ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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15話 毒蜘蛛にご用心!? 再誕のウィンドフルーレ

 キリトたちはエルフクエスト第二章《毒蜘蛛(どくぐも)討伐》を開始する。

 このクエストではフィールドを徘徊する毒蜘蛛を一定数倒しながら、ダンジョンになっている彼らの巣からクエストアイテムを回収することが目的だ。蜘蛛を倒しながらアスナはキズメルに疑問をぶつけた。

 

「ねぇキズメル、どうしてこの辺りの蜘蛛を倒す必要があるの?」

 

「不測の事態を防ぐのと、既にこちらに被害が出始めているのが理由だ。(フォレスト)エルフとの戦闘中に襲い掛かられても困るからな…。今のうちに憂いを絶っておこうという事なのだろう」

 

「なるほど、そういう理由なのね…。わたしちょっと思ったんだけど、もしかしたらあの毒蜘蛛たちは敵の斥候だったりするのかなって…」

 

「ふむ…流石にそれは深読みだろう。蜘蛛を自在に手足として操るほどの魔力は、こちらにもあちらにもない」

 

 キズメルは微笑みながら奇妙な事を言い出した。キリトは気になって一つ聞いてみる。

 

「キズメル、この浮遊城には魔法はないだろう?」

 

「あぁ、既にそのほとんどは失われ、まじないとして僅かに残っているだけだ。かの《大地切断》で大地から切り離されたことでその恩恵が失われたと聞いている」

 

「へー、そうなのか…」

 

 キリトは浮遊城アインクラッドの誕生の経緯であろう《大地切断》に思いを馳せる。今までSAOでそういったバックグラウンドが語られたことはほとんどない。…少なくともベータテストの時のエルフクエストは聖堂の場所すら判明せずバックグラウンドも薄味だった。

 

(大地から切り離された…か。…悔しいけど、ちょっとワクワクするな。……この世界をプレイヤーじゃなくて、人族の剣士として生きられたらどんなに楽しいだろう…)

 

 

 森に生息する虫型モンスターを討伐しながら、一行は洞窟を発見する。モンスターですらない小さな蜘蛛がうろついてるのを見たアスナは、ここが目的地だと気づきごくりと唾をのんだ。

 

「……ここが巣穴?」

 

「おそらくな。偵察兵が先に来ているはずだが…嫌な予感がする」

 

「ま、入ってみたら嫌でもわかるさ!」

 

 キリトたちは蜘蛛を倒しながらダンジョンを探索する。薄暗い洞窟の中で、アスナはため息をつきながら愚痴を吐いた。

 

「…こういう洞窟系ってジメジメしてて嫌だわ…」

 

「……あー、わかるなそれ」

 

「こういうとこで雨宿りしようとして敵の住処だったらいやだよねー」

 

 慎重に探索を続け、手つかずの宝箱や鉱石を回収しているとアスナはキリトに質問する。

 

「そういえば、このダンジョンって…ええっと、例のインスタンスってやつなの?」

 

「いや、ここはパブリックダンジョンだな。エルフクエスト以外でもここに用事があるクエストが何個かあって……」

 

 キリトは少し考えてから質問を返す。

 

「……アスナ、俺たちが三層に来てどれくらい経った?」

 

「え?……えーっと、十四時間くらいじゃない?」

 

「………うへぇ、そろそろ来てもおかしくないじゃん!」

 

「……誰か乗り込んでくるの?」

 

 ドルモンに聞かれたキリトは小さく囁く。

 

「ここは主街区の重要なクエストのキースポットなんだ。だいたい十四時間くらいで……」

 

「キリト、後ろから誰か来るよ!」

 

 キズメルが目を閉じて聴覚に集中すると、蜘蛛のうごめく音に混ざって足音が聞こえてきたのかうなずいた。

 

「…ふむ、我々以外にもここを訪れる者がいるとはな。冒険心で乗り込んだ人族か、あるいは(フォレスト)エルフの斥候か…。足音では判別できないな、どうする?」

 

「キズメル、ここに来てるのはたぶん人族の戦士だと思う。ただ、今は彼らと出くわすのは避けたいんだ」

 

「なるほど、私も同意見だ。たいまつを消して隠れるとしようか」

 

 周囲が暗黒に包まれると、キズメルは背中のマントで全員を覆い隠す。キリトはこんなんでどうにかなるかと思っていたが…それも、《隠蔽率(ハイド・レート)》95%という圧倒的数値に驚くまでのことだった。

 

(なんてレア装備…!!近衛騎士ってエリートなんだなぁ…)

 

 キリトがキズメルと仲間になってよかったとしみじみしていると、アスナの小さな囁き声が聞こえてくる。

 

「…それで、これからくる人たちってなんなの?」

 

「《ギルド結成クエスト》だよ。ほら、心当たりのある団体が二つあるだろ?」

 

「「………あー…」」

 

 アスナとドルモンの脳裏には同じ顔が浮かんでいるのだろうか、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

 

「三人とも、静かに。足音が近くなってきた」

 

 キズメルがそう言った瞬間、どたどたと騒がしい足音とともに聞き覚えのある関西弁の叫び声が響いた。

 

「なんでや!なんで片っ端から宝箱が開けられとるんや!?」

 

 キリトもうんざりした顔をする。頭を抱えるキバオウの隣には、なにやら黄色い爬虫類のようなデジモンがいた。その爬虫類こと《アグモン》はキバオウに文句を言っている。

 

「キバオウ、おいら腹減ったー」

 

「さっき食うたやろ、我慢せぇ!」

 

「へーい」

 

 彼らの後ろからパーティーメンバーらしきプレイヤーがぞろぞろとついてきている。そのうちの一人が片手斧を器用に回しながら楽しそうに鼻歌を歌っていたのが、なぜかキリトの印象に残った。

 

 

 キバオウ一派が遠ざかっていくのを確認したキズメルはマントを付け直す。キリトとドルモンはほっと息を吐いた。

 

「はー、緊張したぁ…」

 

「同感、見つかっても戦いにはならなかったでしょうけど…色々文句言われるのが目に見えてるわ…」

 

「だねぇ…。ただでさえ仲良くはないもんねー…」

 

「そういうものか。城に暮らす人族は長く平和を保っていると聞いたが?」

 

 たいまつに照らされたキズメルは興味深そうな顔をしている。キリトはキズメルに説明しようとするものの、どうしてもベータテストのことを濁さなければいけないので不明瞭なものにならざるを得なかった。

 

「もちろん、剣を向けたりするわけじゃないんだ。大きなモンスターと戦う時は協力もするけど、色々相容れない部分もあるってこと」

 

「なるほど、私の所属するエンジュ騎士団と王都を守護するビャクダン騎士団のようなものか…」

 

「素敵ね、樹の名前がついてるのね!ほかにも騎士団はあるの?」

 

「ああ、重装部隊のカラタチ騎士団があるが…こちらも仲がいいわけではないな」

 

 人間もエルフも集団単位になるとギスギスするんだなぁとキリトとドルモンが思っている傍らで、アスナはキズメルに微笑んだ。

 

「へぇ…。じゃあ入れてもらうんならわたしはエンジュ騎士団がいいな!」

 

(フォレスト)エルフをこの世界から殲滅する気かな?」

 

 キズメルは楽しそうに笑みを浮かべる。ドルモンの殲滅発言がツボにはまったのか、あるいはアスナの言葉が嬉しかったのだろう。…だが、彼女は首を振った。

 

「残念だが、人族が女王陛下から騎士の剣を授けられた例はない。……だが、そなたらの勲功(くんこう)大なることを考えれば、謁見くらいはどうにかなるかもしれないな」

 

「ホントッ!?…よーし、頑張って任務を成功させなくっちゃ!ね、キリト君?」

 

「お、おー…やる気があるのはいいことだな!さて、エンジュ騎士団の見習いとして頑張ろうぜ!」

 

 キリトはウインドウを出してマップを確認する。その様子をキズメルはじーっと見つめていた。

 

「……《幻書(げんしょ)の術》か、久しぶりに見たな」

 

「げ、げんしょ?」

 

「ああ、人族はほぼ全ての魔法を失ったが…未だに伝わっているまじないの一つだと聞いている。知識のみならず様々な品を収めることができる、幻の書物…」

 

「あ、ああ。…たしかにまじないと言えばまじないかもな。今まで気にしたことなかったけど…」

 

 キリトはマップを閉じてからキバオウたちが進んでいたのとは別の方向を指さした。

 

「…で、ゲンショによればあっちの方はまだ探索してないみたいだ。連中は下に行っただろうから、出くわす確率を減らすために俺たちはこっちに進もう」

 

 

 部屋を探索していると、アスナがキリトに話しかけてきた。内容は、キバオウたちが引き連れていた黄色いデジモンについてだった。

 

「そういえば、あの人たち黄色いとかげみたいな子を連れてたじゃない?あれって、誰かが仲間に(テイム)したってこと?」

 

「……別に変な話じゃないだろう。俺だって、ドルモンと一緒に行動してるんだから」

 

「それにしたって、あの人たちはギルド結成クエストを寄り道せずに来てるはずでしょう?二層では連れてなかったし、いったい何時仲間にしたのかしら…」

 

「うーん……」

 

 二人が会話しながらクエストアイテムを探していると、きらりと光るものを発見する。アスナが手に取ってみると、それは蜘蛛の糸が絡まった木の葉のような形の銀細工だった。

 アスナはチラリとキズメルの左肩に付いている同一の留め具に目を向ける。

 

「……黒エルフ(われわれ)の偵察兵のものだ。…持ち主は、もう…」

 

「………そんな…」

 

「アスナ、それはそなたたちが司令に渡してくれないか?これは、おそらく司令(かれ)の肉親なのだ。……その死を、報告する立場にはなりたくない。わがままを言ってすまないな…」

 

「…わかったわ」

 

 アスナが銀細工をストレージに収納する。

 その時、キバオウたちが進んだ方向から騒がしい絶叫が響いた。

 

「走れぇ!入り口まで逃げろぉ!!」

 

「なんだあいつ、あのデカいなりで階段上がってきてやがる!!」

 

 ガシャガシャとなる鎧の音と、乱れた足音。そして、樹が大きくきしむような大型モンスターの咆哮が洞窟内で反響する。

 

「あんなクソでかいクモがおるなんて聞いてへんぞ!!なんなんやアレ!?」

 

「あばばばば、許してええええ!!?」

 

 キリトは冷静に状況を分析する。この状況で彼らが逃げ切ったとして、毒蜘蛛の親玉が次に襲ってくるのはおそらく自分たちだ。

 連中の尻ぬぐいをさせられる前に一度報告に戻るべきだ…と、彼が考えていたその時、アスナと目が合った。

 彼女の目には闘志の焔が揺らめいていて、戦う気満々であることに気づいたキリトは苦笑いする。こうなったアスナは頑固だと知っているからだ。

 

「……キリト君、戦おう」

 

「……わかった、でも無理はするなよ!」

 

「ふっ、どちらにせよ討伐する敵だ!偵察兵の無念を晴らすためにもここで討ち取るぞ!」

 

 キバオウたちがよそ見せずに出口に直行し、その後ろを大グモが追跡する。キリトたちは蜘蛛が通過するその瞬間に一斉攻撃を叩き込んだ。

 

「キシャアアアッ!?」

 

 大グモは横からの不意打ちに対応できず横に吹き飛ぶ。キバオウたちはそれに気づかず走り去っていった。

 キリトはこの洞窟に巣くう《ネフィラ・レジーナ》…女王ネフィラをにらみつける。

 

「二人とも、ボス蜘蛛のケツから出てくる粘着網は一度引っ付くと一人じゃ取れなくなるぞ!もし当たってしまったら動けるヤツがリカバーするから声をかけるんだ!」

 

「承知した、いい助言じゃないかキリト!」

 

「それはそれとしてもっと言い方ないの!?」

 

「そんなものはない、行くぞ!」

 

 

 ネフィラ女王は毒蜘蛛の洞窟に巣くうボスモンスターではあるが、所詮は地下二階しかないダンジョンの親玉だ。フルパーティーでの六人ならば苦戦はしないであろうネフィラ女王はわずか三分程度で討伐された。

 

(ただでさえ苦戦した記憶はないのに、今回はキズメルもいるからな…)

 

「楽に倒せたのはよかったけど…なんだか、あの人たちを知らないうちに手助けしたみたいでもやっとするわね…」

 

「ははは、『良き行いは森が、悪しき行いは虫が見ている』というではないか。そなたらにも聖大樹の恵みがあるだろう」

 

「人族はこういう時『情けは人のためならず』って言うのよ」

 

「なるほど、人族にも面白い言い回しがあるのだな。それで、これからどうする?蜘蛛の親玉は倒した、新たなヌシが生まれる前にもう一つ下の階も探索するか?」

 

 アスナは首を振った。これ以上は探索をしても経験値稼ぎにしかならないから…というだけではないらしい。

 

「またあの人たちを相手にかくれんぼするのは勘弁してほしいわね!……それに、あの偵察兵の遺品を早く家族のもとに還してあげたいから」

 

「…そうか。アスナは優しいな」

 

 キズメルはアスナの頭を軽く撫でながら微笑む。撫でられたアスナは一瞬ビクッとなったが、キズメルを信頼しているのか為されるがままだ。

 

「…それじゃ、野営地に帰ろうぜ」

 

「あぁ、帰ろうか」

 

 キリトたちが野営地に戻ると、キズメルは俯いた。自分の都合で二人に報告を任せるのに引け目を感じているのかもしれないとキリトはおもった。

 

「では、アスナたちに司令への報告は任せるよ」

 

「えぇ、キズメルはゆっくり休んでね」

 

 アスナの笑顔に少しだけ元気を取り戻したのか、こっくりと頷く。

 

「…ありがとう。……では、少し休ませてもらうとしようか」

 

 キズメルは深く礼をしてから、キリトたちと別れた。彼女がパーティーからも外れたことで、キリトはそれを強く実感する。

 

 

 キリトたちがクエストの報告を終わらせると、司令は淡々と次のクエストを与えてくれた。

 天幕を出たキリトたちは歩きながらこれからどうするか話し合う。

 

「キズメルと話した後だと、『普通のNPC』のはずの司令が深い悲しみを隠してるように見えてくるから不思議だよなぁ…。どうする、もうキズメルをパーティーに戻せるはずだけど…」

 

「今はそっとしておきましょう、キズメルにだって休む時間は必要だわ。それに、やりたいこともあるし」

 

「やりたいこと…?」

 

 アスナは腰に下げた《ウィンドフルーレ》を撫でながら頷いた。

 

「二層でキリト君は言ってたよね。剣を溶かして新しい剣へ作り替えられるって。それってこの野営地のNPCでもできる?」

 

「もちろん。でも、いいのか?」

 

「うん、今回の毒蜘蛛退治が終わったら頼もうって思ってたの。ついてきてくれる?」

 

 キリトに断る理由は無かった。アスナの戦力強化は喜ばしいことだし、《ウィンドフルーレ》が活躍できるのはこの三層までだ。

 

「思い立ったが吉日っていうからな。俺もアニブレをフル強化しておきたいし、ここの鍛冶屋は結構優秀だった記憶があるから期待できるぜ」

 

「いい剣ができるといいね!」

 

 

 鍛冶屋の顔を見たアスナとドルモンの顔は引き攣っていた。何故ならば、彼は三層に入ってすぐに戦ったハロウドナイトと瓜二つだったからだ。

 要するにグラフィックの使い回しだが、コテンパンにしたアスナはなんだか恨まれてるんじゃないだろうかと不安になった。

 

「この人、あの(フォレスト)エルフにそっくりなんだけど!?」

 

「ねぇキリト、コイツに頼むの辞めない?」

 

「だ、大丈夫だ二人とも!こいつ無愛想だし基本的に『ふんっ』しか言わないけど腕は確かだから!!」

 

「それのどこに安心する要素があるかわかんないんだけど…。えっと、こんにちわ」

 

 アスナは出来るだけ平常心で鍛冶屋に話しかけたが、鍛冶屋はこちらをチラリと見ただけだった。

 

「……ふんっ」

 

「うっわ、たしかに態度最悪だぁ」

 

 アスナは自分の前に現れたウインドウを操作し、《武器を鋳潰し》を選択した。《ウィンドフルーレ》を取り外し、そのまま鍛冶屋に手渡す。

 

「…これを使ってください!」

 

「………」

 

(あれ、ふんって言わないパターンあるんだコイツ…。ベータテストの時に何度か強化を頼んだけど知らなかったな…)

 

 鍛冶屋は剣を炉に横たえると、その火を強くした。剣はみるみるうちに赤くなり、やがてインゴットに変化する。

 アスナはそのインゴットを受け取ると、そのまま鍛冶屋に《武器作成》を頼んだ。強化にも使う素材アイテムや金属片(プランク)、《ウィンドフルーレ》から変化させたインゴットを原料に、鍛冶屋は剣の作成を開始した。

 その様子を見ながら、アスナはキリトの小指をギュッと摘む。

 

「………()()、ちょうだい」

 

「………いいよ」

 

 もうとっくの昔にケーキの《幸運》バフは消滅している。だが、キリトはそれを指摘せずに剣の完成を見守っていた。






今回アグモンが出てきましたが、チラ見せだったのでキリトメモはまだ無しです。
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