ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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11話 英雄譚の終わり 鍛冶屋の贖罪

 ナーザと一緒にボス部屋に入ってきたアルゴは、麻痺が解けたばかりのリンドに情報を伝えた。

 

「真フロアボスのブレスは、遠距離攻撃で王冠を攻撃するとキャンセルできるんダ。そして、あの《チャクラム》は手元に戻ってくる特性で残弾数を気にする必要なく投げ放題ってワケ!」

 

「……なるほど、特攻武器ということか。これならブレス行動を潰してさらに攻撃のチャンスを増やせるな!」

 

「そーゆーコト!後の判断は任せたゼ、リーダーさん!」

 

 ボスの射程に入らないように後方へ退避した情報屋は、まだHPが回復しきっていない彼らに目をむける。

 あまりの惨状に、彼女はため息をつくしかなかった。

 

「……なんダ、せっかく情報を届けたのにもうボロボロじゃないカ…。結局戦線を支えているのは《レジェンド・ブレイブス(彼ら)》カ……。……本当に、惜しいナァ…」

 

 現段階で最高クラスの装備を揃えたG隊は、デバフ中心に攻めてくるトーラスには相性がいい。彼らを中心に戦術を組み立てるリンドの考えは、決して間違いではない。

 

「G隊後退準備、B隊前進ッ!!」

 

「す、スマンリーダー!まだみんなダメージが回復しきってない…!」

 

「ぐぅ…ッ!シヴァタ、もう少しだけ休んでくれ…!オルランドさん、もう少しだけフロアボスの相手を頼む!」

 

「了解ッ!!皆の者、ここが正念場である!!」

 

 HPバーの一本を削られたアステリオス王は追加攻撃で《ナミング》を使ってきたが、《レジェンド・ブレイブス》はその特殊攻撃をものともせず果敢にボスに挑みかかる。

 その様子を見ていたキリトは、アルゴに肩を叩かれた。

 

「キー坊。……キー坊ってバ!もう麻痺は解けてるゼ?」

 

「お、おう…?悪い、ぼーっとしてた…」

 

「しっかりしてよ、キリト君!……ほら、立てる?」

 

 アスナから差し出された手を借りて、キリトは立ち上がった。

 

「……さて、行くぜドルモン、アスナ!」

 

「気合十分だね、キリト。なにかいいことでもあった?」

 

「悪いけど内緒だな!いいもんは見た!」

 

 キリトはニヤッと笑うと、ドルモンを肩に乗せたままボスに走った。アスナもそれに続く。

 

 

 ナーザに散々ブレス攻撃を中断させられたアステリオス王は、チャクラム使いに攻撃しようと接近する。

 

「に、逃げろナーザ!!」

 

「………あ」

 

 遠近感がつかめない彼には、フロアボスの攻撃を避けることができない。

 …《レジェンド・ブレイブス》が敵の攻撃を防ぎ、ナーザは目を見開いた。

 

「……無事か!?」

 

 ナーザはこくこくと頷いた。

 

「ならば良し!」

 

「いや良くねェっすよオルランドさん!あいつなんでボス部屋まで来て、しかもめっちゃ活躍してるんスか!?」

 

「なーに、その分我らが守るのだ!!ぬおおおおおッ!!」

 

 G隊がトーラスキングの攻撃を受け止めるが、オルランドの盾はヒビだらけになってしまっている。その隙をカバーするように、エギルたちH隊が躍り出た。

 

「オレたちも加勢するぜ!!」

 

「か、かたじけない…!では、反撃と行こう!!」

 

 相手の攻撃を跳ね返した彼らは、後ろから走ってくる二人に叫んだ。

 

「「「スイッチッ!!」」」

 

「任せろッ!!」

 

「絶対に倒す!」

 

 アスナとキリトはジャンプしてから、《ソニックリープ》と《シューティングスター》を発動する。空中で発生した突進系ソードスキルは、システムの力で超常的な飛距離を空中移動できるのだ。

 ドルモンもついでとばかりに鉄球を吐き出す。

 

「《ダッシュメタル》!!」

 

「「いっけええええッ!!」」

 

 まずドルモンの鉄球が王冠に直撃し、王の攻撃をキャンセルした。

 キリトとアスナの同時ソードスキルが、王冠に叩き込まれる。ナーザのチャクラムで既にヒビが入っていた王冠は、粉々に砕け散った。

 アステリオスのHPがゼロになり、その体が崩れていく。

 

「いやっほーい!キリト、お前って最高だッ!!」

 

 ドルモンは空中落下しながら楽しそうな笑みを浮かべている。

 キリトとアスナはドルモンに微笑みながら、仲間の元に戻っていった。

 

「コングラチュレーション!お疲れさん、二人とも」

 

 エギルの労いの言葉に、三人はほっと息を吐く。今回も死人が出てもおかしくない戦いだったが、なんとか誰も死なせずにボスを倒した。

 ……その立役者は、間違いなくナーザとドルモンだ。

 

「さ、最後の空中ソードスキル、本当にすごかったです…!」

 

 ナーザは目をキラキラさせながらキリトたちに近づいてきた。

 

「そっちこそ、慣れない武器だろうによく使いこなしたよ」

 

「システムアシストがなかったら、ここまでできなかったですよ!…本当に、ありがとうございました。僕は、やっとなりたいものになれた。……本当に、これで心残りはありません」

 

 キリトが首をかしげてどういうことなのか聞こうとしたその時、エギルは厳しい顔でネズハに質問をする。偉丈夫の後ろには、数人のプレイヤーが険しい顔をしていた。

 

「……少しだけ聞いてもいいか?あんた、少し前まで鍛冶屋をやっていたよな?」

 

「……はい、そうです」

 

「なんで戦闘職に転向した?……レア武器までゲットして、そんなに儲かるもんなのか、鍛冶屋っていうのは?」

 

 キリトは目を見開いた。……彼らは、強化詐欺の被害者だ。B隊のリーダーの男が、嫌な記憶を思い出すように言葉を絞り出した。

 

「アンタが俺の武器を壊してから、仲間には迷惑をかけちまったよ。今使ってるブロードソードは間に合わせで用意したんだ、この気持ちがアンタにわかるか、ええ!?」

 

 掴みかからんとばかりに興奮する彼を、エギルは手で制止する。

 

「よせ。とまあ、こういうことだ。オレは別に恨み言を言いたいわけじゃないんだが、妙なことにオレと同じ経験をしたやつらがこんなにいることが気になっててな。……どういうことか話してもらえるか?」

 

「エギル、彼のチャクラムは元々俺の…」

 

 キリトが弁護をしようとするが、ネズハは首を振って座り込む。

 

「キリトさん、もう、いいんです」

 

「……な、ナーザ…?」

 

「………お察しの通りです。皆さんの武器を、僕はエンド品とすり替えて騙し取りました。…武器は全て、NPCショップで売り払ってこの世界の何処にもありません」

 

 ネズハは、もう隠す気などなかったのだ。ドルモンは嫌な予感がして彼を止めようとする。

 

「……ナーザ、駄目だ。それは、駄目だよ…!!」

 

 だが、ネズハは先ほどの言葉を撤回する様子はないのかドルモンに向かって首を振るばかり。再びエギルは質問する。

 

「……コルでの弁償はできるか?」

 

「それも無理です。お金は全部()()()()()()()での飲み食いや()()宿()()で使い切ったので…」

 

「て、てめぇ!!」

 

 B隊リーダーがその物言いにとうとうキレた。ネズハの襟首を引っ掴むと、そのまままくし立てる。

 

「俺の愛剣を奪ったのは、まあ百歩譲って許してやってもいい!気づけなかった俺の責任だ…だがな、俺の剣を売り払ったあげくにその金使って豪遊とはどんな神経してやがる!?」

 

 アインクラッド解放隊のメンバーの一人も、泣きながらネズハに怒りを向けた。

 

「自分ももう攻略できないかもって諦めてたけど、キバオウさんや仲間の助けを沢山借りてなんとか間に合わせの装備を用意したんだぞ!!強化素材集めやらカンパをしてくれた仲間たちに足向けて寝られないよ…!!わかってんのか、お前がどんだけのモンを奪ったのか!!」

 

 その言葉に、周りにいたプレイヤーたちの怒りが爆発する。口々に『裏切り者』やら『くそったれ』といった罵詈雑言が飛び出した。

 デスゲームという異常事態で神経をすり減らした彼らは、怒りのはけ口になったネズハに容赦なくぶつけている。

 オルランドは顔を伏せて小さく呟いた。

 

「……ネズオ、お前…」

 

 大混乱の最中、事態を収められるであろうリンドがネズハに近づく。

 

「まずは、名前を教えてもらえるか?」

 

「…はい。ネズハといいます」

 

「そうか…。ネズハ、お前がやったことは許されないことだ。たとえシステムがお前をグリーンのままにしても、やってはいけないタブーに手を出した。みんなの武器や時間を奪い取ったその罪を弁償できないのなら他の方法で償ってもらうしかない…」

 

 リンドがそう言った瞬間、耳障りな金切り声がボス部屋に響いた。

 

「オレ、オレ知ってる!!そいつに武器騙し取られたプレイヤーはまだたくさんいる!んで、その中の一人が安物の武器で狩りに出て今まで倒せてた雑魚にぶっ殺されたんだよォ!!」

 

「………え?」

 

 ネズハの顔が、絶望で固まった。キリトはその金切り声をあげたのが第一層でも騒いでたヤツだと気づく。

 

(またお前か!いつもいつも火種になる情報持ってきてるなコイツ…!!)

 

「命は金で戻ってこねェんだよォ!!償いたいんなら命で支払いやがれよ人殺しがァ!!」

 

「……はい、わかりました。抵抗はしません、恨みもしません。…僕の命でよければ、皆さんに差し上げます」

 

 ネズハは首を深く下げ、土下座の体勢を取った。それを見た被害者の一人が、ぼそりと殺意を言葉にした。

 

「……ころしてやる。てめぇみたいなカス、死んで当然だアアアアァ!!」

 

 その言葉で周りにいたプレイヤーたちは限界を迎えた。口々にネズハに罵倒をぶつける彼らは、理性のタガが外れてサル山のサルのように叫び散らかしている。

 

「殺せ!クソ詐欺師をバラバラにしろ!!」

 

「死ね人殺しのカス野郎!!」

 

 彼らは剣を引き抜き、『人殺し』に正義の制裁を下そうとする。それは、キリトが何よりも危惧していた《公開処刑(PK)》そのものだった。

 

(……まずい、これだけは避けなくちゃいけなかったのに…!!前例を作ればもう後戻りはできないんだぞ!PKアリの殺し合いになったら攻略なんてできなくなる…)

 

 キリトはそう考えてから、武器すり替えトリックをネズハに教えた黒ポンチョの男の真意をようやく悟った。……この光景こそが、ヤツの望みだったのだ。

 ネズハを殺せば次に罪を犯した者も殺さざるを得なくなる。…いや、対立する二つの団体が存在する以上闇夜に紛れた暗殺なども横行しかねない。

 そうなってしまえば攻略集団はこれまでのように団結することはできなくなるだろう。

 

「どうすればいい…、このままじゃ本当に取り返しがつかなくなる…。考えろ、考えろ…!!」

 

 だが、慌てていたキリトの脳は答えを導きだせない。

 その状況を変えたのは、キリトでもリンドでもなかった。

 

「待たれよ、貴卿(きけい)らが手を汚すには及ばぬ」

 

 《レジェンド・ブレイブス》のリーダー、オルランドだ。彼は武器を持ったままネズハに近づいた。

 キリトはある可能性に行きつき顔が硬直する。

 

(まさかあいつ、トカゲの尻尾切りをやるつもりか!?)

 

 そうはさせまいと割り込もうとしたキリトを、ドルモンは制止する。

 

「キリト、ちょっと落ち着いて。……なんか、殺すつもりには見えないけど…?」

 

「……へ?」

 

 オルランドはネズハに小さく囁いた。

 

「……すまなかった、ネズオ。…お前の苦悩に、気づくことができなかった」

 

 彼を含めた《レジェンド・ブレイブス》は、武器を地面に置いて土下座する。

 

「……なぜなら、こいつは俺たちの仲間です。…強化詐欺をやらせていたのは、俺たちです」

 

「………!!」

 

 大多数のメンバーはその事実に驚いて言葉も出ないようだったが、金切り声の男が再び叫び出した。

 

「殺せェ!!こいつら全員血祭りにあげろォ!!」

 

 たった一人わめき続ける彼は、逆に周りが冷静になっていることに気づいていないようだった。上司であるキバオウがため息をついて彼の頭をひっぱたく。

 

「ジョー、そこまでや。…オルランドはん、鍛冶屋が荒稼ぎしたコルはどこに行ったんや?まさかコイツの言う通り食事やらで全部消えたわけやないやろ」

 

「……我々の装備の強化資金だ。これを換金すれば確実に補填はできるだろう」

 

「だ、だけど命がッ……」

 

 ジョーが三度(みたび)わめこうとするが、これまで沈黙していたアルゴが冷静に口を開いた。

 

「…プレイヤー名は?」

 

「………ハァ?」

 

「だから、死んだプレイヤーの名前だヨ。彼が狙った相手なんダ、それなりに名の通ったフロントランナーなんだロ?ここにいる連中が知らねぇってことはないハズじゃないカ?」

 

「へ、あ……。……お、オレも人から聞いた話なんで知らねェ……」

 

 キバオウはもう一発拳をお見舞いしてジョーを叱りだした。

 

「あいたァッ!?」

 

「このボケッ!不確かな情報をさも事実のように話すんやないッ!」

 

「……そういうことなら、オレっちに任せてくれヨ。死亡者の名前、死因、強化詐欺との関連まで調査結果を全部報告させてもらうからサ。……本当にいれば、だけどネ」

 

 それを聞いたリンドは一瞬だけ頬を緩めたが、すぐに真一文字に戻した。

 

「そういうことなら、死亡者の有無と強化詐欺の因果関係がはっきりするまでこの問題はおれが預からせてもらう!異論はないな!?」

 

 それに反対する者はいなかった。

 

 

 最終的に、《レジェンド・ブレイブス》の装備は全てオークション形式で処分されることになった。強化の行き届いた装備が手に入るチャンスとあってほとんどの参加者は財布を緩めたらしい。

 キリトたちはそんなものに興味はなかったので、ひとまず迷宮区から脱出して第三層へ向かっていた。

 

「……あの、アスナさん?ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

 

「いいわよ、どうしたの?」

 

「なんであの修羅場がこうもあっさり収まったんだ!?あれ、多分エギルとキバオウとリンドは強化詐欺のこと最初からわかってただろ!!」

 

「ふふふ、いいことを教えてあげる。政治の基本は根回しと演出よ!あとは情報通のブレーンも押さえれば負けることはないわ、おほほほほ」

 

 キリトとドルモンは目が点になった。それはつまり、だいたいのことがアスナの手のひらの上だったということだ。

 そのことに気づいてしまった彼らは雨に濡れたネズミのようにブルブル震えだす。

 

「「お、女の子ってこっわぁ……」」

 

「だって二人とも隠し事が下手なタイプだもの、だったら最初から伝えない方がマシだわ」

 

「そして俺への評価ひっくぅ…。……そういえば、本当のところどうなんだ?」

 

「どうって?」

 

 キリトは少しだけ考えをまとめてから自分の推測を言ってみる。

 

「オルランドは、彼らはネズハに強化詐欺を強要していたのか?」

 

「あら、一番疑ってたのはキリト君じゃなかった?」

 

「そうなんだけどさ。なんか、心のどこかで違和感があって…間近でオルランドと一緒に戦ったからかな」

 

 キリトがそう言うと、アスナは微笑んだ。

 

「わたしも本人たちじゃないからわからないけれど、最初はオルランドさん以外の人たち五人で始めたんじゃないかしら。あの人って結構人から慕われるタイプだと思うし。…でも、わたしたちがコンタクトを取った時にはもう気づいてたみたい。鍛冶屋で稼いだにしては額が大きすぎたのね。…キリト君の言う通りまっすぐ一本筋を通すし、どこか憎めない人ではあるのよね」

 

「…そうだな。少しでも運命が違っていたら、いい友達になれた気がするよ。……暑苦しいけど」

 

「…長髪はその気があるなら最低限の装備を整えられるだけのお金は戻すとも言ってたよね。……戻ってくるかな?」

 

 キリトはニヤリとした笑みを相棒に向ける。

 

「戻ってくるさ、きっと!なんせ、第三層からがSAOの()()なんだからな!」

 

「「……本番?」」

 

 アスナとドルモンが首をかしげるのを見て、キリトは楽しそうに笑いながら歩みを進める。

 

 ……第三層に続く扉のレリーフには、耳の長い二人の騎士が向かい合っていた。

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