ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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1話 デジタルモンスターとの出会い、怒りのアルラウモン!

 ソードアート・オンライン、通称SAO。2022年11月6日、正式サービス開始。

 初のVRMMORPGは一人の狂人の手によってログアウト不可、ゲームでの死が現実の死に直結するデスゲームと化した。これは、少年と…デジタルモンスターのお話。

 

 

 浮遊城アインクラッド第1層、ホルンカ近くの森にて一人の少年が森を駆けていた。

 彼の名前はキリト、この物語の主人公(ヒーロー)だ。彼はこのデスゲームに巻き込まれてから、すぐさま行動を起こした。

 この世界での初めての友人と別れを告げ、剣を取り戦うことを選んだのだ。少年はこの森に潜む敵から手に入るアイテムを探していた。

 

「……10体以上倒しても出ないか…。参ったな…」

 

 キリトは困った顔で頭をかいた。彼が受けている《森の秘薬》というクエストは、リトルネペントという植物のモンスターを倒すと入手できる《リトルネペントの胚珠》が必要なのだが…。

 困ったことに、花が咲いているレアエネミーしかドロップしない。有志のベータテスターが調べたところ、出てくる確率は1%を切っているらしい。

 

「とはいえ狩りまくればいずれ出てくるから…。……俺の運がただ悪いだけなら笑えるんだがなー」

 

 キリトは花付きの出現率が下げられた可能性も考え、もう少し頑張ってみることにした。……それに、彼の心配は他にもあった。

 花付きと同じくらいの確率で出現する丸い実を付けた個体、通称実付きだ。こいつの実を攻撃して破裂させてしまえば最後、広範囲に同種を呼び寄せられ袋叩きに遭い死ぬ。

 ベータテストの時は笑い話で済んでいたが、デスゲームとなったSAOではシャレにならない大惨事だ。

 18体目を倒したキリトの聴覚にレベルアップのファンファーレが鳴り響く。

 

「お、これでやっと2か。…先は長いな。……!誰だ!?」

 

 ステータスを割り振ったキリトは、突然響いた乾いた音に驚きその方向へ剣を向けた。…そこにいたのはキリトと同年代に見える少年プレイヤーだった。

 警戒するキリトに、少年はぎこちない笑みを浮かべて謝罪してきた。

 

「あ、ごめんねいきなり。最初に声をかけるべきだった…」

 

「いや、いいよ。こっちも大げさだった」

 

 キリトも彼に謝罪する。…デスゲームになれば、ゲーム内の治安は必ず悪化すると思い込んでいたが…1日2日でどうにかなるわけもあるまいと彼は反省した。

 

「れ、レベルアップおめでとう」

 

「え、あー……ありがとう。…まさか、俺以外のやつがこの森に来るのはもうちょっと先だと思ってた」

 

「僕も一番乗りだと思ってたよ。…この辺、道がわかりにくいだろう?ネペントのPOPはこの辺りが最高効率だからしばらくは狩りまくれると思ったんだけどな…」

 

 キリトはそれを聞いて、この少年も元ベータテスト経験者だと気づく。

 ちょうど夏真っ盛りに行われたソードアート・オンラインのベータテストは、運のいい(…とは、今は口が裂けても言えないが)千人のゲーマーを虜にした。

 ……キリトもまた、その一人。二ヶ月の間貯めこんだ知識は、きっとこれからの戦いに役立つことだろう。

 

「君もやってるんだろう、《森の秘薬》クエ。《アニールブレード》は1層で手に入る剣じゃ一番強いから」

 

「ああ、いい剣だよなアニブレ」

 

「……そうだ、せっかくだし協力してクエストやろうよ。その方が効率いいし」

 

「ん?秘薬クエってソロ用じゃ……あ、そっか。俺らでノーマルネペント乱獲するってことだな?…悪いやつだなお前」

 

 キリトはニヤリと少年に笑みを浮かべると、少年も頬を緩ませた。

 

「そういうこと!…ああ、パーティーは組まなくていいよ。出現率ブーストの恩恵に与れれば十分だからさ」

 

「……お、おう…。それで行こう」

 

「僕はコペル、短い間だけどよろしく」

 

「………キリトだ」

 

 コペルと名乗った少年は軽く首をかしげた。

 

「………あれ、どっかで聞いたことあるような…?」

 

「気のせいだよ多分。ほら、他のプレイヤーが来る前に胚珠を二人分ゲットしなきゃ」

 

「そ、そうだね!」

 

 

 リトルネペント退治は順調に進んだものの、肝心の花付きとは一度も出くわすことはできなかった。

 キリトとコペルは次のネペントがPOPするまでの間雑談して待っていた。

 

「……え、もうコペルはレベル6?ずいぶん速いな…?」

 

「ああ、このエリアに来る前になんか…むちゃくちゃ弱いくせに経験値が多く貰えるMOBがたくさんいる場所に迷い込んでね。頭に若葉みたいなのが生えてたんだけど…」

 

「…なんだそりゃ、ネペントじゃないのか?」

 

「違う。ネペントはキモイ感じだけどそいつは小さくてマスコットみたいな感じ。……倒そうとすると命乞い始めるのがめんどくさいけど」

 

 コペルはうんざりした顔でそのモンスターのことを思い出していた様子だった。このまま愚痴が始まったら嫌だなと感じたキリトは話題を切り替えようと試みた。

 

「…どうする?1時間粘ってみたけど、出ないってことは調整で出現率下げられてる可能性があるぞ。MMOじゃよくあることだ」

 

「……ありえるなぁ…。どうする、いったん村に戻ってから…」

 

 コペルがそう言おうとした瞬間、そのネペントはPOPした。……頂上に、花が咲いている…!

 

「「………で、出た!!」」

 

 二人は花付きに斬りかかろうとするが、キリトは奥でもう一体のネペントが出現するところを見て顔を硬直させる。そいつの頭に生えていたのは、丸い実だった。

 

「待てコペル!あっちに実付きが…!」

 

「うわ、マジか…。……どうする?」

 

「どうするって…」

 

 このまま花付きを放置するわけにもいかないが、実付きを同時に相手するのは危険すぎる。悩むキリトに、コペルは囁いた。

 

「……実付きの相手は任せてくれ、キリトは花付きを速攻で始末するんだ!」

 

「…………あ、ああわかった。しくじるなよ!」

 

 コペルが実付きに近づこうとするのを花付きは妨害しようとする。キリトは花付きの敵意をコペルから逸らすために剣を振るった。

 

「こっちだ!」

 

 キリトはネペントのツルを弾き、ソードスキルで弱点を綺麗に断ち切った。倒されたネペントの花が散り、その中から球体が転がり落ちる。

 目的のアイテムである《胚珠》を拾ったキリトは、少し離れた位置にいるコペルに向かって叫んだ。

 

「胚珠ゲットしたぞ、すぐに助けに行くから待っててくれ!」

 

「わかった、胚珠はポーチに入れた?無くしたら大変だからね」

 

「ああ、そこは大丈夫だ………。………?」

 

 キリトはコペルの視線に妙なものを感じた。疑い、あるいは哀れみのこもった眼だ。

 いぶかし気に彼を見つめていたキリトに、コペルは短く言い放った。

 

「…お疲れ、キリト」

 

「……え?」

 

 コペルは実付きの頭のてっぺんに揺れる実を剣で叩きつける。実の中に充満していた煙が辺り一面にまき散らされ、キリトは信じられない目で少年を見た。

 ……それは、死への片道切符だった。

 

「おま、お前ッ…!!」

 

「……じゃあ、30分くらいしたらポーチを回収しに戻るよ。……ごめん」

 

 コペルはレベル補正をフルに利用した身体能力でその場から逃げ出した。

 

(……逃げ切れるわけがない…!!こいつらは《隠蔽(ハイディング)》の効果が薄いんだぞ、隠れるのも不可能だ…!)

 

 そこまで考えたキリトは彼の目的に気づいた。…これはモンスターによるプレイヤーキル、《MPK》だ。

 彼の目的はついさっきポーチに入れた胚珠だろう。ネペントに殺されたキリトの荷物を奪い取るつもりなのだ。

 

「………死んで、たまるか…。…こんな場所で、終われるか…!!」

 

 キリトの目には、目の前に群がるネペントしか映らない。この絶望的状況で生き残るには、斬撃の回数をギリギリまで減らし、かつ弱点に威力をフルブーストしたソードスキルで敵を一撃一殺するしかない。

 

 

 十数分、あるいは数分の間キリトは剣を振り続けた。剣はボロボロ、HPは残りわずか。…それでも彼は生きている。

 

「………生き残った、のか…」

 

 キリトは呆然と呟いた。……ふと地面を見ると、そこにはネペントの《胚珠》が落ちている。一瞬落としたかなとポーチを漁ったキリトは胚珠を取り出した。

 

「……なんだ、ちゃんと待っていたら二匹目も出てきたじゃないか…」

 

 彼はコペルが逃げた方向に歩き始めた。おそらくあの状況では死んでいるだろうが、万が一生きていたらまた命を狙われる可能性がある。

 …あるいは、彼をこの手で殺さなければいけないかもしれないとキリトは剣を握りしめた。

 

 

 …歩き始めて数分。

 

「あああああ………」

 

「…今の声、コペル…!」

 

 キリトは急いで彼のいるであろう場所に走った。…そこに、コペルはいた。

 

「ニンゲンめ!よくもタネモンたちを殺したな!!」

 

「あ、あが、が…」

 

 キリトは驚きで目を見開いた。紫の花を咲かせた植物のような爬虫類のようなモンスターが、コペルを手から伸びたツタで拘束している。彼の口からはよだれが垂れ、目の焦点が合っていなかった。

 

(……なんだ、あいつは…!?ベータテストでも見たことがない、新種?それともレアモンスターか!?)

 

 キリトはそのモンスター、《アルラウモン》に警戒する。アルラウモンは明らかにコペルに強い敵意を向けていた。

 

「だ、ず…げ……」

 

「死ねエエエエエエ!!!」

 

 アルラウモンはコペルをすごい勢いで樹に叩きつけた。ゴキリという鈍い音、コペルの首があり得ない方向に曲がる。

 そんなことになってしまったコペルは、しばらく痙攣してからガラス片のようになって爆散してしまった。………これが、この世界の《死》だ。

 

「………ッ!!」

 

 あまりにも残酷な仕打ちにキリトは少なからずショックを受けた。いったいどのような悪事を行えばこんなことになるのだろう。

 アルラウモンは興奮したままキリトの方を睨みつけた。

 

「……ン!?またニンゲンだ!!どうせオマエもタネモンを狙いに来たんだろう!!」

 

「おい、ちょっと待て!話し合おうぜ、うん!」

 

「黙れええええ!!《ネメシスアイビー》!!」

 

 アルラウモンはキリトに向かってツタを伸ばしてくる。キリトは剣で弾こうとするが…。

 

 …ネペントとの死闘で限界だったのだろうか、キリトのスモールソードはアルラウモンの攻撃で砕け散った。

 

「…クソ、よりによってここで折れるのか…!!」

 

 予備の剣を買っておけばよかったとキリトは激しく後悔する。アルラウモンは剣が折れ動揺する彼を嘲笑った。

 

「ハッ、命乞いすれば痛めつけずにすぐ殺してやるぞ!」

 

(………どうする、せめて武器があれば…!)

 

 キリトは必死に武器になりそうなものを探し、()()を見つける。……アルラウモンの後ろに、スモールソードと盾が落ちていた。おそらく、死んだコペルの遺品だろう。

 逆転の一手を思いついたキリトは、にやりと笑った。

 

「その必要はないぜ。俺は、武器をもう一本持っているからな!」

 

 キリトはストレージから一本の木の枝を取り出し、剣のように構えた。アルラウモンは困惑した顔で枝を見つめた。

 

「……???その枝で戦うつもりか?」

 

「そうだ!」

 

「……………」

 

 無言でアルラウモンは構え直す。だが、明らかに何か言いたそうだった。もし敵ではなく友人ならバーカとでも返していただろう。

 

(よし、これでいい…!このまま枝に集中しててくれ…)

 

「おおおおおお!!」

 

 キリトは全力でアルラウモンに木の枝を振り下ろす。ソードスキルが発動するわけでもないし、枝はアルラウモンの頭を殴った瞬間へし折れた。

 ほんの少しだけHPが削れたアルラウモンが反撃のためにツタでキリトを拘束しようとするが、キリトの《バーチカル》がツタを切り裂いた。

 コペルの剣は耐久値がまだ残っているが、いつ折れてもおかしくない。キリトは短期決戦を選んだ。

 

「な、なに…?その剣は……!!」

 

「これでどうだッ!!」

 

 キリトのソードスキルがアルラウモンの両腕を断ち切る!

 アルラウモンは大きく目を見開くと、そのまま地面に倒れ込んだ。両腕が欠損した彼、あるいは彼女は荒い呼吸をしながら笑みを浮かべる。

 

「……見事だ、剣士よ…。まさか、死んだ味方の武器を使うとは、思わなかった…」

 

「味方じゃないよ。…ついさっき手酷い裏切りを受けたから」

 

「そうか…、まあ…あの卑怯なニンゲンならやるんだろうな。……さあ、トドメを刺すがいい。それが勝者の義務であり、敗者の宿命だ」

 

 そう言いながらアルラウモンは目を閉じる。部位欠損ダメージは時間が経てば回復するため、確実に倒すにはこの瞬間を逃すわけにいかないだろう。

 放置しても、きっと最後までキリトと戦おうとすることは明白だった。

 

「……ああ、わかった」

 

「………最期に、名を聞かせてくれ」

 

「……キリトだ」

 

「いい、名前だな………」

 

 

 アルラウモンを倒したキリトはフラフラと村への道を歩いていた。眠気と疲労が組み合わさった最悪のコンディションだが、圏外で眠りこけるわけにもいかない。

 その道の最中、ゴツンという音がキリトの耳に届いた。

 

「………今度はなんだ?」

 

 無視して攻撃されても困るので、彼は様子を見にいくことにした。

 

 そこにいたのは、植物の芽が頭に生えた四足歩行のモンスター。どうやら、木の上にある果実を取りたいがために頭突きをしているらしい。

 …が、あまりに非力なそいつはたんこぶを作っていた。

 

「いったたぁ…。あのくだものおいしそうなのに、おちるまでまってたらはらぺこでしんじゃうよ…」

 

 キリトはスルーでも多分問題ないよなぁと内心思いながらも、その小さな生き物に話しかけた。

 

「そこで何してるんだ?」

 

「くだものをとろうとしてるの!みてわかん…」

 

 そう言いながらモンスターは振り向くと、キリトの姿を見てものすごく驚いた。

 

「わー!!に、ニンゲンだあ!?」

 

「落ち着け!危害を加える気はない!!」

 

「うそだ、けんせおってるじゃないか!」

 

 キリトはその時初めてそいつの名前が《タネモン》だということに気づいた。武器をストレージにしまいながら手をひらひら振り、敵意がないことを示す。

 

「ほら、もう持ってないぞ。話がしたいだけなんだ、これで信じてくれるか?」

 

「…………わかった、でもあやしいうごきしたらにげる」

 

 タネモンは話をしてくれる気になったようだ。それでも身体が小さく震えている。

 

「もしかして、お前の仲間はコペルにやられたのか?」

 

「……こぺ?」

 

「剣と盾持った人間だよ」

 

「……そいつしってる。みんなあいつがころした、アルラウモンはかたきをとるっておうちをとびだしていった…」

 

 キリトは悲しい気持ちになった。コペルの気持ちもタネモン達の気持ちも理解できたからだ。

 弱くて経験値を多く貰える敵が目の前に現れたらキリトだって剣を抜いて攻撃するだろう、ゲーマーとはそういう生き物だ。

 …けれど。もし、自分の家族がそんな理由で殺されたとしたら?直葉(すぐは)や母さんをお金や貴重品を多く持っていたというだけで殺されたとしたら…。

 

(……殺したやつを、許せるとは思えない)

 

 キリトは無言でタネモンの頭をなでる。矛盾を抱えたまま、彼は咄嗟に嘘をついた。

 

「そいつ、そいつは…()()()()()()()()()()()()()()()。でも、この森はもうすぐ剣を持った人間でいっぱいになる。ここにいると危ないから、どこか遠くに引っ越した方がいい」

 

 キリトの嘘に、タネモンは気づかなかった。

 

「………そっか。おしえてくれてありがとう、えっと…」

 

「キリトだ」

 

「じゃあ、またねキリト。ほかのもりであったらくだものをおすそわけするよ」

 

 そう言いながらタネモンはちょこちょこと歩き去っていった。

 キリトはその後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、再びホルンカの村に歩いていく。その足取りは、さっきよりもはっきりしていた。




<キリトメモ>

《アルラウモン》
ホルンカの森に住む未知のモンスター。紫色の花からは変な匂いがする。
手から伸びるツタには相手を混乱させる力があるらしい。

《タネモン》
アルラウモンの幼体?頭に植物の芽を生やしたマスコットみたいな見た目をしている。
戦闘能力はほとんどない。臆病で警戒心が強いようだ。
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