されたってわけね」

 

突如呼び出されたアスカは弐号機と共に出撃と聞き、当初は闘志を燃やしていたものの、相手が人の造りしものと聞き、大いに落胆。

急激にテンションを下降させていた。

 

「危機的状況であることに変わりはないわ。今は弐号機と貴女が必要なの。力を貸してちょうだい、アスカ」

 

弐号機を空輸する航空機内で合流した防護服姿のミサトはアスカの手を握り、彼女の眼を真っすぐに見つめて説得する。

 

その自分に向けられた信頼と、自分が必要とされている実感が嬉しくて、アスカはそっぽを向きながらボソッと言う。

 

「別に、やらないとは言ってないわよ……」

「ありがとう。それでこそアスカよ」

 

初号機が使えない為、消去法で彼女になったのだが、もちろんそんなことは口が裂けても言わない。

それから――アスカが知れば嘆き悲しみ、怒り狂いかねない話だが、ミサトはシンジ少年を出撃させなくていいこの状況を歓迎していた。

 

(つくづく、罪深いわね。私も……)

 

アスカなら死んでもいいというわけではない。

そういうわけではないが……シンジ少年よりも生存優先度が低いことは否定できなかった。

 

「さて、改めて作戦を伝達するわ。相手はジェットアローン。見ての通り、暴走して地上を散歩中よ」

 

とても明かせない内心を覆い隠し、指揮官としての顔でミサトがタブレット片手に説明を開始する。

 

「貴女の仕事はジェットアローン相手に格闘戦を仕掛け、目標の歩行行動を阻止。出来るだけ衝撃を与えないように注意しながら地面に押さえつけて。起き上がるかもしれないから腕と脚は切り落として構わないわ」

「四肢を潰してダルマにしろってことね」

「そうよ」

 

物騒極まりない会話をするミサトとアスカ。

野蛮ね。

リツコがいればそんなツッコミを入れそうだ。

 

「その後、出入り口を上向きにしてくれたら私が内部に侵入して停止パスワードを打ち込むわ」

「……それって、ミサトである必要あるの?」

 

チラチラとミサトの顔を見ながらアスカが言う。

不器用な彼女なりの心配だった。

内部は汚染物質で充満されているという。

 

「これを無事に解決したらアレは私の物になるから。自分の手で止めたいのよ」

「……エヴァだけじゃ戦力が不足してるって言いたいの?」

「電力目的よ。……それにね、リツコには言ってないけどもう一つ目的があるわ」

「なによ」

「貴女の実力確認」

「ッ‼」

 

アスカは息を呑んだ。

真剣なミサトの瞳。

相手を推し量るための冷たい視線。

 

「相手は使徒じゃないけれど、前哨戦としては十分よ。惣流・アスカ・ラングレー、貴女の力を見せて頂戴」

 

アスカの目つきが変わる。

試されている。

ヤシマ作戦で失敗した自分を、指揮官が試している。

本当に使える奴なのか、測ろうとしている。

 

アスカは低い声で答えた。

 

「了解」

「期待してるわよ。アスカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――って言ってたけどさ、本当にこれで私の実力測れたの?」

「もちろん! ……って言いたいところだけど、微妙ね。如何せん――」

 

()()()()()()()

 

 

遡ること一時間前。

 

空輸されていた弐号機はジェットアローンを先回りし、到達予定ポイントに投下された。

見事なランディングの後、ジェットアローンの前に立ち塞がった弐号機は、目標の左脚に対してまずは強烈なローキックをお見舞いした。

ぐらりとバランスを崩した瞬間を逃さず、掴みかかった弐号機はそのままジェットアローンに対して大外刈りを仕掛け、殆ど衝撃を与えずに転がすという超絶技巧を披露しながら見事に転倒させることに成功。

 

『大人しく、してなさいよッ――!』

 

その後は、ただの作業だった。

プログナイフを取り出した弐号機は、実に鮮やかな手口でジェットアローンの四肢を切断。

あっさりと目標を無力化し、安全にミサトを内部に送り届けて――任務は終了した。

 

ジェットアローン内部にて色々と思うところがあったミサトだが、アスカを前に悟らせることはせず、ただ彼女のことを褒め称えた。

 

――当の本人は相手が雑魚過ぎたせいで褒められてもあまり達成感が湧かないようだが。

 

ちなみに、アスカが不機嫌になっている理由はほかにもある。

 

弐号機に使用された空輸バッテリーが優秀だったこと、そしてアスカの手際があまりにも鮮やかだったこともあり、弐号機は活動時間が余っていたのだ。

 

そして、どうせだからとアスカと弐号機は後始末に奔走させられた。

 

自分で切断したジェットアローンの腕と脚を拾い、さらには完全に活動停止した本体を移動させ、折角だからと(日本重工に媚び売るために)ジェットアローンが踏み抜いたドームの修復もちょっと手伝い……等々。

 

全てが終わるころには、カンカンにおかんむりのアスカが出来上がっていた。

 

「神聖なエヴァになんてことさせるのよ‼」

 

彼女の言い分である。

 

なお、シンジ少年はヤシマ作戦時に配線整備や、トラックをひょいっとミニカーみたいに摘まんで山頂まで移動させるという、もっとシュールなことをやらされていたのだが、ここで言っても逆効果だろうとミサトは口を噤んでいた。

 

閑話休題。

 

そして、現在。

ミサトとアスカはすっかり日が暮れた中、空輸準備作業が進められていく弐号機を眺めていた。

 

アスカにバレないよう、コッソリと時計を見る。

 

ミサトとしては一刻でも早く帰ってシンジ少年作の熱々餃子をご馳走になりたいのだが、全力で不機嫌アピールをしてその場から仁王立ちで動こうとしないアスカのせいでなかなか動けない状況になっている。

 

(参ったわねぇ……放って帰ると責任問題になるし、何よりアスカが煩いし……)

 

いっそ、指揮官として帰宅するよう無理やりに命令すべきか考えるも、関係が拗れることが目に見ているので実行に移せない。

 

どうしたものかと夜空を眺めていると、

 

「……私の実力、こんなもんじゃないから」

 

フッと作業音に消えてしまいそうなほど儚い声でアスカが言った。

 

「分かってるわよ。貴女の成績は良く知っているわ。先の戦闘でもその片鱗が――」

()()()()()()()!」

 

アスカは先程とは対照的に大きな声で否定した。

ミサトは驚きながら怒っていると思っていた彼女の瞳を覗き込む。

その目は、不安に揺れていた。

 

そこでようやく、ミサトは自身の失策に気づいた。

 

「使徒戦でも、上手くやれるから。私、本当は強いんだから、この程度で勘違いしないでよ!」

 

私は、役立たずじゃない。

 

(しまった……)

 

アスカを試すような真似をするべきじゃなかった。

過度にプレッシャーを掛けるようなことをすべきではなかった。

発破を掛けるつもりでああいった言い方をしたが、あれでは役に立てなければ切り捨てると思われても仕方がない。

 

ミサトは自分の迂闊さを罵倒しつつ、優しい笑みを浮かべた。

 

「分かったわ。本番は使徒戦まで取っておきましょう」

「……うん」

 

そしてフォローも忘れない。

 

「それから、さっき言った言葉も嘘じゃないわよ。あなたのジェットアローンに対する対応、実に見事だったわ。近接戦闘なら間違いなくうちでトップね」

「! と、当然でしょ!」

 

途端に嬉しそうになるアスカ。

分かりやすいのやら、分かりにくいのやら。

ミサトはようやく元通りの空気に戻った彼女を見て安堵した。

 

「頼りにしてるわよ、アスカ」

「任せておきなさい。――あっ、でもまたエヴァをあんな使い方したら怒るからね!」

「はいはい」

 

多分、またやるだろうなと思っているミサトは手をひらひらとさせながら適当に受け流した。

空輸準備が完了した弐号機を見上げる。

 

エヴァンゲリオン――使徒に対抗するための武器。

(アスカ曰く)神聖なるモノ。

 

シンジ少年を、苦しめる武器。

 

でも

 

気が付けば、ミサトの口は動いていた。

 

使徒が来なくなったら、こういう使い方をされるのかもしれないわよ

 

それは、エヴァンゲリオンという存在が目障りになったからこその発言。

シンジ少年の無事だけが大事な彼女にとって、彼を苦しめる兵器に価値など見出せるはずもない。

彼女の中で、エヴァはいずれなくなる欠陥兵器まで評価が地に堕ちていたのだ。

 

「えっ――――」

 

一方、アスカにとってそれは衝撃的な発言だった。

 

「アスカ? 大丈夫?」

「……」

 

先程よりも青白い表情になったアスカに慌てて声を掛けるミサト。

 

(使徒が、来なくなる……?)

 

それだけの為に生きてきた。

エヴァに乗る為に。

エヴァに乗って、使徒を倒すために。

エヴァに乗って、使徒を倒して、人に認められるために。

 

だというのに――それが、全部なくなる日が来る?

 

「……ミサト」

「な、なに?」

「使徒って……来なくなるの?」

「ま、まぁ……永遠に来るわけではないと思うわよ?」

()()⁉」

「あ、アスカ……?」

 

防護服を脱ぎ捨て、肩からNERVの制服を羽織っているミサトに縋り付きながら、アスカが絶望に満ちた表情で尋ねる。

 

「いつ、使徒は来なくなるの……?」

「……」

 

それは、ミサトにも分からない。

 

だが、予測することは出来た。

 

敢えて名づけられた“使徒”という呼称から推察される残り個体数。

準備されている予算、戦力、そして――上層部の緊張感。

これら全てを加味した結果、ミサトの見立てではこの1年で全ての決着がつくと推測していた。

 

だが、確定していない情報を彼女に伝えてもさらに不安定にさせるだけだ。

ミサトはアスカの肩に手を置きながら答えた。

 

「分からないわ。1年後かもしれないし、5年後かもしれないし、10年後かもしれない」

「10年後……」

 

敢えて一番長い年月を選んだところにアスカの願望が現れていた。

 

ミサトはようやく気付く。

書類上だけで、上辺だけで知っていたつもりになっていたアスカの本質に気付く。

 

(子供なのね……縋るものがエヴァしかない、ただの幼い子供)

 

震える姿がやけに小さく映る。

ミサトは彼女が落ち着くまで肩に手を置き、自分の体温を送り続けた。

 

「……落ち着いた?」

「……」

 

暫く後。

アスカに尋ねるが、彼女は答えない。

 

幼い少女との付き合い方など分からないミサトは内心で頭を抱えた。

分からない。どうすればいいのか分からない。

アスカが、やっぱり分からない。

 

「……ねぇ」

「うん?」

「ミサトはさ――」

 

不意に、黙り込んでいたアスカの方からの問い掛け。

とびきり優しい声音で応えるミサト。

アスカは尋ねた。

 

「使徒が来なくなったら、どうするの?」

「……」

 

それは、考えたくもない未来を考えようとする彼女なりの努力だった。

やっぱり、彼女は立ち向かうことだけが勇気だと勘違いしていたから。

 

アスカにとって、葛城ミサトがとても頼りになる大人の女性に見えたという理由も大きい。

 

彼女なら、答えをくれるだろうという期待。

 

ミサトは考える。

使徒が来なくなって、平和になったらどうする――

 

少し考えた後、彼女は答えた。

 

「家に帰って、ビールを飲むわ」

「……はっ?」

 

一瞬の間。

 

脳が回答を理解した瞬間、アスカは頭に血が上るのを感じた。

真面目に答えてくれていない。そう感じだからだ。

 

シンジには真摯に接する癖に、自分のことは適当にあしらうのか……!

 

「真面目に――‼」

「それから、シンちゃんが作った料理を食べる。餃子がいいわね」

 

激昂寸前のアスカを留めるようにミサトは言葉を続ける。

 

「ご飯を食べながら今日あったことを話して……それから、お風呂に入るの。髪を乾かして、シンちゃんも上がったら、2人で映画を観るわ。ゲームでもいいわね」

「……」

「全部終わって、眠くなってきて、今日が終わってもいいと思ったら明日のことを話して、一緒に寝る……そんな感じかしらね」

 

夜空を見上げながらミサトは語り終えた。

その横顔があまりにも幸せそうで――アスカはそっと視線を逸らす。

 

「……なによ、それ。そんなの、使徒が来ている今と変わらないじゃない」

「そうよ」

 

アスカの苦し紛れの発言を肯定し、ミサトは力強く頷いた。

 

「使徒なんて関係ないわ。私は、そんな日常が未来永劫続いてほしいと思っている」

 

その言葉を聞いたアスカは、項垂れた。

自分が期待する答えを貰えなかったという失望もある。

だが、それ以上に羨ましかった。

羨ましくて、妬ましかった。

だって――

 

(私には、そんな温かいもの、ない……)

 

落ち込むアスカを見たミサトは敢えて明るい口調で続ける。

 

「まぁ、エヴァがなくなったら流石に作戦課は解体かもしれないわね。別部署と統合になる可能性も高いけど」

「……エヴァがなくなったらNERVだってお払い箱じゃないの?」

「あぁ、そうかもしれないわね」

「……仕事はどうするのよ?」

「どうとでもなるわよ。私、優秀だし」

 

まさかの発言に、アスカは落ち込んでいた自分も忘れて脱力した。

 

「……自分で言う? それ」

「実績を見なさいよ。実績を」

「非公式でしょ。全部」

「あら、そうだったわね……でもまぁ、いい大学出て20代で国家公務員の部長まで昇格。この私を雇わない会社なんてないわよ。きっと」

「……自信過剰よ」

「かもしれないわね」

 

言ってから、もしかしたらシンちゃんポジティブがうつっているのかもしれないな、と考えて――ミサトは少し嬉しくなった。

 

「アスカは、()()()()()()?」

「……」

 

優しい声音でミサトが尋ねる。

 

「分かんないわよ……そんなの」

 

アスカには何もない。

エヴァ以外に何もないのだ。

表面上の家族はいるが、本当の意味で心を寄せる家族はいない。

夢もない。

誰も、いない。

 

欲しいものは、なんだろう?

彼女の脳裏に浮かんだのは――じゃれ合うシンジとミサトの姿。

 

「――ッ」

 

不意に寒気がするほどの孤独感に襲われて、アスカは膝を抱えて俯いた。

 

「……」

 

(アスカ……)

 

何度だって言う。

 

ミサトの執着は一つだけだ。

その為だけに、戦うと決めた。

 

他に背負うものはいらない。

余計な重さは、彼女の動きを鈍くしてしまうだけだから。

迷いを、生んでしまうだろうから。

 

遺体がない父の墓へ戻した、あのロザリオのように。

 

でも――だからといって、迷子になったような表情で膝を抱えて俯く少女を放っておけるほど、冷血になったわけでもないのだ。

 

その姿が遥か遠い、過去の自分と重なったところもあった。

 

(仕方ない、か)

 

正直、彼女には自分で立ち直って欲しいところだが、

今回ばかりはミサトの発言が原因のようだし。

アスカには、これから頑張って戦ってもらわなきゃいけないわけだし。

 

(……シンちゃんと距離を縮められ過ぎるのも面白くないけど)

 

内心で溜息をつきながらミサトは通信機器を取り出した。

 

「あっ、シンちゃん? 私よ。仕事終わったから、今から帰るわ」

 

愛しい少年の声を聞いて頬を緩ませながらミサトは続けて言う。

 

「それから今日の餃子、もう1人前増やせる? ()()()()()()()()()()()()()()()

「は、はぁ⁉ 私はそんなこと一言も――むぐっ」

 

暗い表情から一転。

目を見開いて抗議しようとするアスカの口を掌で塞ぎながらミサトは続ける。

 

「うん。そう。急にごめんね? 帰りにお土産買って帰るから。じゃあ、また後でね。楽しみにしてるわ」

 

通信を切るミサト。

隣を見れば頬を膨らませながら睨みつけてくる赤い少女がいる。

正直、全然怖くない。

 

アスカは精一杯、不機嫌そうな声を装いながら抗議する。

 

「……何のつもりよ」

「ジェットアローン撃破の祝賀会よ」

「要らないわよ! そんなの!」

 

あんな雑魚! と言いかけて流石に自重する。

 

「いいから付き合ってよ。予定、ないんでしょ?」

「あ、あるわよ⁉」

 

言ってからアスカは後悔した。

勢いに出任せた真っ赤な嘘だったからだ。

 

無論、あっさりとアスカの虚勢を見抜いたミサトは飄々とした調子で

 

「じゃあ、そっちをキャンセルして頂戴。もうシンちゃんには3人分の餃子を作ってもらってるんだから」

「り、理不尽よ‼」

「大人はいつだって理不尽なものよ」

 

いけしゃあしゃあと言ってのけながらミサトはアスカの肩に腕を回して自分の方へ引き寄せた。

 

「み、ミサト⁉」

「……何をしたいか分からないと言ったわね」

 

大人として、ミサトは言葉を贈る。

心を閉ざしていた、14年前の自分と似た少女へ。

 

「分からないなら、目の前にあることをとりあえずやっていればいいんじゃない? そうしていれば……そのうち見つかるわよ」

 

自分がそうだったように。

 

「それに、安心してアスカ。私、やりたいこと見つけたのつい最近だから。あなたの歳から14年も経ってようやく見つけたのよ?」

「……」

「人生は長いんだから、そう焦ることないじゃない」

「……大人になれるか分からないのに?」

「シンちゃんみたいなこと言うのね。安心して、貴女も素敵な大人になるんだから」

 

そう言ってミサトはアスカの頭を撫でた。

シンジ少年にするそれよりは少し乱雑な感じだったが。

 

(……なによ、それ)

 

アスカは思っていたよりもゴツゴツしているミサトの手のひらを受け入れながら、目を閉じた。

 

(答えに、なってないじゃない)

 

使徒が来なくなった未来。

エヴァが、要らなくなった世界。

アスカには想像ができない。

 

だから答えを欲したのだけれど、ミサトはそんなものないという。

だけど、冷たく突き放されたわけじゃない。

適当にあしらわれたわけでもない。

ミサトは、ミサトなりにきちんと考えて答えてくれた。

 

それに今――彼女は頭を撫でてくれている。

 

今のアスカには、これだけで十分に思えた。

 

 

「さぁ、帰るわよアスカ。餃子とビールが私を待ってるわ」

「……太るわよ!」

「その分、動けばいいのよ」

 

ギャーギャーと喧しい声を上げながら夜空の下、2人歩いていく。

 

突然の来訪者も歓迎し、葛城家が騒がしくなるまで、あと少し――

 

 




  予告

束の間の日常。
学校に訓練と充実した日々を送るシンジ少年とアスカ。
そんな中、水中より魚型の使徒が現れたと連絡が入った。
初号機が未だ修繕中の為、再び単騎での出陣を余儀なくされるエヴァンゲリオン弐号機。
パイロットとしての真価を試される中、アスカはその実力を発揮できるのか。

  次回
アスカ、使徒来日

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