全員がケーキを食べ終わったのを見計らって、キリトはみんなにパーティ編成を発表する。
「それじゃみんな、今から編成を発表するから聞いて欲しい!A隊が、ハフナー、シヴァタ、オコタン、ローバッカ、ナイジャン、リーテン。B隊が、俺、アスナ、エギル、ウルフギャング、ネズハ、アルゴ、後パートナーデジモン2体!こんな感じだけど、どうかな」
キリトの編成を聞いた一行はざわついた。シヴァタはその編成について気になった部分を聞いてくる。
「つまり、A隊にタンク、B隊にアタッカーを集めたって事か?」
「あぁ、そうだ」
「セオリー通りに考えれば、オレとリーテンを別のパーティに入れるべきだと思うが…。理由はいったいなんだ?」
「そうしちゃうとタンクが足りない。盾持ちがシヴァタとリーテンだけだから二人を別のパーティに入れてしまうとPOTローテが間に合わなくなるかもしれない。ならいっそタンク部隊とアタッカー部隊に分けて、タンク部隊にタゲを集中してもらえばHP管理しやすいと思ったんだ。もちろんタンク部隊の負担は大きくなるけど…」
「それは良いんだが…タンクを一部隊に集中させると広範囲攻撃を連打してくるパターンに対応できないぞ。そこらへんは大丈夫なのか?」
キリトはシヴァタの反論も予想の範囲だった。
「……あくまでベータ時代の話になるけど、五層のゴーレムボスはブレス攻撃とかの範囲攻撃はしてこなかった。基本パンチか足でストンプで、しかも同時にはしてこなかった筈だ。アルゴの情報から見てもボスはゴーレムで間違いないし、ヘイト管理さえきっちりすればワンパーティでも防御し続けるのは可能だと思う」
「なるほどな…」
「もちろん最初に俺とドルモンがボスをちゃんと偵察してくるよ。実戦が始まっても新しい攻撃パターンが生えてこないかチェックするしいつでも脱出できるようにする。………俺は犠牲者を一人も出す気はない。シヴァタとリーテンが必死に頑張ったカウントダウンパーティーを成功させるためにも、2023年を希望のある年にするためにも、勝つぞみんな!!」
キリトは予定外の演説にちょっとやりすぎたかなと思ったその時、エギルが拳を突き上げながら叫んだ。
「うおっしゃ、やってやろうじゃねーか!!」
「「「おう!!!」」」
キリトは空気を締めてくれたエギルに内心感謝しながら、一行は迷宮区へと足を踏み入れた。
「「スイッチィ!!」」
小型ゴーレムの三連続パンチを二つ並べた盾で防いだシヴァタとリーテンが同じタイミングで叫ぶ。パンチの衝撃を利用して後方に下がる二人と入れ替わるようにハフナーが両手剣を振りかぶりゴーレムに斬りかかる。
「オラァ!!」
ハフナーの発動した両手剣単発上段斬りソードスキル《カスケード》がゴーレムの額を直撃し、三割も残っていたHPを消し飛ばした。それを見たネズハはDKB随一のアタッカーであるハフナーの一撃に感心している。
「す、すごい威力ですね…」
「あぁ、確かにそれもあるだろうけどちょうどゴーレムの弱点を叩いてるからな」
「弱点ですか?」
「あのゴーレムのデコになんか紋章っぽいのがあっただろ?あれはゴーレムの共通の弱点で、もちろんフロアボスにも存在するんだ。フロアボスはさっきの敵と違って巨体だから普通の攻撃手段だと届かないけど…」
そう言いながらキリトはネズハが右手に持っているチャクラムを指差した。
「二層のアステリオス王と同じでチャクラムやドルモンの《メタルキャノン》なら問題なく届くはずだ。今回も責任重大だぜ、二人とも!」
「はい、任せてください!頑張ろうなドルモン!」
「おー!へへへ、ガンガンやっちゃおうね!」
キリトはドルモンとネズハの会話に和みながらA隊と合流する。ここまで交互に戦ってみた感想だが、急造の即席パーティにしては中々悪くない。対モンスターのセオリー通りに戦えるA隊はともかく、フルアタッカーのB隊を心配していたキリトであったがとりあえずは杞憂だった。両手武器持ちのエギルとウルフギャングの重量級アタックのおかげで敵がノックバックするので後続のキリトたちがスイッチする余裕は充分あったからだ。
(…問題は、タンク隊とアタッカー隊の連携か…。強制戦闘のある部屋で色々試してはみたけど、塩梅が難しいな…)
B隊が調子に乗ってガンガン攻撃すると、ヘイトがタンク隊から逸れてしまう事が何度かあった。SAOではモンスターのヘイト値が可視化されないので、フロアボスとの戦闘ではあえてB隊の攻撃を抑えることも必要だろうとキリトは考えた。
「レイドリーダーって、大変だな…」
キリトは小さく独り言を呟く。しばらく通路を歩いていると、ダンジョンの雰囲気が変わる。壁には一面に古代文字らしきものが刻まれ、ダンジョンを構成する石材もまた黒曜石に変化している。
「……そろそろボス部屋か。時刻は…午後七時。未探索のダンジョンを一気に突破すんのはさすがにキツイな…」
シヴァタはため息をつきながらキリトに愚痴る。キリトは苦笑いしながら言った。
「いやぁ、五層、六層あたりはまだマシな部類だぜ。ベータテスト最終盤の十層迷宮区なんか馬鹿みたいにデカくて複雑だったんだからな!歴戦のテスターが三日かけて攻略してもボスに挑む事すら出来なかったよ…」
「うっほえぇ……んだば、攻略はそこでギブアップじゃったのか?」
そう聞いてきたのはエギルの仲間のウルフギャングだった。名前の通りどことなく狼のような印象を受けるおっさんだが、本人曰く名前の由来はアメリカにあるステーキハウスらしい。将来の夢は二層でステーキ屋を開く事だと本人は言っていた。
「……
「オイ、ヘビザムライってのはなんじゃ!?ワシはヘビ嫌いなんじゃが…」
ウルフギャングは本気で嫌そうな顔をする。
「十層にいた巨大ヘビの肉、結構美味かったぜ。店をやる時にはそいつのステーキも入れてくれよ」
「い、嫌じゃあ!!ステーキの王道は牛!ワシの店じゃじっくり熟成させたドライエイジドビーフしか出さんのじゃーい!!」
「……じゅるり」
ドルモンは熟成させたステーキというものに食欲が刺激されたらしく、キリトの肩でソワソワし始める。
「今日のフロアボス攻略が終わったらお肉食べようよキリト」
「カウントダウンパーティーにステーキが出るといいな、ドルモン…」
先に進んだ彼らを待っていたのはボス部屋に続く扉…ではなく通路の幅いっぱいに広がる大階段だった。キリトは予想もしていなかった階段に困惑する。
「な、なんだこりゃ…」
「どうしたんだ、ベータの時と違ってるのか?」
「あぁ…前は普通にボス部屋の扉があったよ。……演出を変えたのかな…」
「…なんか怪しくないカ?ただ演出を変えるだけならこんな階段は必要なイ。…せり上がってボス部屋の入り口を塞ぐための罠じゃネ?」
アルゴはまじまじと階段を観察する。段の側面にも古代文字が刻まれており、罠だと言われても違和感はない。
「……オレっちが偵察してくるヨ。もし罠でもオイラの足なら閉め切る前に逃げられるはずダ」
「いや、ここは俺とドルモンも一緒に行くぞ。地下墓地でもフローラモンと少数偵察したばかりだろ?最悪の事態が起こってからじゃ遅いんだ」
「……しょうがねーナァ」
アルゴはため息をつきながら、シヴァタたちに念の為階段を見張っておくように頼んだ。アスナは心配そうにキリトに囁く。
「……気をつけてよね」
「おう、すぐに戻ってくるからな」
「いってきまーす」
キリトは先行するアルゴを追いかけて階段を登った。やがて階段は通路の天井に潜り込みそのまま続く。
(……妙だな。階段の下のフロアとこの真上のフロアを遮る床面、やけに分厚いような…)
五メートルも登っただろうか、上がったキリトの肌に重苦しい空気が突き刺さる。まさしくボス部屋らしい雰囲気だった。
青白い照明に照らされた部屋は直径三十メートル、高さ十五メートルもある部屋だった。……六層に繋がる階段も、ボスの姿もない。
「………行き止まり…?」
「そんなワケねーだロ。こりゃもうちょっと先に進まねぇとボス出てこないかもナ」
「……ボス部屋の照明はもう点いてるのにか?まさかもうALSがボスを倒したんじゃ…」
「それこそまさかサ!オイラたちがマナナレナから出た時、連中がまだ村にいたのは確認済みダ。三時間も余裕を持って先行してんのに追い越されるワケがネー」
アルゴはそう言いながら慎重に足を進める。キリトはハラハラしながら、ふと下を見た。
「………?」
「どうしたの?」
「いや、妙な模様が床にあって…」
キリトの目線の先には縦横にラインが走っていた。……それは電子回路か、あるいは血管のような印象を与えてきた。アルゴはそのラインが複雑な同心円を描くポイントに向かっているようだった。
アルゴがサークルに足を踏み入れたその時だった。床のラインが青く発光し、部屋の内部がすごい勢いで揺れたのだ。キリトは一瞬地震かと思ったが、アインクラッドで地震が起こることなど構造上ありえない。アルゴはとっさに後ろに飛び退ろうとするが…。
「アッ!?」
彼女は振動に足を取られて尻もちをついてしまった。バッドステータスの一つ、
動けなくなったアルゴを取り囲むように、床から五本の柱が伸び上がる。それは、巨大な指であった。指は手中に収まったアルゴを容赦なく握りつぶそうとする。
「アルゴ――!!」
「キー坊、逃げロッ!!」
アルゴがそう叫んだ瞬間、彼女を掴んだ手が床から高く伸び上がり…ぎゅっと硬く握りしめられる。拳の隙間から破砕音と共に青いガラス質の結晶が飛び散るのを、キリトとドルモンは呆然と見上げていた。
「………アル、ゴ……?」