武器作成に失敗はないが、その時に叩く回数は作成する武器の性能に比例する。アスナの使っていた《ウインドフルーレ》と同程度の性能なら二十回前後、キリトの《アニールブレード》なら三十回前後といったところか。
緊張しながらその様子を見るアスナたちをよそに、鍛冶師の鎚音は二十回を超え、二十五回を超え…最終的に四十回でようやく止まった。
(……あれ、これようするにウインドフルーレの倍以上強い武器ができるんじゃ……)
キリトが頭の隅でそんなことを考えていると、インゴットが光を放ちながら剣へ変形を始める。光が収まると、そこには全体が白銀に輝く細剣が横たわっていた。
それを手に取った鍛冶師は検分しながら一言。
「……いい剣だ」
「あんた『ふんっ』以外も喋れたのか!?」
キリトはそこそこ酷いことを口走って鍛冶師に睨まれた。アスナは彼にお礼を言う。
「えっと、ありがとうございます!」
「………ふん」
「…アスナ、ちょっと待った」
キリトにそんなことを言われたアスナはハテナマークを浮かべた。
「どうしたの?」
「いや、とりあえずその剣のスペック確認しよう。少なくとも前の剣より性能が下がってることはないだろうけど……」
「……??…はい、可視モードにしたわよ」
アスナとキリト、ドルモンはプロパティを覗き込んだ。細剣の名前は《シバルリック・レイピア》、強化試行回数…15。
「………んん!?」
キリトは慌てて目をこすり、それが目の錯覚でないことを何度も確認した。見間違いではないことを確かめた彼は奇声を発してしまう。
「……なでゅッ…!?」
「……ど、どうしたのよ?そんな声だして…」
「……わ、悪い…。アスナ、その剣やばいぞ!店売り武器だと五層六層クラスだ!!」
アスナは首をかしげた。どうやら実感が湧かないらしい。
「それって困ること?そんなことより試し振りに行きましょうよ、この子にも早く慣れたいもの!」
「……あ、俺も剣を強化してからでいいか?」
一行は攻略会議に顔を出すために人間の町へ向かっていた。
キリトはアスナが《シバルリック・レイピア》で蜘蛛やらクネモンやらを一撃粉砕しているのを見てため息をつく。片手武器なのに両手武器並みの破壊力は、もはや反則レベルの暴力であった。
「……鬼に金棒ってことわざをこんな風に目の当たりにしたのは初めてだよ」
「しかももっと強くなるんでしょ?…自信なくすなぁ」
「だな…」
アスナが愛剣の破壊力にうっとりしていると、どこかで金属音が聞こえてキョロキョロと周りを見渡す。
「……キリト君、今の聞こえた?」
「ああ、もちろん」
キリトたちが音のする方に向かうと、そこでは見覚えのある光景が広がっていた。こちらに背を向けた五人のプレイヤーと、
プレイヤーたちはギルドクエストをやっていたはずのリンド一派だった。
「……あいつら、《
「えーっと、オレたちとは違うインスタンスで進んでるんだっけ?」
「……それにしても意外ね。てっきりあの人たちもギルドクエストに集中してると思ったんだけど…」
アスナはそう言いながらハッと気づく。ハロウドナイトが無防備に背中を晒しているのにリンドたちはその背中を攻撃していないのだ。
……それはつまり、彼らは
「……このままじゃ、キズメルが殺されちゃう…!」
「アスナ、わかってると思うけど…あそこで戦っているキズメルは俺たちの友達のキズメルじゃないんだぞ」
「……わかってるわよ!でも、すっごくもやもやする…!!」
アスナは歯痒そうに
「………
「へ?どうしたのアスナ?」
「二人とも、あの人キズメルじゃない。似てるけど、男の人だわ…」
「な、なんだって!?」
キリトは慌てて
「ハァッ!!」
黒騎士の放った一撃はハロウドナイトになかなか痛いダメージを与えたようだ。白騎士のHPは赤の危険域まで到達してしまい、数メートルは吹っ飛んでしまう。
「ぐああッ!!」
倒れ込んだ白騎士を無視したロイヤルガードは、リンドたち人間の剣士に敵意を向ける。リンドはこくりと頷いてから仲間たちに指示を出した。
「全員、防御だ!」
「……無駄だ」
三撃目がクリーンヒットしたリンドと彼の仲間は、あっという間にHPが半分以下の黄色に突入する。満身創痍になった彼らに、黒騎士は刃のように鋭利な声で語りかけた。
「……警告に従い立ち去れば、このようなことにはならなかっただろうに。…人間たちよ、その愚かさの報いを命で償うがいい!!」
黒騎士が剣を振り下ろそうとするが、いつの間にか立ち上がっっていた白騎士がそれを遮った。
「まだ立つか!」
「……ぐ…!貴様の敵はこの私だ…ッ!!」
鍔迫り合いに持ち込んだハロウドナイトだったが、少しずつ押し込まれていった彼は叫んだ。
「カレス・オーの聖大樹よ、我に最後の
「……な、貴様…!?」
「与えたまえェ!!」
(…全部、ベータで見た展開だ。なのに、心が締め付けられるように痛いのは…きっとキズメルと過ごしたからだ)
わいわいと騒ぐリンドたちから、キリトは目を逸らした。
なぜキズメルではなく別の人物がクエストNPCに据えられたのかを考察しようとしても、うまく頭が回らない。
「………キリト君、先を急ぎましょう」
「……ああ」
アスナの気遣いが、今のキリトにはありがたかった。
三層の主街区《ズムフト》にやってきたキリトたちは、ひとまず会議まで休むことにした。《ズムフト》は三本の超巨大なバオバブの中に存在する高層ビルのような街だ。
「すっげー、ここのニンゲンはデカい樹の中に住んでるんだな!……どういう街?」
「……移動がむっちゃ大変。昇降機の類は一切無し、上に行くにはクソ長い階段を上がるしかない不便な街なんだ。実際ベータの時にここをホームにしてたやつはほとんどいなかった」
「へー、それで宿って何階にあるの?」
「たしか結構高い場所にあった気がするな。だからプレイヤーは一度来たら二度と来ないことが多いんだ、毎回長い階段を上り下りしたいヤツなんていないからな!」
それを聞いたアスナはにこりと笑みを浮かべ、階段を駆け上がる。
「キリト君、先に行ってるわねー!」
「あ、待てアスナ!!」
「追いかけっこだ、頑張れキリト!」
慌てて追いかけるキリトだったが、バランスよくステ振りをしているキリトではスピードタイプのアスナに追いつけるわけもない。
「ふふ、わたしの勝ち―♪じゃ、部屋はこっちで決めるわね!」
「ぜー、ひゅー…」
「んーと、お風呂付きでー、眺めもよさそうなここにしようっと!……『宿泊』と『休憩』?よくわかんないけど会議が終わったら野営地に戻るし『休憩』で!」
アスナはあまりよく考えずに
「わぁ…!!すごいよキリト君、こんな高い場所から三層を見られるな、んて………」
「よ、ヨカッタネー……」
「………………」
アスナはテーブルの上のウェルカムフルーツからピンポン玉程度の木の実を手に取った。
「なんで、入ってきてるのよ!!」
全力投球された果実はキリトの額を正確に捉え、彼の頭を揺らした。投げつけられた果実はかなりの硬さで、思わずキリトも涙目になるほどだった。
「り、理不尽…」
キリトが額をさすっているのを無視しながら、ドルモンは真っ二つに割れた果実の半分をさくさく齧っている。
「キリト、これ美味しいよ」
「お前はもうちょっとこっちを気にしろよ!マイペースか!!」
キリトも文句を言いながら食べてみると、たしかになかなか美味しかった。アスナの怒りが収まるまでキリトたちは木の実をさくさくと食べ続けて待つ。
しばらく息を荒げていたアスナだったが、責任の半分以上は自分にあると気づいたのか小さく謝罪する。
「……ごめんなさい、さすがに今のはちょっとやり過ぎたわ」
「……いや、黙ってついてきたこっちも悪いし…」
アスナとキリトはそれからしばらく無言だったが、先に口を開いたのはアスナだった。
「キリト君、あの人たちがやってたエルフクエストのことについてちょっと気になったんだけど…」
「……ああ、あの
「わたし、二人目のキズメルが出てくるんだと思ってた。同じクエストをやったら同じNPCが登場するんだって…」
「
アスナはそれを聞いて、安心したような顔で微笑んだ。
「……わたし、あの時キズメルが出てこなくて安心しちゃったの。…だってエルフクエストの導入でキズメルが死ぬって筋書きはなくなったってことでしょう?」
「………どうだろう。自爆が先送りになっただけの可能性もあるからな…。あの《鷹使い》とデカい鳥見ただろ?あいつらは総合的に見ればあの白騎士より強い、正面から戦っても…」
「勝つわ。あの時と違って、今のわたしには《
彼女の言葉にキリトは頷いた。空と地上の同時攻撃は確かに脅威だが、個別に戦うことができればなんとかなるだろう。
「……まぁ、とりあえずエルフクエストのことを考えるのはこれくらいにして、そろそろ休もうぜ。深夜から毒蜘蛛のところに行ったからか仮眠したい…」
「オレもすごくねっむいぃ……」
「……もう、ちゃんと目覚ましセットしてね!」
アスナは母親のようなことを言いながら、彼女自身も仮眠を取ることにした。
会議は午後五時から始まるので、キリトたちは十五分前に会議をする転移門広場へ足を運んだ。
「オーッス、キー坊!いい子にしてたカー?」
キリトたちが来るのを待っていたアルゴが笑顔で一行に挨拶してきた。キリトは頭をかきながら彼女をにらみつける。
「なんだよ、俺を問題児扱いして…。三層に来てからはずっとエルフクエストやってたから変なことはしてないぞ!」
「…それならヨシ!キー坊は危なっかしいからナー、アーちゃんとドル坊も気が休まらないだロ?」
「見てて飽きないよね」
「……心配してるのはたぶんわたしだけですよアルゴさん…。ドルモンはどっちかというとアクセルっぽいですから…」
アルゴはにゃははと苦笑いをして、ドルモンの頭を撫でた。
「で、そっちはどんな感じだ?」
「……オイラ、ちょっと考えてることがあってネ」
アルゴはキリトになにやら耳打ちをすると、彼は口をあんぐりと開けて驚いた。
「……マジで?」
「マジだヨ!」
にこにこしてるアルゴを、キリトは信じられないものを見たような顔で見つめる。その様子が気になったのか、アスナはそわそわしている。
「二人とも何の話をしてるの?」
「にゃはは、ナーイショ!その代わり、アーちゃんにはオレッちの仲間を紹介するヨ!」
アルゴが指パッチンをすると、彼女の近くに隠れていたデジモンがキリトたちの前に姿を現した。顔全体が花の形をした植物型デジモンだ。
「ぼくは《フローラモン》、あなたは?」
「わたしはアスナ、こっちの黒いのはキリト君よ」
「………キリト?」
フローラモンはキリトの方をじっと見た。
「ど、どうした?」
「…一層で森をうろついて、ボロボロの状態だったあの?」
「……え」
キリトは驚き、フローラモンの顔を見つめ返す。フローラモンが言っているのは、デスゲーム初日のことだったからだ。
「…お前は、一体…」
「タネモンだったころに会ったじゃない。ほら、思い出して!」
「……タネモン…。ああ、あの時の!」
確かにキリトはかつてタネモンと出会い、会話したことがある。このフローラモンはあのタネモンが進化した姿なのだろう。
「ずいぶん久しぶりだな、元気だったか?」
「えへへ、元気元気っ!」
「そっか、よかった…」
キリトとフローラモンが楽しそうに笑っているのを見たドルモンは膨れっ面をしている。
「…仲が良いんだね」
「最初の日に会ったきりだったんだけどな、嫉妬してるのか相棒?」
「…してる、かも」
キリトはニヤリと笑いながら、ドルモンの頭を撫でた。
「ったく、かわいいところもあるじゃないか!」
「な、なでるなよー!」
キリトがドルモンをからかっていると、ステージの演壇にキバオウとリンドが現れた。
「キー坊、リンキバが来たゾー」
「おぉ、やっと来たか…」
二つのギルドができて初めての攻略会議が始まろうとしている。キリトはまだ、この後にとんでもないことが起こる事を知らなかった。
<キリトメモ>
《フローラモン》
爬虫類のように成長した植物型デジモンで、普段は花びらのような外殻で頭部を守っている。機嫌が良い時は頭部を守る花びらを開け、光合成をしているようだ。
必殺技は大量の花粉で相手をアレルギーにする《アレルギーシャワー》。…無茶苦茶鼻がムズムズするので興味本位で喰らってみるべきではない…。