宇佐見蓮子は覚を詠む ~memory read 作:フロウリバー
「ねぇ蓮子、今日から大学は一ヶ月くらい休みだけどどこに行くの?」
「青森」
私はマエリベリー・ハーン(発音しにくいためメリーと呼んでいる)の問いに素っ気なく返す。
「青森?なんでまた」
「同人誌のネタを集めるための取材旅行に行くからだよ。もちろんメリー、あなたにも来てもらうわ。」
「私も?・・・まぁ蓮子のご指名だったら行くしかないわね。わかったわ」
メリーは多少渋ったようだが、どうやら旅行に付いてきてくれるようだ。
「日時は明後日。それまでに旅行の支度はしておきなさいよ」
「わかったわ蓮子」
翌々日、私達は新幹線で京都から青森まで向かった。そして新幹線に乗ること数時間。遂に青森に到着した。
「そういえば、蓮子はなんで同人誌のネタ集めの取材のために青森に行こうと思ったの?」
唐突なメリーの問いに答えるのに数秒間の時間を要した。
「・・・青森のある山奥に秘匿された村があるらしい。なんでもその村は地図から消された村なんだとさ。その村について地元の人達に話を聞くためだよ。」
「そういうことなのね」
予約していた旅館に荷物を預けてきた後、暫くメリーと雑談しながら取材の目的地まで歩いていった。そして取材先の山に到着し、その山の中を入っていくと、一軒の村を発見した。そう、今回の目的地、それは秘匿された村の側にあるという、「杉村」という村だ。なんでも「杉村」の住人たちは秘匿された村について情報を持っているというのだ。その情報を聞き出さない手はない。
「すみません。」
その辺を歩いていた老人に話しかける。
「おや、旅の人ですか?どうしました?」
すると、当たり前だが老人から返答が来た。
「取材で来たものです。突然ですみませんが、秘匿された村、『杉沢村』についてなにか知っていることはありませんか?もしあるなら少しでいいので情報をくださいませんか?」
老人にそう問うと、老人は
「・・・あの村には近づいてはならん。あの村では昔大量殺人が起こった。その事件で殺された村人たちの怨念があの村には宿っている。故にあの村に入ったが最後、二度と出てはこれない。」
「・・・・・・情報提供、感謝します。それではお邪魔しました。」
私は老人の口から発せられた話に内心では驚きつつも、あくまでポーカーフェイスでメモを取り、感謝を述べると、村を出ることにした。
しかし、村を出てから数分後、今度は謎の看板が掲げられている村に到着した。その看板は血塗られていて、なんて書いてあるのかよく分からなかった。看板には『✗✗村』と書かれていた。(✗の部分は血塗られていて分からなかった)
「なんだ?この村。嫌な予感がする。」
私が呟くが、メリーは
「でもなんか冒険の匂いがするし、入ってみる?」
と言い、先に入って言ってしまった。
「あッ!メリー、待ちなさい」
私もメリーの後を追って村に入って行ってしまった。思えばこのとき、なぜこの村が『✗✗村』だということに気が付かなかったのだろうか。
「なんなんだこの村・・・なにか異様な雰囲気を感じる」
私は村の奇妙な雰囲気になにかしらの怨念を覚えていた。
「ねぇ蓮子、この村・・・人が一人もいないわよ」
メリーにそう言われてハッと気付く。そういえば、この村に入ってから数時間経つが、一向に誰も来ない。
「この村・・・なんなんだ?」
私が額の汗を拭いつつそう呟いた瞬間だった。
誰もいないはずの家から、男が出てきたのだ。半透明の男が。しかも錆びついた鎌を持っている。すると鎌を持った男は私達に狙いを定めたかと思うと、
「ウシャアァァァァァァァァ!!」
と、奇声を上げながらこちらへ向かってきた。
「貴様!!何者だァァッ!!」
私は男に向かってそう怒鳴りながらヘブンズ・ドアーを発動させる。
「ヘブンズ・ドアァーッ!!」
男を本に変え、私は男の記憶を読む。
『私はこの村の住民。私は怨念から現世に留まっている怨霊。この「杉沢村」は殺された我々村人たちの怨念で再び蘇った村。』
本にした男の記憶にはそう書かれていた。
「まずい!スゴくまずいぞ!私達の前に立ちはだかるのは・・・村自体だ。人々の怨念だ!!」
この村を出るしか、助かる道はない!そうしなければ、きっと私達も殺されてしまう!
メリーも私が浮かべている表情から状況を察したのか、
「早くここから出よう、蓮子」
と言った。
「ええ、言われなくてもそうするつもりよ」
私はゆっくりと立ち上がると踵を返し、メリーと走り出す。出口までのルートは暗記済みだ。立ち止まっている暇はない。しかし、私達を阻む障害はまだあったのだ。
「逃がさんぞ旅の者!!この村に入ったからには死んでもらう!!」
複数人の男たちがそれぞれ鍬、鎌、斧、ナイフなどを持って私達に襲いかかる。この人数ではいくらヘブンズ・ドアーでも対応しきれない。どうする。と考えていると、メリーが
「スティッキィ・フィンガーズ!!」
と叫ぶ。突然のことに、なんだ?と思っていると、メリーから”なにか”が飛び出してきた。
その”なにか”は襲ってきた村人たちをものすごい速さで殴りつけ、瞬く間に無力化してしまった。やられた村人たちをよく見てみると、体にジッパーが取り付けられていた。
「メリー、それって・・・」
私が言い終わる前に
「えぇそうよ。これが私に備わった能力、スティッキィ・フィンガーズ。触れたものにジッパーを取りつける」
こいつは頼もしい。内心そう思いながら私達は村の出口まで駆け抜ける。しかし、その後も怨霊は襲いかかってくる。そして怨霊の鎌の切っ先がメリーの肩口を切り裂く。
「うあぁッ!!」
想像以上の痛みだったのかメリーは絶叫に近い悲鳴を上げた。
傷の深さはおよそ一センチメートル。メリーの肩口からは血が溢れ出していた。
「まだ止血できる範囲だ。よし」
私はぼそっと呟きながら怨霊をヘブンズ・ドアーで無力化する。先を急がなければ。ここでモタモタしていたらいずれメリーは出血多量で失血死してしまう。私は少しだけ焦りを感じていた。もうすぐで村の出口が見えて来るはず。そう思いながら、私は負傷したメリーを担ぎ、これまで以上にスピードを上げ走った。
ようやく村の出口に到着し、ようやく出られる、と思ったそのとき、後ろからとてつもない気配を感じ振り向くと、刀を持った大男が私達の背後わずか3mのところに立っていた。
「部外者がこの村に立ち入った場合は、絶対に始末する。それがこの村の掟だ。だからお前たちはここで死んでもらう」
男は私達に向かってそう言う。
「・・・確かにそれは村の掟なんだろうし、部外者とはいえ村に立ち入ってしまった私達も村の掟に則って死ななければならない。だが帰る。そして二度と来るつもりもない」
男に向かってそう吐き捨てると、私達は村を出た。そして村への入口があった場所に顔を向けると、もうそこに村はなかった。
帰りの道中、一回メリーを私の背中から下ろし、ヘブンズ・ドアーで
『傷からの出血は止まる』
とメリーに書き込む。それで出血は止まったが、まだ傷口を塞げていない。私は彼女の傷に消毒液を吹きかけ、たまたま持っていた包帯を彼女の肩に巻きつける。その際、傷口に消毒液を吹きかけられたことで痛みを感じたのか
「ヒッ!」
とメリーは小さい悲鳴をあげる。しかしそんなことは気にせずに応急手当を行う。
応急手当が終わった後、私達は旅館までの道を無言で歩いていた。
「ねぇ蓮子」
メリーは沈黙を破り、私に問いかける。
「どうしたのメリー」
私も彼女に言葉を返す。
「あの村は一体何だったの?」
「あの村は・・・怨念の集合体。怨念を原動力に存在している村。普通の人間なら入ったら確実に死ぬ。だから二度とあそこに近づいてはならない。もしもう一度あそこに近づけば・・・私達は多分、殺されてしまうだろう」
と、そこまで言い終わった後、メリーは
「私達、ちょっと罰当たりなことしちゃったのかな?」
と呟くように私に問いかける。
「・・・確かにそうかも知れない。」
私もぼそっと呟くように彼女の問いに言葉を返す。旅館に到着するまでの間、再び私達の間には沈黙が生じた。村を出る瞬間、村人が言った「今回は見逃してやる。だが次はない。全く罰当たりな奴らよ」という言葉・・・それが未だに頭にこびりついて離れない。夕暮れ時の山道で、私は一人そう思っていた。
to be continued
今回は少しだけダークな締め方にしてみたんですがどうでしょうか?
このシリーズでの季節は秋ですが、現実世界ではクソ暑い夏です。畜生。連日暑い日が続いており、家から出たくない所存でございます。さて、今回の話は都市伝説の『杉沢村伝説』を元ネタにして、要所要所に「岸辺露伴は動かない」の「富豪村」での露伴の発言をオマージュした部分を取り入れ、話を展開してみました。杉沢村は青森にある、という話から舞台は青森にしました。杉沢村は精神がイカれてしまった男が、昔村人全員を皆殺しにした、という噂もあります。やっぱり一番怖いのは人間ですね。それでは今回はこれで。