ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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42話 仲間を集めよう!

 キリトたちはシヴァタたちとの会談が終わった後、穴場の喫茶店でマナナレナ名物バナナジャンボロールケーキを食べながらアルゴを待っていた。

 

「もぐもぐ…。すっごく甘くて美味しいねー」

 

「……そりゃ良かった。俺はもう半分でいいから、残りはお前が食っていいぞドルモン」

 

「やった!いただきまーす!」

 

 キリトは微妙に食欲が湧かずドルモンにロールケーキを分けてやる。そんな様子を見ながら、アスナはポツリと呟いた。

 

「結局、あの二人って付き合ってるのかしら」

 

「……?いきなり何の話だよ」

 

「シヴァタさんとリーテンさんの話よ。馴れ初めとかその後の経緯とか結局有耶無耶(うやむや)になって流されちゃったから」

 

「………そこ重要かな…」

 

「わたしにとっては重要」

 

 アスナにそう断言され、キリトは微妙に判断に困った。アスナは一見現実主義に見えるものの、その本質はロマンチストだということをキリトは最近気づき始めた。

 

「そ、そっすか…。………うーん、あのクソ真面目な陸上部員がリッちゃんなんて呼ぶくらいだし、付き合ってるんじゃないか?」

 

「へぇ、シヴァタさんって陸上部だったの?」

 

「いや、俺が勝手に想像してるだけ」

 

「ちょっと!?二秒くらい本気で信じちゃったじゃない!」

 

 キリトたちがそんな風に戯れていると、ひと足先にマナナレナに着いていたアルゴとフローラモンが合流してくる。

 

「やっほー」

 

「おいーっす。どうしたんだヨキー坊、いきなり呼び出すなんてサ?」

 

「あー、まぁ…ちょっとな。………ALSが抜け駆けしようとした理由、だいたいわかったよ」

 

 疲れた顔をしていたアルゴの顔に生気が戻る。さてはこの女食事じゃなくて情報を食ってエネルギーにしてるんじゃないだろうなとキリトは訝しんだ。

 

「オイオイ、そりゃホントか?オイラの情報網にもまだ引っかかってないS級情報だゾ、中々やるじゃんカ」

 

「それにしても意外なんだよな。てっきり情報通のアルゴだったら知ってそうなんだけど…。ほら…ベータテストの時、五層ボスがヤバいアイテムドロップしたって話、心当たりないか?」

 

「五層ボスの、ヤバいアイテムゥ……?……ンー、悔しいけどちょっとわかんねぇヤ。言い訳がましいけどサ、ベータの時はオイラも情報屋じゃなかったしフロントランナーでもなかったからそもそも五層ボス戦に参加してないんだよナ…」

 

「あ、そうなのか。…じゃあ単刀直入に伝えるけど、多分ALSの狙いは《ギルドフラッグ》だ」

 

 アルゴは想像していたものとは方向性が違ったのか、困惑したような顔で瞬きを繰り返した。

 

「ギルドフラッグ…?旗か?なんでそんなモンをALSが狙うんだヨ?」

 

「確かに武器としては全く使い物にならないんだけどな…。コレをこんな感じで……」

 

 キリトは手に持っていたフォークを垂直に立てて、柄の部分でテーブルを叩く。

 

「装備プレイヤーが地面に突き立てると半径十五メートルにいる同じギルド所属のメンバー全員に攻撃、防御、デバフ耐性、CT(クールタイム)短縮のバフがかかるんだ」

 

「………ハ??」

 

 流石のアルゴも予想の範囲外から殴られたのか、目が点になっていた。

 

「ちょ、ちょっと待テ!!その旗を持ってるプレイヤーは移動できるのカ!?それとバフの効果時間は?人数に上限は!?」

 

「最初の答えは『半分イエス』だ。こうやって旗を地面から離すといったんバフは消えるけど、移動してまた突き立てればバフはまたかかる」

 

「……フム」

 

「二番目の答えは旗を立てている間はずっと」

 

「……フムム」

 

「三番目は…ギルドメンバーなら上限なしだ」

 

「フムムムム………。……そりゃ、確かにゲキヤバだナ、キー坊…」

 

 アルゴは頼んでいたバナナロールケーキ(キリトたちのそれより三倍大きいサイズ)を一口頬張ってからしばらくもぐもぐしていた。

 

「システム的なスペックもそうだケド…プレイヤーのメンタルへの影響が怖いナ。もしALSがゲットしたとして、それをドーンと戦場でおっ立ててみロ。ALSのメンバーは士気が上がりまくって、逆にDKBのメンバーは下がりまくるゼ…。……今の微妙なバランスを崩すには充分すぎる、危険にも程があるナ…」

 

「キバオウは最後まで反対してたっぽいけど、他のメンツに押し切られた形っぽいからな。…アイツにもアイツなりに苦労はあるんだろう……」

 

 キリトはロールケーキを完食して満足気なドルモンをわしゃわしゃ撫でる。その様子を微笑ましそうに見ていたアルゴだったが、ふと隣に座っているアスナが先ほどから黙っていることに気づく。

 

「アーちゃん、ずいぶん静かだけどどうしたんダ?」

 

「あ…えーっと、なんでもないです!」

 

「……しっかし、あいつらどっからそんなアイテムの情報を仕入れてきたのかネー…。正直本職のオイラより先に情報を掴まれてたのはショックだヨ」

 

「………そうだな。まあ五層のボス戦に参加してたヤツは百人前後いたんだ、フラッグのことをたまたま覚えてたプレイヤーに聞いたんだろう」

 

 キリトは、アルゴにPK集団が存在していることを報告していない。もちろんアスナにも口止めしている。……アルゴが彼らの存在に気づいてしまった場合、一人で情報を集めようとしかねないからだ。

 PK集団の情報を集めるのは、恐らくフロアボスの情報集めよりずっと危険だろう。彼女の腕を甘く見ているわけではないが、万が一が起きて彼女が死んでしまう可能性を考えると相談することは出来なかった。

 

「ま、それもそーカ。今重要なのはこれからどーするかダ、そんなヤベェアイテムがドロップするなら、ALSの説得は不可能だろうナ…」

 

「ねぇアルゴさん。ちょっと考えてみたんだけど……いっそ、ギルドフラッグの情報をDKBに教えちゃうのはどう?ALSが抜け駆けをしようとするのはフラッグを自分たちが使いたいからってより、DKBに獲られるのが怖いからでしょう?リンドさんなら公平な分配が出来るんじゃ…」

 

「………悪くはないんだろうけど…。結局ギルドフラッグ自体が共同管理不可能なのがなぁ…。一度ギルド名を登録しちゃえば上書き不可能だろうし、どうしたって揉めることは避けられないんじゃないか?」

 

 ALSはリソース分配主義、DKBはリソース集中主義。キリトにはどちらが正しいのかわからなかった。だが、彼らは彼らなりに《騎士》ディアベルの遺志を受け継ぎ、その正当性を証明する為にギルドフラッグを求めるだろう。

 

(……本当に何死んでるんだよディアベル…。お前が死んだせいで遺された連中が大変なことになってるんだぞ…)

 

 キリトは椅子に寄りかかりながら、喫茶店の天井をぼーっと見つめた。そうやっていると、耳の奥にディアベルの最期の言葉が微かに甦った。

 後は頼む…と、彼は確かに言ったのだ。つまりキリトも彼に何かを託されたのだ。

 

(……キバオウが受け継いだのは騎士のフェアネス、リンドが受け継いだのはヒロイズム。……なら、俺に託されたのは?………決まってる、同じ元ベータテスターとしてのリアリズムだ)

 

 キリトは大切な仲間たちの顔を順に見てからハッキリと口にした。

 

「…ボスを倒そう」

 

 いきなりの宣言に、しばらくの間静寂が生まれた。それを破ったのはロールケーキを完食したアルゴだ。

 

「キー坊、それはここにいる《アルゴ・ノーツ》だけでってことカ?」

 

「まさか!」

 

「じゃあ誰に協力を頼むつもりなの?」

 

 キリトは右手の指を折りながら助っ人候補を列挙する。

 

「えっと…まずエギルと愉快な仲間たちだろ?あとネズハ!」

 

 キリトが折り曲げた数は右手で事足りる程度だった。

 

「それでも五人カ…」

 

「アルゴ、誰か心当たりいない?」

 

「目を付けてるヤツはたしかにいるけどサァ……。有望株をここで潰す訳にもイカンだロ?そういうやる気あるニュービーを育てる為に下層で攻略本を無料配布してるんだゼ?」

 

「だよなー…。もし全員誘えても八人か、二パーティも作れないなぁ」

 

「たった八人でフロアボス攻略なんて無理よ!?四層のボスだってフルレイドにキズメルとヨフィリス子爵がいてようやく勝てたようなものじゃない!二パーティ…十二人じゃどうにもならないんじゃないの?」

 

 アスナの言葉に、キリトは難しそうな顔をする。

 

「まぁ五層のボスだしな。今までのボスよりステータスは高いと思う。でも、ボスの強さは行動パターンにも左右されるものだ。ベータ時代に出くわしたゴーレムと大きく変わっていなければ、十二人でもなんとかなるよ。……で、アルゴさんや。ボスクエの情報どうなってる?」

 

「キー坊や、親しき仲にも礼儀有りって知ってるカ?……まぁ、ギルドフラッグの情報でチャラにしてやるけどサ。………結論から言うと、ボスがゴーレムっていうのは変更無さそうダ」

 

 アルゴは覚え書きに使うメモタブを開く。

 

「キー坊、前にエルフクエでアインクラッドの創世神話的な話を聞いただロ?」

 

「ああ、《大地切断》な」

 

「ボスクエで得た情報によると、この五層は地面にあった頃は人間の王国の工業都市だったらしイ。魔法やら魔道具でコントロールした魔獣…デジモンをこき使って鉱石やら魔石を掘りまくって、それを使って制作した武器や防具を紛争地帯にばら撒いて荒稼ぎしてたんだそうナ。でもその国の国王は強力な魔石を溜め込んで、デッカい戦闘兵器…つまりゴーレムを作ろうと企んでた訳ダ。いよいよ最強のゴーレムが完成して商売敵のドワーフの国をぶっ潰そう……としたら《大地切断》でゴーレムと王様は空に浮かんじまっタ。魔法の力を失った王国は採掘も精錬も出来なくなりましたとさ、めでたしめでたし………ってことらしいヨ」

 

「ははぁ、なるほど?」

 

 アスナは話を聞いてふと何かに気づいたようだ。

 

「そういえば、あの地下墓地ダンジョンにいたデカゾンビって頭に王冠っぽいもの被ってたような気がするわね」

 

「あー、そういえば…。って事はあのゾンビ国王の末路か?でも人間サイズじゃなかったぞアレ」

 

「まぁ、昔っからゲームに出てくる悪い王様ってのは追い詰められたら巨大化するモンだしナー」

 

 アルゴの何気ない呟きを聞いたドルモンは少し考えるような表情をする。

 

「……オレもいつかあのくらい大きくなれるかなぁ」

 

「なれるさお前なら。その時は背中にでも乗せて思いっきり走ってくれよ」

 

 キリトは未来にワクワクするドルモンを撫でながら、話を本題に戻す。

 

「ということは…問題のフロアボスはベータの時と同じゴーレムで間違いなさそうだな。複数体ががっちゃんこして合体ロボゴーレムになるとかむちゃくちゃな変更点はないはず…だけど…」

 

「二層にいた牛ボスどもが一匹増えてたり、四層のボスが完全に新規のモンスターになってたりするからナー…。ぶっちゃけナニが出てきても驚かんゾ」

 

「それもそうか。どっちにしろこれ以上は偵察で確かめるしかないな。後は四層の時みたいに内側から扉が開けられなくなるかもだから、ボス部屋の脱出手順も確認して……」

 

「ちょっと待った!さっきゴーレムボスなら十二人でもなんとかなるかもって言ってたけど、まだ四人も足りないのよ!?そもそもエギルさんたちが手伝ってくれるとも限らないじゃない!」

 

 アスナの懸念はもっともであった。キリトは困った顔で頷く。

 

「もしエギルたちに断られたら打つ手なしだよ。そん時はリンドにギルドフラッグのことをバラして最悪の展開だけは回避するしかない。………足りない四人については…シヴァタとリーテンに頼もう」

 

「え、えええ!?そんなのムリよ、だってあの二人は…」

 

「ALSとDKBだ。……だからこそ、あの二人に協力を仰げると思う。もし二人が同じギルドの所属だったならギルドを裏切る行為をする訳がないけど、シヴァタたちは反目する二つのギルドの関係がこれ以上悪化するのは避けたい筈だ。そうなってしまえばスパイ行為を疑われる可能性があるから」

 

「なるほど…確かにギルドフラッグはあの二人にとって関係の邪魔にしかならないわね…」

 

 アスナの言葉を聞いたアルゴはにんまりする。特上のネタを仕入れてご機嫌な顔だ。

 

「ほー?リーテンって最近ALSに加入したフルプレっ子だロ?まさかDKBのシヴァタと付き合ってるとはナー、オイラ知らなかったナー!」

 

「ちょっとアルゴさん!その情報売ったら駄目よ!?」

 

「ニャハハ、わかってるよアーちゃん。でも、確かにキー坊の言う通り二人がただならぬ関係なら、ギルドフラッグの件に協力してくれるかもしれないゾ。……愛の力ってヤツは案外侮れないもんダ」

 

「………まあ、そんな訳でリーテンたちが一人ずつ助っ人を呼んでくれればギリギリ十二人見繕える。あの二人はパーティー実行委員だからもうすぐマナナレナからカルルインまで移動する筈だ。そのタイミングなら迷宮区に直行してもギルドの連中にボス攻略を気づかれないと思うんだけど…」

 

 それを聞いたアスナの顔は険しかった。

 

「煮え切らないわね…。万が一わたしたちに協力した事がバレたらギルドから追い出されかねないのよ?そうなった時、あなたはどうする気なの?」

 

 キリトはうーんとしばらく悩む。この作戦の成否に関わらず、抜け駆けを阻止できなければシヴァタとリーテンはギルドとお互いのどちらかを選ばなければならなくなる。……が、アスナの言いたいことはそれではなく、信頼して話してくれた彼らを捨て駒にするような真似は許さないという信条の問題だ。

 

「エギルのパーティは四人だ、あそこに入れてもらえるように頼んでみるよ。……もし駄目なら《アルゴ・ノーツ(うち)》に誘おうぜ」

 

「……!」

 

「……うっへへへ、いいじゃん!仲間が増えるのは良いことだよ!」

 

 ドルモンの楽しそうな笑い声を聞いて、キリトは頷いた。

 

「最低限そのくらいはしないと、あいつらに申し訳ないだろ。……さて、エギルとシヴァタは同じ五層にいるからインスタント・メッセージは届くけど、ネズハはこっちにいるかな…」

 

 キリトは一抹の不安を抱えながら、ネズハにメッセージを送ってみる。するとすぐに五層の主街区で遺物拾いをしているという内容の返事が届き、キリトはガッツポーズした。

 

「よっしゃ、遺物拾いありがとう!んじゃ俺は主街区でネズハに会ってくるよ、アスナはエギルとシヴァタとリーテンに連絡してくれ!」

 

「わ、わたし!?」

 

「俺より説得上手だろ、頼んだぜ」

 

「もう、調子いいんだから…」

 

「オイラはどうすればいイ、キー坊?」

 

「アルゴは消耗品の買い出しを頼む。コスト度外視でいいぞ、どうせ一発勝負だ!」

 

 キリトは溜め込んでいたコルをアルゴに送信してから喫茶店を出ようとする。そんな彼を、フレンド一覧を見てあることに気づいたアスナが引き留めた。

 

「あ、ちょっと待って!……もしかしたら、十三人目の助っ人を用意できるかもしれない」

 

「……へ?マジで!?そりゃ確かに十二人より十三人の方が良いけど…大丈夫か?」

 

「……確証はないし、あっちが今何処にいるかもわからないけど…もし力を貸してくれたなら強力な戦力になってくれるはずよ。……キリト君、わたしを信じてくれる?」

 

 じっとアスナはキリトの目を見つめる。しばらくの視線の交差の後、少年はニヤリと笑った。

 

「……もちろん信じるよ。それじゃエギルたちの勧誘が終わったらそいつと連絡取ってくれ!」

 

「ええ、大船に乗ったつもりでいてね!」

 

 

 アスナはインスタント・メッセージをエギルたちに送ってから、フレンド欄にある名前を凝視する。フレンド・メッセージの送信ボタンを押そうとすると指が震えるが、今は躊躇っている場合ではない。

 

「………ええい、ままよ!」

 

 アスナは勇気を出してメッセージを送信する。

 

【久しぶり、これから会いたいんだけど今何処にいるの?】

 

 意外なことに返事はすぐに返ってきた。

 

【久しぶりアスナ!私は五層のマナナレナ村の近くにある枯れ木の森で素材集め中、そっちは??】

 

【わたしもマナナレナにいるよ。話したい事があるから今から会いに行っていい?】

 

【もちろんいいよ、楽しみに待ってるからね】

 

 それでメッセージは終わった。アスナは思ったより好感触だったので安心する。

 

「よし、会いに行こう!待っててね、()()!」

 

 アスナは久しぶりの再会に胸を躍らせながら、マナナレナ近くにある枯れ木の森へと向かった。

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