まごころを、ぼくに   作:赤坂緑語

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アスカ回です。



アスカ、使徒来日

 

「おはよう」

「よう、シンジ。おはよう」

「おはようさん」

 

登校したシンジ少年は席が近いケンスケとトウジに挨拶してから席に着いた。

そしてすぐに、ボーッと窓の方を見始める。

一週間の入院を経てから復活した彼は、ここ最近ずっとこんな調子だった。

 

「……どうしたんやシンジ。じーっと窓の方を見て」

「えっ? あぁ……綾波は今日も登校してないのかな、って思って」

「そうやなぁ……シンジが入院している間からずっと来てなかったからな」

「そういやシンジ、怪我の具合はもう大丈夫なのか?」

「うん。大丈夫だよ、ケンスケ。ありがとう」

 

友人たちの気遣いを受け取りながらも意識は窓際に向いているシンジ少年。

トウジとケンスケはコソコソと顔を合わせた。

 

(重症やな、これ)

(あぁ。綾波にぞっこんだ)

 

ケンスケは頭を抱えた。

 

(参ったなぁ……くっつかれたら写真の売り上げが減るぞ)

 

その理由は単純で、碇シンジが学園のアイドルだからであった。

 

美しい容姿、綺麗な笑顔、優しい性格、それでいて意外とお喋りでユーモアがあるというギャップ。

これで頭もよく、運動もできるのだから、モテるなという方が無理な話だった。

 

彼の写真で山ほど稼いで来たケンスケにとって、貴重な財源がなくなりそうな現状は極めて遺憾である。

アイドルの熱愛報道は売り上げに直結するものだから。

 

「おっ、噂をすれば何とやらか。ほれ、シンジ」

「えっ」

 

ケンスケの儲けたお金でいい想いをしてきたものの、基本的に友人想いで、シンジ少年の幸せを願っているトウジが教室の前を指さす。

そこには、彼女がいた。

涼やかな空気を身に纏う神秘的な少女。

 

ガタっと椅子から急いで立ち上がり、シンジ少年は彼女に駆け寄る。

 

「綾波っ!」

「……碇君」

 

随分と、久しぶりの再会だった。

ミサトからシンジ少年が入院した初日にお見舞いに来てくれていたことは聞いていたが、意識がある状態で彼女の姿を見るのは本当に久しぶりである。

 

感極まった様子のシンジ少年に対し、綾波もまた思うところがあり、赤い瞳を大きく見開いていた。

 

暫く見つめ合う2人。

 

「ひ、久しぶり。元気だった?」

「えぇ。碇君も、元気そう」

「うん。元気だよ」

 

ぎこちなく会話を切り出したのはシンジ少年だった。

だが、やはり綾波相手の会話だと妙に緊張してしまっていつも通りに話せない。

この間の件が尾を引いているところもあった。

 

「な、長い間学校に来てなかったんだね。何かあったの?」

「検査が長引いていたの。それから、他のエヴァを……」

「他のエヴァ?」

「……ごめんなさい。何でもないわ」

 

そう言って綾波レイは俯いた。

 

「そう……」

 

追及することもできずシンジ少年は相槌を打つに留める。

やはりどうしてもぎこちなくなってしまう。

 

「お見舞い」

「ん?」

「お見舞い、行けなくてごめんなさい」

「全然いいよ、そんなこと。入院してるっていってもずっと元気だったしね」

「でも、碇君は私のお見舞いに来てくれた」

「こういうのは気持ちもそうだけど、タイミングの問題もあるからさ。本当に気にしないでよ」

「……分かったわ」

 

妙なところで律儀な綾波。

変わってないな、とシンジ少年は嬉しくなった。

このまま楽しく会話をしていたいところだが、どうしてもシンジ少年には彼女に聞かなければならないことがあった。

 

「……その、この間言ったことだけどさ――」

「うん」

 

キーンコーン、カーンコーン

 

と、ここで間が悪いことにチャイムの音に遮られた。

気が付けばクラスは登校してきた生徒で溢れており、皆が何事かと2人のことを見守っている。

 

「ご、ごめん。また後で話すよ」

「えぇ」

「じゃあ、また後でね」

 

もうすぐ先生も来るだろうし、何より人前で話すことではないと判断したシンジ少年は逃げるように自分の席に戻っていった。

 

その姿を見送り、綾波も席に着く。

 

いつも通り、窓の外に視線をやりながら――しかし、その意識はシンジ少年の方を向いていた。

 

 

 

老教師が入室し、始まったホームルーム。

 

シンジ少年と綾波の急接近にクラス中が困惑する中、さらなる火種が投下される。

 

「転校生を紹介します」

 

担任の言葉を聞いてざわつき出すクラスメートたち。

綾波のことに気を取られていたシンジ少年はようやく思い出した。

今日が、()()()であったことを。

 

ガラっと教室のドアが開く。

 

おぉ! 教室の中でどよめきが起きる。

 

彼女は、とにかく目立つ少女だった。

キラキラと艶やかに輝く、赤みを帯びた金髪。

スラリと伸びた長い手足。

全身に満ち溢れているオーラ。

 

丁寧かつ、流麗な字で自身の名前を黒板に書き、彼女はくるりと振り返る。

 

今度はどよめきすら起きなかった。

 

圧倒的に整った顔立ち。

美しい青の瞳。

口元にはにこやかな笑み。

 

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしくっ!」

 

沈黙。

遅れて、教室は大歓声に包まれた。

 

 

 

惣流・アスカ・ラングレー。

 

ドイツから突然やって来た謎の美少女転校生。

彼女の名はすぐに学校中に広まった。

 

好意的な女性陣からは好奇心を。

自分の男(片思い含む)を持っている女性陣からはありったけの嫉妬を。

男性陣からは女神を讃えるが如きラブコールを浴びるアスカ。

 

チヤホヤされ、アスカは非常に有頂天――に見えるが、内心はそうでもなかった。

 

これが惣流・アスカ・ラングレーのややこしいところである。

 

自己承認欲求が強く、一見するとシンジ少年と似通ったところが多いように思えるが、本質は微妙に違う。

 

シンジ少年がある意味で皆に対して平等で、誰に褒められても喜んで「やっぱり僕は凄い!」と自己肯定に繋げることができる自己完結型であるのに対し、自分が認める相手も、自分が認められたい相手も選り好みし、尚且つそれを独占したいと考える、他者補完型がアスカであった。

 

有象無象に認められたいわけではない。

 

他ならぬアスカが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして、彼女にとってそれに該当する数少ない人物が加持リョウジであり、葛城ミサトであり、そして――碇シンジなのであった。

 

(バカシンジ……!)

 

自分を取り囲む人の壁。

そこからランダムに繰り出される矢継ぎ早の質問を持ち前の頭脳で処理しながら、彼女の瞳はチラチラとある一点を向いている。

 

窓際の席。

彼女が自分を認めてもいいと思っている数少ない人間の一人であるシンジ少年は、変わった髪色と瞳を持つ少女に話しかけていた。

 

(アンタ、私が困っているんだから、フォローしなさいよ! 同じ釜の飯を食った仲でしょ⁉ っていうか、学校に誘ったのはアンタでしょうが!)

 

視線だけで「私に構え!」と訴えるが、そもそもシンジ少年が視線に気が付けていないので意味がない。

あと、彼女が食べている釜の飯の殆どはシンジ少年が作ったものである。

 

ギリギリと歯を食いしばるアスカ。

 

「そ、惣流さん。どうしたの?」

「あら、ごめんなさい。何でもないわ」

 

ニコリと可憐な笑み。

それだけで一気に沸き立つ群衆。

 

人間、興味がないことや面倒なことにリソースを割き続けることは難しい。

アスカの化けの皮はすぐに剝がれることになるのだが……転校初日である現在は、まだ何とか耐えていた。

 

 

一方、同じ釜の飯を食った仲であるアスカからのSOSに気づかぬシンジ少年は、ようやく綾波と話すことができることを喜んでいた。

話題になるのはやはり、あの件。

 

「――そっか。じゃあ、あの零号機はもう……」

「えぇ。凍結されたから、乗れないみたい」

「……」

 

黙り込むシンジ少年。

彼は、やはり普段にしては珍しい、おずおずとした口調で尋ねた。

 

「もし違っていたらあれなんだけど……綾波、もしかしてあの時僕が言ったことが原因で、零号機の実験に失敗したの?」

「……そう、かも」

「そっか……ごめんね」

「どうしてあやまるの」

 

綾波の瞳が不安げに揺れる。

だって、彼女は謝って欲しくなんかなかったから。

 

あの時の言葉を、否定して欲しくなかったから。

 

「どうしてって……僕のせいで綾波はエヴァに乗れなくなっちゃったんでしょ? 綾波にとって大事な物のはずなのに……」

 

昔の臆病で、自罰的な自分に戻ったようなシンジ少年が続ける。

 

「本当に、何て言ったらいいか――」

「やめて」

 

らしくない台詞ばかり吐くシンジ少年を止める綾波。

彼女は彼の瞳を見つめてハッキリと言った。

 

「大事なものだったけど、もういいの」

「どうして?」

「今は言えないけれど……いいの」

 

長い検査が始まる前。

せめて顔だけでも見ておこうと訪れたシンジ少年の病室で会った葛城ミサト。

彼女が言っていたことを思い出す。

 

“私に任せておきなさい”

 

「そっか……まぁ、何か考えがあるんだね。期待して待っておくよ」

「えぇ」

 

ただでさえ口下手な上に、情報を制限されているせいで何も伝えられていないが、シンジ少年は1年の付き合いなだけに何となく察した。

エヴァのことは何とかなるということを。

 

「それに」

 

綾波は続けて言う。

 

「絆は……あれだけじゃないもの」

 

赤い瞳が真っすぐにシンジ少年を見つめる。

口元にはぎこちないながらも微笑みが浮かんでいる。

 

シンジ少年はようやく悟った。

綾波はあの時の彼の発言を嫌がっていなんかいなかった。

それどころか――

 

彼は嬉しくなって満面の笑みを浮かべた。

 

「そっか、友達だもんね」

 

そして、家族かもしれない。

 

「えぇ」

 

言葉に柔らかい感情を乗せて綾波が頷く。

 

今はアスカに全員の視線が向いているが、仮に今の綾波を見たらきっと驚くだろう。

その雰囲気の柔らかさと、微かに笑っているように見えるその表情に。

 

和やかな雰囲気のまま、2人は会話をする。

 

それは、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り終わるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

次の休み時間もアスカは人の壁に囲まれていた。

 

顔も髪も見たことがないくらい綺麗で、性格も(隠している今のところは)気さくで優しく、日本語も完璧。

 

皆が夢中になるのも仕方がないと言えた。

 

だが、アスカとて人間だ。

それも、非常に短気なタイプの人間だ。

いい加減に限界を迎えつつあったアスカは被っている皮を脱ぎ捨てて獰猛な牙を剥き出しにしてやろうかと思っていたのだが、それを食い止める女性が現れた。

 

「ちょっとみんな! 惣流さんが困ってるでしょ!」

 

この学級の委員長である洞木ヒカリである。

渾名が「委員長」になるくらい、生粋の委員長気質である彼女は、転校してきたばかりにも関わらず質問攻めに遭う彼女を不憫に思い、クラスメートたちを注意した。

 

彼女の叱責を受け、アスカを取り囲んでいたクラスメートたちは我に返った。

基本的にNERV職員の子息が多く、常識的で礼儀がしっかりとしている子が多い学校だ。

反省した彼らが徐々に包囲網を崩壊させて立ち去る中、ホッと一息つきながらアスカは自分を助けてくれた人物に笑い掛けた。

 

「ありがとう。洞木さん」

「いえいえ。初日から大変ね、惣流さん」

 

嫌味など何もない、純粋に心配する視線。

アスカはこの学校で仲良くするべき人を見つけたかもしれないと直感で悟った。

 

彼女の勘は正しく、これがきっかけで2人は色々と話し始める。

“気が合うな”とアスカは思った。

この子なら自分の素を曝け出してもいいかもしれない。

そんな風にも思った。

 

特に、下心なしで自分を助けてくれたその行動力と性根にある正義感がアスカの琴線に触れていた。

 

それと同時、思い出す。

 

(バカシンジく~ん、君はどこで何をしているのかなぁ~?)

 

ビキビキと青筋を立てながら薄情な友人兼、ライバル兼、シェフを探す。

見つけるのにそう時間は掛からなかった。

先程と同じ窓際の席で、変わった容姿の女の子(しかも美人)と楽しそうに会話していたからだ。

 

「――ねぇ、洞木さん」

「なに、惣流さん」

 

生真面目な彼女らしく、この学校のあれこれを熱心に教えてくれていた洞木ヒカリに話し掛ける。

心なしか冷たい声で。

アスカは窓際の席で話し込んでいる2人を指さした。

 

「バ――()()()()()と一緒にいるあの女の子、誰?」

「あぁ、綾波さんね。綾波レイさん」

「綾波、レイ」

 

その名を聞いたアスカはすぐにピンと来た。

 

(ファーストチルドレンじゃない! エヴァの起動実験に失敗したとかいう、あのファーストチルドレン)

 

「そういえば、久しぶりに見た気がするわ、綾波さん。ずっと学校を休んでいたみたいだから」

「へぇ……そう」

 

転校初日で困っている自分を放っておいて、久しぶりに登校したファーストを優先するのか。

自分が選ばれなかったことに過剰に反応したアスカが機嫌を急降下させる中、彼女の内心に気づかないヒカリは続ける。

 

「にしても、あんなに楽しそうに話す綾波さん、初めて見たかも……」

「……あの2人、仲良いの?」

「多分?」

 

多分って何よ。これだから日本人は――

そう思ったアスカだが、ヒカリは困惑したような表情で続ける。

 

「碇君が良く綾波さんに話し掛けるところは見ていたんだけど、いつも反応が薄かったというか……そもそも、碇君は誰にでも話しかけてくれるし、綾波さんは誰に対しても素っ気ない感じだし、よくわかんなかったのよね……」

 

なるほど。彼女は彼女なりに色々と見てきたが、今日までは露骨に仲が良い雰囲気ではなかったらしい。

 

(つまり、こういうことね。あのバカシンジは転校初日で心底困っている私を捨て置き、久しぶりに登校したファーストに構い倒していて、忙しいと。私のことなんかどうでもいいと。ふーん? なかなか舐めた真似してくれるじゃない……!)

 

内心で色々と理不尽な怒りをぶちまけるアスカ。

さて、あの野郎どうしてくれようかとイイ笑顔でお仕置きを検討する。

 

「ところで惣流さん」

 

そんな中、被っている猫の内側に猛獣が潜んでいることなど露知らぬヒカリは純粋な気持ちで尋ねた。

 

「惣流さんって、碇君と知り合いなの?」

「どうして?」

「だって、自己紹介してないのに名前知っているみたいだから」

「――――」

 

しまった。

アスカは内心で頭を抱えた。

 

気になる余り、ポロっとフルネームを口に出してしまっていた。

 

しかも――

 

(あ、あれ……? 何? この空気)

 

心なしか、周りが静かになった気がする。

彼女は知らないが、皆が気になっているのだ。

シンジ少年とアスカの関係性を。

 

(バカシンジのせいで妙な感じになっちゃったじゃない!)

 

別に知り合いであることを言ってしまってもいいのだが、何となく恥ずかしいし、アスカの高すぎるプライドは未だに「シンジの方から私に話しかけるべき!」と主張を続けている。

 

だが、こうしてバレてしまった以上は仕方がないだろう。

アスカは頭をフル回転させ――ちょうどいい言い訳を思いついた。

 

「えぇ。実は引っ越してきた家が近くて。前にご挨拶させてもらったことがあったの」

「へぇー! そうなんだ!」

 

純粋に驚いた様子のヒカリ。

そして、何故か教室中から聞こえる安堵の声。

アスカは声を潜めながら尋ねる。

 

「……ねぇ、なんで急に静かになったの?」

「そりゃあ、やっぱり碇君が人気だからじゃない?」

「人気?」

「えぇ。碇君、モテモテだもん」

「もてもて」

「あっ、モテモテっていうのはね――」

「大丈夫。意味は分かるわ」

 

別に日本語が分からなかったというわけではない。

単にアスカには分からなかったのだ。

あの少年が女性にモテているということが。

 

「……なんで人気なの?」

「それは……やっぱり、優しいし、面白いし、頭良いし、顔も可愛いし……そういうところじゃない?」

「……洞木さんも、碇君が気になるの?」

「私⁉ いや、私はちょっと違うけど……」

 

そう言いながらチラチラと違う方向を見る洞木ヒカリ。

その視線の先には、親友である相田ケンスケと馬鹿話(アスカの件)で盛り上がっているジャージ男がいるのだが、知り合っても間もないアスカはその視線の先に気になる相手がいるんだなと結論付けて興味を失った。

 

アスカはもう一度碇シンジを見る。

楽しそうにファーストチルドレンと話しているその姿を。

 

(モテる……女の子に人気ってことよね?)

 

日本のドラマを視聴したり、加持リョウジと積極的に会話することで現代語であっても言葉の意味を正しく理解しているアスカはぼんやりと考える。

 

(みんなが、シンジと恋愛をしたがっている? 恋人になりたがっている?)

 

チラリと視線を横に移せば、綾波レイと会話していることに思うところがあるのか、シンジ少年を見ながらコソコソと話をしているグループがある。

他にも文庫本を読むふりをしながらじーっとシンジ少年を観察している粘着質な視線の女子もいた。

 

 

アスカは何とも言えない感情を抱いた。

 

嬉しいような、それでいて()()()()()()()()()()()な。

 

無意識のうちに視線を鋭くしながら、アスカは次のチャイムが鳴るまでシンジ少年と綾波レイを見つめ続けていた。

 

 

 

 

「それじゃあ、綾波。また明日」

「えぇ。また明日」

 

あっという間に授業を終えて放課後。

結局、昼休みを除いたほぼすべての休み時間で綾波と話していたシンジ少年は、満足した様子で別れを告げた。

 

綾波もまた、どこか満足そうな様子で頷く。

彼女の方は残念ながらこれから実験があるらしい。

校門裏に止めてあるNERVが寄越した迎えの車でそのまま本部へ向かうとか何とか。

 

どうせなら帰りにどこかへ一緒に寄って帰りたかったが、それはまたの機会に持ち越しだ。

だが、焦ってはいなかった。

これから幾らでも学校で会えるのだから。

 

(綾波、元気そうだったな……本当に良かった)

 

悩み事など殆ど抱えることなく――もしあったとしても全力で人に相談するシンジ少年は、唯一といっていい心残りが解決したことでホッと一息ついた。

 

「……随分と楽しそうだったじゃない」

「あれ、アスカ?」

 

校舎の下駄箱で綾波と別れたシンジ少年はそのまま家に帰ろうとし――どこからともなく現れた少女に驚いた。

 

「どうしたの? 先に教室から出て行ってたよね?」

「えっ? 見てたの? 私のこと」

「もちろん」

 

てっきり、自分の動向なんて気にしていないと思い込んでいたアスカは驚いた。

心なしか、あどけない声で尋ねる。

シンジ少年は当然だという表情で頷いた。

 

「だから、もう家に帰っていると思ったんだけど、忘れ物でもしたの?」

「……そ、そうよ!」

 

実際は、帰り道でも纏わりつこうとしてきた同級生たちが鬱陶しくて、一度校門を出るふりをしてからバレないようにまた玄関口まで戻ってきてシンジ少年を待っていたのだが……やっぱり恥ずかしくてアスカはシンジ少年の勘違いを肯定した。

 

「一緒に取りに行こうか?」

「いえ、もういいわ。回収し終えたから」

「そう」

 

あれ、教室と廊下ですれ違わなかったけどなぁ……と思ったシンジ少年だが、特に深く気にすることでもないと思ったので追及はしなかった。

 

靴を取り出しながら、腕を組んで自分を待っているらしいアスカに話しかける。

 

「早速クラスに馴染んでいるみたいで安心したよ」

「……なによ。見ていたんなら、そっちから話し掛けなさいよ」

「色んな人と知り合うのが学校の醍醐味だからね。邪魔しちゃいけないと思って」

 

そう言ってシンジ少年は笑みを浮かべた。

 

「人気者だね、アスカ」

「……なによ、嫌味?」

「なにが?」

 

小首を傾げるシンジ少年に内心苛立ちつつ、アスカは冷たい声で言う。

 

「女子にモテモテなんでしょ? シンジくん?」

「うん。モテてるよ」

「そんな謙遜したって嫌味なだけ――今、なんて?」

 

アスカは自分の耳がおかしくなったのかと思ってシンジ少年を見た。

シンジ少年は自信に満ちた不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「僕はモテるって言ったんだよ」

「……」

 

唖然。

 

謙虚なふりをするつもりもないらしい。

アスカは、自分が学んできた日本人の定義からだいぶズレている少年を前に、必死に自分の価値観を修正しながら言葉を絞り出した。

 

「……やっぱりアンタ、ちょっと変わってるわ」

「かもね。でも、個性があった方がいいでしょ」

「否定はしないわ」

 

疲れたような表情でアスカが肯定する。

 

靴を履き替えたシンジ少年は歩き出しながらアスカに尋ねた。

 

「アスカはこの後どうするの? 今日もNERV本部で訓練?」

「いえ、今日は訓練なしよ。このまま家に帰るわ」

「そっか。じゃあ、途中まで一緒に帰る?」

「そうね――」

 

シンジ少年の言葉を肯定しながら、ふとアスカは思い出した。

まだこの少年に()()()()()()()()ことを。

 

やり返すチャンスだ。

 

アスカは内心でニヤニヤ笑いながら、それをおくびにも出さず頷いた。

 

「一緒に帰りましょ」

 

 

 

 

帰り道。

 

シンジ少年の「モテる」発言が気になってしょうがないアスカだったが、あれこれ自分から聞くのは過剰に彼のことを気にしているようで何となく気に食わない。

 

相変わらず、高すぎるプライドとの折り合いが上手くつけられていないアスカは無難な会話をしながらシンジ少年と一緒に帰り道を歩く。

 

そうして今日あったことを話しながら歩いていると、あっという間にシンジ少年の住処である葛城家のマンションにたどり着いていた。

 

「……あれ、アスカうちへ来るの?」

 

てっきり、どこかの道で別れると思ったのだが、アスカはまだシンジ少年の横にいる。

 

彼女は平然とした表情で答えた。

 

「いいえ。家に帰るわよ」

「……今からマンションに入るんだけど、帰らなくていいの?」

「だから、帰るって言ってるでしょ?」

 

そう言ってアスカはシンジ少年が持っていたカードキーを奪い取り、さっとパネルにタッチしてマンションの入り口を開いた。

 

「ほら、さっさと行くわよ」

「????」

 

頭に疑問符を大量に付けながら慌ててアスカの背中を追い掛ける。

ズンズンと迷いのない足取りで進んでいく彼女はエレベーターの中に入り、シンジ少年とミサトが暮らす階――ではなく、最上階行きのボタンを押した。

 

(あ、あれ? これってもしかして……?)

 

シンジ少年の中で疑念が生まれる中、アスカはたどり着いた最上階の廊下を迷いのない足取りで歩いていく。

そして、とある扉の前で立ち止まったアスカは()()()()()()()()()()()()()、ドアを開いた。

 

「それじゃあ、また明日ねシンジ。Ciao(チャオ)!♪」

 

あんぐりと口を開き、唖然と立ち尽くすシンジ少年。

彼の珍しい間抜け面をたっぷり堪能したアスカは華麗なウインクをかましながらゆっくりとドアを閉じた。

 

「ちょ、ちょっとアスカ! えっ、なに? 引っ越してきたの⁉ このクソ高い最上階に引っ越してきたの⁉ ちょ、ちょっと聞いてる⁉」

 

ガンガンと扉を叩きながら動揺したシンジ少年の声が飛んでくる。

その声をガン無視し、アスカはニンマリと笑った。

 

「よしっ」

 

してやったり。

アスカは玄関で小さくガッツポーズをした。

 

 

 

翌々日。

土曜日。

 

アスカは恒例となったシンクロテストを受けていた。

テストの結果は特に変動なし。

以前までのアスカであれば数字を伸ばすことに躍起になっていたはずだが――何故か、以前までのストイックさがアスカから抜け落ちていた。

 

どうしてだろう?

 

ぼんやりと横ばいのシンクロ結果を眺めているその時、「アスカ」と彼女を呼ぶ声がした。

ミサトの声だ。

アスカは以前だったらじっくりと眺めていたテスト結果の用紙をすぐにその場へ置いた。

もう興味の対象はそちらにはないからだ。

 

「ミサトっ」

「はーい。お疲れ様。調子はどう?」

「まぁまぁね」

 

浮ついた自分を抑えるようにクールぶって答えるアスカ。

 

「それは何より。――ところで聞いたわよ、アスカ。シンちゃんにドッキリ仕掛けたんだって?」

 

一昨日の話である。

アスカはニヤリと笑った。

 

「そうよ。アイツの間抜け面、見ものだったわ」

「あら。それは見てみたかったわね」

 

アスカがミサトたちの暮らしているマンションの最上階に引っ越してくることを予め知っており、尚且つアスカから口止めされていたミサトは楽しそうに笑った。

 

「新しい住居はどう?」

「いい感じね。広いし、セキュリティはしっかりしてるし、景色もいいし」

「それは良かったわ。頑張って調整した甲斐があったわね」

 

暫くの間、NERV本部の宿舎で過ごしていたアスカだが、彼女の新居探しは極めて難航した。

これまで我儘の一つも言わずに過ごしていたというのに、ミサトが見つけてきた住居に片っ端からケチをつけて動こうとしない。

 

ここよりはマシだから、と言っても――

 

「妥協するのは嫌!」

 

と、プライドの高さを遺憾なく発揮して駄々をコネまくった。

 

だったらどこならいいのか。

呆れたミサトが尋ねたところ、彼女は消え入りそうな声で言った。

「ミサトたちが暮らしているようなところがいい」と。

 

幾ら鈍いミサトでもすぐにその言葉の意味は分かった。

 

ミサトたちと一緒に住みたい。

 

彼女はそう言ったのだ。

 

ミサトは困った。大いに困った。

この間の一件からアスカに対して甘くなってきているミサトだが、それでも超えられない一線というものはある。

 

特に、シンジ少年との生活は彼女にとっての最終防衛線であった。

決して足を踏み入れさせる気がない、彼女の聖域だった。

 

だからミサトは言ったのだ。

 

「あぁ、だったらうちのマンションの最上階なら空いてるわよ。めっちゃ高いけど」と。

 

実は、ミサトとシンジ少年が今の住居に目を付けた時から最上階は空いていたのだ。

しかし立派なベランダと、さらに2階まで付属したその部屋は非常にお高く――今後のことも考え、ミサトとシンジ少年はもう少しお値段が安い今の部屋に決めたという経緯があった。

 

まだ空いているようだし、良かったらここはどうか。

ミサトは上手く自分の本心を隠しながら――あくまでもアスカの要望を真摯に受け止めたという体でその部屋を勧めた。

 

一方のアスカは、当然ながら内心ガッカリしていた。

 

本当はミサトたちと一緒に住みたかったのだ。

しかし、肝心のミサトは彼女のアピールに気づかず(本当は気づいた上で)、別の部屋を勧めてきている。

 

出来れば難癖付けて断りたいが、これを拒否すればアスカの要望は何だったんだという話になってしまう。

 

素直に「一緒に住みたい」と言えば、ミサトも断るのが難しかったろうに、素直になりきれないアスカの性格が裏目に出ていた。

 

渋々カタログに目を通したアスカは――

 

「ミサト」

「うん?」

「ここにするわ。いえ、ここが良い」

 

一目でその部屋を気に入った。

 

独りで住むには圧倒的に広いであろう、部屋の数々。

完璧にデザインされた部屋模様。

最上階から眺められる美しい景色。

まさかの二階つき。

そして何より――同じマンションだから、葛城家へのアクセスが極めて良い。

 

アスカはこの部屋に夢中になった。

 

試しに見学に行ってからもその思いは変わらず――彼女はここに住むと大声で主張した。

 

ただやはり、値段がネックだった。

 

アスカも高給取りであり、加えてかなりの貯金があるので出せなくはない金額だったのだが、それでも頭金を含めると、ちょっと躊躇してしまうお値段だったのである。

 

「ねぇ、お願いミサト……どうにかならない?」

 

不器用ながら、ミサトへ甘えるように上目遣いで頼み込むアスカ。

 

(ぐっ……か、可愛い……!)

 

最近になってアスカの持ついじらしさや、可愛らしさに気づき始めたミサト。

断れるだけの理由を見つけられなかった彼女は、しょうがなくアスカの為に奔走した。

 

人事部に掛け合い、比較的話が分かりそうな副司令にも根回しをし、総務部長にも高い酒をプレゼントし、ありとあらゆる手を尽くした。

 

そんな彼女の努力もあり――チルドレンの家賃補助という名目で何割かをNERVが負担することで、晴れてアスカはお気に入りの部屋に住むことが出来たのである。

 

「感謝してるわよ、ミサト」

「どういたしまして。今度遊びに行くわ」

「もちろん。何なら泊っていったら?」

「同じマンション内で? ……案外、悪くないかもしれないわね」

 

ミサトたちの家よりも部屋数は多いみたいだし、景色も良いらしいし。

悪くないな、とミサトは思った。

 

実に平和な日常。

ミサトも――そして、アスカも使徒が来ない今を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

だが、使徒は現れる。

 

彼女たちが望むにしろ、望まないにしろ。

 

NERV本部内に平和をぶち壊す警告音が流れる。

 

「……行くわよ、アスカ」

「了解」

 

ガラリと雰囲気が切り替わったミサトは、同じく切り替えたアスカを伴って走り出した。

 

 

 

 

「潜行中だった戦自の潜水艦が発見したようです」

 

そう言って日向が画面に映し出した先には、巨大な魚のような形をした使徒が映し出されている。

 

「目標は現在、NERV本部を目指して潜行中。既に日本の領海に侵入しており、後2時間ほどで第3新東京市付近の沖合に到着するものと推察されます」

「……コアの位置は?」

「戦自に依頼し、可能な限り四方八方から観測してもらいましたが、見当たりませんでした」

「なら、体内かもしれないわね」

 

この間の使徒もコアを露出させず、体内に隠し持っていた。

使徒も急所を隠すことを覚えてきているのかもしれない。

 

「見る感じ、陸上戦の為の手足はなさそうね」

「陸上戦に持ち込めばこちらが優位になると思われます」

「……問題は、あっちがそれに乗ってくれるかどうかね」

 

見るからに水中に特化した使徒が陸上戦に乗ってくれるのか。

極めて怪しいところではあった。

 

「それに、急な形態変化も十分に考えられるわ」

「この状態から手足が生えてくるってことですか?」

「羽が生えてきても私は驚かないわね」

 

なにせ、水中を移動しているだけでは本部にたどり着くことは出来ないからだ。

こうして深い水の中を潜行しているのも、大胆に行動して人類に見つかるのを避けているからかもしれない。

 

「初号機は?」

 

遅れて入室してきた赤木リツコに尋ねる。

彼女は首を横に振った。

 

「無理ね。あと一週間遅ければ間に合ったのだけど」

「そう……」

 

ないものねだりしても仕方ない。

腕を組んで考え込むミサトだったが、すぐに結論を導き出した。

 

「変な形態になる前に叩くのが一番でしょう。水際で迎撃することにします。ただちにエヴァンゲリオン弐号機を使徒到達予定ポイントまで空輸して。アスカ、搭乗準備を」

「了解」

 

アスカは指示を受けた瞬間に走り出した。

 

「それから、都市迎撃システムの予備品、まだ在庫あったわよね?」

「はい。こちらが備品リストになります」

「ありがとう」

 

優秀な部下がすぐに差し出してきたリストに目を通し、お目当てのものを発見したミサトは頷いた。

 

「よし。作戦は決まったわ。すぐに弐号機と、私が指示した物の空輸を開始して」

 

 

 

 

空輸されている弐号機の中で、アスカは深呼吸をしていた。

 

集中力を高めていく。

無駄な思考を削ぎ落し、戦いにのみ集中するようにする。

 

今回は、本物の使徒だ。

陸戦形態を見せていないとはいえ、油断は禁物。

 

特に、使徒間で情報共有が為されている可能性が浮上した今、こちらの手の内が全てバレていることも十分に考えられるのだ。

アスカは静かに自分を研ぎ澄ませていた。

 

『アスカ。聞こえる?』

「えぇ」

 

そんな中、彼女が信頼する上官から通信が入った。

断る理由はない。

寧ろ、彼女の方から通信をくれたことが嬉しかった。

 

『調子はどう?』

「まぁまぁってところね」

 

先程と同じ回答。

つまり問題ないということだった。

 

『そう』

 

ミサトは微笑む。

先日のジェットアローン事件以降、アスカのメンタルは安定していた。

変にシンジ少年の真似をすることもなくなり、素の自分を曝け出してリラックスしているように見える。

 

今の彼女になら全てを任せられる。

ミサトはそう確信した。

 

『作戦は先程説明した通りよ。間違いなく使徒は、エヴァンゲリオン弐号機と初めて接近戦を行うことになる。何も情報は漏れていないはずだから、思いっきりぶちかましてやりなさい』

「もちろんよ」

 

アスカは気負いなく頷いた。

 

初の単独実戦。

日本に来る前は心から望んでいた状況だというのに、不思議とアスカの精神は凪いでいた。

 

やる気がないというわけではない。

戦意がないというわけではない。

 

闘志を持った上で、頭が極めて冷静な状態を保っているのだ。

 

「行くわよ、アスカ」

 

一人呟く。

一人だが、独りではない。

 

だって、ミサトが見てくれているから。

 

それだけで、アスカは力が湧いてくるのを感じた。

 

『頑張ってね、アスカ』

「えぇ。見守っていてね、ミサト」

『もちろんよ』

 

力強く頷き、ミサトは告げた。

 

『エヴァンゲリオン弐号機、出撃ッ!』

 

そして、アスカは初めて弐号機単独での使徒戦へ赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わってアスカ宅。

 

テーブルの上にはお刺身、唐揚げ、ポテトサラダ、ソーセージ、ケバブ、パスタ等々……様々な料理が所狭しと敷き詰められている。

葛城家でシンジ少年が調理し、各々で手分けしながらここまで運んできたのだ。

 

「えーと、それでは皆さん。お手元のグラスを拝借」

 

音頭を任せられた葛城ミサトがかしこまった様子でグラスを掲げる。

 

赤木リツコ、伊吹マヤ、青葉シゲル、日向マコト、碇シンジ、そして本日の主役である惣流・アスカ・ラングレーが同じようにグラスを掲げた。

 

「使徒撃破を祝して~」

 

 

「「「「「乾杯ッ‼」」」」」

 

 

グラスを重ね合わせ、涼やかな音が響き渡る。

和やかな雰囲気の中で打ち上げは始まった。

 

「いやー、アスカちゃん! 実に見事な戦いぶりだったよ!」

「本当! 凄い手際でしたね!」

「ありがとうございます! ……しかし、まーた雑魚だったわね」

 

そう。

 

アスカがボソッと呟いた通り、今回の使徒は苦戦するような相手ではなかった。

 

というかぶっちゃけ、彼女が言ったように()()だった。

 

 

 

 

 

遡ること五時間前――

 

使徒到達予定ポイントへ到着したエヴァンゲリオン弐号機は、諸々の設置準備を終えた後、ATフィールドを全開にした。

それに釣られた使徒は陸上へ――攻め上がってくることはなく、水中をグルグル旋回して様子見の状態となった。

お互いにアドバンテージがある場所で戦うべく、睨み合いが続く中、アスカはじりじりとATフィールドの効果範囲を広域化。

使徒のATフィールドを中和できたと見るや否や、水中に向けて改良された小型ポジトロンライフルを発砲。

胴体を貫かれた使徒は悲鳴を上げながら反射的に逃げようとするが、弐号機はその隙を逃さず、武器をスピアとシールドに切り替えて水中用装備で海の中へ突撃した。

 

当然、自分のエリアに飛び込んできた弐号機を逃さず捕食しようと迫る使徒。

 

「今よ! 引き上げて!」

 

噛みついてきた使徒の攻撃を盾で防いだアスカはすぐさま地上へ連絡。

瞬間、強固に固定されたアンビリカルケーブルが巻き上げられ、弐号機は盾に噛みついている使徒と一緒に地上へと陸揚げされた。

まさしく、釣りの如く。

 

『捕獲用ワイヤー射出!』

 

使徒が陸揚げされた瞬間を逃さず、ミサトの指示で持ち出された都市迎撃システムの予備ワイヤーが殺到する。

ATフィールドを中和されている使徒にそれを防ぐ術はなく、使徒は文字通り網に捕らえらえた一匹の魚と化した。

 

『アスカ! コアは⁉』

「見つけたわ!」

 

噛みつこうと使徒が大口を開いた瞬間、目にしていた。

盾を挟んでいるせいで口を閉じられない使徒は今、コアを晒した状態で無防備だ。

 

Wiedersehen(さようなら)!」

 

ドイツ語で別れを告げながらアスカはスピアを突き出す。

 

こうして、使徒はエヴァンゲリオン弐号機によってあっさりと葬られたのであった。

 

 

 

 

回想を終えたアスカはぼんやりと周りを見る。

皆が楽しそうにはしゃいでいる。

 

アスカが自分で選んだ家。

そして、ミサトが彼女の我儘を叶えようと奮闘してくれて、手に入れた家。

 

そこに皆が集まって、シンジの料理が並んで、アスカのことを祝ってくれている。

 

「アスカ、本当によくやったわ」

 

ミサトが笑顔でアスカの頭を撫でる。

それを見ながら、ニコニコと楽しそうに笑うシンジ少年がアスカのお皿にソーセージとケバブとパスタを山盛りに盛り付けてくれている。

 

「ミサト……」

「ん?」

「……いや、何でもない」

「そう……」

 

 

アスカは今、幸せだった。

 

涙が出そうなくらい、幸せだった。

 




  予告

些細なことで喧嘩をしてしまったシンジ少年とアスカ。
そんな中、厄介な使徒が出現し、心がバラバラの2人は敗戦してしまう。
ミサトは2人に息を合わせるための特訓を課すことを決意する。
碇シンジと惣流・アスカ・ラングレー。
運命で出会った2人は心を重ねられるのか。

  次回
ずっと、心、重ねていて【前編】

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