ギルド《アルゴ・ノーツ》を結成したアルゴたちは、今後のことについて話し合った。その結果ギルド同士の調整はアルゴに任せ、キリトとアスナはこのまま
それから二日、キリトたちはエルフクエスト第三章《手向けの花》、第四章《緊急指令》をクリアして
「キリト、助けられてよかったね。……オイ、聞いてるー?」
「……あ、あー聞いてる聞いてる」
生返事を返すキリトに、ドルモンは相棒のほっぺを軽く引っ張って抗議する。
「今の絶対聞いてないヤツだろ」
「悪い悪い、つーか俺この先の展開はある程度知ってるからな…。アスナにネタバレしたくないから基本的に黙ってるけど…今護衛してるアイツ偽装のまじないで変装した
「……マジ?」
「うん、侵入した偽
「……わかった、アスナには伝えないようにするね」
キリトとドルモンがコッソリ悪だくみをしているところに、アスナは首をかしげながら何を話していたのかを聞いてきた。
「二人とも、何の話をしてるの?」
「ふふ、ずいぶんと楽しそうに話をしていたが何か気になることがあるのか?」
アスナとキズメルはキリトたちの内緒話に興味があるようだった。キリトはネタバレを嬉々として語るわけにもいかず誤魔化すことにした。
「い、いやー…二人とも強くて頼もしいなぁって…」
「……で、本題は?」
アスナの鋭いキラーパスがキリトに突き刺さる。
「だ、だから…えーっと…その、お嫁さんにするならどっちがいいかなーって…」
「…は?」
「ごめん、今のなしで…」
キリトは慌てて発言を取り消すが、当然アスナは顔を真っ赤にしながら怒った。
「馬鹿、馬鹿!いったい何言ってるのよ!?」
一方キズメルはというと、どこかイタズラっ子のような笑みを浮かべてまんざらでもなさそうだった。
「キリト、子どもは何人欲しいんだ?私としては男の子と女の子が一人ずつ…というのがいいと思うんだが」
「「き、キズメル!?」」
「……冗談だ。もし本気で結婚するなら女王陛下に許しを請わねばならんな」
キズメルの本気か冗談か区別できない発言にキリトとアスナは翻弄される。なお、ドルモンは男女のアレがわかんないので頭上にハテナマークが浮いていた。
そんなこんなで拠点に戻った一行をガルルモンはいつものように出迎えてくれた。…が、今回のガルルモンはいつもと様子が異なっている。
連れて帰った偽
「グルルル…ばうッばうッ!!」
「コラ!ダメでしょガルルモン!ハウスッ!」
「へ、へへ…昔から動物には嫌われるんでさ」
偽
(さすが犬科、鼻がいいのか勘が鋭いのか…)
その後偽
「ケケケ!こ、これでオレ様は斥候兵から騎士に…」
「待ちなさいこのドロボー!!ソレを大人しく返すなら命だけは勘弁してやるわっ!!」
「わおーんッ!」
「ギャアアアアアッッ!!?」
アスナのしつこさを、知らなかった。なんと騙されたことに気づいた彼女はガルルモンの背中に飛び乗り泥棒の追跡を始めたのだ。
キリトとキズメルがアスナに追いついた時には、彼女はニッコニコで
「キズメル、取り戻してきたわ!」
「わんッ!!」
「………す、凄いなアスナ…。ガルルモンの背にしがみついたまま移動するのは《狼使い》でも難しいと聞いたことがある。…
キズメルは
……一枚の紅い羽根が、彼の視界に映りこんだ。
「………ッ!!!」
「キリト、どうし……あ、アイツは…!!」
キリトは遠い場所に、狼煙が焚かれているのを確かに見た。…その上を悠々と飛び回るアクィラモンも。
気づかずにキャンプへ近づいていたら索敵範囲に引っかかっていたかもしれない。
「……二人とも、あそこ…!」
「え?……!!あのデジモン、《
「……まさか、敵の野営地がこんなところにあったとはな…。だが、今は奪い返した
キズメルは拳を強く握りしめている。そうしなければ今にもキャンプに突撃しそうな雰囲気があった。
(……今、一番あのキャンプに襲撃を掛けたいのは他ならないキズメルのはずだ…。なのに年長者として冷静に撤退を選んでくれるんだな、彼女は)
「キズメル…。そうね、敵に今見つかればまず間違いなく《鷹使い》とアクィラモンに襲われるもの…」
「…ああ」
一度野営地に戻り、第五章《消えた兵士》をクリアした一行は、クエストを一時中断してフィールドボス戦に参加した。
「ええい、邪魔すんなや!」
「足を引っ張ってるのはそっちだ!」
……訂正しよう、その実態はフィールドボス戦とは名ばかりの二大ギルドの牽制合戦であった。死人こそ出なかったものの酷い有り様の彼らに、《アルゴ・ノーツ》の二人は呆れた顔をするしかなかった。
「…何度かアグモンの技がベタモンに
「……
アスナはすっかり人間同士のいがみ合いにうんざりしているようだった。確かにこんな状況が続けばいずれ取り返しのつかないことが起こってしまうだろう。
「オレ、あいつらと一緒にこれからずっとやってく自信なくなってきたなぁ…」
「安心しろドルモン…俺もだから!」
「言ってる場合かヨ!!…ったく、リンキバの仲の悪さもなんとかしねぇとナー…」
そう言いながらアルゴがキリトに近づいてくる。彼女はリンドとキバオウがこちらに視線を向けていないことを確認すると、小さく耳打ちしてくる。
「……キー坊、エルフクエどこまで進めタ?」
「昨日五章を終わらせたばかりだけど…。…なにかあったのか?」
「…《ALS》と《DKB》が何故かエルフクエを一気に進めてるっぽいんだヨ。どっちもキー坊たちと同じ五章まで終わらせてんダ、誰かが意図的に調整してるような気がするゾ」
「……そりゃあきな臭いな…。あいつらはギルド結成クエストも進めてたはずだ、なのに集中してやってるこっちと進行度が同じなんて……」
キリトと同じ意見なのだろう彼女は渋い顔をしている。
「そういうわけダ…あいつらがどっちの陣営でも鉢合わせには気を付けろヨ、キー坊?」
「OK、ついでに頼みがあるんだけど…値引きとかは…」
「しないゾ、つーかたまには貯めてる《アルゴ・ポイント》使ってくれヨ」
キリトは通常運転のアルゴに苦笑いしながら情報屋に一つ依頼する。
その日の夜、キリトは野営地にある風呂場でゆっくりと疲れを取っていた。ドルモンも風呂桶の中でぐでーっと脱力している。
「はー、気持ちいい…。アスナがお風呂好きなのもちょっとわかるなー」
「俺はあんまり好きではないんだよな…。水の浮遊感が独特で…」
キリトはドルモンとたわいのない話をしながら、野営地に着く直前に来たアルゴの報告を見つめる。…その内容は、キリトの想像した『最悪』そのものだった。
(……確定、だな。でもどうすればいいんだコレ…?)
キリトが悩んでいると、天幕の外から誰かが入ってくる。
「おや、キリト」
「……キズメル!?ゴメン、すぐで…」
キリトは慌てて風呂から出ようとするが、キズメルは気にした様子もなく装備をすべて外してその身体を惜しげもなくさらす。
そのデザイナーの執念を感じるプロポーションにキリトの脳はショート寸前だ。
「一緒に湯浴みをしてもかまわないだろうか?」
「え、それは……」
異性(特にNPC)への不適切な接触を防ぐためにあるハラスメントコードはこの場合自分を黒鉄宮に叩き込むのかキリトは
しかし、キズメルは寂しそうに一言。
「………駄目、か?」
「……お、お背中流させてもらいます…」
なんだかんだで女に甘い…というか尻に敷かれるタイプのキリトに、ドルモンはしょうがないヤツだなぁと首を振るのだった。
キズメルの背中をヘチマっぽいスポンジでこすっていると、彼女は突然こんなことを聞いてきた。
「……キリト、なにか悩みでもあるのか?」
「……へ?いきなりどうしたんだ?」
「いや、先ほどから上の空というか…私には言えないことか?」
「…………」
キリトが誤魔化すべきか正直に言ってしまうか悩んでいると、彼女はその沈黙をどう捉えたのかこう言った。
「…ならば取り引きをしようじゃないか。最近、寝ていると不思議な夢を見るんだ。その夢について話す代わりに、何に悩んでいるか聞かせてはくれまいか?
「……わ、わかった。……どっちが先に言う?」
「……私からだ。わがままを言っているのはこちらなのだ、先に言わせてくれ」
キズメルは一呼吸おいてから、奇妙な話を始めた。
「……おそらく、最初にキリトたちと出会った時の夢なのだが…。不思議なのは、四日前のそれとは色々と違うのだ」
「何が違ってたの?」
ドルモンがお湯をちゃぷちゃぷしながらキズメルに聞いてみると、彼女はゆっくり話し出す。
「まず、キリトの格好が違う。それに、仲間も違う。ドルモンやアスナではなく、見知らぬ人族の男たちだった」
「へぇ…そりゃたしかに変だな。ドルモンは生まれたころから俺と一緒に行動してるし、アスナ以外と仲間だったこともあんまないハズだし…」
「……まあそれは些細な違いだ。夢の中でキリトと仲間は私と一緒に森エルフと戦ってくれるのだが、なんというかあんまり頼りにならないというか…」
「あー、ザコだったってこと?」
ドルモンの容赦ない一言に二人は苦笑いを返すほかなかった。
「まあそうだな…。腕が未熟な彼らは一人、また一人と倒れていき…そして私は最後に生き残ったキリトを助けるために聖大樹の加護を全て解き放つ。敵は倒せるが私も力尽き、地面に倒れる私をお前は悲しそうに見つめている……。そんな夢だ。顔ぶれやキリトの格好は夢を見るたびに変わるが…結末は常に同じだった」
「……ふーん…」
キリトはスポンジを止める。その夢の元になった出来事に心当たりがあったからだ。
(……それは、
「………キリト?」
「……あ、ごめん。……じゃあ、こっちもちゃんと話すよ。実は…」
深夜、キリトはセットしていたアラームで目を覚ます。尻尾をパタパタ振るドルモンはこくりと頷いてからいつもの定位置であるキリトの肩に乗っかった。
「……じゃあ、行こうぜ。……《潜入》に」
「……うん」
彼らは静かに天幕を出ると、夜の森へ歩き出した。