宇佐見蓮子は覚を詠む ~memory read   作:フロウリバー

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大学帰りの蓮子を襲ったのは今まで邂逅してきた怪異の中でも最大にして最凶の怪異だった。そんな怪異を前に蓮子の命も風前の灯と化してしまう。「岸辺露伴は動かない」、「東方project」を原作としたホラー短編ストーリー第6弾。


第六話:姦姦蛇螺ノ怪

 大学帰り、私はとある森に迷い込んだ。

「ここは・・・どこだ。いつからこんなところに」

普通に帰り道を歩いていただけだったはずなのだが、いつの間にかこんな森にたどり着いていた。まぁいっか、と思いながら森の中を歩いていると、

チリン、

と、鈴の音が鳴った。しかも複数の鈴が。なんなんだよ、と思っていると、背後からガサガサ、という音が聞こえ、振り返ると同時に大きな衝撃が左脇腹を襲う。

「ッ!?」

叫び声を上げる間もなく、私はとんでもない勢いでぶっ飛ばされ、大木に背中を打ち付ける。衝撃を受けた左脇腹からは血が溢れ出ていた。そして口からも少しだが血が吐き出される。ゆっくりと立ち上がり、前を見ると、腕が六本、足は蛇、という異形の怪物が立っていた。

「・・・お前は誰だ」

私は怪物に問うが、怪物はそんな問いなど意に介さず、というような様子で再び攻撃を始めてきた。

「ヘブンズ・ドアー!」

私はヘブンズ・ドアーを発動させ、怪物を本に変えようとするが、その前に私が吹き飛ばされる。ヘブンズ・ドアーで攻撃を防御したからダメージは少なかったが、脇腹からの大出血というハンディキャップを背負っている状態での戦闘は厳しい。

「ヘブンズ・ドアー!!命令を書き込む」

『脇腹からの出血が止まる』

自分にそう書き込み、脇腹からの出血は止まったが、止めどない痛みが脇腹を襲ってくるため、この戦いはかなり不利だ。と、怪物の攻撃は止まず、鉤爪による攻撃を仕掛けてくる。間一髪で鉤爪攻撃を避けるが、鉤爪は額を掠めていき、被っていた帽子のつばをを切り裂き吹き飛ばす。しかし攻撃はまだ止まない。鉤爪の攻撃で肩を切り裂かれ、血が吹き出す。

「うッ!!」

痛みのあまり短い悲鳴が口から漏れ出る。咄嗟に切り裂かれた肩を抑える。それを見ていた怪物は愉快そうに体をくねらせる。もしかして喜んでいるのだろうか。また怪物は攻撃を開始する。今度は腕での薙ぎ払いか。怪物の腕が私を襲う。私はヘブンズ・ドアーでガードするが、吹き飛ばされる。腕での薙ぎ払いのダメージはないが、背中を地面に強く打ち付け、一瞬呼吸が止まった。そして鉤爪での斬撃が私を遅い、鳩尾を薄く切り裂いていく。そして今度は拳が襲いかかってくる。その攻撃をヘブンズ・ドアーでガードするが、やはり威力を殺しきれず、頭から地面に突っ込んでいく。幸い致命傷は免れたが、側頭部からは血が流れ出していた。と、私はあることに気付く。

「六本の腕、大蛇の足・・・まさか・・・姦姦蛇螺(かんかんだら)!」

 怪物もとい姦姦蛇螺は鉤爪と薙ぎ払いの攻撃を同時に行ってくる。しかし、私は噛みしめるように呟く。

「ヘブンズ・ドアー」

そして姦姦蛇螺を瞬く間に本に変え、動きを封じる。

「この姦姦蛇螺は・・・やはり噂の通り下半身を失って大蛇に食われ、怨霊と化した巫女だ。まさかとは思っていたが・・・本当に存在するとは思わなかったよ」

 姦姦蛇螺の記憶を読みながら私は呟く。

「ヘブンズ・ドアー。命令を書き込む」

『封印されていた場所に戻り、二度と活動することはない』

と、姦姦蛇螺に書き込み、私はもと来た道を引き返す。しかし、先程止血したはずの左脇腹から再び血が流れ出している。それに肩の血も止まっておらず、薄く切り裂かれた鳩尾からも血が滲み出ており、頭からの血も流れている。血を少し流しすぎたのだろうか。足元もおぼつかなくなり、視界も霞んできて、そのまま地面に倒れ込んでしまった。そこから数時間の記憶はなかった。

 

 目を開けると、最初に見えた景色は病院の天井だった。なんで病院に?と疑問符を浮かべていると、私が起きたことに気がついたのか、横で椅子に座っていたメリーが私に話しかける。

「起きた?蓮子」

「えぇ・・・っていうか、なんで私は病院にいるの?」

「忘れたの?あなた森の道端で傷だらけで倒れてたらしいじゃない。散歩してる人が今朝道端で倒れている貴女を発見したらしいけど、その人がいなかったらあなた死んでたかもしれないのよ?」

あぁ・・そうか・・・昨日姦姦蛇螺と戦ったあと、気を失ってしまっていたのか。

「心配かけてすまなかったわねメリー」

傍にあったメリーの手を握りながら答えると、メリーの手を握った私の手の甲に雫が垂れた。なんの雫だ?と思い、顔をあげる。手に落ちた雫はメリーの目から零れ落ちたものだった。

「ほんとよ。全く・・・心配掛けさせるんじゃないわよ」

震える声でメリーはそう言った。

「ごめん・・・メリー」

私からは涙のかわりに謝罪の言葉が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 姦姦蛇螺、それは古くから言い伝えられている伝承。話の内容は

『かつて人を喰う大蛇がとある村を襲って暴れ、たまりかねた村人たちが霊的能力を持った一族に対処を頼み込み、一族の中でも飛びぬけて強い力を持っていた一人の巫女が大蛇退治に派遣されることとなった。しかし、激しい戦いの末に巫女は下半身を喰われ、それでも抵抗を試みて大蛇を苦戦させるも、敵わぬと見た家族や村人らは大蛇に「巫女を生け贄に捧げる代わりに村を去る」ことを提案。散々に苦しめられて巫女に恨み骨髄だった大蛇もこれを受け入れ、巫女は家族と村人に両腕も切り落とされ、大蛇に喰われてしまった。そして、約定通り大蛇は去り、村には平穏が訪れたかに見えた。この惨劇は巫女の存在を疎んでいた家族らの謀略も絡んでいたらしい。

 だが、しばらくすると最初に巫女を生贄にした家族と村人が呪い殺され、他の村人も次々と呪い殺され、結局は四人を残して村は全滅したのだという。また、これに合わせて姦姦蛇螺が目撃されるようになり、人々は巫女の怨念か何かだと恐れた。生き延びた四人は手当たり次第に呪法をかき集め、姦姦蛇螺を封じ込める儀式を編み出したのだと思われる。

封印に関与する者だけがこれらの事情と、対処できる拝み屋への連絡先を受け継いでいく』

というようなものだ。そして、ネット掲示板で当時中学生だった語り手とその友人二人の体験談が投稿された。その内容としては

『当時グレていて怖い者知らずだった三人は、地元の森にあった「立ち入り禁止」の区域に立ち入ってしまったことで「姦姦蛇螺」に遭遇してしまう。』というものだった。

姦姦蛇螺の呼び名は様々で、古くは「姦姦唾螺(かんかんじゃら)」、「姦姦蛇螺(かんかんだら)」、俗称は「生離蛇螺(なりじゃら)」、「生離唾螺(なりだら)」「蛇螺(だら)」などがあるそうだ。

 と、姦姦蛇螺の解説はここまで。

 

 数週間後、傷はほぼ完全に塞がり、退院の許可が降りたので退院した。退院した帰り、迎えに来てくれたメリーと喫茶店に寄った。その喫茶店で飲み物を飲みながらご飯が来るのを待っていると、メリーが

「そういえば蓮子はなんであんな大怪我を負っていたの?」

と聞いてくる。何拍かおいてから私は静かに口を開く。

「大学帰りに、森に迷い込んだの。で、その森から抜け出そうと歩き回っていたら、姦姦蛇螺という怪物に出会って、そこでそいつと戦闘になった。その戦闘で大怪我を負ったってわけ」

 私が話し終わると、メリーは唖然とした表情で

「そんなことが・・・」

と言っていた。

 

 常識では考えられない怪異。その怪異に望まぬ形で邂逅してしまうとは思わなかった。一歩間違えれば殺されていた。そんな体験が私の心に深い恐怖を落としていった。もう姦姦蛇螺には会いたくない。

 

to be continued

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