ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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34話 四層の後始末

 キリトたちは報酬選択を後回しにして、生き残った大型ゴンドラで城を後にした。なんの苦労もなく迷宮区タワーにたどり着いた一行を、迷宮の入り口で待機していたアルゴが出迎える。

 

「オッス、意外と速かったナ!」

 

「アルゴ!待っててくれたのか!」

 

 アルゴはヨフィリスの方を見て首をかしげる。

 

「……ん?新顔がいるけど、どちらさんダ?」

 

「こんにちは、私はレーシュレンという者です。この度は剣士キリトに借りを返す為に馳せ参じました」

 

「ア、フーン……」

 

 何かを察したアルゴはキリトに小声で訊いた。

 

「キー坊、これ深く知らない方がいいヤツ?」

 

「……まあ、そうだな。あんまり無礼なこと言わない方がいいかもとは忠告しとくよ」

 

「オッケ、レーシュレンについて知るのはやめとくヨ」

 

 迷宮区のモンスターたちをヨフィリスは細剣で瞬殺していく。

 

(最上位剣技使えるだけあって凄く強いな…)

 

 あっという間にボス部屋の入り口までたどり着いたキリトたちが見たのは、じわりと水が染み出している花崗岩(かこうがん)の扉だった。

 

「み、水が!!」

 

「キリト、やばいだろコレ!?早く開けないと中にいる連中全員溺れちゃう!!」

 

 キリトとアスナは扉に付いた輪っかを思いっきり引っ張る。そう大した力を入れずとも扉はギリギリで水圧に耐えていたようで、大量の水と共に何人か見覚えのあるプレイヤーたちが押し流されてくる。

 

「おわぁああ!?」

 

 通路に流されたエギルは、腹ばいのままキリトを見て強張った顔にニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「よお、来るのがちょっと…遅かったみたいだな」

 

「や、やっぱり水没したのか!?」

 

「あぁ、攻略本と姿が違うからなんかやべぇことしてくるんじゃないかとは言ったんだが…」

 

「エギルさん、犠牲者は!?」

 

 アスナの質問に、エギルは安心させるように答える。

 

「大丈夫だ、まだ一人も死んでねぇ。最初の往還階段のとこにあった浮き輪の実を根こそぎもいでストレージに溜めてた欲張りがいたおかげでなんとか助かった。攻撃を避けながら扉を開けようとはしてみたが、ありゃ内側からは絶対開かないようになってるっぽいな……」

 

「そ、そっか…死人が出る前でよかった…」

 

 キリトはそう言いながら、ボス部屋を覗いてみる。長方形の部屋は奥行きが五十メートルほどもあり、かなり広い。ギミックで部屋の中が水に沈む関係上か、窓はなく光源は何本かある柱の先端に取り付けられた不可思議な発光を放つ鉱石のみだ。

 その中央には、前半分が馬、後ろ半分が魚の怪物《ウィスゲー・ザ・ヒッポカンプ》がいなないていた。前脚は蹄の代わりにかぎ爪付きの水かきでたてがみは触手のようだ。

 HPに注目してみると、なんと六段あるバーの最初の一本が半分ほど削れている。キリトが尊敬半分呆れ半分で攻略レイドを見ていると、キバオウが騒ぎ出す。

 

「なんやジブンら、来るならもっとはよ来いや!」

 

「そうだそうだ!あやうく溺れるとこだったんだぞー!」

 

 アグモンもキバオウと一緒に騒いでいると、プレイヤーの山の下でリンドの苦しそうな声が響く。

 

「き、キバオウさん…はやく上の連中をどかしてくれ…!」

 

「……なんや、まだやる気なんかリンドはん」

 

「当然だろう!攻撃パターンはわかったし撤退なんかしていられない!」

 

「ワイが浮き輪の実出さんかったら今頃全員ドザエモンやぞ!!撤退や撤退!」

 

「共有財産ガメてたヤツのセリフかそれがぁ!!そもそも午後一番にボス戦に行くって言ったのはアンタだろうが!!」

 

 キバオウとリンドの言い争いを止めたのは、キリトの後ろにいたヨフィリスだった。

 

「……人族の剣士たちよ、戦うつもりならば剣を取りなさい。言い争いを続けるならば別の場所で行いなさい。……どちらにせよ、あの守護獣は剣士キリトと剣士アスナとの盟約により私が討ちますが」

 

 ヨフィリスは細剣をまっすぐに掲げた。

 

「リュースラ騎士ヨフィリスの名において命じます!立てる者は立ち、我に従いなさい!」

 

 剣尖から同心円状のオーラが広がり、それに触れた者たちに四種類のバフが付与される。

 

「お、おおお!?なんやこれ!」

 

「では、出撃!」

 

 

 ヒッポカンプの特殊能力《ウォーター・インフロウ》の対策は意外と簡単であった。ボスが能力を使った時、水圧で扉が内側から絶対開けられなくなるが…外側からだとあっさり開くのだ。

 つまり、アルゴを外に待機させておいて扉に水が染み出したら扉を開けて排水するだけで無効化できる。

 ただ、この対策はヨフィリスには不要だった。彼は平然と水面を走っていたからである。

 

 そんなわけで12月27日、《ウィスゲー・ザ・ヒッポカンプ》は最大の初見殺しを封じられて討伐された。キリトがアスナとハイタッチをしていると、ボス戦で大暴れしていたヨフィリスが話しかけてくる。

 

「ふふ、良い戦いでした」

 

「あ、ジョーシュさま!ボス戦手伝ってくれてありがとう!」

 

「本当にありがとうございます。ボスの能力を教えてくれただけじゃなくて、助太刀もしてくれるなんて…」

 

 キリトたちが感謝すると、ヨフィリスは微笑んだ。

 

「いえ、そもそも私の心を奮い立たせたのはお前たちの功績です。……では、一度城に戻りましょうか」

 

「「「はい!」」」

 

 

 キリトたちはヨフェル城に戻ってくると、ヨフィリスとキズメルと共に執務室に入った。外壁の隠し扉が開いたままなのでそこから日光が入ってきている。

 彼は執務室の壁際に置いてあったチェストを指さした。

 

「さて……長話をするよりも、褒美の方がそなたらには嬉しいでしょう。……改めて、あの箱から好きな品を二つ持っていきなさい」

 

「やったー!城主様最高!」

 

「もう…キリト君ったらはしゃぎすぎよ!……気持ちはわかるけど!!」

 

 キリトとアスナはニ十分かけて報酬を選び終えると、退屈そうにしていたヨフィリスは微笑んだ。

 

「……選び終えたようですね。……キズメル、貴女に任務を与えましょう」

 

「はっ!」

 

「《翡翠の秘鍵》と《瑠璃の秘鍵》を第五層にある砦まで護送してもらいたい。……頼みますよ」

 

「承りました、閣下!」

 

 キズメルは敬礼をしてからキリトとアスナに向き直った。

 

「……そういうわけで、私は先に五層へ向かう。……三人とも、待っているからな」

 

「キズメル……。うん、また一緒に冒険しようね!」

 

 アスナの頭を撫でてから、キズメルは第五層へと向かうのだった。

 

 

 アスナはキリトと共に再び迷宮区を歩いていた。剣を新調してご機嫌の彼に、彼女は苦笑いしている。

 

「武器の更新して嬉しそうね」

 

「まあな!……アニール・ブレードのことは残念だけどさ、こいつもいい剣だぜ」

 

 キリトは背中に背負った剣こと《ソード・オブ・イヴェンタイド》の柄を撫でる。キリト好みの重量級ではないが、その切れ味はかつての愛剣を大きく上回っていた。

 

「あのジョーシュさまさ、変だけどいい人だよねー。古傷を隠すために真っ暗な部屋に閉じこもるなんてさ」

 

「そうだな…俺だったら途中で気が狂うと思うし。……あの傷の理由、キズメルは知ってるのかな…?」

 

「ちょっと、あんまりそういうのは詮索しない方がいいわよ?ただでさえ秘密にしていたことなんだし、本人が言いたくなるまで聞かないのがマナーじゃない?」

 

「……そうだな」

 

 しばらく無言で迷宮を歩いていると、アスナがぽつりと呟いた。

 

「………ねえ、あなたはいつまでわたしと一緒にいるつもりなの?」

 

「………君が、充分強くなって俺がいなくても大丈夫になるまで、かな。……その時が来たら、ギルドを辞めて別の居場所を作ったっていいし、所属し続けてもいい。……自由って、そういうもんだろ」

 

「………そっか」

 

 キリトたちは、未だ不確かな未来に向けて歩き出す。その先に希望があると信じて。

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