ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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37話 亡霊の呪縛を解け 墓守のキャンドモン

 一行は遺物拾いを堪能した後、ひび割れたベンチに座っていた。キリトは畳んだ毛布に遺物たちを綺麗に並べている。

 それを眺めていたアスナはぼそっとつぶやいた。

 

「……なるほど、確かにハマったらかなりヤバいわねコレ…」

 

「だろ?ベータの時ここの遺物の魅力に取り憑かれて遺物拾い専門家みたいになったヤツもいたんだぜ。敬意を込めて《ヒロワー》とか呼ばれてたけど」

 

「それ蔑称じゃないかなぁ…?」

 

 アスナはため息をついた。拾っている最中はとても楽しかったが、終わってみると罪悪感が湧いてきたからだ。

 遺物拾いは最前線にいない生産職プレイヤーや一層にいる多数のプレイヤーが圏内で稼ぐことができる機会になり得る。

 

「………ちょっと、軽率だったかしら。わたしたちお金に困ってないのに…」

 

「アスナ…。気に病むことはないさ、俺たちが拾った遺物なんて全体でみるとちっぽけなもんだしさ!」

 

 キリトの慰めに、アスナは複雑そうな顔をする。この時、後先考えずに遺物集めを楽しんだ罪悪感と圏外で戦うことが怖くないわけじゃないという自己弁護で彼女の内心はぐちゃぐちゃだった。

 

「……どうしたの?」

 

「……えっ?」

 

 ハッとアスナが気づいた時には、ドルモンをぎゅぅっと抱きしめていた。

 

「ご、ごめんねドルモン!……後悔してるわけじゃないんだけどね。すごく楽しかったけど、もう充分かなって」

 

「………アスナ、無理してない?」

 

「…………し、してないから」

 

 ドルモンはアスナの顔が曇っていることにもやもやする。

 

「もう少しこのままでもいいよ?」

 

「…ありがと」

 

 その様子を見ていたキリトも優しい言葉をかける。

 

「アスナ、さっきも言ったけど気に病むことはないよ。この街、まだ神殿とか遺跡はたくさんあるし…」

 

「……うん」

 

「まだ遺物が復活しないとは限らないし…」

 

「……うん」

 

「それに、街中の遺物探しなんてカルルインのトレジャーハントとしてみるとオマケみたいなもんだしな!」

 

「……うん?今なんて言った!?」

 

 アスナは曇った顔を困惑した顔に変えて聞き返す。

 

「……なあ二人とも、この層に来てからALSとDKBの連中を全然見かけないと思わなかったか?あいつらこそ根こそぎ遺物拾いに行きそうなのに!」

 

「た、確かに…」

 

「奴ら、この街の地下に潜ってるのさ。カルルインには地下墓地があって、遺物の量が地上と比べて段違いなんだ!」

 

 アスナはスンッと無表情になる。彼女は膝に乗ったままのドルモンを持ち上げて、キリトの方向に向けた。

 

「……ドルモン、《メタルキャノン》」

 

「……へ?」

 

「ごめんキリト、手加減はするから…」

 

 ドルモンは申し訳なさそうな顔で鉄球を発射した。鉄球はキリトの腹にめり込む…かと思われたが、カルルインは圏内のため犯罪防止の障壁に阻まれる。

 ……なお、この犯罪防止コードは衝撃を防ぎきれないためキリトは崩れ落ちた。

 

「………おっごぉ…」

 

「先に言いなさいよそういうことは!!」

 

「そうだそうだー」

 

「……いや、ちゃうんすよアスナさん…。これには深い事情というのがあって…」

 

 アスナは首をかしげて続きを促した。キリトはお腹をさすりながら話し出す。

 

「……俺、前にここの地下で手痛い失敗したんだよ。全アイテムオブジェクト化って覚えてるよな、二層でアスナの剣を取り戻すために使ったヤツ」

 

「覚えてるに決まってるじゃない。それがどうしたの?」

 

「カルルインの地下は圏外扱いだからモンスターが出るんだ。……ベータの時、俺は安全地帯だと思っていた場所で全アイテムオブジェクト化を実行してしまったんだ…。あっちこっちからグレムリンみたいな先住民が集まってきて床にばら撒いたアイテムを根こそぎ盗まれて、散り散りに逃げられて……」

 

「うっわぁ悲惨な話…。…あれ、でもまた全アイテムオブジェクト化すればいいんじゃないの?」

 

 アスナの疑問にキリトは首を振った。それができるなら苦労はない。

 

「……それが、こういう盗むモンスター…ルーターMOBはだいたい強奪スキルって奴も持っててさ…。一度盗まれるとアイテム所有権情報を速攻で上書きされちゃうんだよ…。幸い周りに誰もいなかったからダンジョンを走り回ってグレムリンをやっつけて奪い返したんだけどな」

 

「……なるほど、じゃあ地下に行く時は気を付けなきゃね」

 

 

 アスナたちはプロパティ不明アイテム扱いのネックレスや指輪を鑑定してもらうためにNPCショップへと向かった。カルルコインの換金がてら調べてもらったものの、宝石は全て五百コル前後のD級品、アクセサリーも微妙なものばかり。

 アスナがそのうちの一つ、《燭光(しょっこう)》の指輪を眺めているとキリトにこう言われた。

 

「それ、他のアクセに比べたら面白い効果してるから持っとけよ」

 

「そ、そうなの?でも、みんなで見つけたものだし…」

 

「俺はもう指輪両手に付けてるし、ドルモンは装備できないからな…」

 

 キリトは左手の人差し指に付けた筋力+1の指輪と右手の人差し指に付けた《シギル・オブ・リュースラ》を見せる。指輪装備は片方の手に一つずつしか付けられないのだ。

 

「……わかった、じゃあ貰っておくわね」

 

 アスナは《燭光》の指輪を右手の中指に装備するとすたすた歩きだす。しばらく歩いていると、通りで見覚えのあるスキンヘッドの巨漢が何か長いものを肩に担いでいる場面に出くわした。

 

「よぉ!こんなとこで会うとは奇遇だな」

 

「うぃーっすエギル」

 

「こんばんは、エギルさん」

 

「こんばんわおっちゃん!その長いのなーに?」

 

 ドルモンに聞かれたエギルはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「コイツは前にキリトが持ってきた《ベンダーズ・カーペット》さ。ちょっと試してぇことがあってな」

 

「お?まさかお前攻略やめて商人にクラスチェンジする気か?」

 

「いやいや、攻略はやめねぇけどよ…。余剰アイテムの処分にNPCショップに売りさばくのと、このカーペット使ってプレイヤーと取り引きするの、どのくらい実入りが違うか検証してみたんだ。つーわけで夕方からロービアで露店を出してたんだが…」

 

「へー、結果はどうだったんですか?」

 

 アスナに訊ねられたエギルはあごひげをなぞりながら答えた。

 

「モノによるって感じだな…。ロービアなら船の素材なんかはかなり強気な値段でも売れたが、非戦闘系のブーストアクセとか食材とかは売れ残っちまった。本気でやるなら需要と供給はしっかり把握して、宣伝なんかも大事そうだな」

 

「なるほどなぁ…。……それ、アルゴに伝えてもいいか?見習い商人の言葉でも色々参考になるだろうからな」

 

「おう、よろしく頼むぜ。個人的にはリサイクルショップみたいなのがあると戦闘(クラス)の奴らは嬉しいんじゃねぇか?」

 

「確かになぁ。アルゴか他の誰かかはわからないけど、最初に始めたヤツは大儲けできるぜきっと…。ま、その店舗を始めるのに大金が必要なんだが」

 

 キリトとエギルはしばらく商売の話を続けた後、なごやかな雰囲気で別れた。手を振りながら彼は感慨深そうな顔でぽつりと呟いた。

 

「……いやぁ、まさかエギルがアレを処分せずに有効活用するとはなー…」

 

「エギルのおっちゃんがお店を開いたら真っ先にお客さんになろうね!」

 

「………だな。カーペット贈ったの俺だしそれくらいはしないとな…」

 

 

 翌日、キリトたちが宿から出ると空気がやけに湿っぽいことに気が付いた。空から無数の水滴が落ちてきているのだ。初めてそれを見たドルモンの瞳には、それが奇妙な空模様に映った。

 

「………雨?」

 

「雨だなぁ…珍しいこともあるもんだ」

 

「これ、雪じゃないよね?水が降ってきてるよ!」

 

「あー、まあドルモンは初めてか。というか正式サービスに入って最初の雨だな、これ」

 

 キリトはレザーコートの襟を立てながら言った。それを見たアスナもフードを深くかぶる。雨を凌ぐには頼りない翼をちらっと見てから、ドルモンは小さな声で言った。

 

「…キリト、コートの下に隠れていい?」

 

「別にいいけど、ちゃんと掴まってろよ」

 

「……早く屋根のある場所に行こうよ。このままじゃずぶ濡れになっちゃうじゃない」

 

 アスナの嫌そうな顔にキリトも頷く。

 

「んじゃ、クエスト消化するか」

 

「……そこ、屋根あるの…?」

 

「つーか昨日話した地下墓地に用事があるクエストがいっぱいあるんだ。女の子のペットを探す《迷子のジェニー》、遺物を集める《悪趣味な収集家》、んで《三十年の嘆き》って奴は地下墓地に彷徨っている悪霊を……」

 

「にぇっ!?」

 

 アスナはすっとんきょうな悲鳴を上げながらキリトの口を手で塞いだ。

 

「もごもごもごっ!?」

 

 ゆっくりと手を離したアスナに、ドルモンは恐る恐る訊いてみた。

 

「……今のなに?」

 

「…………し、知らなくてもいいことよ」

 

「そっかぁ」

 

「………後、クエストのネタバレ禁止ね。いい!?」

 

 アスナの鬼気迫る剣幕にキリトはたじろいだ。

 

「お、おう。……んじゃ、今回クエストはアスナが先導するか?単発もののクエストはネタバレ無しの方が面白いもんな」

 

「そ、そうね!準備はいい?」

 

「そりゃ当然!」

 

 

 キリトたちが地下に進むと、あちらこちらでプレイヤーの姿を見かけた。食事をしたりミーティングをしたり、中には寝袋を敷いて仮眠までしている猛者(もさ)までいる。

 

「この人たち、遺物探し中かしら。……というか圏外なのに余裕あるわね」

 

「いや、まだ圏内だよここ。圏外に出たら表示出るだろ?」

 

「あ、そっか…。……この層、もしかして圏外と圏内の境目が曖昧…?」

 

 アスナはカルルインの変わり映えしない街並みを思い浮かべていた。

 

「地下墓地は地下一階が圏内だ。モンスターも出ないしトラップもない、安心して先に進もう」

 

 雨の湿っぽい臭いと薄暗い雰囲気は、いくら圏内でも何か出るんじゃないかという不安を煽る。アスナは内心ペット探しが最初の方に当たらないかなぁと弱気だった。

 彼女は不安を隠すためにキリトに適当な話題を振る。

 

「それにしても…この世界って雨降るのね」

 

「まあレア天気なのは確かだよ。ベータの最初の方はしょっちゅう降ってたけど、視界が悪くなるわ装備が水吸って重くなるわ服がぐちょぐちょになるわ寒いわで、ベータテスターから苦情がたくさんあって降る頻度が途中から明らかに減ったんだよな」

 

「そっか、室内で見る分には好きなんだけどな…」

 

 やがて、一行はクエストの目的地である礼拝堂にたどり着く。光源は床の数か所で燃えるろうそくのみで、部屋の一部は闇で覆い隠されていた。

 アスナは嫌な予感がして小声で相棒に訊ねる。

 

「……ここ、どのクエスト?」

 

「えー、ネタバレだけどいいのかー?」

 

 キリトはにやにやと楽しそうにからかってくる。その笑顔で嫌な予感はさらに増した。

 

「別にそれくらいならいいでしょ!」

 

「じゃあタイトルだけ……ここは《三十年の嘆き》でーす」

 

「………」

 

 アスナは自分のくじ運の悪さにがっくりしながら、なんとか顔に出さずにクエストログを確認する。依頼人は一人暮らしの中年男性で、最近カルルインに引っ越してきたばかりなのだが新居が夜になると謎の音を立てたり食器が床に落ちていたりで困っているとのこと。その家の地下室は既に調べてみたものの、何の異常もなかったため原因は下…つまり地下墓地にあると発覚したところで、アスナのクエストログは止まっていた。

 

「つまり、この真上がおじさんの家…?」

 

「そういうこと。マップをぱっかぱっか切り替えてみればわかるよ」

 

 試してみると確かにクエストNPCの居場所と現在位置がぴったり重なっている。アスナは周りを見渡してみるが、見えている範囲に地下礼拝堂を《揺らす》何かはないように見える。

 今回キリトはアスナにクエスト進行を任せているので、彼女は自力で手がかりを見つけたいと考えていた。

 

「……あれ、そういえば家がガタガタするのって深夜なのよね」

 

「そうだな」

 

「ってことはその原因を調べるには、深夜に礼拝堂を訪れる必要があるんじゃない?」

 

「うん、アスナの読みは結構当たってるよ。普通にやるんだったらそれが正攻法だし、時限イベントはどんなゲームにもあったりするからな」

 

 キリトの言葉に、アスナは困った顔をする。

 

「………まだお昼にもなってないんだけど…」

 

「どうするのキリト。このままぼーっと待たなきゃいけないの?」

 

「それでも別にいいけど、単発クエストには抜け道がよくあるんだ。もうちょっと待ってたらヒントが来るはず…」

 

 キリトがそう言った瞬間、後ろからカタンカタンと妙な音が聞こえてきた。金属の何かが、硬い地面にぶつかっているような音に、アスナはびくっと震える。

 

「……ひ、ヒントって何が来るの!?」

 

「……あれ、ベータの時と足音が違うような…」

 

 キリトも怪訝な顔で《ヒント》を待つ。

 数分後に礼拝堂にやってきたのは、ろうそくのような姿をしたデジモンであった。頭のてっぺんにはメラメラと顔のついた炎が揺らめいている。先ほど聞こえていた音はキャンドルスタンドを模した脚が地面を叩いていた音らしい。

 

「な、なによコイツー…」

 

「んあ??おめーさんらたからさがししてるだか?このあたりはとくになんもないだーよ?」

 

 ろうそくオバケこと《キャンドモン》は腰(?)に付けた袋からろうそくを取り出して今にも消えそうなろうそくから火を移し始める。

 アスナはハッとなってキャンドモンに話しかけた。

 

「あ、あの…こんにちは!真夜中にここでおかしなものは見ませんでしたか?」

 

「んー?おら、よなかはここにこないだよ。あさにろうそくをつけて、ひるまはろうそくたして、よるはここのろうそくをぜんぶけしてからねるだー」

 

 キャンドモンは全てのろうそくを補充してから礼拝堂を去っていった。アスナはキャンドモンの証言から考えてみる。

 

(あのおばけろうそくの証言が正しいなら、ろうそくが点いているのは朝から夜まで…。つまり、真夜中には真っ暗になっている…?)

 

 アスナは何かに気が付いたのかろうそくに近づくと一気に吹き消した。ドルモンは部屋の一角が暗くなって驚いた顔をしている。

 

「な、なにしてるのアスナ!?そんなことをしたら真っ暗になっちゃう!」

 

「いいから!二人ともろうそく消すの手伝って!」

 

「あいあいさー!」

 

 一行はあっという間にろうそくを吹き消す。暗黒に包まれた中でランタンを取り出そうとするアスナの手許(てもと)を青白い光が照らした。

 

「あ、ありがとキリト…く……?」

 

「俺じゃないぞー」

 

 キリトは手に何も持っていない。……光源は、床の中央。冷たさすら感じる虚ろな光だった。

 床の下から這い出るかのように、青白い腕らしきものが現れる。

 

「……ひぃっ」

 

 アスナはこの後の展開がわかってしまった。

 

「………ォォォオオオオ…」

 

 ガリガリに痩せ細り、凶悪な形相の女。両目は窪みその代わりに鬼火が燃えている。それは、アスナが最も苦手とする存在…《幽霊(ゴースト)》であった。

 

「ヒオオオオオォォ……」

 

「いやああああああッッ!!!」

 

 幽霊の叫びでガタガタと揺れる礼拝堂なんかもう気にならないくらいアスナは気が動転してしまった。キリトを盾にして隠れるアスナに、ドルモンは心配になって声をかける。

 

「……大丈夫?」

 

「だいじょばない……」

 

(アスナ、こういうの苦手だったのか…)

 

 叫び終えた女の亡霊はゆらゆらとキリトたちに近づいてくる。叫び声が終わったので彼女はぼそっと訊いてみた。

 

「………いなくなった…?」

 

「いや、近づいてきてるなぁ」

 

「…………ぴぃ…」

 

 いつもの頼もしい彼女はどこへやら。そこにいたのは幽霊にビビりまくる女の子だった。

 

「キリト君、早く追い払ってぇ…」

 

「いや、クエスト進めないと居座るんだけど…」

 

「なら早く進めてよ!できるだけ早く、このまま!!」

 

「わ、わかったわかった…」

 

 ビクビクしているアスナを背に、キリトは幽霊に話しかけた。

 

「こんばんは、どうしてあなたはこんな礼拝堂で暴れてるんですか?」

 

「………ここから、出られないから…」

 

「どうして出られないんですか?」

 

「………ここに、閉じ込められたから…」

 

 幽霊の声は悲しげで、そう感じたせいか少しだけ頭が働くようになったアスナは彼女の言葉に疑問を持った。

 

(あれ…?礼拝堂の扉って立て付けは悪かったけど普通に開いたよね…。そもそも幽霊なんだから好き勝手にすり抜ければいいんじゃ…?)

 

「閉じ込められた…っていうのは?」

 

 その後もキリトは幽霊と会話を続け、彼女の無念を知ることができた。

 なんでも、彼女は三十年前の生前将来を約束していた男に礼拝堂に閉じ込められ、その男への強い恨みからこの場所に縛りつけられたらしい。

 幽霊は話し終えると出てきた時と同じように地面に還っていった。

 

「………行った?」

 

「もういないよ」

 

「………もう出てこない?」

 

「それは……まあ、大丈夫だろ。クエストは次の段階に進んだし」

 

「「……………」」

 

 キリトとアスナの間に、気まずい雰囲気が流れる。それを破ったのはいつもマイペースなドルモンだった。

 

「……アスナ、だいじょうぶ?」

 

「え?………えぇ、もうだいぶ落ち着いたわ。…心配かけてごめんね」

 

「……ごめんアスナ。アストラル系が苦手なことに気づけなくて…」

 

 キリトの聞き慣れない単語に、彼女は思わず顔を持ち上げる。

 

「………アストラル?」

 

「ああ、モンスターの種類の一つだよ。コボルドやゴブリンが亜人系、蜘蛛や蜂は昆虫系…みたいな。今出てきた実体のないアンデッドがアストラル系。同じアンデッドでもグールとかスケルトンみたいな実体があるのはリビングデッド系に分類されるんだ」

 

「ふーん、そうなんだ……。そういえば、ドルモンはああいうおばけは怖くないの?」

 

 ドルモンは尻尾を振りながら答える。

 

「怖い…ってより話を聞いてるうちにかわいそうだなって感情のほうが強くなっちゃったかなぁ…。もし犯人が生きてたらボコボコにしておばけさんの目の前に突きだしてやりたいね!」

 

「そうね、いくらなんでもあんまりだもの…。三十年なら相手の男がまだ生きててもおかしくないし…」

 

 その後、幽霊が現れた場所にあった金のペンダントを持って一行は街に戻った。そのペンダントをNPCに鑑定してもらうと、それは遺物ではなくカルルインの街の一角を牛耳る豪商一族の紋章だと教えられ、その屋敷へと向かうことになった。

 一族のまとめ役の五十過ぎの男にペンダントを見せたところ、彼は三十年前にやらかした罪を告白した。

 なんでも、付き合っていた彼女が邪魔になり遺物拾いに誘うふりをして地下の礼拝堂に閉じ込めたというのだ。ペンダントはその時ちぎられたものらしい。

 

「キリト君、殴っていいかしらこのおじさん!!」

 

「ダメダメ!クエストが中断されちゃうから!!」

 

「ちぇーっ、残念!こういうクズならいくらでもボコボコにできるのに…」

 

 キリトたちは男を連れて地下の礼拝堂に赴き、再び幽霊を出現させる。豪商が床に頭を擦りつけながら謝罪すると、成仏したのかすぅっと娘は消え去った。男を屋敷まで送り、報酬を貰って部屋を出た…その瞬間だった。

 

「ぎゃああああああああああッッ!!!」

 

「ッ!!?」

 

 扉がいきなりバタンと閉まり、男の悲鳴ととんでもない音量のガタガタ音が響き渡ったのだ。再び扉が開いたその時、男はどこにもいなかった。

 背中に冷たいものを突っ込まれたような結末に、ドルモンが一言。

 

「………見なかったことにしよう!!」

 

「「賛成!!」」

 

 もはやあの豪商がどうなったかなど考えたくもなかった一行は、次のクエストへと向かうのだった。




<キリトメモ>

《キャンドモン》
かつて人間が住んでいた遺跡で稀に見かけることがあるろうそく型デジモン。頭の炎は文字通りキャンドモンの命そのものなので火が消えると死んでしまう。そのため、一部のプレイヤーはキャンドモンの炎こそが本体で、ろうそく部分は擬態なのではないかと主張している。
性格は温厚で積極的に戦うことはないが、敵に襲われた際には小さな火球《ボンファイア》で迎撃する。
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