短編1話完結。
周回プレイをループで表現しています。
牛馬と桜で知られる十三桜の村。社の先にある大樹は、立ち並ぶ桜の中でも、ひときわ大きく、美しい。妖怪に襲われた村人達が、よりどころを求めて広場に逃げ込んだ。
巨大な鋸が待ち受けていた。地獄の獄卒と言われる馬頭鬼。人間と馬の怨霊が、荒魂を常世から生み出した。
次々と、ひき潰される。刀で斬られるよりも苦しみながら。
藤吉郎が様子をうかがう。生きている者はいない。おびただしい血が流れ、ちぎられた手足が落ちていた。気付かれる前に物陰に隠れる。
村長に話を聞いた。妖怪退治を引き受けて、心当たりに手紙を届けた。評判は聞いている。仲間に誘うか決める力試しも兼ねていたが、不安になる。相手が悪い。
吹くはずのない風が吹く。樹木と外壁に囲まれ、淀んでいた広場に、妖気が流れる。遅れて、社から続く扉が開いた。
姿を現した若者が足を踏み出す。やがては秀と呼ばれ、戦国乱世の舞台裏で、語り継がれない歴史を刻む。時を超えて決着する、まだ始まらない物語。
一目で藤吉郎は戦慄した。畏怖だった。
事前に調べてはいた。腕の立つ傭兵と聞いた。賊だけでなくあやかしとの戦いも請け負う。身分のない無縁人であり、半妖。鬼を斬る鬼。
霊石を使って名を上げたい藤吉郎は、秀を相棒にと考えた。志をともにして、力を合わせられる者か、見定めようとした。
着込んだ鎧からして、無縁人のそれではない。高名な武将にもひけを取らない具足。霊感のある藤吉郎には、神仏の加護まで見て取れた。稀有な恩寵を宿している。
守護霊を持つ者とは出会ってきた。藤吉郎にも猿が憑いている。しかし、秀は数えきれないほどの霊を背負っており、容易に御せるはずのない龍や鳳凰をも従えていた。
ただの傭兵ではない。伝承から抜け出したかのような、歴戦を感じさせる勇者。
藤吉郎は、もはや馬頭鬼を忘れ、秀に目を奪われていた。
秀は馬頭鬼を前にして、臆す様子もなく道の脇を見た。岩石が祀られている。アムリタ霊石を多量に含む、霊気を帯びた岩。
腰の小刀を取り出す。慣れている、あるいは知っている手つきで、岩石に突き立てた。たやすく砕け散り、霊石の光が宙を舞う。浮遊しながら、小刀に集まり、刀身を作る。
ソハヤマル。太初の鬼を斬ったとされる、光り輝く刀が、真の姿を現す。秀は刀を握り直し、馬頭鬼を見た。巨体が脚を踏みしめる。鋸を振り回して突き進む寸前。
馬頭鬼に向けてソハヤマルを振った。妖力の刃が放たれる。風切り音が鳴き、間合いのある馬頭鬼にまで届く。加えて二度三度、輝く突風が斬りつける。馬頭鬼の動きが止まる。
秀は水平に構え、大きく踏み出す。翔けるような動きで胴を抜き、背後に回る。すでに絶命しているであろう馬頭鬼を、光の軌跡が往復した。
崩れ落ちる馬頭鬼。ソハヤマルの光が消え、小刀に戻る。秀は指先で刀身を一回転させると、鞘に収めた。
震えが止まらない。
藤吉郎は腕の立つ相棒を探していた。霊石で成り上がるために、戦は避けて通れない。武士とも妖怪とも戦える仲間。霊石が導く夢路は、乱世の奈落、その深部に続く。
秀は奈落の底から来た者。あるいは、深淵そのものだった。触れてはならない。
広場から逃げる。動揺で歩みがおぼつかない。木の根に足を取られた。立ち上がろうとした時、不意に秀と目が合う。
青い目をしていた。深く、濃い青は、他の色にも見えた。腰が抜けて動けない。全身に悪寒のような震えが走る。
「ひいぃッ!」
耳元で乾いた音がする。小さな悲鳴が出た。秀の投げた小刀が、背にした木の幹に突き刺さっていた。刃に刻まれた文字が読める。
「ひ、で……秀?」
出会い。再会。何度でも、終わり始まる。秀の口角がわずかに上がって見えた。