宇佐見蓮子は覚を詠む ~memory read 作:フロウリバー
旧相武病院での恐怖体験から数カ月後、11月も下旬に差し掛かり、コートがないと寒くて外も出歩けない。そんな日、私はいつものように京都大学へ行っていた。大学での講義の内容は面白いんだかつまらないんだか、というような感じだ。つまりいつも通り。そんな大学の講義も全て受け終わり、帰ろうかな、と思ったときだった。大学内にけたたましいアラームが鳴り響いた。
『大学内の生徒教授、全てにお伝えします。ただいま構内に刃物を持った不審者が入り込みました。直ちに非常口からお逃げください。繰り返します・・・』
瞬間、大学内にいた人たちは一斉に非常口に向かって逃げ出した。しかし私は非常口に向かって逃げようとすると刃物を持った不審者がそこにやってきてしまうのでは?と危惧し、あえて校内のどこかに隠れようと考え、走り出した。
午後7時、警察は一体何をやっているのだろうか。
結局、非常口に逃げ出した奴らの大半が不審者に切りつけられたり、負傷してしまい、中には死んでしまった者もいたんだとか。そんな中、私の判断は正しかったようで、一時的にロッカーに身を潜めることで不審者の追跡を振り切った。不審者の足音が聞こえなくなってから数十分後、ようやく私はロッカーから出た。外ではパトカーの音が鳴っている。早く助けてほしいものだ。そう思いながら私はなんとなく鏡の前を通り過ぎようとした。その時だ。後ろから足音が聞こえてきた。なんだ?と私が振り返ると、そこには血に濡れたナイフを持った不審者の姿があった。
「・・・」
「・・・」
私と不審者の間に異様な雰囲気が漂う。するとしびれを切らしたのかは知らないが、不審者は口の端を歪めると、私に刃を向け、走って向かってきた。それに合わせ、私も走り出す。さぁ、命を懸けた鬼ごっこのスタートだ・・・・・・しかし、命が危ういのは不審者の方だが。
「ヘブンズ・ドアー!」
瞬間、私は能力、ヘブンズ・ドアーを発動し、不審者の顔を本に変える。
「君の記憶を読ませてもらう」
不審者の記憶を読む限り、この他にも別の学校や店などで人を殺傷してきたようだ。性別は男。残虐性を持っている。弱い者いじめをするのは最高にスカッとする、エラソーなやつを殺した時は更に気分が高揚するらしい。
「こんなやつが私達と同じ人間だなんて、考えたくもないな」
そう思いつつ、男に命令を書き込む。
『30分間、意識を失う』
これで暫くは動かないことだろう。私はそう思いつつ、その場を離れた。と、物陰から人が現れ、こちらに歩み寄ってくる。誰だ?と思いながら、私は少し身構える。しかし、すぐに渡しは警戒を解いた。なぜなら、かなり見慣れた人物だったからだ。肩にかかる程度の長さの金髪、紫色の服、特徴的な帽子。間違いない。よく講義で見かける「マエリベリー・ハーン」さんだ。そんなことを考えていると、マエリベリーさんは
「あの・・・その不審者の人倒れてますけど・・・もしかしてあなたが?」
と、少し怯えたような口調で私に話しかけてくる。私は彼女を落ち着かせるために
「あぁ・・・まぁ確かにそうですが、一時的に気絶させただけです。暫くは起きません」
と返答する。それでもまだ私に対する恐怖が拭えていないのか、
「そ、そうですか」
と。少し震えたような口調で話す。
「でもいつまでもここにいるのは危険ですし、ここを出ましょう」
私がそう提案すると、マエリベリーさんは
「は、はい。そうですね」
と少し頼りなさげに答える。まぁそんなわけで私達は大学の非常口へと歩みを進めた。
マエリベリーさんと行動をともにしてから数分後、目の前に一つの大きな鏡が現れた。心なしか、不気味な雰囲気も漂ってくる。まさか、ね。
「こんな鏡、大学にありましたっけ?」
マエリベリーさんのその一言で、私は確信した。この鏡はなにかまずい、と。
「マエリベリーさん、少し後ろへ下がって」
私はマエリベリーさんにそう命令する。
「わ、わかったわ」
少し疑問に思いつつも、マエリベリーさんは後ろに下がってくれた。これで準備はよし。
(ヘブンズ・ドアー)
心のなかで私はそう唱える。私の背後からゆっくりと出現するヘブンズ・ドアー。ヘブンズ・ドアーが完全に出現した、その瞬間、鏡から血まみれの女が飛び出してくる。
「キャァァァァ!!」
後ろから絶叫するマエリベリーさんの声が聞こえるが気にしない。
「ヘブンズ・ドアァーーーッ!!」
私も叫ぶ。そしてヘブンズ・ドアーは鏡の都市伝説「ブラッディ・メアリー」の手を避けると、瞬く間にブラッディ・メアリーを本にする。
「命令を書き込む!」
『鏡の世界に戻り、二度と鏡の外に出ることはない』
ブラッディ・メアリーにそう書き込むと、マエリベリーさんの手を引っ張り、駆け出す。突然手を掴んで走り出したためか、マエリベリーさんは短い悲鳴を上げたが、私は走るスピードを上げ、非常口へ急ぐ。このままこの大学に残っていてはならない。なぜなら、もうナイフを持った不審者が気絶から解かれる頃だからだ。このまま逃げ切らなくてはならない。非常口のノブを捻り、外へ飛び出す。階段を駆け下りている暇はないので、マエリベリーさんを抱えて階段から地面に飛び降りる。その際、あらかじめ自身に『落下ダメージを受けない』と命令を書き込んでおいたので着地のダメージはない。突然抱き抱えられて思いっきり下へ落ちていったためか、マエリベリーさんは今度こそ悲鳴を上げた。
数十分後、大学内へ突入した警察部隊によって犯人は無事捕まり、校内は安全になった。しかし、マエリベリーさんにはいろいろと驚かせてしまって申し訳なかったので、ジュースを一本奢ってあげた。
「はぁ、それにしても蓮子さん。あなたも『ギフト』の力を持っていたんですね」
「・・・ギフト?なんですかそれ?」
聞き慣れない単語が出てきたので思わず聞き返す。
「『ギフト』ですよ。ほら、貴女がさっき出していたシルクハットの少年。あれのことですよ」
「え?アレ『ギフト』って言うの?っていうか貴女にも視えてたの?え?」
マエリベリーさんの突然の告白に私は目が点になってしまっていた。
「知らなかったんですか?へぇ。私も『ギフト』の力を持っているんです。だから貴女の『ギフト』が視えたんですよ」
「・・・コレもまた運命ってやつですかね?マエリベリーさん」
「そうかも知れませんね」
私とマエリベリーさんは夜空を見上げながら暫く談笑していた。後日、マエリベリーさんが「秘封倶楽部」の入部届を持ってサークル室に駆け込んでくるのだが、それはまた別の話。
to be continued
今回は心霊スポットとかの話ではなく、有名な都市伝説を利用し、京都大学を舞台としたストーリーを展開してみました。そして今回の話でようやくメリーが登場しました。今回は出会ったばかり、という設定でやっているため、どことなくぎこちない関係となっています。
まぁ言いたいことは言い終わったので、それでは