ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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19話 暗夜に潜む者モルテ登場

 (フォレスト)エルフの野営地には侵入するための抜け道が存在する。それはクエスト名の《潜入》という単語からも明らかであり、ベータテスト参加者であるキリトはもちろんそのルートを知っていた。

 そのポイントに着いたキリトは何者かの視線を感じ取った。得体のしれない生き物に舐められるかのような、不快感のある視線に彼は眉をひそめる。

 

「……誰かそこにいるのか?」

 

 彼が違和感のある場所に目線を向け続けると、その光景の一部がにじんで人間の姿を取る。モンスターの鱗でできたスケイルアーマーと頭を細かい鎖で編んだ鎖頭巾(コイフ)を装備したそのプレイヤーはにへらと笑みを浮かべる。

 

「へー、すっごいなー。この隠蔽率(ハイド・レート)看破(リビール)されたのなんて初めてですよ…バレない自信はあったんだけどなぁ!」

 

「……お前、なんで隠れてたんだ」

 

「そりゃー、黒エルフ側のプレイヤーを待ち伏せするためですよぉキリトさん?」

 

 キリトはチッと舌打ちする。ようするに自分狙いで隠れていたということだからだ。

 

「やっぱり俺を知ってたか」

 

「そりゃ最前線にいるプレイヤーなら知ってますよ、変なモンスター連れてますしねぇ」

 

「誰が変なモンスターだジャラジャラ鎖!おしゃれのつもりだろうけどかなりかっこ悪いぞ!!」

 

 ドルモンは変なモンスターと言われて憤慨しているが、男はどこ吹く風。ガルルと威嚇するドルモンを抑えながらキリトは冷静に質問する。

 

「……なぁ、アンタも俺と同じベータテスターだよな。この潜入ポイントはまだ攻略本にまとめていないから、現時点で知っているのはベータテスト経験者しかありえない」

 

「ハイ、実はそうなんですよぉ…。まぁキリトさんに比べたらヘナチョコでベータ上がりってのを隠してせこせこ点数稼いでるわけで~」

 

「………で、どうするつもりだ?まさか素通りさせてくれる…なんて言わないよな?」

 

「……別に構いませんよぉ?」

 

「……マジ?」

 

 思わぬ反応にキリトは目が点になる。

 

「大マジです、で~も~…タダで通しちゃうとつまんないんで条件付きってのはどうです?……ホラ、ベータ時代によくやったアレ!」

 

「……《決闘(デュエル)》か」

 

 《決闘(デュエル)》とは、プレイヤー同士が犯罪者にならずに剣を交えることができる唯一の手段だ。デスゲームと化した正式サービスと異なりまだ遊びとしての体裁を保っていたベータテストでは、なにか揉め事があるとプレイヤーたちがHPを0にするまで剣を交えることも多かった。

 

YES(イエース)!元ベータのアニール使い同士ぃ、久々に燃えてきません?」

 

「………ははっ」

 

 キリトはアスナには絶対見せない獰猛な笑みを返した。

 

「良いぜ、()ろう。ベータの時みたいに《完全決着モード》でやれないのは残念だけどな」

 

「そうですねー。…でもぉ、《初撃決着》は萎えるんで《半減決着》でやりましょうよ」

 

「……上等!」

 

 キリトは決闘のサブウィンドウを見ながら、スッと笑みを消す。

 

「ところでさ、一つ聞いてもいいか?…D()K()B()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?あいつらは階層攻略にご執心のはずだぜ」

 

「……聞いてないですねぇ」

 

「……ならなんでアンタはこのクエストが寄り道でしかないと知りながらそれを黙ってるんだ?」

 

「……」

 

 男は口を閉ざす。キリトはこれ幸いと言葉を紡いだ。

 

「DKBは(フォレスト)エルフ側、ALSは(ダーク)エルフ側…さらにどっちも六章まで進めている…。ここまでくると誰かがこのキャンプで両ギルドが潰し合うようにお膳立てしてるようじゃないか?」

 

「えー!?もしかして自分のこと疑ってるんですかぁ!?……()()()()、では?」

 

「……たまたまじゃないとしたら大問題だ。二つのギルドを誘導するヤツがいるんなら、十中八九そいつはベータテスターだ。……で、気になって調べたら面白いことが分かったんだよ」

 

「……面白いこと?」

 

「なんでも、DKBとALSに大型新人が入ったって言うじゃないか!まぁリンドもキバオウもとっておきの隠し玉としてスカウトしてたからそいつの名前を探るだけで時間がかかった……えーっと、なんて名前だったかな…」

 

 キリトはわざとらしくドルモンに目配せをする。

 

「なんだよー、たしかALSのほうは《モルテ》って名前だったよね?あっれれー、なんかおかしくなーい?」

 

「そうそう、そんな名前だったか!!………で、言い訳はあるかDKBの《モルテ》さん?」

 

「………そこまでバレてるんなら仕方ないですねぇ!」

 

「なんでこんなことした?やつらが争うことでお前に何の得がある!?」

 

「……じゃあ、キリトさんが勝ったら教えますよ。……わかっていただけるかどうかは別ですけどね~?」

 

 キリトとモルテが《決闘(デュエル)》のために広い場所に移動しようとしているのを、誰かが少し離れた場所で見ていた。

 

「……うむ。首尾よく警備を連れ出したようだな」

 

「何言ってるかわかんねーけどよくやったゾ、キー坊!…後でなんか美味しいモンでも奢ってやるカ」

 

「……キリト君、がんばってね…!」

 

 そこにいたのは、キズメルとアルゴ、そしてアスナの三人だった。格好も種族も異なる彼女らの目的は、(フォレスト)エルフが敵に襲撃をかけるために作った《指令書》を奪い取ることだ。

 

 

 時はキリトとキズメルがお風呂をしている場面までさかのぼる。キズメルの不思議な話を聞いたキリトは自らの悩みを打ち明けた。

 

「…実は、今の人族は大きく分けて二つの集団が率いているんだ。ALSとDKBって言うんだけど…こいつら死ぬほど仲が悪くてなぁ」

 

「それはまた…人族も大変だな」

 

「それだけならまだマシなんだ。問題は人族の戦士たちの中に、異なる陣営でエルフの傭兵をしている二つの集団を同士討ちさせようとしてるヤツがいるらしくて…」

 

「な、なんだと…!?」

 

 キズメルはキリトの方を向いてから眉をひそめた。

 

我々(エルフ)の争いに加担するならば、遭遇戦も起こりうるだろうが…。そういうことではないのだな?」

 

「ああ、今日の夜ALSがあの野営地を襲撃するって信頼できる情報筋から仕入れた。……その野営地をDKBの連中が守ってることもだ。……偶然だと思うか?」

 

「……いや、あまりにも話が出来過ぎている。(ダーク)エルフと(フォレスト)エルフの戦いに何者かが巻き込もうとしているというのも間違いはなさそうだ…」

 

 キズメルは少しだけ悩む素振りを見せる。理由はもちろん妹夫婦の仇である鷹使い(ファルコナー)が野営地にいるはずだからだ。

 今夜を逃せば鷹使い(ファルコナー)は仲間を置いて逃走するだろうことは初日の対応からも明らかだった。

 

「……俺がそいつをなんとかする。だからキズメルはアスナを連れて野営地に潜入してほしいんだ」

 

「……アスナを?」

 

「鷹使いとの戦いでアスナは悔しい思いをしたはずだ。できれば彼女にも雪辱を晴らす機会を少しでいいから分けてやってほしいんだ」

 

「……わかった。人族同士で殺し合いをするわけではないだろうが…負けるなよ」

 

 キリトとドルモンは頷いた。

 

「もちろん勝ってくるよ」

 

「オレも頑張るから、キズメルも勝ってきてね!……約束!」

 

「ああ、戦場こそ違えど負けられぬ戦いだ。任せたぞ二人とも」

 

 

 それからキズメルは深夜にアスナを起こすと、キリトが指定したポイントで彼の協力者を待った。

 

「……キズメル、こんな時間にどこにいくのー…?キリト君は…?」

 

「済まないが任務に向かうことになった。キリトたちは一足先に敵地に向かっているはずだ」

 

「……はい!?」

 

 寝ぼけ眼だったアスナはとんでもないことを聞いて目がすっきり覚めてしまった。

 

「ちょっとどういうこと!?あの人なにやってるの!?」

 

「まぁまぁ…今キリトの仲間と合流するために待っているところだ。……会えばすぐわかると聞いたが…」

 

「……お、おおおお!?マジで《黒エルフの近衛騎士(ダークエルヴン・ロイヤルガード)》じゃんカ!」

 

 キズメルが声の方向を向くと、そこにいたフードを被った少女…アルゴは目をキラキラさせて近づいてきた。

 

「スッゲー!非戦闘状態のロイヤルガードをこんな間近で見られるなんテ!!あぁ、スクショ取りたいナァ…!」

 

「……初対面の相手をじろじろと見るのは感心しないな」

 

 エリートMOBのキズメルに睨まれたアルゴは殺気を感じて思わず後ずさった。

 

「ア、スンマセン…。エー、お初にお目にかかりまス、リュースラ王国の近衛騎士キズメル殿。冒険者支援団体《アルゴ・ノーツ》代表兼情報屋のアルゴと申しまス、以後お見知りおきヲ。今夜はキリトに敵地の潜入を手助けしてほしいと頼まれたのでス」

 

「……うむ、よろしく頼む。それで、情報屋とは?」

 

「お教えすることはできますガ…、今回は自分ではなく新人に説明させてもらいますネ。ホレ、頑張れフローラモン」

 

 アルゴは後ろで待機していたフローラモンに手招きした。

 

「は、はい!情報屋っていうのはアルゴが集めた情報をコルや情報を対価に売るお仕事のことだよ!」

 

「…なるほど、面白い商いだ。では、こちらもなにか情報を提供するとしよう」

 

 アルゴとキズメルが情報交換をしているのを、アスナは困った顔で見ていた。そのまま彼女は隣にいるフローラモンに視線を向ける。

 

「……で、コレどういう状況?キリト君がなにかやらかしたの?」

 

「………さぁ?でも今を逃すと大変なことになるって聞いたよ。アルゴが大変って言うんだから、無視したらそりゃ酷いことが起こるんだろうね…」

 

 

 アスナたちは森エルフ野営地に忍び込むと、目的の指令書を探すために二手に分かれる。

 

「アスナ、指令書は二つある指揮官級の天幕のどちらかにあるはずだ。私はあちらの天幕を探る、そなたらはもう片方の天幕を探してほしい」

 

「わかった、気を付けてね」

 

「アルゴ殿、アスナは闇夜に紛れるのに不慣れだ。できれば手助けしてやってくれ」

 

「りょーかいだヨ!ささ、ついてきテアーちゃん!」

 

 アルゴは警備の目を逸らし、かいくぐり、時にはフローラモンの花粉でくしゃみをさせた隙に移動した。アスナは彼女の明らかに慣れた犯行に感心する。

 

「……なんか、凄いですね」

 

「オレッちの得意分野だからこのくらいはネ?」

 

 アルゴは天幕の中を覗いてからアスナに手招きする。アスナが中を見ると酔っ払った指揮官らしき(フォレスト)エルフが居眠りしていた。

 その目の前にあるクエストアイテムに気づいた彼女らは静かに盗み出そうとする。

 

(……あと、ちょっと…!)

 

 アスナが指令書を取ろうとしたその瞬間、外で大きな叫び声が聞こえる。

 

「侵入者だーッ!!!」

 

「!!?」

 

「な、何事だッ!?」

 

 アスナたちが指揮官の視界に映らないように隠れると、酔っぱらいは慌てて指令書を掴んで外の様子を確認する。

 

「ば、馬鹿な!(ダーク)エルフではないだと!?奴らも人族を手駒に引き入れたというのか…!」

 

「《アインクラッド解放隊》、突撃ィ!!」

 

「……は!?」

 

 

 正面の門から堂々と突っ込んできたALSに、DKBのリンドは青筋を立てた。

 

「あいつら、なぜここに…!まさか、おれたちと同じ情報を仕入れてきたのか…?」

 

「リンドさん、迎撃だ!あいつらをどうにか足止めしなきゃ、クエストが失敗するぞ!」

 

「ああ、いくぞみんな!」

 

 

 (フォレスト)エルフの指揮官は敵の狙いが自らの手にある指令書だと気づく。

 

「……奴らの狙いは()()か!?……ならば。《鷹使い》殿!《鷹使い》殿はおられるか!!」

 

「!!!」

 

 アスナは目を見開いた。たしかにあの(フォレスト)エルフは《鷹使い》を呼んだのだ。

 ばさりという羽音とともにアクィラモンが指令書を受け取ると、指揮官は大声で叫ぶ。

 

「今それを奪われるわけにはいかないのだ!お頼み申す!」

 

「……ええ?こっちは忙しいんですがねぇ」

 

 アスナが忍び込んだ方とは別の天幕が真っ二つになる。そこから現れたのは、剣を斬り結ぶキズメルと《鷹使い》だった。

 

「オオオオオオッ!!」

 

「……ハハッ!」

 

リュースラ王国近衛騎士キズメル VS 《森エルフの鷹使い(フォレストエルブン・ファルコナー)

 

 

「……聞こえますかキリトさん、()()()の音が!キバオウさんを急かして正解でしたねぇ」

 

「へぇ、考えたな。俺たちを足止めしておけば連中は興奮のままに大惨事を起こす。…だが、お前は逆に俺以外を警戒していないんだろう?」

 

「えぇ、ぶっちゃけキリトさん以外は取るに足りませんよ。ベータテスターでもない女の子に何ができるって言うんです?」

 

 そう言ったモルテに、ドルモンが獰猛に歯をむき出しにした。

 

「お前、アスナのことは全く知らないな?」

 

「……お前は俺さえ押さえれば自分の思い通りに事が進むと思い込んでいたんだろうが…。彼女をなめてかかると痛い目見るぜ!」

 

「なるほど、では楽しい楽しいお祭りの始まりですよぉ!!」

 

《アルゴ・ノーツ》キリト&ドルモン VS 《DKB》?モルテ

 

 

「さっさとどけやコラァッ!!」

 

「お前らが帰れ!クエストの邪魔だ!!」

 

「……ほんっとにあの人たち馬鹿なんじゃないの!?」

 

 アスナは言い争いをするALSとDKBのていたらくに呆れた顔をする。怒っているアスナの肩をアルゴは軽く叩いた。

 

「…アーちゃん今は連中の事なんか放っとケ!オイラたちの勝利条件はなんダ!?」

 

「え、それは…指令書の奪取?」

 

「そうダ!ALS(あいつら)より先にクエストを終わらせロ、そうすればこのマップに価値は無くなル!!」

 

 アスナはハッとキズメルと《鷹使い》の戦いを見た。問題の指令書は今、アクィラモンが持っている。

 

「つまり、《鷹使い》とアクィラモンを倒せばいいんですね!!」

 

「正解ッ!サァ、あのいけすかねェイケメンをやっちまエ!!」

 

「…イエス、リーダー!!」

 

《アルゴ・ノーツ》アスナ VS アクィラモン

 

 三人はそれぞれが負けられない戦いへと挑む。

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