ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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10話 闘牛演武 ドルモン覚醒!

 十二月十四日、第二層フロアボス攻略のためにプレイヤー一行はボス部屋に到達した。

 今回レイドに集まったのはリーダーを務めるシミター使いことリンドが率いる青グループの《ドラゴンナイツ》、キバオウが率いる緑グループこと《アインクラッド解放隊》、そして新勢力の《レジェンド・ブレイブス》が主体だ。……ネズハの姿は、そこになかった。

 

「……来なかったね、ネズハさん…」

 

「さすがにハンディキャップのある彼じゃ、あの岩割りクエストを三日でクリアするのは厳しいか…。もう少しボス戦まで猶予があるかと思ってたこっちの落ち度だな…」

 

 キリトは気を取り直して演説を始めたリンドの方向を向く。

 

「それじゃあ時間になったのでレイドの編成を開始しよう!おれは今回レイドリーダーに選ばれたリンドだ、みんなよろしくなッ!」

 

「コイントスで決めたやろが、さも民意で選ばれましたみたいなツラすんなや!」

 

 キバオウの茶化しに半分は笑うが、もう半分は冷ややかな目線だった。キリトがこれからの攻略に不安を覚えていると、エギルが話しかけてきた。

 

「よお、二人とも元気そうだな!」

 

「エギルさん!第一層以来ですね!」

 

「聞けばコンビを組んだって話じゃないか、まずはおめでとうと言っておくよ」

 

「い、いやいや…コンビじゃなくって一時的な協力態勢というか、なんというか…。そっちこそ健在そうでよかったよ」

 

 キリトは苦笑いで否定する。

 

「……ところでだ、肩に乗ってるその小さいモンスターはどうした?」

 

「あー、そういえば見たことなかったんだっけ。ほら、挨拶しな」

 

「ぼくドリモン!おっちゃんはくろくっておっきいねー」

 

「オウ、よろしく!オレはエギルだ」

 

 エギルはドリモンと自己紹介を交わしてから、キリトたちに提案する。

 

「お前たち、今回はオレたちのパーティに空きがあるんだが、良ければこっちに入らないか?」

 

「い、いいのか?そりゃありがたいけど…リンドとかが文句言わないか?」

 

「…《ビーター》って呼びながらお前を非難してるのはごく一部さ。オレらは別の呼び名を使ってるしな」

 

「へえ、なんて呼んでるんですか?」

 

 アスナの質問にエギルはニッと笑いながら答えた。

 

「《ブラッキー》だ。わかりやすさで言えばビーターよりも上だと思ってるぜ?なんせビーターはベータテスト経験者とチーターを組み合わせた造語で、由来の説明無しじゃ意味がわからんからな」

 

「なんかボールに入りそうな二つ名だな…」

 

「ふふ、ブラッキーってお芝居の黒子って意味よね?キリト君は表舞台には出たがらないしピッタリかもしれないわね」

 

「へー、そうなんだな。知らなかった…」

 

 二人の様子にエギルはこれなら心配はいらないというかのように豪快に笑った。

 

「ハッハッハ、これだけ仲がいいんならアタッカーは任せても大丈夫そうだな!頼りにしてるぜ!」

 

「……ところでエギル、俺たちはどこの担当だ?」

 

「なんでもボスの取り巻きを相手にするんだとさ。ボス担当のA~F隊はリンド派閥とキバオウ派閥で独占されちまってるから、オレたちH隊はあまりってわけだ」

 

「……冗談だろ?取り巻きといっても中ボスクラスだぞナト大佐は!たった一隊で相手していい相手じゃない!」

 

 ナト大佐が中ボス相当のステータスを持っていることは攻略本にもしっかり書いてあるはずだが、いったいリンドは何を考えているのかキリトは悩んだ。

 

「……G隊は?」

 

「あっちでフロアボス担当にさせろってごねてるよ」

 

 エギルが指をさした方向で《レジェンド・ブレイブス》のメンバーがリンドに向けて自己アピールをしているのを見たアスナは頭を抱えていた。

 

「あの人たち何を考えてるのかしら…」

 

「………必死なんだろうさ、フロアボス戦で目立てばそれだけ英雄視される可能性が上がると考えてるんだろう」

 

 キリトは強化詐欺師ネズハの仲間である彼らを冷ややかに見つめた。

 

(お前らはそれでいいのか?強化詐欺でネズハが心をすり減らしていたことを知らずに、自分たちは強い装備をかき集めて英雄ぶって…。俺には、お前らが装備だけ立派な山賊にしか見えないよ…)

 

 そんなことを考えていたキリトは、リーダーのオルランドがこちらに歩いてくるのを見て目を丸くした。

 

「……ん?なんでこっちに来たんだ…?」

 

「失礼、《ナト大佐》を担当しているH隊とは(けい)らで合っているか?差し支えなければ我らが加勢しよう!」

 

「お、オルランドさん!?そんな弱気じゃいつまでたっても…」

 

 オルランドの仲間はリーダーがいきなり取り巻き担当に参加しようとしているのを見て慌てている。

 

「愚か者!そんな弱気はこっちの台詞である!伝説の勇者たるもの、困っている者を見過ごすのは言語道断!」

 

「で、でも俺ら出遅れてるんすよ?」

 

「…まだ二層ではないか。出遅れも何もないし、焦る必要もない。…いずれ、真の勇者が誰かわかる日が来よう」

 

 オルランドはエギルに手を差し伸べた。エギルはニヤリと笑みを浮かべながら握手に応じる。

 

「ではよろしく頼むぞ。お初にお目にかかるが…その特徴的な偉丈夫、エギル殿でよろしいか?」

 

「ああ、よろしく頼むオルランドさん」

 

「そして…迷宮区でお会いしたな、キリト殿。その武勇、噂に聞くだけですさまじいものだ」

 

「あ、ああ…よろしく」

 

 オルランドは自身の剣を抜いてから自信満々にポーズを決めた。

 

「心配召されるな、我ら《レジェンド・ブレイブス》が参戦したからには大佐(中ボス)であろうと将軍(大ボス)であろうと…この、()()()()()()の錆にしてくれよう!!わはははは!!」

 

(ただの《スタウトブランド》だって突っ込んだら負けなんだろうな…)

 

 自己紹介が済んで離れていったオルランドを見て、アスナは小さく呟いた。

 

「……あの人、変な人ね。強化詐欺の真相を知らなかったら、友達になりたいと思ってたかも」

 

「………そう、だな」

 

(……なんでだよ、オルランド。仲間が間違った道を進んでいるのに、どうして…)

 

 

「では、前に進むための戦いを始めよう!」

 

 レイドの調整が済んだリンドは扉を開けようと手を近づけるが、それに待ったをかける者がいた。

 

「ちょお待てや!その前に話すことあるやろがい!」

 

「なんだよぉ!?攻略本は行く前に確認しただろッ!?」

 

「そこやそこっ!攻略本とは違う変更点があった場合にどうするか決めてへんやないかアホウ!」

 

「……ッ!!」

 

 リンドは顔を逸らした。第一層では第三勢力の乱入やコボルドロードのカタナで戦場が大混乱に陥り、リーダーディアベルが死んだのだ。用心しすぎるということはないだろう。

 

「……わかってる、あの悲劇を繰り返すわけにはいかない。もし変更点が見つかったら一時撤退して戦術を練り直す」

 

「……まあ、それが妥当やな。ただ、攻略本だよりも問題や。……ここは、いっぺん自分の目でボスを見たであろうヤツに話を聞いてみようや、なあ?」

 

 キバオウがキリトの方を向いてそんなことを言ったので、彼は目が点になった。キリトは肩に乗った相棒に目線を向ける。

 

「……え、誰の事を言ってるんだあいつ??」

 

「……おもいっきりキリトのほうみてるよ」

 

「…………あー、そうだなぁ…。少なくとも、ベータの時は雑魚で出てくるトーラスと同じ攻撃をしてきたよ。ソードスキルもその延長線上を前提にしていい。……ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()一時的行動不能(スタン)は二重掛けになると麻痺(マヒ)になって、ボス戦でそうなったヤツは……」

 

 全員死んだ。キリトは心の中でそう呟く。麻痺の回復は単独だと非常に難しく、ましてや安全圏に逃げることは不可能だ。ボス戦で長時間隙を晒せば、その分死ぬリスクは跳ね上がる。

 

「……二撃目は、絶対に回避やな?んなら、とっととおっぱじめようや」

 

「ああ、行くぞみんな!!」

 

「「「うおおおおッ!!」」」

 

 ボス部屋の扉に手を押し当てたリンドの後ろ姿は、一層でのディアベルとよく似ていた。

 

 

 モンスターの攻撃は大きく分けて二つの系統に分けられる。HPを減らす直接攻撃と、デバフを与える間接攻撃だ。

 ベータ時代には一層にデバフを与えてくる敵は存在せず、デバフ使いのモンスターは第二層の迷宮区に出現するトーラス族が初めて戦う相手だった。

 ……しかし、正式サービスにおいてガジモンやベタモンが麻痺を容赦なく使ってくるため、ゲームをデザインした茅場晶彦(かやば あきひこ)は初心者への配慮を投げ捨てたのだろう。アルゴが生息域を特定していなかったら多分もっと被害が出ていたに違いない。

 

「《ナビング》が来るぞ、避けろ!!」

 

 《ナト・ザ・カーネルトーラス》のソードスキル《ナミング・インパクト》をなんとか避け、キリトたちは反撃に移る。

 

「行くぞアスナッ!」

 

「了解ッ!」

 

 キリトたちが放ったソードスキルがナト大佐のHPバー三本の内一本目を削り切る。…だが、攻撃をきちんと避けなければいけないというプレッシャーは、たとえ順調であってもストレスがかかった。

 

「頼むぞG隊、スイッチ!」

 

「任せよ!ブレイブス、突撃ぃ!!」

 

 その重圧をものともせず、《レジェンド・ブレイブス》は敵に向かっていく。

 

「キリト君、あの人たちがこっちでよかったね」

 

「ああ、そうだな…。ただ、肝心の本隊は手こずってるみたいだ…」

 

 キリトはバラン将軍を相手取っているリンドたちの方向を指さす。ナト大佐の二倍はある体格から繰り出されるナミングは、効果範囲も倍近くあり素早く退避しなければ行動不能(スタン)は避けられない…。

 

「…なんかぼこぼこにされてない?」

 

「そうだな、後方に下がってる連中の何人かは麻痺してるみたいだ…」

 

 キリトはしばらく考えていたが、エギルにこう伝えた。

 

「エギル、ちょっと本隊のとこ行ってくる!」

 

「応、すぐに戻って来いよ?」

 

 サムズアップをしながら、キリトはリンドに近づいた。

 

「おいリンド!これ以上麻痺したプレイヤーが出たら撤退できなくなるぞ!」

 

「…ッ!も、もうHPは半分なんだぞ!?ここで退くなんて!」

 

「確かに惜しいけど…」

 

 リンドは判断を決めかねているのか、バラン将軍と麻痺で動けなくなっている仲間たちを交互に見た。

 その時、キバオウがぼそりと呟く。

 

「……なら、『あと一人麻痺したら退く』。それまではやってみようや」

 

「い、いいのかキバオウさん!?仕切りなおせば、次はアンタがリーダーなんだぞ?」

 

「わーっとるわ!けど、みんなタイミングもわかってきとるし集中力も士気も高い。……あとPOTの類をジャバジャバ使うとるしな、多分補給に一日はかかるで。…ワイは損すんの嫌いやねん!!」

 

 多分彼の本音は後者なんだろうとキリトは思ったが、前者の主張も嘘ではないのだろう。折衷案としてはそれ以上のものはない。

 

「わかった、それでいこう。提案、感謝する!」

 

「基準が決まったなら俺は中ボスの方に戻るよ!ゲージが残り一本になったら気を付けろよー」

 

「わーっとるわ!そっちも気ぃつけえ!!」

 

「がんばれちょうはつ、とげあたま!」

 

 キリトはH隊に合流すると、すかさずアスナが状況を聞いてくる。

 

「キリト君、ドリモン!どうするって言ってた?」

 

「あと一人麻痺したら撤退するってさ!とりあえずこっちは中ボスを倒そう!」

 

「と言っても、もうだいぶ削ってるよ!」

 

 ナト大佐を見ると《レジェンド・ブレイブス》が一斉に《バーチカル》を放つ。SAOでの同時攻撃は味方へのフレンドリーファイアが発生しやすいので難易度が高いのだが、G隊は難なく成功させた。

 

「みてキリト、あっちですごいことやってる!」

 

「おお…確かにやるなぁ。本隊も調子出てきたみたいだし、このまま押し込むぞ!」

 

 

 キリトがナト大佐のHPバー最後の一本を黄色にまで追い込むと、ナト大佐は最後の抵抗と言わんばかりに暴れ出す。

 その時、本隊のいる方向から叫び声が聞こえ、キリトは一瞬だけ何かあったのかと焦った。

 

「おっしゃあ!!あともうちょっとや!!」

 

 キバオウの元気そうな声が聞こえ、キリトはほっとした。どちらのボスの行動もベータ時代に見たことがある。

 

「…よかった、この層はベータと同じで変更点はないみたいだ…」

 

「なあブラッキーさんよ、ちょっと気になったんだが…」

 

「……どうしたんだ?」

 

 エギルは釈然としない顔でバラン将軍を指さす。

 

「一層で戦ったのはコボルドの王だった。なのに、今回のボスは将軍に格下げされてるだろ?…オレはボスの情報を見てからずっと疑問に思っていた、……なら、()()()()()()()()()()()()()()()()ってな…」

 

「………へ?」

 

 キリトは今までそんなことを考えたことがなかった。………その時、床から三段に積み上がったステージがせり上がる。

 バリバリと雷を纏いながら、漆黒の新たなトーラスが現れた。

 

「……答えがお出ましだ」

 

「な、あ…!?」

 

 その体躯は、なんとバラン将軍の二倍近くあるだろう。キリトはパニックになりそうなのをこらえながら、新たなボスの名前を確認した。

 

「《アステリオス・ザ・トーラスキング》…!!」

 

「まずいわ、新ボスのせいで本隊の退路がふさがってる…!このままじゃ撤退できないわ!」

 

「お、オレたちで新手を足止めするべきじゃないか!?」

 

 エギルの提案に、キリトは首を振って否定する。

 

「まだアステリオス王は攻撃範囲にいない!優先すべきなのは敵の数を減らすことだ!!」

 

「わかった、G・H隊!中ボスに総攻撃をかけるぞ!!防御も回避もいらん、ごり押しだァ!!」

 

「「「了解ッ!!」」」

 

 キリトたちはダメージも《ナミング》も気にせずナト大佐をタコ殴りにする。最終的にはドリモンも鼻っ柱にかみついてナト大佐は力尽きたが、それに構っている時間はない。

 

「ナト大佐、討ち取ったり!!」

 

「よし、次は本隊に合流してバランを倒す!!急げ、王の反応圏(アグロレンジ)に入る前に…ッ!!」

 

 アステリオス王が、上体を大きく反らしながら息を大きく吸い込んだ。

 

(……あれは、遠隔攻撃(ブレス)のモーション!?)

 

 視界が真っ白に染まり、ピシャアアァンという雷鳴が辺りに響き渡る。アステリオスがぶっぱなしたのは雷ブレスだった。

 雷属性の攻撃は、かなりの高確率で行動不能(スタン)や麻痺がおこる。さらには発生もやたら速いため、使われたら回避が難しい。

 本隊は、誰も死んでいないのが不思議なくらいの大惨事だった。将軍を急いで倒そうとしていた彼らは、そのほとんどが行動不能(スタン)と麻痺で地面にはいつくばっている。

 

「……ま、まじかよ…」

 

「足を止めるな!!H隊は麻痺してるやつらを安全圏に運ぶんだ、できるんなら二人かっさらえ!!G隊(ブレイブス)はこっちだ!!バランを倒す!!」

 

「……じゃあ、わたしは王様のダンス相手を務めようかしら」

 

「…アスナ?」

 

 アスナはキリトたちから離れ、アステリオス王の方向へ走り出す。キリトは信じられないものを見てぎょっと目を見開いた。

 彼女はボスを一人で足止めしようとしているのだ。

 

「ば、馬鹿野郎!!軽装備のきみじゃ一撃貰っただけでHPが吹き飛ぶぞ!?」

 

「大丈夫よ、当たらなければノーダメージだから!」

 

「そういう問題じゃな…!……ああ、行ってしまった…」

 

「むう…!これは急いで将軍を討たねばならんな!!」

 

 たった一人で戦い始めたアスナは、内心とても不安だった。

 

(大丈夫、大丈夫…ッ!!キリト君たちなら、王のタゲを取ったわたしが時間を稼げばその間に将軍を倒してくれる…!!)

 

 ボスが一定の距離にプレイヤーを認識したときに雷ブレスを使ってくると予想した彼女は、クロスレンジを保ったまま攻撃を避け続ける。

 アスナの予想は当たっていたが、その攻撃は《ナミング》がない分激しい。ギリギリのところで避け続ける彼女に、バラン将軍と戦いながらキリトは悲鳴をあげる。

 

「………アスナッ!!!」

 

 キリトは気が気でなかった。だが、アスナの献身を無駄にするわけにもいかず首を振って目の前の敵に目線を逸らし剣を振り続ける。

 将軍にトドメを刺したキリトは、アスナの方を確認する。

 

「きゃあっ!!」

 

 …アスナが、ボスの拳で吹っ飛ばされる場面を見てしまった。アステリオスが大きく息を吸い込もうとしていることを認識したキリトは麻痺した本隊を運び終えたエギルにドリモンを手渡す。

 

「……悪い、ドリモンを頼む」

 

「…え、キリト?ぼくをおいていくの?」

 

「オイ、お前どこに行く気だッ!?…待て!!」

 

 キリトは行動不能(スタン)したアスナの元に走る。王のブレスが放たれたその瞬間、剣士は少女を庇った。

 

「があッ……!!」

 

「…え?…え?」

 

 ドリモンはキリトのHPが減っていくのを見て、彼の元に行こうと体をよじらせるが…エギルの筋力から逃れるにはあまりに非力だった。

 

「ちょっと、はーなーせーよー!!」

 

「馬鹿野郎、今のお前じゃ無理だドリモン!」

 

「そ、そんな…」

 

 ドリモンは悔しさでその小さな身体を震わせる。

 

(……いやだ。おわかれなんていやだよ…!キリトのたすけになりたい、もっといっしょにぼうけんしたい!まだあったばかりなんだ、あんなやつにあいぼうをころされるなんていやだ!!)

 

 ドリモンの心が決意で燃え上がる。友を守るという純粋な決意が、ドリモンの力を呼び覚ました。

 

「ドリモン、進化ァ!!」

 

 ドリモンの身体が、より戦いに向いたものに変わっていく。伸びた手足には鋭い爪が生え、牙が鋭くなる。その背中には、小さな翼がはためいていた。

 

「《ドルモン》ッ!!」

 

「うおっ!!?な、なんだ!?」

 

 エギルの腕から解放されたドルモンは、自身の身体と同じくらいの鉄球を発射する。

 

「《メタルキャノン》!!!」

 

 ドルモンが撃ちだした鉄球は再び雷ブレスを撃とうとしていたフロアボスの弱点である王冠に命中し、ボスの体勢を崩す。

 ボスが大きな隙を晒しているうちに、倒れているキリトたちのそばに近寄ったドルモンはにこっと微笑んだ。

 

「キリト、助けにきたぞ!」

 

「……えっと、ドリモン…だよな?」

 

「オレの名前はドルモン。…これからもよろしく相棒!」

 

「二人とも、まだ生きてるな!?」

 

 キリトとアスナを抱えたエギルは、牛歩の勢いで後方に撤退を始める。

 

「え、エギルさんもっと速く!」

 

「スマンがこれがフルスピードだ!二人担いでこのスピード出せてることに驚いてくれ!」

 

「せめてH隊のヤツもう一人連れて来いよ!!」

 

 キリトたちがぐだぐだ文句を言っていると、アステリオス王が再び動き出した。

 

「……クソ、ディレイは十秒しかもたないか…!!」

 

 怒り狂ったフロアボスは明らかに自分よりも小さな獣にその鋭い眼光を向ける。雷ブレスを邪魔されたことでドルモンにヘイトが向いたのだ。

 

「うげっ!こっち見んな!!」

 

 ドルモンが再び《メタルキャノン》を撃とうとするが、使おうとしたその瞬間ボスがまた体勢を崩す。キリトは一瞬ドルモンがやったのかと思ったが、本人は首をかしげて不思議がっている。

 

「ドルモン、ありがとう!」

 

「……え、まだ撃ってないんだけど?」

 

「へ?じゃあなんでボスが転んだんだ?」

 

 上空を見たドルモンは使い手の元に戻っていくチャクラムを発見し、大きく目を見開いた。

 

「キリト、アレを見て。…真打登場、ってやつだね」

 

「……チャクラム!!」

 

「遅れてすいませんッ!!」

 

 鍛冶屋ネズハ改めチャクラム使いナーザの姿を見て、事情を知るキリトたち以外は驚いていた。ドルモンはナーザに近づくと、嬉しそうに尻尾を振りながら話しかけた。

 

「ナーザ!いいタイミングで来たね!!」

 

「うん!キリトさんやアスナさん、ドリモンくんが道を教えてくれたおかげで、僕は前に進むことができた。……本当に、ありがとう…!」

 

「今はドルモン!ドリモンが進化したんだ、ナーザと同じでね?」

 

 ナーザは涙ぐみながら、小さく呟いた。

 

「……ああ、本当に夢を見ているみたいだ。こうやって剣士として、フロアボスの攻略に参加できるなんて……」

 

 少しだけ名残惜しい気持ちもあるけれど、時間制限付きの英雄はそのことに対して後悔などなかった。訪れるであろう結末も、甘んじて受け入れるつもりだった。

 

「……かかってこい、フロアボス!僕はナーザ、剣士ナーザだ!!」

 

 だからこそ今は英雄として、ナーザは高らかに名乗りを上げる。

 この時の彼は、間違いなく英雄(ヒーロー)だったとドルモンは信じていた。




<キリトメモ>

《ドルモン》
ドリモンが進化した獣型デジモン。一見哺乳類のような獣にも見えるが、その背中には小さい翼が生えている。残念ながらまだ飛べないようだ。
性格は好奇心旺盛で仲間と認定したらよく懐く。必殺技は口から鉄球を発射する《メタルキャノン》、《ダッシュメタル》。足を止める代わりに威力の高いキャノンと、移動しながら撃てるが威力の低めなダッシュを使い分けている。
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