ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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4話 フロアボスを討て、戦慄のド■■モ■!

 攻略会議の翌日、キリトたちは圏外で連携の練習を行っていた。ぶっつけ本番で連携なんて取れないので、練習時間はあればあるほどいい。

 

「せい、やァ!!」

 

 アスナの《リニアー》がハチの弱点を撃ちぬき、そのまま爆散させる。キリトとアルゴはその様子を見てため息をつく。

 どうしてここまでの実力者が、無名のままだったのだろうか?

 

「……すごいな、店売りで一番性能の低い《アイアン・レイピア》でここまで正確に弱点を攻撃できるのか…」

 

「……もったいねえナー、あんな店売りの低ランク品よりもっといい武器を使えばいいのニ。なあキー坊、今までのドロップ品にレイピアはないのカ?」

 

「いや、たしかにあるけど…。おーいフェンサーさーん!ちょっとこっち来てくれ!」

 

 キリトがアスナを呼ぶと、彼女は昨晩の事を思い出しているのか警戒しながら歩いてきた。

 

「…………な、なに?」

 

「ええと…これを使ってみてくれ」

 

「これって…細剣?」

 

「ああ、《ガーズレイピア》だ。俺たちのパーティーはフロアボスと直接戦うわけじゃないと言っても、《アイアン・レイピア》で取り巻きを相手にするのは厳しいぞ」

 

 《アイアン・レイピア》よりもいくらかマシな細剣を手に取った彼女はそれを試しに振ってみた。

 

「これって貴重なアイテムじゃないの?」

 

「別にいいんだ、俺は細剣スキル取ってないし」

 

「……あなたは、強欲じゃないのね。わたしね、親友と一緒にこのゲーム始めたの。……でも、フィールドでレアモンスターを見つけた彼女と別行動中にわたしポカミスして…。たくさんのモンスターに囲まれて、パーティーから彼女が抜けて…死にかけた」

 

 アスナの声は、かすかに震えていた。

 

「……ともだち、だと思ってたのよ。でも、ミトにとってわたしはそのアイテムより価値が低かったみたい。……ねえ、レアアイテムって人を変えてしまうの…?」

 

 キリトは絶句するしかない。それだけの目に遭えばあれだけ自暴自棄になるのは当然だろう。

 一方アルゴはアスナに質問を始める。

 

「なあ、その友達の武器はなんだっタ?」

 

「……え?えっと…身長と同じくらいの大鎌よ」

 

「……レアモンスターの名前かその姿は思い出せるカ?」

 

「………フードを被ったネズミみたいなモンスター。ほんのちょっとだけ情報屋さんにも似てたと思う」

 

 アルゴは思わず笑った。

 

「ニャハハ。…オイラに似てるってことは、シュルーマン系だナ。………アア、そういうことカ、ナルホド…」

 

 情報屋はキリトを手招きすると、小さな声で話し出した。

 

「……なんかわかったのか?」

 

「少なくともそのアイテム惜しさで逃げたわけじゃないと思ウ。あいつのドロップは大鎌使いにとって無用の長物ダ、積極的に狙う理由はなイ」

 

「………それ、フェンサーさんに言わなくてもいいのか?」

 

「だってオイラ部外者だゼ?…確定した情報以外を伝えるわけにもいかんだロ」

 

 キリトはアスナの方に歩み寄る。

 

「…なあ、『危機に陥った時、人は本当の顔をさらけ出す』ってたまに聞くけどさ。それで出てくるのは危機に陥った顔でしかないと思う。…俺にはその友達の事はわからないけど、今までずっと友達として付き合ってきたフェンサーさんの記憶にある友達を信じてみないか?」

 

「………慰めてくれてるの?」

 

「……暫定パーティーメンバーの心配事はできるだけ取り除きたいからな。全力で戦えずに負けるのは嫌だろ?」

 

 キリトは気恥ずかしそうに顔を逸らす。アスナはそんなキリトに少しだけ微笑んだ。

 

「……そうね、死ぬにしても第二層に進むにしてもボス戦で手を抜くわけにはいかないわ。……よろしくねパーティーメンバーさん?」

 

「……ああ、明日もよろしく」

 

 

 12月4日、ボス部屋の前にたどり着いたレイド隊に、ディアベルは最後の発破を行った。

 

「…オレ、実はボス戦前にみんなが集まらなかったらどうしようって不安だった。でも、それが杞憂でよかったよ!フルレイドには人数が足りていないけど、今のメンバーが現状のベストだって思ってる!」

 

 緊張していたメンバーの心を程よく燃え上がらせるその弁舌のうまさに、キリトは感心していた。

 

「攻略会議でも言ったと思うけど、念のために確認だ。今回のレイドでドロップアイテムの分配は行わない、アイテムはゲットした人のものだ。今回はギルドだとかでまとまっているわけでもないし後のいざこざは避けたいからね」

 

「……ディアベル、質問いいか?」

 

「ああ、言うだけならタダだ」

 

(そのセリフ気に入ったのか?)

 

 キリトは一瞬呆れた顔をしたが、すぐに顔を引き締めた。戦う前にこれだけは聞かなければならない。

 

「今回は攻略本のおかげで偵察戦を省けたわけだけれど、ベータテストと異なる状況が発生した時はどうする?その時はリーダーのアンタが撤退の指示を出すんだよな?」

 

「もちろん人命最優先にするつもりだ。でも事前のシュミレーションは完璧だ、誰も死なせはしない!……な、ベタモン?」

 

「うん、任せてー。ぼくの電撃ビリリンでみんなをサポートするからねー」

 

 ディアベルとベタモンのやり取りを見て、キリトはこの男ならきっと大丈夫だと確信する。

 彼がギルドを作り、プレイヤーを一つにまとめ上げるだろうことは容易に想像できた。

 

「ああ、頼むぜ騎士(ナイト)さん?」

 

「頼まれたぜ!……さあ、行こう!」

 

 

 第一層ボス《イルファング・ザ・コボルドロード》がボス部屋の最奥で咆哮するのを、冒険者たちは(とき)の声で押し返す。

 コボルドロードが骨斧を不届きものどもに突き付けると、その取り巻きである《ルインコボルド・センチネル》が武器を構えて突進し、対取り巻き部隊と激突した。

 

「スイッチ!」

 

 センチネルの急所にソードスキルを撃ちこみ、アスナはバックステップでキリトに交代する。

 

「任せろフェンサーさん!」

 

 キリトは連撃をお見舞いしてから最後のトドメに《ホリゾンタル》で取り巻きを斬り捨てた。

 それを近くで見ていたアスナは、キリトの剣技の完成度に目を丸くする。足運び、敵の急所を的確に抉る観察眼、さらにソードスキル自体の威力も周りのプレイヤーより心なしか高い気がする。

 

(この人は、わたしよりずっと先にいる。……そこにはどんな景色が広がっているのか、ゲームをあまり遊んでこなかったわたしにはわからないけれど…もし、このボス戦を生き残って戦い続けたらいつか彼と同じ景色を見られるのかしら…)

 

「フェンサーさん、次のセンチネルは今倒したやつよりもレベルが高いから気を付けてくれよ」

 

「…え、ええ!わかったわ」

 

 その様子をキバオウが憎たらしそうににらみつける。

 

「……やっぱり、あんたがあの盾無しソードマンやったか。ベータテストん時に汚い立ち回りでLAを取りまくった挙句他のテスターからも蛇蝎のごとく嫌われたひきょうもんが…。どうせ適当なところでボスに殴りかかるつもりやろうが、そうはさせへんぞ…!?」

 

 キリトは回復ポーションを飲みながら、キバオウの情報源を知るために探りを入れてみた。

 

「へえ…。それを知ってるってことは、元テスターの知り合いでもいるのか?現実にいた時にネットでせこせこベータテストの情報集めたわけじゃないだろ?」

 

「ああ、テスターの連中やないで。…ワイにそれを教えてくれたそん人は、えろう大金積んで《(ネズミ)》からベータの時の話を買ったっちゅうとった。攻略部隊に紛れ込むハイエナどもを割り出すためにな」

 

「………そう、か」

 

 キリトはキバオウを哀れなものを見る目でじっと見つめた。……彼の情報源がディアベルであることに、キリトは気づいたからだ。

 アルゴはベータテスターの私刑(リンチ)を防ぐために、そういった情報を売っていない。つまり、それを知っているのは元ベータテスターであり…キリトが『盾無し剣士』だと気づいてないといけないのだ。

 

「…ッ!!なんやその目はァ!!」

 

「……いや、あんたは知らなくていいことだよ。……その人の事を信じたいんなら、俺のような『ひきょうもん』の言葉に耳を傾けるべきじゃない。…ほら、次のコボルドが来るぞ、よそ見はよくないぜ」

 

 キリトがコボルドに斬りかかるのを見ながら、キバオウは舌打ちした。

 

「チィッ!いい気になりよって…」

 

 

 コボルドロードとの戦いはプレイヤーたちの精神をプレッシャーによってすり減らすが、展開そのものは順調だった。攻撃パターンなどにベータテストとの違いはなく、ディアベルはニヤリと笑みを深める。

 

「いけ、ベタモン!」

 

「うん!《電撃ビリリン》ッ!」

 

 ベタモンの電撃攻撃がコボルドロードに命中し、数秒敵の動きが止まる。ディアベルはその隙を逃さず《バーチカル・アーク》をコボルドロードに叩き込んだ。

 ボスのHPゲージは、残り一本。ここからコボルドロードは今まで使用していた骨斧と盾を投げ捨て武器を副武装の《湾刀(タルワール)》へと持ち替える。

 使用するスキルこそ変わるがベータテストと同じように戦えばいいのだ。

 

「ラスト一本だ!副武装の《湾刀(タルワール)》に切り替わるぞ!!」

 

「「「おうッ!!」」」

 

 ディアベルの言葉にパーティーメンバーが応えてくれる。

 

(いける、勝てるぞ!ヤツの使う曲刀スキルに範囲攻撃はない。このまま囲んで袋叩きにすれ、ば……?)

 

 ディアベルの本能が、警鐘を鳴らす。コボルドロードに何か違和感を覚えた彼は、慌ててその正体を探ろうと一歩後ろに下がる。

 キリトの悲鳴とディアベルがその違和感の正体に気づけたのはほぼ同時だった。

 

「駄目だ、全員攻撃を中止して後ろに跳べえええええッ!!」

 

「ッ!!!た、たい…」

 

 コボルドロードが手に持った日本刀(カタナ)を持ったまま跳び上がり、身体をひねって武器に力を込める。落下と同時に360度を薙ぎ払う範囲攻撃《旋車(ツムジグルマ)》が、今まさに総攻撃を行おうとしていたプレイヤーたちを薙ぎ払った。

 《旋車(ツムジグルマ)》の恐ろしいところは範囲攻撃だけではない。その追加効果の一時的行動不能(スタン)によって数秒無防備に晒されることで、追撃を避けられないのだ。

 …事実、十層でカタナスキルを使ってくるMOBの攻撃にベータテスターたちは苦戦を強いられた。

 

「な、なに!?曲刀に範囲スキルはないって話じゃなかったのか?」

 

「話はあとだ、とにかく今はピヨった奴らを回収してくれ!」

 

 キリトはエギルに叫ぶが、十数メートル離れた彼らを安全圏まで運ぶには時間が短すぎる。硬直が終わりコボルドロードが追撃しようと武器を構えた、その瞬間だった。

 

「ガアアアアアアアッ!!」

 

「グルラァッ!!?」

 

 コボルドロードの後ろから、巨大な何かが襲い掛かったのだ。蛮族の王は肩に嚙みついたそれを引きはがす。

 誰かがそのモンスターの姿を見て呆然と呟いた。

 

「……ど、(ドラゴン)…?」

 

 キリトはベータテストの時にはなかった展開に混乱しながらも、乱入してきたモンスターの姿を観察する。

 ドラゴンと言っても、そのモンスターの身体はウロコではなく毛におおわれていた。獣と竜が絶妙なバランスで融合したかのようなその怪物の名は、《ドルガモン》。

 

「ぼ、ボスと戦い始めたで!?今のうちにディアベルはんたちを回復させるんや!」

 

 コボルドロードとドルガモンが戦っているうちに、ボスにスタンさせられたレイドメンバーを後方へと下げることに成功してほっとしたのもつかの間、ディアベルはキョロキョロと周りを見渡す。

 

「……き、キバオウさん…。……ベタモンは、どこに?」

 

「一緒やないんですか?」

 

「ベタモン、どこだ!?」

 

 ディアベルは先ほどまでスタンしていた場所を見て、背筋が凍った。ベタモンはボスたちがまだ戦っている場所の近くで恐怖に怯えている。

 

「あ、あああ…」

 

「グルルル…ガアアアアッ!!!」

 

 ドルガモンがベタモンを視界に入れ、咆哮する。

 

「ひ、い…!で、《電撃ビリ…うああっ!?」

 

 獣竜の質量のある尻尾がベタモンの体を吹き飛ばし、回復できていなかったベタモンのHPがゼロになる。

 その小さな体が砕け散り、ディアベルは絶叫した。

 

「べ、ベタモン!!き、さまあああああ!!!」

 

 ディアベルが《レイジスパイク》でドルガモンを攻撃するが、硬質の毛に阻まれ少量のダメージしか与えられない。

 ドルガモンはタックルで彼をコボルドロードの近くに撥ね飛ばした。

 

 コボルドロードの三連撃ソードスキル《緋扇(ヒオウギ)》が、上空で無防備を晒すディアベルに叩き込まれる。その派手なダメージエフェクトは、三連撃全てがクリティカルしてしまったことを雄弁に語っていた。

 二十メートルも吹き飛ばされた騎士に、キリトは慌てて駆け寄った。

 

「ディアベル!!しっかりしろ、ディアベルッ!!」

 

 キリトの姿を見たディアベルは、その目に決意の火を灯した。そのままキリトに聞こえる最小限の声で、最期の言葉を紡ぐ。

 

「……後は、頼む。キリトさん、ボスを、倒し」

 

 最後まで言い終えることなく、騎士ディアベルはその体を相棒と同じように四散させ退場した。

 

「ディアベルウウウウウ!!!」

 

 キリトの慟哭が、ボス部屋に響いた。

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