ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

2 / 49
2話 アルゴとの出会い、ガジモンの罠!

 ホルンカの村に戻ってきたキリトはクエストをクリアした後、宿屋の中で気絶したかのように眠っていた。

 その手の届く位置にはクエストクリアの報酬(リワード)である無骨な片手剣《アニール・ブレード》がある。

 この剣が一人のプレイヤーの間接的な死因になったことを、キリトは一生忘れることはないだろう。

 その翌朝、キリトはノック音で目が覚めた。

 

「……スグ、か…?」

 

 寝ぼけていたキリトは、すぐにそこが自分の部屋でないことを思い出しバッと飛び起きる。ここはアインクラッドであり、デスゲームの牢獄…つまり、誰かが起こしに来ることはほぼあり得ないのだ。

 キリトは来訪者が何者かを予測しようとするが、心当たりが全くない。そのまま様子を見ていると、扉の向こうから何者かが声をかけてきた。

 

「安心してくレ、怪しいモンじゃないからサー」

 

「それ怪しいヤツのセリフだろ!!」

 

キリトのツッコミにその人物はにゃっはっはと笑うと、再び扉をノックしてくる。

 

「オイラはアルゴってモンだ。アンタに売ってほしいものがあってネ、わざわざホルンカまで来たんだヨ」

 

 キリトは自分のベッドに立てかけている《アニール・ブレード》を見る。この人物の目当てがこの剣だと予想したキリトは警戒心を強めた。

 ただでさえ手に入れるのに死にかけたのだから、これを手放すつもりはない。

 

「………わかった、鍵を開けるから5秒経ったら入ってきてくれ」

 

「アイヨ」

 

 鍵を開けてピッタリ5秒後、そいつは部屋に入ってきた。

 

「チワー」

 

 緊張感のない挨拶と共に入ってきたのは、砂色のフーデッドケープで顔を隠した小柄なプレイヤーだった。体形が隠れているため、性別はわからない。

 

「そこ、座っていいカ?……そんなに警戒すんナ、取って食いはしないからサ」

 

「………で?一応聞くがどのくらいで買い取る気だ?」

 

「…………ン?何の話ダ?」

 

「へっ!?…いや、アンタの目当てって《アニール・ブレード(コイツ)》じゃないのか!?」

 

 アルゴは小さく肩をすくめた。

 

「違うヨ?そもそもオイラのメイン武器片手剣じゃねーモン」

 

「……じゃあアンタ何が欲しいんだ!?この剣以外に何も持ってないぞ俺!」

 

「…まあ、そう思うのもわかるゼ?……欲しいのは、情報ダ。アニブレクエストの情報」

 

「あんたも元ベータテスターだろう?俺から買う必要ないんじゃ…」

 

 その瞬間アルゴはニヤリと笑った。

 

「…今、アンタのことが一つ分かったヨ。やっぱりベータ上がりだったカ」

 

「……は?そんなのわかりきったことだろ?初日にホルンカまで来てアニブレ持った奴がベータテスターじゃなかったら逆におかしいんじゃないか…?」

 

「そりゃ傲慢だゼ?一万人もいるんだから頭のおかしい大馬鹿野郎が一人二人いてもおかしくないゾ」

 

「た、確かに…?そういうクレイジーなヤツがいてもおかしくは…」

 

 キリトのその言葉にアルゴは苦笑しながら指摘した。

 

「さすがに初日でたどり着くのはいねーけどナ!この辺りは敵も強いし初日は様子見するだろうと踏んで、一足先に来ておこうとしたら…先客がいてビビったゾ」

 

「……そ、そうか…。………なあアルゴさん。そろそろフード取ったらどうだ、俺はまだアンタの顔も知らないんだぞ?それって、失礼なんじゃないか?」

 

「ああ、悪イ悪イ!そういえば取るの忘れてたヨ」

 

 フードを外した()()の顔は可愛らしい造形をしている。……が、キリトはそんなことよりもその頬にあるペイントが気になって仕方なかった。

 なにせ、動物の髭を模しているのだ。

 

「なんだそれ、ネコヒゲか?」

 

「いや、ネズミヒゲだヨ」

 

「どっちでもいいよ!!」

 

「いや良くないネ!これはオイラのトレードマーク、外すわけにゃイカン!!」

 

 そう言ってから、彼女は眉をひそめた。

 

「…アンタ、そういえば名前はなんだっケ?フード以前に名乗らないのはもっと失礼ダロ?」

 

「…キリトだ」

 

「…………あー、ナルホド、アンタが……。ベータテストで十層ボスを見たっていう?」

 

 キリトはベータテスト最終日にボス部屋に突っ込んでフロアボスと出くわした直後、強制ログアウトされたことを思い出す。

 次に出くわしたら絶対に倒してやるぞと誓ったが…この状況ではいつになるか分かったものではないと彼は内心思っていた。

 

「そのキリトかもしれないし、ファンが偽名として名乗っているのかもしれないぜ?ま、想像に任せるよ」

 

「言うネー。じゃ、本題に入るとするカ。オレっちが欲しいのは《アニール・ブレード》の基礎スペックと《森の秘薬》クエストの詳細な内容…特に、危険なポイントは最重要で欲しイ」

 

「危険なポイント、だって?アルゴさん、あんたベータテストでアニブレのクエストやったことあるんじゃないか?」

 

 アルゴは眉間にしわを寄せながら頷く。

 

「ああ、ベータテストの時の《森の秘薬》はやったことがあるゾ。でも、よく考えてみろ…ベータテストっていうのは最終調整も兼ねてるはずダ。茅場晶彦はこの世界をエンターテイメントショーとして作ったはずで、ベータテスターがこのままイージーモードで迷わずに苦戦もしない状況は望んでないはずだロ?」

 

「そりゃそうだ。俺が茅場なら興ざめするし、なによりフェアじゃない」

 

「……茅場がそのことに気づいてないはずがなイ。おそらく、アイツは元ベータテスターをデスゲーム開始時に皆殺しにすることも考えたハズダ」

 

 キリトは背筋に冷たいものを感じて鳥肌が立った。……アルゴも(こら)えるように両手を握りしめる。

 

「オレっちがヤツなら、ベータテストの時よりも敵をちょっとだけ強くしたり新しい攻撃パターンを加えるゾ。…警戒されないように名前や姿を同じにしてナ」

 

「えっぐ…。確かに、それはベータテストやったことある人間はよく嵌まる落とし穴だな…。なら、ベータテストの時の情報は当てにしない方がいい…?」

 

「イヤ、むしろガンガン使った方がイイ。そのおかげでオイラたちはデスゲーム開始からたった十四時間でホルンカまで来れてるわけだからナ!」

 

 

 それからキリトは、三十分近くかけて彼女の欲しがっている情報を提供した。それを聞きながら、彼女の顔が険しくなっていく。

 

「……花付きと実付きが同時に出てきた、か…。よく対処できたナ、少年」

 

「………一歩間違えたら死んでもおかしくない状況ではあったけどな…。……それに…」

 

 キリトは言いよどんだ。コペルの死因を彼女に伝えるべきか悩んでいる。

 

「………アンタ、あの森にネペント以外の植物型モンスターを見たことあるか?」

 

「イヤ、そもそもあのあたりネペントしか出ないハズだよナ?一応聞くけどなんてヤツ?」

 

「《アルラウモン》と《タネモン》。アルラウモンは頭に紫の花が咲いたヤツで、タネモンは双葉が生えてた。……少なくとも、俺はベータで出くわしたことはない」

 

「……知らネェ。一層の敵はレアなの含めてもベータテスト中に全部見つかってるはずダ…」

 

 キリトたちは頭を抱えたいのを我慢して話を続ける。

 

「……ってことはアレか、正式サービスでMOBの種類が増えたってことだ…。酷い話もあったモンだな…」

 

「こりゃマズイゾ少年…急いで新モンスターの情報を集める必要が出てきたってことじゃネーカ!!」

 

「…そういえば、アルゴさんはなんで情報を集めてるんだ?」

 

「ああ、それもまだだったナ…。オイラは、情報屋をしようと思ってるんだヨ。今の状況じゃ、正しい情報ってヤツは生存率に直結するダロ?だから、ニュービーのために攻略本を作る予定ダ。ベータテスターだって新モンスターにはすぐに気づくし、需要と供給はあると思うゾ?」

 

「な、なるほど?」

 

 キリトのよくわかってない顔に、アルゴの頬が緩んだ。

 

「さては他人事(ひとごと)だと思ってるナ?アンタにも手伝ってもらうんだゼ?」

 

「は!?なんでだよ、お前のボランティア活動に参加する余裕はないぞ!!」

 

「もちろん、対価は用意すル。情報の価値に応じてコル、或いはポイントをやるヨ!名付けて、《アルゴ・ポイント》ダ!!

1ポイントは百コル分の情報と交換できるようにするゾ!」

 

「……百コルそのままくれよ、周りくどい…」

 

「アンタだって持ち合わせがない時だってあるだろうし、今のオレっちにもないヨ。なんか交換できるのも増やす予定だから、今はそれで勘弁してクレ」

 

 キリトはこの情報屋も今は対価に出せるものがないんだと知ると、ため息をついた。

 

「わかったよ。今はそれでいいから、これからどうするんだ?」

 

「ンー、アンタ実力には自信があるんだロ?新モンスターのことを調べてほしいところだケド、無理はするなヨ。自分の命優先でいいから、余裕があったら戦って行動パターンとかを調べてくれるとうれしいゾ」

 

「OK、そのくらいなら任せてくれ」

 

「じゃ、またナー。アルゴ・ポイントがどのくらい貯まってるか知りたい時はメッセ飛ばしてくレ、すぐ対応するからサ!」

 

 そう言いながら、アルゴは部屋から出ていった。キリトは一瞬二度寝してやろうかなと本気で思ったが、せっかくのスタートダッシュを無駄にするわけにもいかないと頬を叩いて自分を鼓舞しながらホルンカの村へ繰り出した。

 

「よし、行くか!」

 

 キリトの目に、もう迷いはなかった。

 

 

 キリトはネペントの素材を売り払ったお金でポーションを買うと、村外れの牧場に向かって歩き出す。そこでは難易度高めだが報酬のいいクエストが受けられるからだ。

 牧場にたどり着いたキリトは、今朝会ったばかりの情報屋アルゴとまた出くわしたのである。

 

「オッス、さっきぶりだナ少年!」

 

 キリトの顔にまたかよという感情が滲み出る。

 

「…なにやってるんだアルゴ」

 

「ここのクエスト、《森の秘薬》の次に難易度高いダロ?一緒にやろうゼ」

 

「えー?別に別々でもいいじゃん…?アンタと一緒にやる必要ないんじゃないか?」

 

 アルゴは軽く頬をかいてからその理由を答えた。

 

「なー少年、なんでオイラが《森の秘薬》をクリアしたアンタをすぐ見つけられたと思ウ?…あのクエスト、ベータの時と違う点があったんダ。二十四時間の冷却時間(クールタイム)が追加されてたんだヨ」

 

「…マジかよ、気づかなかった…」

 

「このクエストも《森の秘薬》ほどじゃないにせよそこそこ時間がかかるから、同じように冷却時間(クールタイム)が設定されていてもおかしくないと思うゾ?」

 

「あー……、わかった。じゃあパーティーを……」

 

 キリトはそう言いかけてからふと気づいた。そもそもここのクエストに冷却時間(クールタイム)が設定されているというのはアルゴの仮定だ。もし別々に受けられるのなら積極的にパーティーを組むのは遠慮したいのが、ここにいるキリトなのだった。

 

「いや待て、確かクエストは受けてからパーティー組んでも共有された筈だ。先にアンタが受けて、もし冷却タイムがあったら組むでいいだろ?」

 

「しゃーねーナァ。おいオッサン、なんか困ってないカ?」

 

 アルゴにそう聞かれたNPCのおじさんは、クエスト内容を語り出した。

 

「仔牛が一頭いなくなってしまった、森を東に抜けた先の野原にいるだろうから怪物に襲われる前に連れて帰ってくれないか?」

 

「オウ、任せろオッサン!」

 

 キリトがベータテストでやった時と内容は変わらないようだ。彼がそう思っていると、おじさんの頭に浮いていたクエストマークが消えてしまった。

 

「クエストマーク、消えたな…」

 

 おじさんの前に立ち、アルゴと同じように悩みがないか聞いてみる。

 

「えっと、何かお困りですか?」

 

 おじさんは肩をすくめながら答える。

 

「午後の三時ごろ、また来てくれないか」

 

(…今は午前の九時だから、大体六時間ってところか…)

 

 アルゴは自身の予測が当たり満足げにキリトの顔を見ていた。

 

「ナ?オレっちの言った通りだロ?」

 

「………」

 

 キリトの無言のパーティー申請メッセージは何か訴えているようにも見えたが、彼女はニヤニヤしながらそれをスルーした。

 

 

 今回のクエスト《迷子の仔牛》は、クエスト名の通り迷子の仔牛を見つけて連れかえればクリアとなる。…それだけならまだ簡単なのだが、問題が一つ。

 このクエストでは仔牛を探すためにその母親である雌牛を連れて行かなければいけないのだが、この雌牛かなり気性が荒い。

 四〜五分に一回の頻度で好物の岩塩を舐めさせないと勝手に変な方向に走った挙句牧場に戻っていってしまうのだ…。

 戦闘中に雌牛は襲われないものの、その最中に塩を舐めさせるのは難しいので戦闘が終わって雌牛の方向を向いたらどっか行ってたということが普通に起こる。

 

 つまり、このクエストはソロでクリアするのが難しいということだ。

 アルゴはそれを知っていたのだろう、パーティーで敵を素早く倒したことで雌牛が何処かに逃げてしまう場面はなかった。

 

「ま、ここら辺の虫には早々負けないんだけどナー」

 

 鼻歌を歌いながらアルゴは自身の武器《クロー》でモンスターを倒していく。

 キリトは思わず質問した。

 

「なあ、なんで爪なんか使ってるんだ?それ戦いづらいだろ?」

 

「ウーン、その情報は百コルだナ。

早速アルゴ・ポイント使うカ?今は2ポイント貯まってるゼ?」

 

「…いや、クエストクリアまでに自分で推察してみるからいいや」

 

「へー?じゃ、当てられたらオネーサンがフレンド登録してやるヨ」

 

 

 そんなこんなで一時間ほどかけて平原にたどり着いたキリトたちは、中央近くにある湿地帯(コボルド族の村が存在する危険地帯)を避けながら平原の西を目指した。

 仔牛を探すコツは雌牛に探索を任せてプレイヤーは地形やモンスターへの対処に専念することだ。当然、ベータテスト経験者の彼らはそのセオリーを知っていた。

 

 大体仔牛が迷子になっている範囲の半分を踏破したその時、雌牛がそれまでとは違うトーンで鳴き声を響かせた。

 

「ンモオオオッ!!」

 

 一瞬塩が足りなくなったのかとキリトは慌てたが、仔牛に何か危機があったのかもしれない。彼らは雌牛を急いで追いかけた。

 二十メートルほど走った雌牛が再び鳴くと、その声に反応してか細い鳴き声が返事を返した。キリトとアルゴは状況を確認しようと前に出る。

 

「ンナッ!?」

 

「うえっ!?」

 

 仔牛は雑な作りのロープで繋がれており、深く刺さった杭にきつく巻き付いたそれのせいで身動きが取れないようだ。

 

「おいアルゴ、すぐにほどくぞ!いったい誰だこんなことしたヤツ…」

 

「………!?オイ、そこから離れロ!!」

 

 仔牛に近づいてロープを取ろうとしたキリトは、アルゴの言葉に従って後退する。先ほどまでいた場所に、これまた雑なつくりの槍が突き刺さった。もし後ろに下がっていなければ重傷を負っていたかもしれない。

 

「な、なんだ!?」

 

 キリトは槍が飛んできた方向に視線を向ける。犬のような顔つきの亜人型モンスター、コボルドだ。正式名称《スワンプコボルド・ラットハンター》。

 最弱クラスのコボルドではあるものの、今のレベルで戦うべき相手ではない。

 

「うげ、ラットハンター!?ここら辺はこいつらの生息域じゃないはずなのに…」

 

「けっけっけ、マヌケなニンゲンどもが引っかかったぜ!!」

 

 ラットハンターの後ろから、哺乳類のような灰色のモンスターが歩いてきた。コボルドたちとは違い人の言葉を話せるらしいことに、アルゴは驚いている。

 

「しゃ、喋っタ…!?」

 

「そこ、重要か…?おい毛むくじゃら、人の言葉がわかるんなら取引しようぜ!!その仔牛返すんなら俺たちの食料を渡して…」

 

 キリトがとりあえず話しかけようとすると、そのモンスター《ガジモン》は意地悪そうな笑みを返す。

 

「オマエら、獲物がきたぞ!!たかが二人、袋叩きにしてやれ!!」

 

「ナルラングラ!」

 

 ガジモンとラットハンターが叫ぶと、近くの草むらから新たに二匹のコボルドが出てくる。一匹はラットハンターだが、もう一方の得物を見たキリトたちは背筋が凍り付いた。

 

「「と、トラッパー…!?」」

 

 《スワンプコボルド・トラッパー》、ベータ時代において何も知らないであろうプレイヤーを一度は殺したであろう恐ろしいモンスターだ。

 右手のダガーから放つスキルもそうだが、それよりも問題なのが左手の鉤縄で武器をかすめ取る特殊攻撃《武器落とし(ディスアーム)》。武器を取られたプレイヤーが落とした武器を拾おうとするとその瞬間に猛攻を受け、そのままHPを削り取られてしまうのだ…。

 

「……逃げるぞ、アルゴ!こりゃ駄目だ!!」

 

「どうやって逃げるんダ!?……もう、囲まれてるゾ…!」

 

 アルゴの言う通り、コボルドとガジモンは彼らをすぐに囲い込んだ。じりじりと迫るモンスターたちを見ながら、キリトはアルゴに囁いた。

 

「………。アルゴ、トラッパーの鉤縄さえどうにかすればお前だけなら逃げられる…かもしれない。…攻略本作るんだろ?」

 

「見捨てろって言いたいのカ?…バーカ、こうなったら二人で生き残るか両方死ぬかダ!」

 

 トラッパーの鉤縄の射程まであと少しに迫るというところで、それは起きた。

 

「ブモオオオオオオオ!!!」

 

「グルラァッ!!?」

 

 仔牛を守っていたはずの母牛の突然の咆哮、とんでもないスピードで突っ込んでくる巨体がトラッパーを撥ねたのだ!!

 

「「…………ええ…」」

 

「か、鉤縄の旦那ァ!!?」

 

 吹っ飛ばされたトラッパーは数秒痙攣してからHPがゼロになり退場する。キリトが敵の数を数えてみると、ラットハンターが一匹減っていた。

 

(……ああ、知らないうちにひき逃げされたのか…。いや、うん…トラッパーをこのレベルで相手しないでいいのは助かるんだけど…)

 

「げげげ…!?こりゃまずい!」

 

「にゃっはっは、袋叩きがなんだっテ?トラッパーがいないならお前らなんか怖くないヨ!」

 

 ガジモンが動揺しているのを見たアルゴは、ニッコリと可愛らしい笑みを浮かべながらクローを構えた。キリトもアニール・ブレードを敵に向かって突きつける。

 

「さて、とっととクエストクリアして帰ろうぜ!」

 

「ガジモンの行動パターン見てからナ?特殊攻撃あるかもしれないシ」

 

 

 ガジモンは《パラライズブレス》という麻痺攻撃を何度か撃ってきたが、射程の短さが災いして最初にキリトが当たって麻痺した以外痛手を受けることなく倒された。

 

「オーイ、無事かキー坊」

 

「誰がキー坊だ、誰が…。クソ、痛い目にあったな」

 

「いいじゃん、別に生き残ったんだからナ」

 

 にっしっしとアルゴはキリトに笑顔を見せる。

 

「にしても、まさか一層で麻痺攻撃してくる敵が出てくるなんてな…」

 

「アア、こりゃ攻略本に載せないとダメだナ…。特にベータ経験者が弱そうだからって前情報ナシで殴りにいかないようニ」

 

 

 こうして、《迷子の仔牛》改め《逆襲の牝牛》の目的は完了し、二人は牧場に戻ってきた。

 仔牛を連れて帰ったキリト達は報酬のコルと謎のバスケットをもらい、さっそくその中身を確認する。

 

「黒パンと、壺?」

 

「ベータの時はコルだけだったよナ?ちょっと使ってみるカ」

 

「おい、俺の手で試すなよ…」

 

 アルゴがキリトの手のひらにそれを《使用》すると、白いペーストが盛り上がる。キリトがそれを指ですくって舐めてみると、爽やかな酸味と濃厚な甘みが口の中で広がった。

 

「うまっ!これ、サワークリームだ!」

 

「マジ!?」

 

 アルゴがそのペーストをごっそり奪い取ってかぶりつく。

 

「ウンマッ、マジじゃんカ!これ、パンに塗って食ったら死ぬほどうまいゾ!」

 

「……あと四回使えそうだなコレ…。アルゴ、持ってけよ」

 

「ン…?……イヤ、それはキー防が持っていけヨ。……オイラのことを見捨てずに助けてくれたお礼サ!もし自分で使うのがイヤだったらしょぼくれてるヤツに食わせてやれヨ」

 

「…そういうことなら、ありがたくもらってく。……じゃあ、またな」

 

 アルゴの頬が少しだけ赤くなったのを、この時のキリトは気づかなかった。

 

「……ウン、またナ!よい旅を、キー防!」

 

 キリトはアルゴと別れ、ホルンカの村にある残りのクエストをクリアするために歩き出した。




<キリトメモ>

《ガジモン》
コボルドと共生関係にある灰色の哺乳類型モンスター。意外と悪賢く狩りの際に罠を張ることがあるようだ。
特殊攻撃の《パラライズブレス》は射程が短いものの、当たると問答無用で麻痺するので一人で戦うのは危険。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。