ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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13話 ガルルモンの追憶 狼たちの鎮魂歌(レクイエム)

「……チィッ!邪魔が入りましたか…!」

 

 鷹使いの舌打ちを聞いて、狼使いは吠えた。

 

「てめぇの相手は俺だァッ!!」

 

「……喜べ義弟(おとうと)よ。今日この日を、我らは望んでいたのだから…!!」

 

 

 それは、彼らがこの第三層に降りてくる、少し前のこと。近衛騎士は第九層の練兵場で、狼使いの青年と向かい合っていた。

 

「……これから第三層に降りるというのに、今でなければならんのか?」

 

「……今だからこそです!今日こそ認めてもらうぜ、キズメルさん!」

 

 キズメルはしょうがないなぁと言わんばかりに肩をすくめてから、剣を構えた。

 

「……来い」

 

「おおおおッ!!」

 

 狼使いは渾身の剣戟を放つが、キズメルは平民の出でありながら近衛騎士にまで上り詰めた実力者だ。それを軽々と捌き切った彼女は、薄く笑みを浮かべる。

 

「ほら、どうした?私に認めてもらうにはその程度じゃたりないぞ?」

 

「まだまだ、これからだ!!」

 

 そのすぐ横であくびをしていた《ガルルモン》は、相棒の青年が押されていることを確認するとのそりと移動を始めた。

 近くでゴリゴリと何かを潰している彼女に、ガルルモンは自分が来たことを伝える。

 

「わふっ」

 

「……あら、ダメじゃないガルちゃん。一人でうろうろしてたら、また騎士さんたちにいじわるされちゃうよー?」

 

 薬師がガルルモンを撫でていると、巨狼は彼女の袖を軽くかみながら練兵場に引っ張った。

 

「あら?どうしたの?待ってってばぁ」

 

 薬師の少女が練兵場にたどり着くと、そこで見たのはボコボコにされた恋人とボコボコにした双子の姉の姿だった。

 床に転がった狼使いはフラフラになりながらも立ち上がる。

 

「うっへぇ、やっぱり強ぇ…」

 

「諦めるか?」

 

「まさか!まだまだこれからです!」

 

「二人とも、もうやめて!」

 

 薬師は慌てて恋人と姉の小競り合いを止める。彼女の姿を見た恋人は困った顔をした。

 

「ティ、ティルネルさん!」

 

「もう、また無茶して!ケガはない?今作ったお薬使う?」

 

「い、いや大丈夫!……おいガルルモン、さてはお前が連れてきたなぁ!?」

 

「ばうッ!」

 

 元気に返事をする相棒の頭をわしゃわしゃ撫でてやると、ガルルモンは嬉しそうな声を出す。

 

「もう、いくら姉さんがわたしたちのことに反対だからって、弱い者いじめはよくないと思うわ!」

 

「いや、虐められてたわけじゃないんすよティルネルさん…。つーか今さらっと酷いこと言われた?」

 

「ティルネル、その件だが…。既に勝負は決した、これ以上やるつもりはない」

 

「なッ!?ま、待ってください、俺はまだやれます!!」

 

 狼使いの青年の言葉に、キズメルは微笑んだ。

 

「……いいや、終わりだとも。……私の負けだ」

 

 彼女はそう言いながら髪に隠れていた頬の傷を見せる。狼使いが倒れ際に放った一撃でついた傷だった。

 

「……!!じゃ、じゃあ…」

 

「ああ、剣に誓って約束は守ろう。祝福しようじゃないか、心から……うん、心から」

 

 キズメルは一瞬だけ渋い顔をしたが、祝福の言葉を口にする。

 

「……ええい、結婚おめでとう!!幸せにならねば許さんぞ!?」

 

 二人はキョトンとした顔で呆けていたが、言葉の意味が分かるととても嬉しそうに笑いあった。

 

「やったーーーーーッ!!!」

 

 狼使いは愛する彼女をぎゅっと抱きしめて喜びを表現した。

 

「むぎゅぅ…。もう、はしゃぎすぎだよ?」

 

「……ところでお前たち、一つ聞きたいんだが…。子どもはいつもうけるのだ?」

 

 キズメルは真面目な顔でとんでもないことを言い出した。ティルネルと狼使いは顔を真っ赤にして慌てる。

 

「えええッ!?ね、姉さんいきなり何を言ってるのよ!?」

 

「そ、そうですよキズメルさん!気が早いって…」

 

「早いものか、生まれる子は男でも女でもいい。だが生まれたら必ず騎士にするのだ、《狼使い》など許さんぞ!」

 

 キズメルがそう言うと、ガルルモンはガスガスと頭を彼女の足にぶつけ始めた。彼女が《狼使い》を認めないなどと言っていたのが(しゃく)に障ったのだろうか。

 

「ワンワン!!」

 

「……この(イヌ)…!獣の分際でリュースラの騎士である私にたてつくか!ええい、怒るぞ!?怒るからな!?」

 

「………ケッ」

 

「なんだその態度はぁ!!?前から薄々思ってはいたが、貴様私のことを舐め腐ってるな!?ええい、やっぱり認めん、《狼使い》など認めんぞー!!」

 

 

 三人は三層に降りた直後に(フォレスト)エルフの大隊に襲撃を受けた。

 仲間の悲鳴がそこかしこから響く戦場で、ティルネルは必死に回復薬を傷を負った味方に補給し続ける。

 

「だ、大丈夫ですか!?しっかりして!」

 

「く、薬師殿…。自分はもう、駄目です…。これを、かわ…りに……」

 

 息絶えようとしている味方は、彼女に包みを手渡した。包みの中身に気づいたティルネルは、責任に押しつぶされそうになりながら走った。

 

「……に、逃げなきゃ…!」

 

 後ろから追手の気配を感じたティルネルは、恋人の姿を探す。狼使いの声を聞いた時、彼女はほっとした。

 

「ティルネル、何処だ!!返事をしろ、ティルネルゥ!!」

 

 ティルネルは返事をしようとした。……が、背中にとても強い痛みが走る。

 彼女は、自分の胸から剣が貫通していることに気づいた。

 

「………あ…」

 

「………ティルネル?うそだ…こんなの…」

 

 彼女が落とした《秘鍵(ひけん)》を巨大な鳥が奪い取る。《鷹使い》は三日月のような笑みを浮かべ戦場を去っていった。

 

「……ごめ、ん。《秘鍵(ひけん)》、守れなくって…」

 

「しっかりしろ、ティルネルッ!!死ぬな、死なないでくれ!!」

 

「……だいすきだよ、さよなら」

 

 狼使いの願いは、夢と共に打ち砕かれた。

 戦闘が終わり、キズメルと狼使いの二人はティルネルが遺した指輪を見ながら話をする。その顔は、まさしく修羅のそれだった。

 

「……仇を、見たのだな?」

 

「……はい。ヤツは、鷹を使います」

 

 その日からずっと、彼らはティルネルを殺した《鷹使い》を殺すためだけに生きてきた。

 

 

 狼使いは鷹使いと戦っていたが、鷹使いはあの時と同じく執拗に人族の少女(アスナ)を狙っていた。

 

「……おい、邪魔をするんなら下がってろ!」

 

「しょうがないじゃない!あの気持ち悪い目つきの森エルフ、わたしをしつこくタゲってるんだから!復讐だか敵討ちだか知らないけどね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「アスナ、NPCにそんなこと言っても通じるわけ…」

 

 キリトは苦笑いしてNPCにもわかるように説明しようとするが、その前に狼使いは反応を返した。

 

「ちっ…ならせいぜい囮として逃げ回ってくれ、その方がヤツを仕留めるのに都合がいい」

 

「ひ、酷い!血も涙もないの!?」

 

「……キリト、普通に通じてるみたいだけど?」

 

(……あっれー?なんかAIのレベルがベータより高くないか?)

 

 狼使いはじろりとアスナをにらんだが、一つため息をつく。

 

「……冗談だ。()()()()()()()

 

「………?ちょ、ちょっと!お荷物扱いはごめんよ!!」

 

 アスナと狼使いのやりとりに目が点になっていたキリトは、近くで戦っていたキズメルに話しかけられた。

 

「許せ、あいつに他意はない」

 

「そ、そっすか…。……!!?」

 

「まずは雑兵どもを減らして退路を確保するぞ、ついてこい!」

 

(…やっぱりベータの時よりAIの出来がいいぞ…!どうなってるんだいったい…?)

 

 キリトはいったいどんなブレイクスルーがあればドルモンや(ダーク)エルフのような存在ができるのか不思議だったが、そんなことを考えている時間はないと気づき目の前の敵に集中する。

 一方アスナは鷹使いとアクィラモンの連携攻撃に苦戦していた。

 

「キエエエエェェ!!」

 

「……っ、またきた…!」

 

 上空から襲い掛かるアクィラモンを、ガルルモンが突撃することでアスナから遠ざける。

 

「ガルルルル…」

 

「(近くで見ると、けっこう大きいわね…)……もしかして、あなたもわたしを護ってくれるの?」

 

 アスナが恐る恐る聞いてみると、ガルルモンはアスナの方を向いて尻尾を振っている。

 

「わふっ!」

 

 その瞬間、アスナの脳内に幼いころの自分が犬を飼いたいと母に頼んだが色々な事情で断られた記憶が再生された。……彼女は犬派だった。

 

「………か、かわいい…」

 

 アスナはガルルモンを撫でたい気持ちを我慢しながら鷹使いと戦い続ける。

 このまま長期戦になるかと思われたその時、鷹使いは心底飽きたような顔でしゃべりだした。

 

「……はぁ。…もうめんどくさくなってきました、やめやめ!ワタシ(イヌ)嫌いなんですよね!もう帰っていいですか?」

 

「……あ゛ぁ!?逃がすと思ってるのか!」

 

「いやだって、目的の()()はもうこっちにあるわけですし?やる気ない時に戦ってもねぇ?」

 

 鷹使いは秘鍵(ひけん)を見せびらかす。

 

「……キリト君、さっきからアレを奪い合ってるみたいだけど、中身はなんなの?」

 

「……鍵だよ、このエルフクエストにおけるキーアイテムで(ダーク)エルフは聖堂とかいう場所を護りたいんだとさ」

 

「つまり、アレは元々(ダーク)エルフのものなのね?」

 

「そうだな、持ち去られたらクエストがどうなるかわからない。奪還する展開ならまだしも、最悪クエスト自体が失敗するかも…」

 

 キリトがそう言った瞬間、鷹使いは彼の言葉に反応したかのように猛禽のような笑みを浮かべる。

 

「そこで質問です、コレ持ってかれたら貴方たち困りますよねぇ?任務と私怨、どっちを選びます?」

 

 鷹使いが秘鍵(ひけん)を空中に放り投げると、アクィラモンがそれを掴みどこかに飛んでいこうとする。

 

「アイツ、アイテム持ったまま逃げる気だ!追いかけろキリト!!」

 

「無茶言うな、空中ソードスキルでも届くか微妙な高度だぞ!そっちこそ飛び道具でなんとかならないか!?」

 

「一直線にしか飛ばないから逃げる相手には当たらないよ!」

 

 キリトとドルモンがわちゃわちゃ騒いでいるうちに、巨鳥は戦場から離れていく。それに待ったをかけたのは…。

 

「に が す か あ あ あ !!!」

 

 木を垂直に駆け上り、空中ソードスキルを発動したアスナだった。

 

「あ、アスナ!!」

 

 彼女は二連撃技《パラレル・スティング》をアクィラモンに叩き込み、秘鍵(ひけん)を奪った。しかし、彼女の《ウインド・フルーレ》はアクィラモンの身体を穿つには非力すぎる。

 すぐに立て直した巨鳥は彼女を掴むと急降下してきた。

 

(地面に叩きつけられる…ッ!?)

 

「おおおおおおおッ!!!」

 

 狼使いが、相棒と共にアクィラモンの翼を切り裂く。アスナは狼使いにお姫様抱っこされて安全に着地する。

 

「無事か、ティル……ッ!!……いや、なんでもない忘れろ!」

 

「あ、ありが」

 

 ドスリという重い音と共に、背後に鷹使いの剣が狼使いの胸を貫く。

 

「………え?」

 

「……ははぁ…馬鹿ですねぇ?そんな人族のガキを庇わなければ、こんなことにはならなかったでしょうに!!」

 

 鷹使いは体を抉るように無理やり剣を引き抜いた。

 

「が、ぁあああッ!!…に、逃げろ…秘鍵(ソレ)を持って、早く…!!」

 

「え、あ……」

 

 アスナは呆然と狼使いのHPが減っていくのを見ているしかできない。ガルルモンはアクィラモンの相手で手一杯で、主人を助ける暇はない。

 

「やめてええええッ!!」

 

「…そこで見ていなさい、護ろうとした女がまた殺されて絶望しながらアナタは死ぬのですよぉ!!」

 

「……く、そ…!」

 

 瀕死の狼使いを放置した鷹使いが剣をアスナに振り下ろそうとする。

 

「《メタルキャノン》!!」

 

「……おっと、危ない」

 

 ドルモンの不意打ちを剣でガードした鷹使いは、連れてきた雑兵がキリトたちに全員倒されたことに気づき舌打ちする。

 

「……チッ!役に立たないですねぇあいつら!たった二人に全滅させられるとかどうなんですか!?」

 

「……残ったのは貴様らだけだ、その首置いていけ」

 

「えー、お断りします。…ま、しつこそうなのは倒せたのでこれで引き揚げましょうかアクィラモン」

 

 鷹使いはアクィラモンを指笛で呼び寄せると、その足に掴まった。キズメルが逃げようとする仇に憎しみを込めて叫ぶ。

 ……だが、連戦で疲労していた彼女はまともに戦える状態ではなかった。

 

「ま、待て…!」

 

「待ちませんよ、あなたに興味なんかないんでね」

 

「ふざけるな、ふざけるなぁ!!」

 

 キズメルは涙を流しながら、敵が去っていくのを見ているしかなかった。

 

 

 狼使いの命が残りわずかなのを察したのか、ガルルモンはただ静かに寄り添う。

 

「……ねえ、さん…。あの子、は…」

 

「……大丈夫、少女も秘鍵(ひけん)も無事だ」

 

「……そっか、よか、ったぁ…」

 

 アスナは首を振って狼使いに言葉を浴びせた。

 

「……よくない。そんなのよくないわよ!!どうして命を犠牲にしてまで、わたしを助けたの!?どうして……」

 

「………後悔、していたからだ…。あの時は、どっちも護れなかった…から……。……今度は、ちゃんと間に合った…」

 

「……ああ、よく頑張ったな。胸をはって()いに逝け、義弟(おとうと)よ」

 

 狼使いが消滅するのを見ながら、キリトは混乱していた。……彼らがあまりにも人間、いやエルフらしかったからだ。

 

(……彼は、AIのアルゴリズムとかそういうのを無視して、まっすぐにアスナを助けにいった…。ただのNPCが、見ず知らずのプレイヤーを命がけで守るなんてありえるのか…!?)

 

「……かなうなら、そなたたちにも知ってほしい。彼は私の親友で、(ダーク)エルフで一番の《狼使い》、そして…亡き妹の、最愛の男だった。……秘鍵(ひけん)を渡してもらえるか?」

 

「は、はい!」

 

 アスナが騎士に包みを手渡すと、彼女は祈るようにうつむいた。

 

「……これで、聖堂は守られる。ありがとう、そなたらのおかげだ」

 

 彼女は剣を杖代わりにしながら立ち上がろうとするが、精神的なショックが大きいのか倒れそうだった。アスナは慌てて彼女を支える。

 

「だ、大丈夫ですか!?無理はしない方が…」

 

「いや、敵がまた来ないとも限らない。こんな場所で話すのもなんだし、我ら(ダーク)エルフの野営地まで同行願えるだろうか?この働きならば司令からも褒賞(ほうしょう)が出る、悪い話ではないと思うが……」

 

 騎士の提案を聞いたアスナはぺこりと頭を下げる。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えます!」

 

「…アスナ、こういう時はYESかNOかはっきりと…」

 

 キリトがNPCへの対応を教えようとするが、キズメルはアスナの言葉に軽く頷いた。

 

「よかろう、野営地は森を南に抜けた先にある。ついてきてくれ」

 

(……やっぱり、応答が自然すぎる。…さすがに()()()()()()ってわけじゃないんだろうけど……。……なら、どうして)

 

「NPCが、肩を落としているように見えるんだろう…」

 

「……キリト、行かないの?」

 

 ぼーっと考えを巡らせていたキリトは、肩に乗っていたドルモンに頬をつつかれた。

 

「アスナたち行っちゃうよ、迷子になる前に行かなきゃ」

 

「お、おう…待ってくれ二人ともー」

 

 キリトは慌てて二人の後を追いかけた。




<キリトメモ>

《ガルルモン》
超硬質の毛で身体を包んだ狼型デジモン。狼使いが連れていた個体は真っ黒な毛並み。
実力を認めた仲間には犬科の本能かよく懐き、その高い身体能力を仲間のために存分に振るう。
好物は骨付きのチキンで、後でかじるために地面に埋めることがあるがたまにガジモンに盗られているようだ。
必殺技は口から青い炎を吐く《フォックスファイアー》。
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