ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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22話 復讐の終わり

 アスナがアクィラモンと戦っているそのころ、アルゴは深くため息をつきながら攻略ギルドが揃いも揃って騙された理由を聞いていた。

 

「ワイらはこのエルフクエが次のフロアボス攻略に必須やって情報を手に入れたんや、多分DKBも似たような情報持ちやろ?」

 

「あ、ああ…ボスの特攻アイテムが手に入ると聞いた。逆に言えばそれを持っていなければおれ達は敗走するだろうとも…」

 

「デマだヨ、百パーデマ!!ベータテストでも正式サービスでもそんな事実はなイ!!」

 

 アルゴは手をぶんぶん振って否定する。

 

「言い切りおったでコイツ…」

 

「言い切るヨ!普通におかしいとは思わなかったのカ!?その情報が正しいならもう既にエルフクエストをクリアしたヤツがいることになるんだゾ!?」

 

 アルゴの反論にALSメンバーの一人が金切り声でわめきだした。

 

「し、信用できっかよォ!!第二層でベータの連中と共謀してボス情報隠してただろーが!!」

 

「あれはベータから変更されたんダ、テスターは困りこそすれど得をすることはなイ!」

 

「……なら、今回はベータから変わってる可能性はゼロなのか?」

 

 リンドの疑問にアルゴは首を振って否定する。

 

「それはワカラン、ただそれを検証するのは二大ギルドじゃなくていいシ…何よりここでお前らが剣を交える理由にはならねーだロ?」

 

「う、ウソだ!!そんなこと言っててめーらホントは攻略アイテムを独占してェだけだろ!!?」

 

「…………悪いガ、これ以上御託は無しだゼ。オイラが客を欺く悪党だと思ってる者は前に出てこイ、ぶん殴ってやル!!」

 

「……あんたは、目先の金で自分の信用を切り売りするような女じゃないだろ。じゃなかったら攻略組から追い出してる」

 

 リンドの言葉を聞いたアルゴはにっこりと微笑んだ。

 

「じゃ、以後エルフクエストは《アルゴ・ノーツ(オイラたち)》に任せてほしイ。仮にクエスト内で攻略に必須の情報が出てきた時は無料(タダ)で、即座に、フロントランナー全体に共有するヨ」

 

「なら、ワイらはその間迷宮区を好きに攻略してもええんやな?」

 

「もちろんサ、宝箱や経験値は好きに持ってケ!」

 

「わかった。…だが、わからないことがある。アンタはそこまで苦労して何を得るんだ?」

 

 その質問にアルゴは無言で上を指さす。そこにはポールの頂上で細剣を構え、巨鳥と対峙するアスナの姿があった。

 

「アンタら推しはいるカ?」

 

「……推しって、アイドルとかのアレか?」

 

「そうだヨ、せっかくのファンタジー世界なのに…『物語』に飢えてないのかイ?推しの冒険を間近で見るのは最高だゾ!」

 

 ニコニコと笑顔で断言するアルゴに、キバオウはクックックと笑いをこぼした。今まで考えが読めず不気味だと思っていたアルゴの人間らしい本音を聞けたのがよほど面白かったのだろう。

 リンドも同様に頬を緩ませている。

 

「……あいつらがおらん迷宮区攻略が楽しみでしゃーないわ」

 

「同感だ、だが…ここですぐ退散するのは面白くないだろう?」

 

「そうやな、もういっちょ暴れてやろうやないか!」

 

 キバオウとリンドがアスナを助けたのにはそんな経緯があった。彼らとて初めはこの世界に絶大な期待をしていたのだろう、たった一万の枠を死ぬ気で確保するようなゲーマーが物語(ストーリー)に興味がないなんて普通はありえない。

 

 

 キリトがモルテとの戦いを終え野営地にたどり着くと、既に戦いは粗方終わっていた。

 残っている敵は致命傷を受けた《鷹使い》のみだ。

 

「ば、馬鹿なァ…!!この、この私が…(ダーク)エルフの女に……!!?」

 

「何か言い残すことはあるか、鷹使い?」

 

「ク、クソがァアアア!!」

 

 その様子を見ていたリンドはため息をついた。彼らの感情豊かな表情は、今まで出会ってきたNPCが案山子に思えるほどだったからである。

 リンドは隣でポーションをがぶ飲みしているキバオウに聞いてみることにした。

 

「……黒エルフ側のクエストって誰がやってもあんな風に感情豊かなNPCが盛り上げてくれるのか?」

 

「…んなわけあるかい、ワイんとこは味気ないお粥みたいなエルフしか出てきとらんぞ。あいつらのエルフクエストがなんかおかしいんや!」

 

「おーっす、何の話?」

 

 近づいてきた黒づくめの剣士にリンドはキバオウにしたのとは別の問いを投げかける。

 

「ちょうどアンタの話をしてたんだよ…。いったいどんなパッチ当てたらあんな美人エルフが仲間になるんだ…」

 

「パッチなんか当ててねぇよ!俺だって最初の《ハロウドナイト》倒したらここまで変わるなんて思ってなかったんだ!!」

 

「はぁ!?あのエリートMOBを倒したんか!?普通に負けイベやろあんなん、よぉやるわ……」

 

 キバオウのあきれ顔に苦笑いを返したキリトだったが、キズメルの怒りがこもった声が聞こえてぎょっと目を見開いた。慌ててキリトがキズメルのいる場所に目線を向けると、鷹使いが土下座をしながらへし折られた剣をキズメルに差し出していた。

 

「ふざけるな!!……今更、命乞いだと!!?」

 

「………」

 

「貴様、自分が生き延びることができるならそれでいいというのか!?貴様を庇って斬られた同族や聖大樹に、慙愧の念すら感じないと!?」

 

 キズメルは心底悔しそうに涙を流す。こんな情けない男を、自分は今まで仇として追っていたのかという落胆の涙であった。

 

「………貴様のような奴に、妹と義弟(おとうと)は……!!………()()()()()、リュースラの騎士は命乞いする者の首を手柄にはせぬ…」

 

 キズメルはもはや怒る気力すら失せたのか、剣を納めて鷹使いに背を向ける。……しかし鷹使いは背中を向けた彼女に隠し持っていたナイフを突き立てようと迫った。

 

「死ねェェェェッ!!」

 

「キズメル!!」

 

 キリトは慌てて鷹使いを取り押さえようと走り出すが、それよりもずっと速く漆黒の影…ガルルモンが飛び出した。黒狼は口から青い炎を吹き出し、鷹使いを火達磨にする。

 

「ギャアアアアアッ!!(あ゛づ)い゛、(あ゛づ)い゛ィ゛ィ゛ィ゛ッ!!?」

 

「……貴様なんぞ、灰になってしまえ」

 

 キズメルは燃え上がった鷹使いに冷たく言い放った。ガルルモンがそのまま鷹使いを右前脚で叩き潰す。

 

「ぎびッ……」

 

 文字通り踏みつぶされた鷹使いは粉々になった。ガルルモンは主人とその妻の仇を取ったのを確信し大きく歓喜の遠吠えを上げる。

 

「オオオオオオオン……」

 

「……まったく。だが、最後のトドメくらいは譲らねばな」

 

キズメル WIN

VS

森エルフの鷹使い(フォレストエルブン・ファルコナー)

 

 

「キズメルーーーーっ!!」

 

 アスナがキズメルにぎゅっと抱擁をする。

 

「大丈夫?ケガはない!?余ったポーション使う!?」

 

「だ、大丈夫だ。……そちらも、大きな傷は負っていないな?」

 

「……うん」

 

「…なんかいい雰囲気だけド、オイラたちにもわかるように説明してくレ」

 

 アルゴにそんなことを言われたキリトはやれやれと肩をすくめた。

 

「ざっくり言うと(ダーク)エルフの騎士様が妹の仇を討ったんだよ」

 

「……妹ねぇ。やっぱり美人なのか?」

 

「さぁ…?クエスト開始前に死んでたからな…アスナに似てるとは聞いたけど…」

 

「なんやそれ、ありがちな後付け設定やなぁ」

 

 キバオウの発言にリンドも頷く。

 

「よくあるヤツではあるな。復讐をテーマに組み込むのなんてベタにも程がある」

 

「よ、呼んだ?」

 

 ベタモンは自分が呼ばれたのかと勘違いして聞き返す。

 

「いや呼んでないが」

 

「そ、そんな!」

 

 ショックを受けるベタモンをよそに、キバオウはぼそりと呟いた。

 

「………でも、嫌いやないでそういうんも」

 

 

 …12月19日の夜明け前キズメルの復讐劇は終わり、二大ギルドは穏便な形でクエストから身を引いた。

 夜が明けてALSとDKBは競い合うように迷宮攻略を開始し、一方のアルゴ・ノーツはエルフクエスト攻略に集中した。

 エルフクエスト第七章《蝶採集》は(フォレスト)エルフが偵察として放ったデカい蝶を探して倒すだけの箸休めクエストだ。第六章で疲れきったプレイヤーに地獄を見せるようなシナリオライターはいなかったらしい。

 

「ドルモン、やっちまえー」

 

「ほーい、《ダッシュメタル》!!」

 

 蝶はあっけなくドルモンに全部叩き落とされさっくりクリアされた。

 第八章《西の霊樹》ではキリトたちが持ち帰った指令書を読んだ司令官が(フォレスト)エルフの大規模な急襲計画を知り、《秘鍵》を秘密裏に四層に送ることを決定する。キリトたちはその護衛として護送部隊に同行することになった。

 当然何も起こらない…なんてことはなく、謎の覆面襲撃者こと《アンノウン・マローダー》の襲撃によって護送部隊は大混乱。キリトは頑張れば全員倒せるんじゃないかと思って戦ったものの、秘鍵はあっけなく盗まれてしまう。

 

「………またこの展開?」

 

 アスナがうんざりするのもしょうがないことではあるだろう。続く第九章《追跡》はキリトの記憶ではえらく苦戦した覚えがあったのだが、ガルルモンが襲撃者の匂いを覚えていたのであっさり敵のアジトは見つかった。

 続く第十章《秘鍵奪還》が第三層のエルフクエストの最終章となる。

 

 盗賊のアジトに潜り込んだ一行が目にしたのは、覆面を外した賊の正体であった。壊死したような肌色のエルフ、《フォールン・エルフ》を見たキズメルは少しばかり動揺の色を見せる。

 …しかし…。

 

「ぐああああああッ、馬鹿な…人族なんぞにィィッ!!?」

 

「………あれ、なんかあっさりやっつけちゃった」

 

「さすがに連中と鷹使いを比べるのはかわいそうだよ…」

 

 ラスボスの《フォールン・エルフ・コマンダー》はアスナの《シバルリック・レイピア》の圧倒的攻撃力に吹き飛んでしまうのだった。

 しかし、(ダーク)エルフたちにとってフォールン・エルフが暗躍していることは一大事だったらしく、第四層まで秘鍵を運ぶのは精鋭のキズメルに任せられることになる。

 

 

「わたしたちも一緒に行けたらよかったのに…」

 

「しょうがないさ、この霊樹の門を通ることができるのは我らリュースラの民のみなのだから…」

 

 エルフ専用の転移門《霊樹》の前で、キリトたちは黒騎士と別れを惜しんでいた。

 

「なんか、すっごく寂しくなるね…」

 

「そうだな、なんだかんだで第三層ではほぼずっとキズメルと一緒だったからなぁ」

 

「……本当は私も《天柱(てんちゅう)の塔に同行して共に戦いたいが、任務を放り出すわけにもいかないのだ…」

 

 キズメルも心なしかしょんぼりとしている。

 

「……そなたらが強いことは、私自身よく知っているが…。一つ、わがままを言わせてくれ」

 

「……うん」

 

「互いを護ってくれ。……半身を喪ってから、私はずっと死に場所を求めていた。……しかし、そなたらと出会い私の心は救われた。…あの子が導いてくれた縁は、私にとって生きる理由になったのだ…。……だから、だから…」

 

 キズメルはぽろぽろと涙を流す。アスナにぎゅっと抱きしめられた彼女は小さくささやいた。

 

「……私は、もう何も失いたくない…」

 

「キズメルぅ…!」

 

 アスナの声にも涙声が混じっている。しばらく抱きしめ合っていた二人だったが、離れた時にはお互いに涙腺を締めることに成功したようだ。

 キズメルは霊樹を通る寸前、思い出したことがあったのかアスナたちに振り向いた。

 

「……そういえば、この層の守護獣は毒を用いると聞いたことがある。我らの野営地で毒消しを十分な量用意しておくのがいいだろう。……では、またな」

 

「…ああ、また会おうぜ!」

 

「うん…うん!絶対追いつくからねーっ!」

 

「バイバーイ!」

 

 キズメルが第四層に転移するのを見送ったアスナは、キリトの方を向いた。その目に涙の跡は残っていない。

 

「……また会えるよね」

 

「もちろん。まだまだ始まったばかりだぜ、エルフクエストも、俺たちの冒険も!」

 

「よっし、クエストも終わったし長髪とトゲ頭たちと一緒にボスやっつけちゃうぞー!」

 

 12月21日、第三層フロアボス戦開始。フロアボスの《ネリウス・ジ・イビルトレント》は巨大な樹木の姿をした怪物だ。ベータテストの時とは異なり、広範囲の毒攻撃を使ってきたが変わっているのは何もボスだけではない。

 

「アグモンかっとばせやッ!!」

 

「《ベビーフレイム》!!」

 

 アグモンが小さな火炎弾でフロアボスを燃やす。モロに弱点属性の攻撃をくらったフロアボスは大ダメージで身を悶えさせた。

 フロアボスを討伐した際の戦闘時間は三十分を切り、犠牲者は第二層に引き続きゼロ。圧倒的完勝であった。……しかし、キリトはそんなことよりも片手剣兼片手斧使いのモルテが姿を見せていないことが気がかりだった。

 しかし多くの謎や不安要素を残してはいるものの、第三層は完全攻略されて次の層への道は開かれたのだ。キリトは第四層主街区の転移門を開放するために階段を登りながら、キズメルとの再会に想いを馳せるのだった。

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