ソードアート・オンライン+D   作:シャザ

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9話 強化詐欺師を追い詰めろ!

 翌日、キリト一行は迷宮区に足を踏み入れていた。二層の迷宮区には、牛頭の亜人である《トーラス》が巣くっている。

 アスナは牛男を倒した後率直な感想を暫定パートナーに叩きつけた。

 

「牛じゃないでしょアレ!!」

 

「…そりゃ人か牛かって言われたら大部分は人だけどさ…。ファンタジーじゃよくあるデザインだろ?あんまり気にしない方がいいと思うぜ、俺は…」

 

「攻撃はめんどくさいし格好はほぼ裸、できるんならセクハラで黒鉄宮送りにしたいくらいよ!」

 

 トーラス族は専用スキルの《ナビング》による行動不能(スタン)が厄介な敵だ。彼らとの戦いではレベルの高さよりも状態異常耐性がある装備をどれだけ揃えられるかが重要である。

 

「じゃあ、これは装備しない方がよさそうだなぁ…。イイ感じに行動不能(スタン)耐性ついてたんだけど…」

 

 キリトはさっきトーラスからドロップした《マイティ・ストラップ・オブ・レザー》をストレージから出してみる。

 

「なにそれ、レザー装備に見えるけど…」

 

「防御力がそこそこ高いし筋力補正も付くけど、装備すると上半身裸に装備がこれだけになるんだよな…。重ね着も駄目らしい」

 

「……キリト君、それ装備したら許さないからね!!」

 

「だよなー…。誰か貰ってくれないかなぁ…」

 

 キリトたちがネタ装備の処分に困っていると、遠くからガシャガシャという金属音が聞こえてくる。

 

(……敵か?いや、トーラスのメイン防具は革で金属音が鳴るものは身に着けていないはず…)

 

 キリトが警戒していると、現れたのは見覚えのない集団だった。少なくとも一層のボス攻略には参加していない。

 

「……む!先客がいたか…」

 

 てっぺんの尖った兜(バシネット)を被った彼は軽く会釈をした。ニヤリと豪胆に笑う彼は誇らしげに名乗りを上げる。

 

「我は《レジェンド・ブレイブス》のリーダー、オルランド!貴殿らの名前も教えてもらいたい!!」

 

「…俺はキリト、こっちはアスナだ。んで、肩に乗ってるのはドリモン」

 

「よろしくおねがいします」

 

「よろしくねおっちゃん!」

 

「うむ、よろしく!」

 

 観察してみると《レジェンド・ブレイブス》の装備はかなり強化されているらしい。何度も強化された装備特有の業物感とでもいうべき迫力が、彼らの実力を測りにくくしている。

 

「良い装備だな、形から入るタイプか?」

 

「はっはっは、英雄(ヒーロー)がみずぼらしい格好をしてはカッコ悪いだろう?」

 

「……そうだな。じゃあ、次はボス戦で会おうぜ」

 

 キリトがオルランドたちと別れた後、アスナは彼らに見覚えがあることを思い出した。

 

「……あの人たち、この前のフィールドボスの時も控えとして参加してたわよね」

 

「……え、気付かなかったぞ…。ドリモン、お前気づいてた?」

 

「いや、とげあたまとちょうはつがさわいでてわかんなかった…」

 

 キリトはしばらく考えていたが、ふと違和感を覚えた。

 

「あいつら、あんな良い装備を使ってるのに強化詐欺師のネズハに狙われないのか…?」

 

「……え?」

 

「いや、あんなに強化が行き届いた装備をNPC鍛冶屋で用意するのは難しいと思うんだよなぁ…。腕のいいプレイヤー鍛冶師のネズハが彼らの強化をしたのなら納得できる部分はあるけど…それでも矛盾がある。なんであいつらは強化詐欺に遭わないんだ?奪い取れば間違いなく大金になるだろうに…」

 

「それは…なんだか、怪しく思えてきたわね。少し、彼らの様子を見てみない?」

 

「そうだな、あいつらの力量を見てみるのも悪くないか…」

 

 

 キリトたちは《レジェンド・ブレイブス》の戦いを見た後、迷宮区から出て最寄りの街《タラン》でアルゴに合流することにした。

 情報屋がやってくる前に、彼らは借りた部屋で《レジェンド・ブレイブス》について話していた。

 

「キリト君、あの人たちどう思う?」

 

「レベルもスキルも中の上が精々ってとこだな…。ただ、連携の上手さは即席パーティーのそれじゃない。リーダーの指揮がいいし、SAO以前から活動してたギルドだったのかもしれないな」

 

「なるほどね…。とりあえずアルゴさんが来るまで待ちましょ?さっきまた饅頭買ってたわよね?」

 

「昨日の肉まんはなかなかの味だったなぁ。今回の《タラン饅頭》はどうだろう?」

 

 キリトは《タラン饅頭》をアスナとドリモンに手渡した。

 

「いただきまーす。……うにゃあ!?」

 

 饅頭にかじりついたアスナから変な声が聞こえてきたので、キリトはぎょっとして彼女の方を向いた。

 アスナの顔から胸にかけて白くべたつくクリーム状のなにか…というかクリームがべったり汚していた。

 

「う、運営めぇ…ウルバスの肉まんで油断させたところにデザート系饅頭を仕込んだな!?たちの悪いイタズラだぞまったく!」

 

「わー…はでによごれたねぇ」

 

 ドリモンはのんきなことを言いながら《タラン饅頭》にかじりつく。

 

「あ、これくだものがはいってる。これはこれでおいしいよ?」

 

「……スイーツだと思えばなかなかいけるな…」

 

 アスナはハンカチでクリームを拭ってからキリトをじろりとにらむ。

 

「キリト君、もしかして知ってて渡した…わけじゃなさそうね?もし知っててこれを選んだんならタコ殴りにしてたわ…」

 

「いや、うん…。ごめんなさい…」

 

 気まずい雰囲気になっていた部屋に、何も知らないアルゴがやってきた。

 

「オイーッス。……なんか空気淀んでネ?」

 

「きのせいだよきのせい」

 

「こんばんわアルゴさん、何かわかりましたか?」

 

「その前にお代頼むゾ、キー坊。五百コル」

 

 キリトが五百コルを情報屋にぶん投げると、彼女はにっこりと笑った。

 

「まいどありー!さっそくだが時系列について面白いことがわかったゾ。…強化詐欺が始まった時期と、《レジェンド・ブレイブス》が前線に顔を出すようになった時期がピッタリ一致しタ」

 

「そうか…」

 

「で、そっちはどうなんダ?強化詐欺の手口、つかめたカ?」

 

 キリトは頷いた。ドリモンがすり替わる瞬間を見ていたことで、それに近しい現象を思い出すことができたのだ。

 

「アルゴ、ドリモンが言うには剣は入れ替わるとき一瞬チカッと明滅したんだそうだ。ボタンをワンタッチしただけですり替え可能で、ストレージのエンド品と即座に入れ替えられて、さらにすり替えを指摘されてももう一度簡単にすり替えができるMOD…。お前ならピンとこないか?」

 

「……ッ!!《クイックチェンジ》ッ!!」

 

「正解!今日やっと片手剣スキルの熟練度が100に到達して、《クイックチェンジ》を取ってみたんだ。予備の武器を再装備できるだけのMODだと思ってたのに、同じ種類の武器を複数持っていたら『直前に装備してたものと同じものを再装備』できる設定があってびっくりしたぞ!!」

 

「……なるほど、これを考えたヤツは天才ダ。何食ったらこんなの思いつくんだろうネ?」

 

 キリトはため息をついた。

 

「ただなぁ、鍛冶屋が《クイックチェンジ》を一朝一夕で取得できるかって話なんだよなぁ…」

 

「結局そこなんだよナァ…」

 

「……………あのアルゴさん、そのことなんですけど…。コレの件どうなりました?」

 

 アスナが出した投げナイフに、アルゴはにこりと笑った。

 

「店に並んだ形跡ナシ、ダ。…つまり、その投げナイフは鍛冶スキル持ちが造った自作だゼ!…製作者も限られてくるってもんダ」

 

「……ええ、予想が当たってしまったってことですよね…。……とにかく、明日現行犯で捕まえちゃいましょうキリト君。明日ネズハさんに強化頼んでね?」

 

「おー……、ちょっと待って俺が囮をするのか!?」

 

 キリトのツッコミにアスナは正論で返した。

 

「だってわたしは顔割れてるし、警戒されて逃げられちゃうでしょう?」

 

「俺だって素顔見られてるんだけど!!それにドリモンを引き連れてたらすぐバレるぞ!?」

 

「ドリモンはこっちで預かるし、バケツヘルメットでも被っておけばバレないわよ………多分」

 

「兜だけ付けてたら変態扱いされるだろ!!」

 

「ねえキリト君?もし街でそんな変人に話しかけられたとして…それを詮索する勇気はあるかしら?」

 

 キリトは言葉を詰まらせた。自分が鍛冶屋だったとして、依頼人がどんなヤベー格好でも金を払ってくれるんなら『お客様』である以上断らないだろうとは思ったからである。

 

「キリト、しかいをすくなくすればよけいなものをみないですむよ。くいなんとかですりかえたそのしゅんかんだけみればいいんだからね!」

 

「わかった、わかったよ!!やればいいんだろうやればぁ!!」

 

 

 ネズハが開店準備を終わらせて一息ついていると、一人のプレイヤーが声をかけてきた。

 その風貌を見たネズハは、思わずぎょっとしてしまう。頭にバケツヘルメット、上半身は全裸に革帯を巻いただけ、下半身はズボンだったからだ。どうあがいても変質者である、ここが現実世界ならしょっ引かれているだろうことは想像に容易い。

 

「もう開いているのか?」

 

「あ、ハイッ!もう開いてますよ!メンテですか、それとも…」

 

「強化を、頼む」

 

「……はい、わかりました。…強化の種類は?」

 

 ネズハの声は、かすれていた。バケツマンは気にせずに続ける。

 

「種類は《速さ(クイックネス)》、素材は料金込みで90%で頼む」

 

「それだと…二千七百コルですね、剣をお預かりします」

 

 バケツマンから受け取った剣を預かると、彼はその性能を確認し始めた。

 

「アニールの+6、試行二回残し…。内訳は《鋭さ(シャープネス)》+3に《丈夫さ(デュラビリティ)》が+3!!使い手を選ぶでしょうけれど、凄い剣ですね…!この上更に《速さ(クイックネス)》を強化すれば、もっと……」

 

 ネズハの言葉がしぼんでいき、その顔が俯いていく。

 

「……では、始めます」

 

 

 バケツマンことキリトは、ネズハの左手に意識を向け続ける。バケツヘルメットは酷く視界が悪いものの、不幸中の幸いで携行炉のミスディレクションの仕掛けを見ずに済んでいた。

 視界の端でプレイヤーを幻惑するライトエフェクトが点いたその瞬間、ネズハの左手の人差し指がカーペットに並ぶ剣と剣の間を軽くつついた。

 

(……!!)

 

 キリトは確かに、自身のアニールブレードが一瞬だけ点滅したのを見逃さなかった。…今、鍛冶屋が握っている剣はキリトが強化を頼んだものではなく、どこかの誰かから買い取ったエンド品だ。

 ネズハが剣を抜くと、その輝きはわずかに鈍い。彼はエンド品を携行炉に横たえてから、鉄床に移動させてスミスハンマーで叩き始めた。

 ……ネズハの槌音には、心がこもって聞こえてくる。しかし、それは強化成功を念じているわけではなく詐欺を成功させるという身勝手なエゴのために破壊されてしまう剣を、悼んでいるのだ…。

 

 エンド品は打ち砕かれる。

 

 ネズハはすぐさま土下座をして謝った。

 

「すいません、すいませんッ!!本当に、本当に……ッ!!」

 

「……いいや、謝る必要はないよ」

 

「……え?」

 

 キリトはまずズボンをいつもの黒いのに戻し、次に《マイティ・ストラップ・オブ・レザー》からいつもの黒シャツと《コート・オブ・ミッドナイト》に装備を変えた。……最後に、バケツヘルメットをストレージに戻して素顔を晒す。

 

「……ッ!!あ、あなたはあの時の…!?」

 

「悪いな、騙すような真似をしてしまった。……まあ、それはお互い様ってことで」

 

 キリトは《クイックチェンジ》で自身の愛剣をネズハのストレージから奪い返すと、鍛冶屋の目が驚愕で大きく見開かれた。アニールブレード+6をネズハに突き付けたキリトは静かに言葉を続ける。

 

「…アンタはこの《クイックチェンジ》を使って『預かった武器』をストレージに隠していた『同種のストック品』と入れ替えた。俺は今アンタがやったことをやり返させてもらった。短時間でストレージから装備武器を奪い返されることも想定しておくべきだったな」

 

 ネズハの顔が剣で貫かれたかのように大きく歪んだ。

 

「普通ならこの段階で《クイックチェンジ》なんて取るヤツはいないだろう。その上メニューウインドウを商品の間に隠し、MODのエフェクトを炉の光と音でかき消せば、まず100%気づかれることはない…。…署までご同行願おうか《強化詐欺師》のネズハ殿?」

 

 

 キリトはネズハを宿まで連行すると、彼から今まで搾取した武器をどうしたのかを聞きだした。

 

「……要するに、だまし取った武器は全部換金した挙句(あげく)、飲み食いやら宿代で使い切ったって…?本気で言ってるのか?」

 

「はい。……言い訳はしません、煮るなり焼くなり、あなた方の好きにしてください…」

 

「プレイヤーが命をかけて鍛えた武器だぞ。…それをアンタは自分の贅沢のために浪費したって言いたいんだな?」

 

「はい、そうです…」

 

「そんなの、おかしいわ!」

 

 ネズハの言葉に、アスナは待ったをかけた。

 彼女はストレージから投げナイフを取り出すと、ネズハの眼前に突き刺した。

 

「これ、あなたが使っていたモノよね?」

 

「ち、違います!そんなもの、見たことも…!」

 

「これはプレイヤーメイドで、しかも店に並んだ形跡はないって情報屋から聞いたわ!つまり、使用者(イコール)作成者ということよ。鍛冶屋のあなた以外がこれを造れるわけないわ!」

 

 ネズハは無言で視線を逸らす。その様子を見たアルゴは追撃を始める。

 

「アンタが質素倹約をカタチにしたような生活してることは既にわかってるんダ。いくら装備を整えようが、アンタ一人の装備を見繕うのはそれほど難しくないハズ。だって、今のアンタはプレイヤー鍛治として市場を独占しているわけだからナ…」

 

「………何が、言いたいんですか?」

 

「俺たちは、こう疑ってるんだ。お前は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってな」

 

「は、ははは…。そ、そんなわけないでしょう!?いったい何を根拠にそんなことを!!?」

 

 鍛冶屋は冷や汗を流しながら否定している。もう一押しの一手を、アルゴは指した。

 

「《Nezha(ナーザ)》」

 

「ッ!!?」

 

「日本で一番有名な呼び方はナタク、あるいはナタ。中国のファンタジー小説『封神演義(ほうしんえんぎ)』に出てくる少年の神さまダ。『西遊記』では孫悟空と戦ったりもしているナ。多数の武具を巧みに操り、移動の際には風火二輪(ふうかにりん)なる火を噴く車輪で空を飛ぶんだってサ」

 

「すっごーい、こういうのって()()()()()()()()()っていうんだよね!」

 

 わざとらしくドリモンは英雄と呼んだ。キリトはにやりと笑みを浮かべながら訂正する。

 

「おいおいドリモン、こう呼んだほうがいいぞ?……なあ、伝説の英雄(レジェンド・ブレイブ)!!」

 

 ネズハは頭を抱え、がっくりと肩を落とす。……図星だったのだろう、額からは大量の汗が流れている。

 

「……やっぱり、きみが彼らの資金源だったんだな。だからこそ高ランクの強化装備を短時間で用意できた…。……答えろナーザッ!なぜ、きみだけがこんな割を食う役割をやっていたんだ!?いったい、どうしてこんなことができたんだ!?」

 

「キー坊、それは重要じゃな…」

 

「大問題だ!!このままいけば《レジェンド・ブレイブス》は攻略組よりもぶっちぎりで強くなるぞ!!悪事を(いと)わない詐欺師集団がだ!!それは国を支配する独裁者と何が違う!?」

 

 キリトが追及を続けようとすると、アスナが彼の肩を掴みながら制止した。

 

「……キリト君。……多分、それはちがうんじゃないかな?」

 

 アスナは投げナイフを持つと、それを手渡そうとした。

 

「……あなた、これが取れる?」

 

 鍛冶屋はそれを取ろうとするが、何度も空振りしてしまう。

 

「………無理、です…」

 

「……目が見えにくいのね、あなた。目の焦点が微妙に合っていなかったから…」

 

「……見えない、わけではないんです。……ナーヴギアを介してだと、遠近感がわからなくなるんです」

 

「そんなことって、あるの?ナーヴギアが不良品だったってこと…?」

 

 キリトは彼の苦痛がなんなのか知っていた。

 

「…FNC、フルダイブ不適合(ノン・コンフォーミング)か…」

 

「……なに、それ?」

 

「アスナ、本来フルダイブマシンは装着者ごとに細かくチューニングしなければいけないくらい繊細な機械だ。ただ、民生用のナーヴギアだとそんなことできないから、自動調節機能がついてる。アスナもやっただろ?ナーヴギアを付けたまま体のあちこち触ったり接続テスト中のロード場面をじっと見たり…」

 

「うん、やったやった。……あ!もしかして…それがうまくいかなかったりするの?」

 

 キリトはアスナに頷いて、説明を続けた。…あまりにも酷な話だ。もし民生用のフルダイブマシンでなければ、こんな問題は起こらなかったはずなのだ…。

 

「ああ、本当にごくまれなんだけどな…。彼は多分奥行きがわからないんだろう、距離感が大切なSAOじゃ致命的だ。武器の射程も敵の攻撃範囲も、ソードスキルの射程範囲だってわからなくなるんだから」

 

「……あっ!だから《投剣》スキルを使っていたのね!」

 

「……そうです。…僕は、みんなの夢を台無しにしてしまった…。投剣スキルを鍛えるために足手まといになって、ブレイブスのみんなは一層のボスに挑戦するための募集レベルまで届かなかったんです…」

 

 ネズハの目から大量に涙が溢れ出た。

 

「《レジェンド・ブレイブス》は、サイコーのチームなんです…!何年も前から色んなゲームでランカーやって、SAOが発表されてすごく意気込んでました…。アインクラッドで、本物のヒーローになって…アインクラッドを制覇するんだって……!!でも、僕のNFCで全部駄目になった!!!」

 

 それは、後悔の嘆きだった。

 

「みんなを効率の悪い狩場に足止めさせてしまって…、不満をこぼす仲間だっていました。でも、リーダー(オルランドさん)は僕を見捨てようとしなかった…!でも《投剣》が熟練度を上げても弱いことに気づいて戦闘職を諦めた時にはもう、手遅れだったんです…。……そんな時でした、()()()が声を掛けてきたのは…」

 

「……あいつ?」

 

「…はい、てっきりNPCかなんかだと思ってたそのプレイヤーは、オルランドさんが外の空気を吸いに行ってリーダーが不在だった僕らにこう言ったんです。『オマエが戦闘スキル持ちの鍛冶屋になるんなら、スゲークールな稼ぎ方があるぜェ』…って」

 

「………誰ダ、ソイツ。知ってるヤツじゃねーよナ?」

 

 アルゴの質問に、ネズハは首を振るばかりだった。

 

「…わかりません。彼は《クイックチェンジ》を使った武器すり替えのトリックを教えてすぐにその場を去っていきましたから。でも、変な男だったことは覚えてます。黒いエナメルのポンチョを着て、ものすごく楽しそうに笑ってました」

 

「……きみは、そいつと取り引きしたのか?金やアイテムは?」

 

「……そういった要求はされませんでした。……明らかに怪しいのに、その時はまったくそう思えなかったんです。……あの男の声は、麻薬のように僕の良心を侵していった。…彼はこんなことも言ってました、『ここはネトゲの中だぜ?やっちゃいけないことは最初からシステムに阻まれるに決まってるだろ?だから、やれることは何でもやっていい…そう思わないか?』…って」

 

「ふざけるナ!!」

 

 アルゴは思わず叫んだ。

 

「それはただの詭弁ダ!嘘の情報を流して相手を危険なエリアに誘い込んだり、他人が戦ってるモンスターを横取りしたり…そう言った悪辣なことを積極的にやれって言ってるんだゾ、ソイツは!!イヤ、もっと言えば圏外で《犯罪防止(アンチクリミナル)コード》は働かないからレア装備を持ったプレイヤーを見かけたら殺して…」

 

「……アルゴ!!それ以上は言ったらだめだ!!……ほら、ドリモン触って落ち着け、な?」

 

「………ワリィ」

 

 キリトはドリモンをアルゴのひざに乗っけた。アルゴは精神を落ち着かせるためにわしゃわしゃと小動物を撫でる。

 罪悪感で耐えられなかったのか、ネズハは頭をテーブルに叩きつけて懇願した。

 

「全ては、僕の心が弱かったからなんですッ!!どうか、どうか…僕の命だけで勘弁してもらえませんか!!」

 

 それを聞いたアスナの顔が険しくなった。

 

「……あなたは、本当にそれでいいの!?」

 

「……え?」

 

「ナーザって、すごい英雄なのよね?その名前を名乗ったのは、あなただって英雄(ヒーロー)になりたかったからでしょう!?それなのにあなたは、大切な仲間に憐れまれたまま終わっていいの!?わたしがあなたの立場なら、そんなのお断りよ!死ぬんなら、せめて勇者として戦って死になさいッ!!」

 

 ネズハは首を振った。どんなに願おうが、FNCの彼は戦場には立てない。だからこそネズハは生産職に転向せざるをえなかったのだ。

 

「ムリですよ、鍛冶屋で動かない武器をハンマーで叩くのだって難しいのに…」

 

「……投剣スキルは、システムアシストが効くだろう?」

 

「あんなもの、実戦では役に立ちませんよ!!弾数無限の武器でもない限り…!!」

 

 キリトはストレージから輪っかのようなものを取り出した。外側に刃がついているそれを、キリトは指でくるくる回す。

 

「…()()()()()()()()()()()()ならある。トーラス族のレアドロップ武器、《チャクラム》だ!」

 

「す、すごい…」

 

 ネズハはチャクラムをじっと見つめていた。キリトは手に取ろうとする彼の手を遮った。

 

「だが、無料(タダ)で譲渡するわけにもいかない。俺はシンデレラに出てくる優しい魔女じゃないからな、対価を貰うぞ。ネズハ、スキルスロットに空きは?」

 

「……ない、です」

 

「だろうな。このチャクラムはとあるエクストラスキルを習得しないと手元に戻ってくる効果が発動しないんだ。…一つ質問をさせてもらう。…武器作成を捨てて剣士(シンデレラ)になるか、武器作成を捨てずにこのまま罪人(カンダタ)として裁かれるか…、どっちがいい?」

 

「それ、は………」

 

 ネズハが言葉に詰まっていると、難しい話が始まってから撫でられるままだったドリモンが話しかけた。

 

「……ぼくね、ほんのちょっとまえはドドモンっていうけむくじゃらだったの。しゃべれないし、うごきもおそかった。でも、ドリモンにしんかしてからキリトといっぱいおしゃべりできてたのしいよ!ヒトだってきっとおんなじなんだ、しんかできるんだよ!」

 

「……進化。……こんな大馬鹿野郎でも、できるかな?」

 

「あきらめなければ、きっと!」

 

 ドリモンの笑顔に、ネズハは決心を固める。

 

「……わかりました、武器作成を捨てます!この世界で剣士になれるのなら、なんでも差し出します!!」

 

 鍛冶屋ネズハは、チャクラム使いのナーザになるためにその対価を受け入れた。







 ネズハに強化を頼んだ時のキリトはヤケクソ気味に変態ファッションにしていた。
 アルゴはそれを見て爆笑してたしアスナはちょっと引いていたそうな…。
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