ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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20話 決闘に潜む罠 闇の邪眼ドラクモン!

 《決闘(デュエル)》が始まるまでの時間、キリトとモルテはその時を待つ。キリトはモルテを観察して何かしらの情報を得ようとした。

 

(武器は俺と同じアニールブレード、だがそれ以上のことは全くわからないな…。あのアルゴですら名前しかつかめなかったヤツだ。……それに比べてこっちは悪名高い《ビーター》、戦闘スタイルは知り尽くされてるはず…)

 

 モルテはデスゲームと化した正式サービスでも決闘(デュエル)をやっていたのだろうか、そこに緊張は見られない。だがキリトはベータテスト以降に決闘(デュエル)をした事がない。

 

(知識も経験も足りていない今、俺にできることは…この決闘(デュエル)でモルテの出方を見て、情報を…)

 

「キリト、ちょっといいか?」

 

 ドルモンが小さく耳に囁いたので、キリトは思考を止めて小声で答えた。

 

「…なんだよ相棒?」

 

「アイツはキリトの事を知ってるからここで待ち伏せをしてたんだろう?だったら様子見だけはしたら駄目だと思う、相手が何かしてくる前にガンガン攻めよう!」

 

「……!!」

 

 キリトはハッと気づいた。自分がモルテなら、相手の初手が様子見なら突進技の《ソニックリープ》で不意打ちを試みる。ノーガードで当たればHPが三割程度持っていかれてもおかしくない。

 

(…突進系で一気に距離を詰めるなら、一直線にこちらに飛んでくる。なら、こっちは…)

 

 カウントダウンが一秒になったその瞬間、モルテが《ソニックリープ》を発動する。ニヤニヤしながら突っ込んだモルテの視界に映ったキリトは、予想通りと言わんばかりに笑みを浮かべていた。

 一瞬の交差の後、モルテは嬉しそうに相手を褒めたたえた。

 

「…やりますねぇ!」

 

 モルテの左腹部にキリトのソードスキルが付けたダメージが赤く光っている。キリトは相手の攻撃を避けながらすれ違いざまに《レイジ・スパイク》を発動しカウンターを決めたのだ。

 …ソードスキルは強力だが欠点が無いという訳でもない。一度発動すれば攻撃モーションを止める事が出来ないのだ。

 

「オオオッ!」

 

「シェアァッ!」

 

 二人はソードスキルの硬直がほぼ同時に解けると剣をぶつけ合う。モルテの斬撃と刺突が混ざったような独特の剣技を、キリトはうまくパリィしながら攻め続けた。

 モルテは鎖頭巾(コイフ)では見えにくいであろう頭上からの一撃をバックステップで避けながらヘラリと笑った。

 

「いやぁ、お強いですねぇ」

 

「…そっちこそなかなかやるじゃないか、ボス戦でも普通にやっていけるぜ?」

 

「へへ、キリトさんにお褒めいただけるだなんて光栄ですね…。同じ剣とは思えない一撃の重さ、コンボの完成度、ソードスキルのブーストも完璧!攻略組最高峰のダメージディーラーは伊達じゃないってことでしょうか!で~もぉ…」

 

 モルテはやれやれとでも言いたげに首を振った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…なんだって?」

 

「ぶっちゃけ思ってたほどじゃないですね!ベータ時代尖ってた頃のキリトさんは容赦なく他のプレイヤー蹴落としてましたよ?孤高のソロ続けてたらきっと自分なんか一捻りにしてたのに…やっぱ弱い奴らを守ってると剣って弱くなるんだなぁ!!」

 

「…………この野郎…」

 

 いくら鈍感なキリトでもモルテが挑発してきていることは理解できた。

 

「そんな()()()だったり()()()()()()()()()()()()と一緒に過ごして現状に満足しちゃったんですねー?ほら、恥ずかしがる事なんてないですよぉ!?……くふっ」

 

(この野郎、黙って聞いてれば好き放題言いやがって…。だったらもう手加減なんかしない、ベータ時代の俺とは違う力を見せてやる!)

 

 キリトは肩に乗ったままのドルモンと視線を交わす。ペット扱いされたドルモンも相当頭にきてるらしくその目には闘志がメラメラと燃えていた。

 

「…やるぞ、ドルモン!」

 

「あぁ!もう見てるだけは無理だ、アイツぶっ飛ばしてやる!!」

 

 キリトはモルテに大きく剣を振りかぶった。モルテは当然それを弾いてから反撃しようとするが、その前にキリトの左拳から放たれた《閃打(センダ)》が彼の腹部に突き刺さった。

 

「ぐぉっ!?」

 

「もういっちょくらえ、《ダッシュメタル》!」

 

 予想外の一撃に混乱するモルテにドルモンが追撃の鉄球を発射する。

 

「うおおおっ!!?」

 

 モルテは鉄球をなんとか避けるが、体勢を崩した相手の顔をキリトは蹴り飛ばしてやった。

 攻撃に《体術》を織り交ぜたキリトとドルモンの猛攻がモルテを追い詰めていくが、キリトは油断せずに睨みつける。

 

(…コイツ、大ダメージになる攻撃はギリギリで避けてるな。どこまでも気味が悪い…)

 

「アハ、アハハハハ!!これが、最前線最強の本気攻撃(マジアタック)!最っ高に効きますよぉ…」

 

「……うわ、なんだコイツ気持ち悪ぅ…」

 

 恍惚とした表情のモルテにドルモンはドン引きした。今まで見たことのないタイプの人間…変態だったからだ。

 

「……いやぁ、予想を遥かに超えてました。キリトさんの本気も、彼女への入れ込みようもね。ちょっとdisっただけでこうなるんならぁ…どこぞの馬の骨に()られちゃった日にはどうなって……」

 

「黙れッ!!!」

 

 モルテがそれ以上何か言う前に黙らせようとキリトは一直線に突っ込む。……それを見たモルテが三日月のような笑みを浮かべたことに、キリトは気づくことができなかった。

 モルテは大きな水しぶきでキリトの視界を遮りながら、自分の武器をぶん投げた。

 

「シャァ!!」

 

 キリトは首を正確に狙ってきた《アニールブレード》を弾くが、その間にモルテは《クイックチェンジ》で新しい武器を装備していた。

 長さ七十センチの柄の先端に分厚い刃が突き出たそれは、どう見ても剣ではない。

 

(アレは……片手斧!!?)

 

 キリトは急停止して距離を取ろうとするが、その瞬間だった。

 

(………なんだ、アレ?)

 

 キリトの目線がモルテから、その後ろで光る奇妙な二つの球体に吸い寄せられる。……眼球であった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。アバターと脳の繋がりを切断されたような感覚に、キリトは困惑する。

 

 気づいた時には、モルテの片手斧が目前に迫っていた。

 

「シャァァアオッ!!」

 

 モルテの片手斧《ハーシュ・ハチェット》から放たれる水平二連撃技《ダブル・クリーブ》がキリトの胸と腹を深く抉る。

 

「ぐああッ!!」

 

 ソードスキルを食らってしまったキリトは吹き飛ばされ、大きな岩に叩きつけられる。そのHPがギリギリ半分残っているのを確認したキリトの脳はフル回転を始めた。

 

「……キリト!しっかりしろ、キリト!!」

 

(……初めから、ヤツの目的はコレだったのか。アニールブレード同士の戦いという宣言、そして突き気味の斬撃…まんまとしてやられた…!!)

 

 SAOにおけるスキルスロットは間違いなく生命線である。こんな序盤に貴重なスキル枠を二種類の片手武器で埋めるプレイヤーがいるなど誰が考えるだろうか?

 そこまで考えたキリトは、ある一つの答えにたどり着いた。

 

「………お前、まさか」

 

「………アハァ」

 

(このHP量すら、この男の狙いなのか?半減決着モードの勝利条件は相手のHPを半分以下にすることだ。あの二連撃より威力が高いソードスキルなら、半分以上削り切って殺しても犯罪者フラグは立たない…!!)

 

 キリトはあの眼球の正体についておおよその予測をつけていた。野生のモンスターによる横やりならより近くにいたモルテを狙うはずなので、まず間違いなく彼のパートナーによる犯行だろう。

 それを裏付けるようにモルテの後ろから隠蔽(ハイディング)で隠れていたデジモンがその姿を現した。

 

「ケケケ!イタズラ、だーいせーいこーうぅ!!いいねぇ!最高の顔だぜ!!」

 

「あー、キリトさんにご紹介するのを忘れてましたぁ。コイツは《ドラクモン》っていうんですよ、なかなか凄いでしょ?」

 

「……クソガキめ…!」

 

 思わずキリトはドラクモンに毒づいた。

 

(…最悪だ。眼球を直視しただけで身体の自由が利かなくなる特殊攻撃なんてどうやって対処すればいい…!?)

 

「……キリト、キリト!大丈夫か!?」

 

 ドルモンの心配そうな声に、キリトは困った顔をしながら弱音を吐いた。

 

「駄目だ、いい作戦が思い浮かばない。あのデジモンをどうにかしないと、また操られて隙だらけに…」

 

「……キリト、オレがあいつをひきつけるよ。あのモルテってヤツ一人なら負けないだろう…!?」

 

 キリトはビクッと震えたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。思い出したのは、コペルに裏切られた経験。

 しかし、あの日と違うのは…隣で戦う仲間が唯一無二の相棒だということだ。

 

「……ああ、もちろんだ。一対一ならこんなヤツ一捻りにしてやる!」

 

 手慰みに手斧を指先でクルクル回していたモルテは、その宣言に笑みを深めた。

 

「おー、やる気十分ですねぇ!じゃ、第二ラウンドいっちゃいます?」

 

「………待たせて悪かったな!!」

 

 

 キリトが一直線に突っ込んでくるのを見たモルテは意外そうに目を丸くする。死の臭いを感じ取った獲物は足取りがどうしても鈍くなるものだが…キリトからその動揺らしきものはみじんも感じられない。

 

(……けど、ドラクモンの《アイオブナイトメア》から片手斧の高威力ソードスキルに繋げる『必殺』コンボは無敵!!キリトさんには止められないッ!!)

 

「ヒャッハー!馬鹿が突っ込んできた!!くらえ、《アイオブ…」

 

「さ せ る か ァ ! !」

 

 ドルモンが技を使おうとするドラクモンに飛び掛かる。腕にかみつきながら抑え込む形に持ち込んだドルモンは、そのまま相手を川に押し込んだ。浅瀬といえどドラクモンの顔面を浸けるには十分な深さがある。

 

「がぼぼぼぼッ!?」

 

「そんな技使わせるかよ!」

 

 そのまま窒息させてやると言わんばかりにドルモンが敵の頭を足で踏んづけるその一方で、キリトとモルテの剣戟は激しさを増していく。戦況は、キリトが圧倒的に押していた。

 モルテの《ハーシュ・ハチェット》は《重さ(ヘヴィネス)》が+6という一撃の重さに重点を充てた強化をされているが、片手斧という武器自体がそもそも重い。相手を一撃で仕留めたりソードスキルを使用するならまだしも、通常攻撃をする際に一瞬の隙が生まれてしまうのだ。それを補うためのドラクモンだったのだが、現在ドルモンが足蹴にしている。

 

(もっと速く…!)

 

 キリトの《閃打(センダ)》がモルテのラウンドシールドを吹っ飛ばす。

 

「……なッ!?」

 

(もっと速く…!!)

 

 キリトの《スラント》がモルテの右手に命中し、そのまま切断する。部位欠損で片手斧を落としなすすべがないモルテに、キリトは追撃の手を緩めない。

 

「(もっと、速く!!!)オオオオオオッ!!!」

 

 獣の爪跡を彷彿とさせる三連撃ソードスキル《シャープネイル》がモルテを斬り裂いた。

 

「がァッ!!」

 

 しばらくふらついていたモルテだったが、背中から水の中に倒れ込む。それと同時に上空にキリトを勝者として称えるWINNERのシステムウィンドウが現れ、キリトはほっと息を吐いた。

 

「…………か、勝ったぁ……」

 

《アルゴノーツ》キリト WIN

 

VS

 

《DKB?》モルテ

 

 

 辺りを静寂が包む。キリトが野営地の方を見ると、やけに静かになっていた。どうやらあちらの戦いも粗方(あらかた)終わったらしい。ドルモンはドラクモンから離れてキリトの肩に飛び乗った。

 

「……アスナたち、大丈夫かな」

 

「心配ないよ、きっと」

 

 ドルモンはそう言いながらもソワソワしている。

 一方のモルテは自分の計画が失敗したことを悟ったのか肩をすくめた。

 

「…………いやぁ、完敗ですよ。こんなふうに負けるのは久しぶりです」

 

「げぼッ!……チックショー、溺れるかと思ったぞ!!」

 

「………いや、お前らは強かったよ。ドルモンがいなければきっと負けていた。……ただ、命のやりとりがしたいんなら次はボス戦に来ることだな」

 

 キリトの冷たい目線を気にした様子もなく、モルテはヘラリと笑った。

 

「いやー、それは遠慮しときますねぇ。あなたのような強い決闘者(デュエリスト)を相手にしてこそ、ホントの物語(ドラマ)が生まれると自分は思ってますんでね♪」

 

「……意味ワカラン、もっとわかりやすく翻訳してくれ」

 

「……あっはは、次に()るまで覚えてたらちゃーんと説明しますよ。……では、自分はこれで~♪」

 

 モルテは《隠蔽(ハイディング)》を発動してその場を後にする。ドラクモンは苦虫を噛み潰した顔でドルモンを睨みつけた。

 

「……次会った時は覚えてろよ…。てめえを毛皮のコートに仕立ててやるからなぁ…!」

 

「ははっ、負け惜しみか?……とっとと失せろ目ん玉野郎」

 

 ドルモンは逃げていくドラクモンにべーっと舌を出している。キリトは相棒に苦笑いしながら野営地へと足を進めた。




<キリトメモ>

《ドラクモン》
イタズラに命をかける吸血鬼型デジモン。吸血鬼型ではあるが血を吸うよりもイタズラが好きで、格上の相手にも果敢にちょっかいをかけるチャレンジ精神の持ち主。…蛮勇とも言う。
必殺技の《アイオブナイトメア》は手のひらに付いた邪眼を直視した相手を自由に操ることができる。強い衝撃を与えることで解除することができるようだ。奥の手として噛みつき攻撃の《アンデッドファング》という技もあるようだが、何故かあまり使用することはない。
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