キリトたちは屋台で買った串焼きなどを食べ歩きしながらスタキオンの街の高台に建つ領主館へとやってきた。クエストを受けに来た先客がクエストを受けるのを気長に待ち、一行は領主のサイロンと対面する。
「ようこそお越しくださいました剣士殿。長旅でお疲れでしょう、お茶をどうぞ。……さて、こちらに足を運んでくださったということは…例の件についてですな」
「はい、お困りごとがあると聞きました」
「ええ、大きな悩みの種が。領主の立場上ここを離れるわけにもいかず、剣士殿に頼るしかないのです」
サイロンはこの街にパズルが溢れた原因は十年前に起こった惨劇が原因であると説明した。前領主であるパイサーグルスはパズル王という異名を持つほど数字とパズルをこよなく愛した男だったという。ある日のこと、館にやってきたみずぼらしい服装の旅人が持ち込んだパズルを解けなかったパイサーグルスは、屈辱と怒りのあまり手元にあった黄金のキューブで旅人の顔がわからなくなるほどに撲殺したのだ。
「死に際に旅人が放った呪詛のせいで、その日から街に一つずつパズルが増え続けました。パイサーグルス様も気が触れて行方をくらませ十年…もはや生きてはおりますまい…。一番弟子であった私が領主を継ぎ、呪いを解かんと努力しましたが…力不足を痛感するばかりでした。剣士殿、どうかパイサーグルス様が持ち去った黄金のキューブを探してはもらえませぬか?キューブを旅人の墓に供え丁重に弔えば、この街に蔓延るパズルの呪いは消え去るはずです……」
「わかりました、俺たちに任せてください!」
「ありがとうございます、どうかスタキオンをお救いください…」
キリトは進行に必要な質問を二、三個して応接室から出る。アスナは凄惨な事件を聞いて露骨にやる気ゲージが減少していた。
「はあ…呪いだなんだって聞いてたから明るい話にはならないだろうとは思ってたけど、かなりグロい話だったわね…。キューブで旅人の顔をぐちゃぐちゃにして殺すなんてレーティングどうなってるのよ…」
「デスゲームにレーティングもクソもないと思うけどな…。パパッと終わらせてキズメルに会いに行こうぜ」
「そうね、最初はどこに行くの?」
アスナは頑張ってやる気を出した。
「まずは十年前に執事をしてたお爺さんに聞き込み、その後事件を見ていた領主館の元従者のいる場所をたらい回しにされる」
アスナのやる気が急低下した。
「ふりゅーん……」
「その鳴き声はいったいなんだいアスナさんや」
「エルフ語で『わたしこーいう人探し系クエストよりモンスター倒せ系クエストの方が好き…』って意味よ」
「ングルンダ」
「ギャルルオーン」
「今のなに?」
「オーク語で全く同感って意味」
「え?特に意味なんかないよ?」
そんな感じで中身がスッカスカの会話をしながら、キリトたちは夕方まで聞き込みを続けた。誰もパイサーグルスと黄金のキューブの行方は知らなかったものの、最後に聞いた酒屋の主人から『パイサーグルスは隣町の《スリバス》に別宅があった』という情報を手に入れた。
「……こんなに苦労したのに、大して情報増えてないわよね。パイサーグルスさんに家族がいないことと、みんなに慕われてたくらい?結局旅人は何者なのか誰も情報を持ってなかったし…」
「ははは、そりゃそうだろうな!
キリトはそう言った直後自分の口を慌てて手で塞ぐが、アスナは聞き逃さなかった。
「…………は?ちょっと、それどういう意味!?」
「エ、エー……ド級のネタバレなんですよこの情報。《スタキオンの呪い》の確信部分に繋がってるから説明すると事件の全容がわかっちゃうというかぁ……」
「そんなのおかしいじゃない!執事さんも召使いさんも裏庭にお墓を掘った園丁さんも死体を見てるのよ!?じゃあ殺された死体はだ、れ………」
アスナは『殺された旅人』の正体に気づき、真っ青に青ざめる。キリトは正解を言った。
「そう、殺されたのは先代領主パイサーグルスさ。で、そうなってくると一人明らかに嘘をついてるヤツがいることになるんだけど…わかるよな?」
「……今の領主!そういえば旅人の死体を見たヒトはいても、生きてた頃の旅人の話をしてたのは領主だけだ!」
「ドルモン、正解!サイロンは前領主の一番弟子だったんだけど、後継者に別の弟子を選ばれてキレてそのまま近くにあったキューブで殴り殺して、誤魔化すために頭をキューブで潰して粗末な服を着せて旅人をでっち上げたわけだ」
「……………想像の十倍酷い話だった!だいたいパズル王って何よ、そんなよくわからない称号のために人殺しなんて馬鹿げてるわ!」
「あははは……でもなんたら王とかなんたらキングって称号に心惹かれる気持ちはちょっとわかるかもな。まあ殺すほど欲しいかって訊かれたらそりゃ要らないけど…。んじゃ、別宅があるスリバスでなんか食ってからクエスト再開しようぜ」
スリバスはスタキオンのブロックだらけの街とは異なり、どこか第四層主街区のロービアを思い出す街並みだ。
「ねえ、この街には例の呪いのパズルはないのよね?」
アスナに訊かれたキリトはニヤッと笑いながら答えた。
「ないけど土産屋にはいっぱいあるよ。後で暇つぶしに知恵の輪でも買う?」
「要らない…。とにかく何か食べたい気分かな、スリバスの名物って何?」
「あー…なんだったっけなぁ…?」
キリトはスリバスの名物を思い出そうとするが、そもそもベータテスト当時はレベル上げに夢中でアインクラッドで本格的に食事はあまりしなかったためそういう記憶が薄い。
(そもそもSAOの仮想飯で腹いっぱいにしちゃうと家族に怒られてたからな…)
ちょっとしんみりしながらも薄い記憶を必死に思い出そうとしたキリトであったが…。
「包み焼きだヨ」
「…………っ!!」
すぐ後ろから聞こえた声に、キリトは反射的にアスナを庇いながら剣に手をかけて振り向く。ドルモンもキリトと共に警戒していたが、その人物が仲間であることに気づいて唸るのをやめた。
「………あれ、アルゴじゃん」
アルゴは一秒ほどきょとんとしていたが、キリトにそんな反応をされたのが相当応えたのか悲しそうに俯いてしまった。
「……キー坊、オレっちだってそんな反応されると傷つくんだゾ……?」
「わ、悪いアルゴ!ちょっと色々あって今は不意打ちに警戒しててさ」
「こんばんはアルゴさん、もうスリバスに来てたのね!」
「ばわ、アーちゃん」
アスナは持ち前のスピードでアルゴに急接近する。
「名物が包み焼きって知ってるってことは、この街のこともご存じですよね!美味しいお店紹介してほしいです!」
「オウ、まだ一軒しか試してないケド中々美味いとこ見つけたからそこに行こうゼ」
「やったぁ!」
アルゴは人懐っこいアスナに面食らいながらも表情に余裕が戻っていた。彼女に連れられてきたレストランで出されたミートパイはトマトソースで味付けされた肉と野菜、チーズが詰まっていてキリトたちは大満足である。
「いやー、包み焼きって聞いたから餃子っぽいアレかと思い込んでたけど、王道ド直球のトマトチーズ味のミートパイだなぁ!最高!!」
「うっまーい!」
「ニヒヒ、だロ?」
「そういえばアルゴさん、攻略本の調子はどう?」
アスナに進捗を聞かれたアルゴは手をひらひらと振る。
「明日には初版を出すつもりだヨ。ただ…フロントランナーたちはもうスタキオンじゃなくてスリバスを拠点にしてるっぽくて、どうしたモンかナーと悩んでるトコ」
「あー、例のノロイのパズルをめんどくさがってスリバスに逃げてきたんだ」
「そういうことだナ。ってなワケでこの街の宿屋はほぼALSやDKBが占拠してて、空いてるのはお高いスイートくらいだヨ。………話は変わるけど、DKBとの例のアレの話どうなっタ?」
例のアレことギルドフラッグの話を出され、キリトは食べるのを中断する。
「ああ、ALSに出した条件をそのままDKBにも伝えたよ。意外なことに反応も悪くなかった。ただ……」
「ただ?」
「その前に三十万コルで売ってくれって言われた」
キリトにそう言われたアルゴはニンマリ笑った。
「クク、そーきたカ…。さすがはディアベルの後継者ってとこかナ」
「……ディアベルさんってそんな腹黒かったかしら。ちょっとだけしか会ってないけどベタモンとも関係は良さそうだったし、キバオウさんもリンドさんも慕っていたわ」
「……いつかちゃんと話すよ。……で、結局例のアレは俺の手元にある訳だけど…どうにか次のフロアボスまでくらいに使える良い方法ないか?」
「良い方法ナァ。お、そうダ!アーちゃんが新しくギルドを立ち上げちまえばいいんじゃないカ!?アーちゃんのギルドなら入りたいって野郎がワンサカ入ってくるゾ!」
アルゴはとんでもない提案をしてきた。アスナは猛烈な勢いで首を横に振る。
「む、無理無理無理!!冗談じゃないわよ、この人たちの面倒を見るのも大変なのにギルド運営なんて絶対ごめんだわ!!」
「ニャハハハハ!んじゃキー坊とドルモンの独占は当分続きそうだナ」
「ど、独占なんかしてないっての!」
「そ、そんなんじゃありませんから!?」
キリトたちは顔を赤くして否定するが、アルゴはニャッハッハと楽しそうに笑うばかり。
「…で、これからキー坊たちはどうするんダ?」
「ああ…《スタキオンの呪い》の続きをしようかと思ってるんだ。パイサーグルスの別宅でキーアイテム探しのパートだよ」
「……………夜中にパイサーグルスの別宅?正気??」
アルゴは真顔で訊く。アスナは珍しい顔のアルゴに嫌な予感がした。
「……夜中に行くと何か不都合なことがあるの…?」
「アー、時間で変わるってわけでもないんだガ…。キー坊、あそこって確か
「出てくるな、アスナが苦手なのが…」
「…………ま、まさか…。《
こういう嫌な時に限って正解を引き当ててしまうものだ。キリトは申し訳なさそうに頷いた。
「ごめんアスナ、時間ずらして昼に行っても普通にアストラル系モンスターが出てくるからさ…。それにこのクエストをクリアしたらキズメルに会いに行けると思えばいい」
「………わかったわよもう…。これ以上文句を言う時間も惜しいし、とっととこのクエストを終わらせてキズメルと冒険に行くわよ!」
「その意気だヨ、アーちゃん!」」
アルゴと別れた一行は街外れにあるパイサーグルスの別宅に向かう。別宅の通り道である橋を通ろうとすると、二人組のプレイヤーが別宅のある方向から歩いてくる。キリトたちは隠れて彼らの会話を盗み聞きした。
「あの扉絶対開かないだろ…」
「時間の無駄だ、六桁のダイヤル錠を総当たりなんて現実的ではないぞリュフィオール。今日はもう宿屋に戻ろう」
「でもなー、オレの勘が言ってるんだよな。あの中にはドエライお宝が眠ってるって!!」
いちゃつく男女コンビが去っていくのを見ていた男女コンビことキリトとアスナは顔を見合わせた。アスナは露骨に嫌な顔をする。
「……またパズルをやらされるわけ?(というかあの人たち前にも見たような…)」
「パズル王の家だしな。そう簡単に侵入されたら困るものがあるってことさ」
「……でも、今までのクエストでダイヤルロックの数字なんて出てきたっけ?探し直さなきゃいけないの?」
「大丈夫、ベータの時の番号は覚えてるよ」
別宅の扉に付けられたダイヤルロックに触りながらアスナはさらに質問する。
「もし数字が変わってたらどうするの?」
「……もし変わってたら俺はとんでもない間抜けだな!その時はサイロンの所に出戻りして部屋の壁に飾られてる絵の数字を確かめることになるんだけど…」
「とりあえずベータの時の正解の番号入れてみるしかないんでしょう?」
「そうだな。確か…6、2、8、4、9、6…だったはずだ」
「……あれ、この数字何処かで…」
アスナは思考を数字に傾きかけるが、ドルモンの声で考え事を中断される。
「アスナ、早く中に入ろう。これもノロイのパズルだったらほっとくと元に戻っちゃうよ」
「あ、そっか…」
アスナが扉を開けると冷たく湿った空気が顔にかかり思わずぞわっとする。
「ほ、本当に今探索しなきゃダメ…?」
「「駄目」」
「ふみゅー……」