ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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50話 パズルの街スタキオン、DKBとの対談

 カウントダウンパーティーも無事終了し、プレイヤーたちが各々宿に戻ったり狩りに行ったその数時間後、キリトたちは次の目的地である第六層の主街区スタキオンに……向かっていなかった。本格的な攻略を始める前にやりたいことがあったからである。

 

「よし、到着!」

 

「なんだかここに来るのも久しぶりね」

 

 キリトたちがやってきたのは第三層の(ダーク)エルフ野営地だった。ここでの用事はキリトの剣《ソード・オブ・イヴェンタイド》の強化。五層では未強化状態でも充分活躍してくれたが、そろそろ+3くらいにしておいた方がいいと判断したためだ。

 エルフクエストをある程度進めたからか若干友好的な(ダーク)エルフたちに挨拶をかわしつつ、キリトたちは鍛冶師のいる場所に向かう。

 

「こ、こんちはー」

 

「どーもー、元気だった?」

 

 キリトとドルモンは不愛想な鍛冶師に挨拶してみるが、彼は相も変わらず仏頂面で友好的態度などまっったく取らなかった。

 

「……変わってないね」

 

「まあいきなり『ヘイブラザー!元気だったかYO!』とか言われても反応に困るし…。あの、剣の強化頼んでもいいですか?」

 

「………フン」

 

 鍛冶師専用のメニューウインドウが開き、キリトは依頼内容を入力していく。SAOの武器強化では鋭さ(打撃武器だと硬さ)、重さ、速さ、正確さ、丈夫さの五つのパラメータを選ぶことになるが、このうちの重さと速さと正確さの三つはシステムアシストに補正がかかるため剣の振り心地が変化してしまう。

 なのでキリトは武器を強化する時に鋭さと丈夫さを選ぶことが多かった。

 

(今回は鋭さを二回、丈夫さを一回強化して+3にするか)

 

 キリトはそう考えながら鋭さに対応する素材を上限までセットし、アイテムの入った袋と剣を鍛冶師のお兄さんに渡す。……が、彼は袋を無視して剣だけを受け取り鞘から引き抜くと、そのまま検分を始める。鍛冶師は眉間に小さく皺を寄せた。

 

「……リュースラの刀匠の作か?」

 

「えっ……!?あ、はい。四層のヨフェル城で城主様から賜りました」

 

「ほう、レーシュレンの家に伝わる品か」

 

 キリトは小さな声でアスナに聞いた。

 

「……レーシュレンって誰だっけ」

 

「もう、ちゃんと覚えておきなさいよ!レーシュレン・ゼド・ヨフィリス、つまりあの人が言ってるのはヨフィリス子爵のこと!」

 

「へー………んん??ってことは今この鍛冶師のお兄さんヨフィリス子爵を呼び捨てに…?」

 

「友だちなのかな」

 

 エルフ鍛冶師はキリトたちの話を気にすることなく優美な装飾のついた剣の検分を続けながら言った。

 

「注文は鋭さの強化だったな」

 

「はい、ではよろs」

 

「断る」

 

「…………は?はああああ!?]

 

 NPCに注文を拒否されるなど前代未聞である。あの偏屈な船匠ロモロでも色々素材を要求してきたが最終的にはゴンドラを作ってくれたのに、どういうことかとキリトは乾いた笑みを浮かべながら尋ねる。

 

「あのぉ……理由をお聞きしても?」

 

「この剣は既に充分鋭い。これ以上鍛えたとしてもさしたる向上は望めまい」

 

(……つまり、鋭さを鍛えても大して意味がないから止めたってことか?これ頑なに鋭さ鍛えてくれーってごねたら怒られるかな…)

 

 キリトは武器の種類によって適した強化があることは知っていたが、同じ武器種でも向き不向きがあるとは思っていなかった。ううむと唸るキリトをよそに、アスナは鍛冶師に質問する。

 

「なら、どんな強化がおすすめですか?キリト君悩んじゃってるみたいだし」

 

「フン、好きに選べと言いたいがレーシュレンのヤツが世話になったなら無下にもできんな。……この剣なら正確さを鍛えるのがいいだろう」

 

「えぇ~……正確さぁ?」

 

 キリトは嫌そうな顔をする。ソードスキル以外のシステムアシストに苦手意識があるからだ。

 

「なんでそんな苦虫を噛み潰したような顔してるのよ…」

 

「ベータの時に正確さ+8のアニール・ブレードを試し斬りさせてもらったことがあってさ…ぐにゃぐにゃ曲がって気持ち悪いのなんの…。男なら黙って鋭さと頑丈さ極振りだ!」

 

「もう、弱点をちゃんと狙えばぐにゃぐにゃ曲がることなんて起こらないのに…。どうして正確さがいいんですか?」

 

 キリトに呆れながらアスナは鍛冶師に聞いた。

 

「この剣はリュースラの業物の中でも鋭く、華奢だ。剣をいたわるには、少ない手数で敵を仕留めるのが一番いい。まず正確さを上げ、その次に丈夫さを強化するのを勧めよう」

 

「あ、アドバイスありがとう。つまり急所狙いを心掛けろってことか」

 

「フン。間違っても最初に強化しに持ってきた頑丈なばかりが取りえの鈍らと同じように扱うなよ」

 

「………ナマクラって…。まあいいや、正確さの強化お願いします」

 

 キリトは一言余計な鍛冶師に頬が引きつるが、これ以上文句を言うのも悪いので正確さを上げるための素材を選択して再び鍛冶師に依頼する。鍛冶師はアイテムの入った袋を手に取ると、すぐに剣の強化をしてくれた。

 

「できたぞ」

 

 差し出される剣を受け取らずに、キリトはさらに強化を依頼する。

 

「えっと、もう一回正確さと丈夫さの強化を一回お願いします」

 

「………フン」

 

 

 (ダーク)エルフの凄腕鍛冶師は成功率95%の強化を見事に三回成功させた。アスナもついでにシバルリック・レイピアを+7まで強化しお礼を言うと、鍛冶師は不愛想に「フン」と返した。

 そんなこんなで武器の強化を終えたキリトたちは第六層主街区の《スタキオン》へとやってきた。ドルモンはどこもかしこも四角い建物だらけの街並みに興味津々なようだ。

 

「うわー変な街。どこもかしこも四角いね」

 

「ホントね。なんだか今までの主街区よりゲーム感が強い街だけど、理由はあるのかしら」

 

「そりゃもちろんあるよ。なんてったってこの六層のテーマはズバリ、《パズル》だからな。ほら、二人とも床を見てみろよ」

 

 アスナとドルモンが床を見ると、あちこちのタイルに数字が刻まれていた。よくよく観察すると太いラインで区切られている場所があり、中には9×9の81マスのタイルがきれいに収まっている。アスナはしばらく考えてそれがパズルだと気づいた。

 

「あ、ナンバープレイスパズルね!わたし結構得意だよこれ、へー………なんか多くない…?」

 

 アスナの言う通り、広場には二十センチ角のタイルが敷き詰められている。

 

「…このナンプレ全部でいくつあるわけ?」

 

「ベータの時と変わってないなら七百二十八個だったかな」

 

「七百!?………パズルは嫌いじゃないけどこんなの真面目にやったら時間がいくらあっても足りないわ…」

 

「だろ?ベータテストの時このナンプレに沼ってフロア攻略をリタイヤした連中が敬意を込めて《ナンプラー》って呼ばれてたんだぜ。最終的に全クリしたのに何もクリア報酬がなくてパンツ一丁で発狂しながら踊り狂ってたらしいぞ…」

 

「五層の《ヒロワー》も結構悲惨だったけど、それを上回るくらい悲惨ね……」

 

 キリトたちはDKBのリンドと待ち合わせをしていた《天馬のひづめ亭》にやってきた。中に入るとロビーにリンドとシヴァタとハフナーがいた。もちろんベタモンも一緒である。

 

「……来たか」

 

「おう、こんちわ。お三方、もう飯食った?」

 

「……いや、食ってない。この会談が終わったら軽く摂らせてもらう予定だ。……もう部屋は取ってる、話はそこでしよう」

 

 リンドはソファから立ち上がるとそのまま部屋に向かおうとするが、キリトは制止する。

 

「ちょっと待った。あんたら、事前に部屋に入ったか?」

 

「……?いや、今さっき取ったばかりのスイートルームだが…」

 

「あー、そっか。ってことはまだ見てないよな…」

 

 キリトたちとDKBメンバーが部屋の前に着くと、ドアの近くに金属の塊があった。

 

「なんだこりゃ…」

 

 シヴァタは壁に備え付けられたそれを手に取る。ご丁寧にチェーンで持っていかれないように固定されたそれは、鍵と蹄鉄が複雑に絡み合った形をしていた。

 

「それは蹄鉄パズルっていう、ごつい知恵の輪さ。そいつをクリアしないと部屋に入れないようになってるんだ」

 

「マジかよ!?……うわ、マジだ鍵かかってやがる……」

 

 ハフナーはドアノブをガチャガチャやるが開かないことに気づきすぐに手を離した。しばし無言のDKBメンバーだったが、シヴァタが勢いよく手を挙げた。

 

「DKBシヴァタ、一番手いきまーす!」

 

 勢いよく宣言して三十秒ほどパズルと格闘したシヴァタだったが、根気が尽きたのかしょぼんとした顔で下がる。

 

「………ギブっす」

 

「二番手ハフナー、出るぞ!」

 

 どことなくロボットアニメで聞き覚えのあるセリフでパズルに挑んだハフナーも、二十秒でギブアップ。

 

「ぼ、ぼくもやっていい…?」

 

 リンドの足元をペタペタ移動していたベタモンも挑戦するが、十秒後。

 

「ぬああああああ!!《電撃ビリリン》!!!」

 

 突然ストレス値が限界に達したのかパズルに向かって電撃を叩き込んだベタモンに、一同は目を丸くした。いきなり蛮行に及んだ相棒に、リンドはドン引きしている。ちなみにパズルには傷一つついていなかった。

 

「フーッ、フーッ………。………ぼくには向いてないみたい」

 

「そ、そうか……」

 

 リンドもパズルに挑戦するものの、しばらくがちゃがちゃしてから手を止めてため息をつく。

 

「……外れん。絶対どこか引っかかる」

 

「いやいやリンさん、外れんとパズルにはならないっすよ」

 

「ならハフ、お前がやれ」

 

「いやー、オレこういうのニガテで…」

 

 漫才を始めたDKBをもう少し見ていようかなと考えていたキリトだったが、アスナが無言の肘でつついてきた。『話し合いの時間が惜しいからとっととクリアしてきて』と言いたげな目線の彼女に苦笑いしながら、DKBメンバーが苦戦しているパズルに近づいた。

 

「ちょっと失礼」

 

 キリトはリンドの前に割り込むと蹄鉄パズルに触れる。しばらくガチャガチャ動かしていると、鍵とパズルを分離することに成功する。

 

「はい、どうぞ」

 

「……ありがとう」

 

 リンドは渋い顔をしながら鍵を受け取ると、そのまま鍵穴に差し込み開錠する。

 

「……で、この鍵はどうすれば…」

 

 リンドが言い終わる前に、鍵はふわりと浮き上がると蹄鉄パズルのパーツと勝手に組み合わさる。見慣れているキリト以外は突然の超常現象に驚いていた。

 

「……なんだ今の」

 

「……《呪い》だよ。詳しく知りたいんなら領主がくれるクエストに挑むといい。さて、とっとと話し合いを終わらせようぜ、お互い暇じゃないだろ?」

 

 

 ソファに座った一同は、さっそく本題を話し合うことにした。

 

「詳しいことはシヴァタたちから既に聞いた。さっそく本題に移ろう、まずは…《ギルドフラッグ》の現物を実際に見せてくれ」

 

「……ああ、いいよ」

 

 キリトは少し考えてから、ギルドフラッグこと《フラッグ・オブ・ヴァラー》を装備して実体化させる。この状態ならもしリンドが信頼をかなぐり捨ててフラッグを強奪しようとしても、アイテム所有権の持続時間に一時間の猶予が存在する。そんなことを内心思いながら、キリトはギルドフラッグを手渡した。

 

「おお……これが…」

 

 リンドは傷を付けないように丁寧に受け取り、プロパティをチェックする。今、リンドの目にはそのとんでもないチート性能が表示されているはずだ。

 

「……なるほど、これは…。正直、話を聞いた時はそんなバランスブレイカー染みたアイテムがこんな低層で手に入るわけないだろうと思っていたが…。ALSの連中が抜け駆けに走るのもわかるな」

 

 ため息をつきながらリンドはギルドフラッグを返却する。キリトはフラッグをストレージに収納してから続きを話そうとする。

 

「そうだな…じゃあ譲渡の条件を……」

 

「待て、その前に……一つ、交渉をさせてもらう」

 

 リンドは大きな革袋をウィンドウから取り出すと、じゃらりという音を立てながらテーブルに置いた。

 

「……中に三十万コルが入っている。これは今、我々DKBが出せる限度額だ。ギルドフラッグを売ってはもらえないか」

 

 リンドの交渉を聞いて、キリトは笑いを必死にこらえていた。……かつて、こんな風に自分に大金を積んだ男がいたことを思い出したのだ。

 

(……なあリンド、お前ディアベルのことわかってて言ってるわけじゃないんだよな?)

 

 あの出来事が一ヶ月前なんだなぁと感慨深げに思いながら、キリトは首を振った。

 

「いや、たとえこの百倍積まれても金で売る訳にはいかない。それじゃALS…というかキバオウに約束が違うと報復されかねないからな…」

 

「まあな。だが、それでも言っておく必要があったんだ。断られても金じゃ動かないって言質を取れる。それじゃ、譲渡の条件を教えてくれ」

 

「あぁ。条件その1.ギルドフラッグがもう一つドロップした場合、ドロップしなかった方に俺が持ってる方のギルドフラッグを無償で譲渡する。条件その2、ALSとDKBが合併して新しいギルドとして再出発した場合、ギルドフラッグを無償で譲渡する。条件その3、もし条件その1とその2が達成出来ないと判断されて、さらに上手い代案などが存在しなかった場合…俺はこのギルドフラッグを両ギルドのリーダー二人の立ち合いの元破壊する」

 

 条件を聞いたリンドはしばらくの間黙っていたが、ポツリと言葉を吐いた。

 

「……キリトさん、ベータテストでは十層のボスは倒せなかったんだよな?」

 

「あ、あぁ。迷宮区に住んでるモンスターがやたら強くて、最終的にボスの名前しか判明してない」

 

「……なるほど。条件その1は少なくとも十層のボスを討伐するまで満たせない可能性があるというわけだ」

 

 キリトは無言で頷いた。

 

「とりあえず、DKBも譲渡の条件と破棄の条件については了承って事でいいんだな」

 

「あぁ、現段階ではそこを妥協点にするしかないか。おれとしても、ALSとの対立がこれ以上深くなるのはマズいと思ってるからな。…キリトさん、おれはアンタの事があまり好きではないが、今回の一件についてはアンタなりに考えた末の行動である事は理解している。……DKBの一員として、感謝を伝えたい」

 

「……わかってくれて良かった。いつでもアイデアは募集してるから良い案が思いついたらメッセージを飛ばしてくれ」

 

「了解だ」

 

 話し合いを終えた一行が部屋を出ると、ふと入り口のパズルを見ていたリンドがキリトに質問する。

 

「そういえば、この面倒なパズルって他の部屋にもあるのか?」

 

「半分イエス、半分ノーかな」

 

「……?」

 

 リンドは怪訝な顔をする。キリトはニヤリと笑った。

 

「このパズルが仕掛けられてるのは宿屋だけじゃないよ。NPCショップ、民家、その他諸々…建物のメイン玄関を除いた()()()()()()()()に仕掛けられてる。……ま、頑張れ!」

 

「………………冗談だろ…?」

 

 リンドは六層で嫌というほどパズルをやらされる事実に困惑するのだった。

 

 

「……意外にあっさり終わっちゃったわね」

 

「………え、もっと大荒れしてほしかったの…?」

 

 いきなり物騒なことを言いだしたアスナにドルモンはちょっと引いていた。

 

「そうじゃないわドルモン、現実的に考えてギルドフラッグがもう一本ドロップするよりギルド合併の方がずっと簡単なのに、DKBが踏み込んでこなかったことに不満なだけ!」

 

「………というと?」

 

「ALSは理想主義が強すぎて現実が見えてない部分があるわ。リソースを不満なく公平に分配するなんてこれまで人類が達成できてない大偉業よ。DKBのリソース集中によるトップ層強化の方がまだ理解できるわ。これでALSの時みたく非難してきたら本気で怒ってたかも…」

 

「ははは……まさか感謝されるなんて思わなかったな。結果的に俺が好き勝手やってギルドフラッグを分捕ったことになっちゃったわけだし…」

 

 アスナをどうにかなだめて、キリトたちは次の目的地に向かう。

 

「そういえばキリト君、さっきパズルのことを呪いとかなんとか言ってたけど…どういう意味?」

 

「この六層のテーマがパズルだって話はしたよな?じゃあなんで街のあちこちにあるかというと…領主のクエストで事情がわかるんだ。報酬も結構美味いしそこそこ長いから、エルフクエストの前にクリアしよう」

 

「わかった。早くキズメルにも会いたいし手早く済ませなきゃね」

 

 そうして一行はスタキオンで一番大きな建物である領主館に向かった。

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