ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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41話 鋼の献身、リーテン

 ALSメンバーことフルプレ少女はリーテンと名乗った。キリトたちは空き家に長年放置されていたであろう椅子に座り、文字通り腰を据えて話し合う事にした。

 

「えっと……リーテンさんはいつからALSに?」

 

「12月22日です」

 

 キリトはほんの少しだけ記憶を遡り、その日何があったかを確認する。

 

「ってことは四層が開通した次の日だな…。志願?」

 

「いえ…私はスカウト組です。コレを着てたからなんですけどね」

 

 そう言いながらリーテンは全身鎧を軽く叩いた。確かにこの序盤の階層では鋼の全身鎧などレア物中のレア物だ。ショップでは未だ売っていないしドロップするモンスターも存在しないからである。残る入手手段といえばプレイヤーメイドだけなのだが…。

 金属系素材の入手というのは上位素材になればなるほどめんどくさい。重くて嵩張る鉱石をたくさん集め、それを溶鉱炉に溶かし《プランク》や《インゴット》に変える必要があるためだ。鉄鉱石二つで鉄プランク、鉄鉱石六つで鉄インゴットができるのだが…鉄インゴット四個で上位の鋼鉄(スチール)インゴットを作れるのだ。

 

(鋼装備を作るには鋼鉄(スチール)インゴットが馬鹿みたいに必要になる…。鋼の全身鎧を作るには軽く千個以上の鉄鉱石を掘らなきゃいけない筈だ、彼女はいったいどうやってあの鎧を…?)

 

 そう考えたキリトであったが、リーテンはすぐに答えてくれた。

 

「この鎧はプレイヤーメイドです。もちろん私が作った訳じゃないんですけどね」

 

「……マジか。って事は千個以上の鉄鉱石を掘りまくったわけですよね?いったいどんだけかかったんです…?」

 

 驚くキリトにリーテンははにかみながら軽くかぶりを振った。

 

「キリトさん、私に敬語は使わなくていいですよ。攻略集団の大先輩ですもの」

 

「え、えぇ…?でもなぁ…」

 

 キリトはリーテンの隣に座るシヴァタに視線を向ける。彼は肩をすくめながら頷いた。

 

「……別にいいだろ。オレとアンタはタメ口だしな、リッちゃ…じゃなくてリーテンに向けてデスマス言われてもこっちが反応に困るんだよ」

 

「あー、んじゃそうさせてもらうよ……。もらうけど、お前今リッちゃんって言いかけなかったか?」

 

「………………次にその話題を口にしたら殺す」

 

 目の据わったシヴァタをこれ以上怒らせるわけにもいかないと、キリトは話題を戻す事にした。

 

「で、さっきの続きだけど…」

 

「はい、これはシバにしか言ってない話なのでできれば他言無用でお願いしたいんですけど……」

 

 そう言った彼女は金属鎧を手に入れた経緯を話し始めた。リーテンが始まりの街を出たのは一ヶ月前のこと、MMORPG経験者の彼女は元々タンク志望だったらしく店売りの金属装備《カッパー・メイル》を着てレベル上げをしていたようだ。しかし、苦労して鎧をゲットした彼女を入れてくれるパーティは中々見つからず、タンクソロで最前線まで行ってやると意固地になったリーテンは全身鎧用の鉱石集めと並行してレベル上げをしていた。

 

「………ガッツあるなぁー。STRに余裕があるタンクとはいえ千個以上も掘ったんだろ?」

 

「……はい。確かに私一人で千個以上の鉄鉱石を集めました。でも、全然人に言える話じゃないんです」

 

「それってどういう意味なの?」

 

 アスナに優しく問われ、リーテンは続きを話し始めた。

 それは、二層のマロメ村近くでレベル上げをしていた彼女がある日見つけた鉄の鉱脈をいつも通り掘っていた時であった。通常なら鉱石を七〜八個掘れば鉱脈は枯れるのだが、その見つけた鉱脈は掘っても掘っても枯れなかったのである。最初は当たりの鉱脈だろうかと喜んだ彼女であったが、掘っても掘っても枯れない鉱脈に段々怖くなってしまう。

 

「鉄鉱石が百個近くになって、私はようやく気づきました。これはつまり…無限湧きバグ、というヤツなんだって…」

 

「……!!」

 

 キリトとシヴァタは驚きで目を丸くする。一方、MMORPGにあまり詳しくないアスナとドルモンは首を傾げていた。

 

「キリト、むげんわきばぐって何?」

 

「モンスターとかアイテムが正常な数を超えて出現し続ける世界の異常だよ。……このアインクラッドでは初めて聞いたけど、この世界も人が作ったものだからな。不具合だって存在するさ」

 

「へぇ…。つまり鉄鉱石掘り放題のバーゲンセールみたいなこと?そんな宝くじ一等大当たりみたいな事もあるのね」

 

「いいなー!お肉とかケーキがむげんわきしないかなぁ!」

 

 アスナとドルモンの呑気なコメントに、ゲーマー三人は思わず苦笑する。シヴァタは首を振って説明した。

 

「そう単純な話じゃないんだよアスナさん。バグを利用する行為はグリッチって言って、MMORPGじゃ不正行為なんだ。運営にバレたらデータを巻き戻されたりBANされちゃうこともあり得る」

 

「じゃあ、リーテンさんは鉱石を諦めた…わけじゃなさそうね。だって完品の全身鎧がこうして存在しているわけだし」

 

「……はい。私は迷いながらもツルハシを止めませんでした。鉄鉱石が無限に手に入るなら、アイアンどころかスチールの装備を全身分作れることに気づいてしまったから…」

 

「……そりゃ無理もないよな。俺だって同じ立場ならむちゃくちゃ掘ってるもん。それで…その無限湧きポイントって今どうなってるんだ?」

 

 キリトは二匹目のドジョウを狙おうと半分本気で聞いたが、リーテンは首を振った。

 

「三十分掘り続けた時、一瞬岩肌のテクスチャがおかしくなって…それが直った後はもう鉱石は出なくなりました」

 

「そっか…まあそんな美味い話があるわけないか…」

 

 キリトは本当に残念そうな顔をする。一瞬だけいったい誰がバグを直したんだろうという疑問が頭をかすめたものの、答えの出ない問いだとすぐに忘れる。

 

「つまりリーテンさんの立派なプレートアーマーは元を辿れば無限湧きで手に入れた鉄鉱石で作ったわけだ。よくそんなに運べたな…」

 

「いえ、私一人で全部運んだわけじゃなくて友だちにも手伝ってもらったんです。……最初は、掘ったのはいいけどグリッチを利用して手に入れた鉄鉱石をどうするか悩んだんですけどね。ちょうど強化詐欺事件の噂も流れていたし、ヤバい人たちに目をつけられたらどうしようって…」

 

 シヴァタも初めて聞いたのかリーテンの言葉に驚いている。彼も武器を奪われた当事者であったためか、彼女を案じる顔で語りかける。

 

「リッちゃん、強化詐欺は裏にいろんな事情があってさ。詳しい事はちょっと言えないけど、やってた奴らは本当の悪人じゃなかったんだ。全員が被害者に謝って弁償もしたから、悪い奴らはもういなくなったんだよ」

 

「そ、そうなんだ…。教えてくれてありがとう、シバ」

 

「……………」

 

 キリトは二人の微笑ましいやり取りに、一瞬だけ渋い顔をした。シヴァタは悪い奴はいなくなったと言っていたが、ネズハたちを唆した本当に悪い連中は今ものうのうとアインクラッドの何処かで次の計画を練っているはずだからだ。

 

「えっと、話を戻しますね。鉄鉱石を使うか処分するか悩んだ私は一層で知り合った鍛冶屋の友だちに相談したんです」

 

「……鍛冶屋?」

 

「はい。と言ってもまだスキルとかは駆け出しでお店とかは持ってないんですけど…スキルの熟練度上げを手伝うためにメンテをお願いしてるんです。その子も女の子だからすぐ仲良くなれたってのもあるんですけどね」

 

「女の子の鍛冶屋かぁ…」

 

 キリトは最前線以外にもデスゲームと戦っているプレイヤーがいる事に嬉しくなった。今はまだ余裕がないものの、《アルゴ・ノーツ》はそういった生産職プレイヤーに援助を行う事も視野に入れているとアルゴから聞いた。いずれその鍛冶屋とも縁が出来るかもしれないなとキリトは思った。

 

「フレンド・メッセージで相談したらすぐに返事が返ってきて…。『迷ってる場合じゃないわよ!この世界で大切なのはまず生き残る事、その次にゲームクリアなんだから使えるものはなんでも使いなさいよ!それにもしBANされるとしてもそれはここから出られるって事なんだから怖がる必要なんかないわ』…って。その言葉に私は勇気をもらいました。鉱石を運ぶのを手伝ってもらって、マロメの街の鍛冶屋で全部スチールインゴットにできたんです」

 

「……って事は、そのプレートアーマーってNPCじゃなくて友だちの鍛冶屋さんが作ってくれたの?」

 

 アスナの問いにリーテンは嬉しそうに頷いた。

 

「はい!熟練度ギリギリで本人からも『あたしなんかがやるよりNPCに頼んだ方が良くない?』って言われちゃったんですけど、私がどうしてもって頼み込んで…。何回も失敗しながら一晩かけて全身分の装備を作ってくれたんです!」

 

「……むちゃくちゃいい話だ…。その友だち、本当に良い奴だな…」

 

 キリトは人情話にしんみりする。友だちを褒められたリーテンは朗らかな笑みを浮かべた。

 

 

 そこから先はあっという間だった。全身鋼鉄の鎧に身を包んだ彼女は三層でトレント相手にガンガンレベル上げをしていたところALSにスカウトされ、鍛冶屋の友人の後押しもありギルドに加入した。シヴァタとは四層で知り合ってなんやかんやで距離を縮め恋人に…という経緯らしい。

 そんなこんなで仲良くなった二人はコッソリ会うことを繰り返すうちに両ギルドの融和を考えるようになり、その第一歩として今回のイベントを企画したようだった。

 

「そりゃそんな経緯ならなんとしてでも成功させたいよな…」

 

「あぁ、DKBはリーダーも乗り気で他のメンバーも楽しみにしてるんだが…。昨日、リッちゃんからちょっと問題が起きたけどなんとかするってメッセが来て不安だったんだ。……一体何があったんだよリッちゃん…」

 

「ごめんねシバ…」

 

 リーテンはギルドとカウントダウン・パーティーに板挟みになっている状態なのだろう、その顔には苦悩の色が浮かんでいた。

 

「何か問題が起こったんなら、オレに相談してくれよ…。オレは確かにDKBのメンバーだけど、それ以前に同じSAOプレイヤーじゃないか!それを気付かせてくれたのはリッちゃんなのに……」

 

「本当にごめんね、シバ……。私、私…」

 

 リーテンは今にも泣き出しそうな雰囲気だ。キリトは助け舟を出す事にした。

 

「リーテンさんが言えないなら、俺から説明させてもらうよ。シヴァタ、落ち着いて聞いてくれ。……ALSは、今夜のカウントダウン・パーティーをすっぽかしてフロアボスを倒しに行くつもりなんだ」

 

「なっ、何ィ!?」

 

「え、えええ!?なんで、どうしてそれを……!?」

 

 シヴァタもリーテンも動揺している。キリトは思わず立ち上がった二人を椅子に座らせてから説明を続けた。

 

「リーテンさん、俺たちがコレを知ったのは半分偶然だ。でもALS内部の情報漏れとかじゃないよ」

 

「そ、そうなんですか…?流石はあの鼠のアルゴさんのギルド、情報収集能力はピカイチなんですね」

 

「いやいや、買い被りだって。俺たちはALSとDKBに文句を言える立場じゃないけど、連中にこれ以上いがみ合ってほしくないって気持ちは本当だ。適度なライバル意識ならまだしも今回の抜け駆けは明らかにライン越えだよ。成功しても失敗しても大変な事になる」

 

 キリトが口を閉じると、対面にいるシヴァタが頭を抱えながら呻くような声を出した。

 

「しかし…一体何がどうなってるんだ?キバオウは調子のいい野郎だが馬鹿じゃない。ギルド単独でフロアボスに挑めるわけがないって気づいてる筈なのに…」

 

「……キリトさんたちがそこまでご存じなら、私の知っている事をお話しします」

 

 リーテンは決意を固めたのか、ゆっくりと話し始めた。

 

 

 彼女が言うには、ALSは平等性を重んじる方針のギルドであるため会議は全員参加が基本らしい。しかし、例の抜け駆けが決まった会議だけは様子が異なり、古参メンバー十数人しか呼ばれていなかった。当然新参者のリーテンは参加できなかったのだが、彼女は自身のグループの班長から抜け駆けの話を聞いたそうだ。

 問題の会議が招集されたのは三日前の28日の事だった。古参メンバーの一人が元ベータテスターから重要な情報を手に入れたというのだ。彼曰く、五層のボスから物凄く重要な…ALSとDKBのどちらが手に入れるかで今後の攻略がガラリと変わってしまうほどのレアアイテムがドロップするという話だった。

 それを聞いた何人かはそれほどのアイテムならボス戦前にDKBとの共同管理を申し出るべきだろうと主張したものの、そのアイテムは原理的に共同管理が不可能な代物だという。ならばいっそパーティーの開催中に単独でボスを倒し、アイテムを確実に手に入れてしまえという話になるのは必然のことだった。キバオウはそのような強硬策に最後まで反対したものの、最終的には周りの熱量(あるいは狂気)に押し切られてしまい、ボス攻略作戦を承認せざるを得なかったようだ。

 

「……これが、私が班長から聞いた全部です」

 

「リッちゃん、いったいそのレアアイテムって何なんだよ…!?」

 

「………ごめん、シバ。私も詳しい話を聞かせてくださいって班長に頼んでみたけど、これ以上は極秘だって…。班長はカウントダウン・パーティーを応援してくれてたけど、ギルドの方針には逆らえないって頭下げられたらもうこれ以上は聞けなかった…」

 

「そう、だったのか…」

 

 シヴァタは深く息を吐いてから、キリトに真剣な顔で向き直った。

 

「……なぁ、元テスターのアンタなら心当たりがあるんじゃないか?五層のボスがドロップするレアアイテムって何なんだよ?」

 

 そう言われてもキリトには全く心当たりがなかった。

 

「いや、えぇ…??確かに俺もボス戦には参加したけど、一番の目玉は両手剣だったぜ?ボスドロップだからそれなりに強力な武器ではあるけど、ギルド間のパワーバランスをぶっ壊せるほどのモンじゃなかった筈だ…」

 

 キリトは目を瞑って、当時の事を深く思い出そうと試みた。かつてのベータテストで対峙したのは、遺跡と同じ材質の岩でできた青いゴーレムであった。当然防御力は高くやたらタフだったものの、当時は死んでもナーヴギアに殺される事はなかったため百人規模でゴリ押しした記憶がある。そして幸運なプレイヤー十名にレア武器などがドロップして、しばらくアイテム鑑評会をやった後に六層へと向かった。

 

(………あれ?そういえばあの時…妙なモンをドロップした奴がいなかったっけ?見た目は派手なポールアームなのに攻撃力がショボくて、みんなが笑いものにして怒ったソイツが投げ捨てて…それを拾った誰かが数日後それの本当の使い道に気づいて大騒動が起きてたような……)

 

 どっちにしろキリトには無用の長物だったはずなので記憶からすっかり抜け落ちていたが、アレは確か…。

 

「………フラッグ」

 

 キリトが突然そんな事を呟いたので、その場にいた全員が首を傾げた。

 

「フラッグ…?旗がどうしたの?」

 

 アスナの言葉を聞いたキリトの脳裏に、戦場に猛然とそびえ立つ三角旗がハッキリと甦る。キリトはとんでもないレアアイテムの正体に気づいてしまった。

 

「あ。……ああっ!!?確かに()()は、ヤバ過ぎる…!!」

 

「オイ、何を思い出したんだよキリト!?フラッグって何かのフラグのことか!?」

 

「い、いや違う…本物の旗だ…」

 

「旗ぁ?なんでそんなもんがレアアイテムなんだ?」

 

 キリトは落ち着くために深呼吸を行ったが、あまりの動揺に思わず咳き込んだ。

 

「ただの旗ならどんなにいいか…!いいか、よく聞け。五層でドロップするレアアイテムの正体は、ギルドフラッグだ!ソイツを立てておくだけで半径十五メートル前後にいるギルドメンバー全員に大量のバフをかけられるんだよ!!」

 

 その場にいた全員の顔が固まった。シヴァタから掠れた声が漏れる。

 

「……なん、だと…?」

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