(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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少しお久しぶりでございます。時間が空いてしまい申し訳ございません。現在別の作品を描いておりまして投稿できておりませんでした。本日と明日、連日投稿致します。


第100話 燃ゆる不死鳥の如く、とはいかないものだ

 

 ウィルヒル王国の空は実に快晴であった。

 

 白い雲ひとつない青々とした空に、暖かく照らす太陽、そして人肌に最適化されたようだと錯覚を覚えるほどの心地よい風。

 

 ピクニックには最高な環境の天候ではあったが、そんな環境にはあまり似つかわしくない黒の喪服を着た者達がズラリと縦にも横にも大勢の人間達が墓地に集まっていた。

 王国の老若男女問わずの一般市民が多く参列していたが、その数に負けない程の殺伐とした雰囲気を持つ死と隣り合わせの稼業で日銭を稼ぐ傭兵、またの名を冒険者と呼ばれる者達も参列していた。

 そんな荒くれ者達が多い冒険者達でさえも喪服を身につけ、普段の横暴さはそれなりに身を潜めていた。

 

 参列者の前には光沢のある黒漆で塗られた大きく分厚い棺があり、その中には安らかな顔で眠ったように死んでいるサビターの遺体があった。

 彼も同様に黒の喪服を着せられていて外傷は残っておらず、綺麗な状態のままだ。

 

「まさか本当に死ぬとは思いませんでした」

 

 アリーシアが真っ直ぐな背筋で姿勢を正しながら呟いた。

 信じられないといったような表情と声色で言うアリーシアにタマリもコクコクと肯定の意思を伝える。

 

 サビターの死から三日が経った。

 

 三日……死者を弔うには些か時間が経過しているが、その間に国王の治安維持の演説、暴動と国家転覆を企んだ者達を制圧した褒美と勲章の授与式など、それ以外にも様々な事が現在進行形で起こっているが、何故サビターの聖炎葬が三日後になってしまったのには、ある人物からの要望からだった。

 

「まさかあのジョニーさんが『三日後に復活するかもしれんから聖炎葬は後にしてくれ』なんて言うなどとは思いませんでしたね」

「恐らく奴もサビターの死には最後まで懐疑的な目を向けていたのだろう。二十年も奴の不死身っぷりを見てたんだ。今も死んだとは思っていないのかもな」

 

 アルカンカスは両腕を組みながら息を少し吐きながら言い切った。

 またタマリがコクコクと頷く。

 セアノサスは何も語らない。

 呆っと周りの景色をぼんやりと眺めるだけだった。

 

 結局、サビターは蘇ることはなかった。

 彼は今なお生命の熱を失った冷たい死体のまま、焼かれて神の国へ送られる事となった。

 

「お前らか、サビターの部下ってのは」

 

 アリーシア達に声を掛けてきたのはニーニルハインツギルドの幹部の一人である『必中』のウィローであった。

 彼だけでなく、ニーニルハインツギルドの幹部達全員がセアノサス達の元に集まり、彼等を円になるように囲んでいた。

 

「貴方は確かジョニーさんのギルドの…ていうか部下じゃないです」

「ウィローだ。まさか本当にアイツが死ぬとはな」

「アリーシアもいま同じこと言ってた」

 

 タマリが補足を入れるように間に入って喋った。

 

「ああ、皆考える事は同じか……どうだった、アイツは?」

「どうって……何がですか?」

 

 アリーシアは質問の意図が分からず聞き返す。

 

「アイツ、超が付くほどのクソ野郎だったろ」

 

 ウィローの言葉に、アリーシア、タマリ、アルカンカス、セアノサスは身を固まらせる。

 彼等の周囲に一瞬の緊張が生まれた。

 だがそれは直ぐに消え失せる事となる。

 

「ええ。本ッ当ですよ。自己中だしスケベだし言ってることめちゃくちゃだしで、頭がおかしい人だとずっと思ってましたよ。オマケにセクハラするし」

 

 アリーシアは舌打ちをしながら吐き捨てるようにサビターの事を振り返る。

 

「ぼくのことクソガキクソガキって言ったりぼくのお気に入りの本隠したりして遊んで、いつもからかってばかりでムカつかなかったことなんてないよ」

 

 タマリは眉間に皺を寄せて目を細めながら鼻息を荒くさせて怒りながら語る。

 

「アイツは店を荒らした俺を賠償と称して山のように流れる皿や調理器具、錬金道具を全て洗わせた。休憩は全く取らせてもらえず少し息を整えただけで『あっ!店を破壊した給料泥棒がサボってやがる!』と俺をいつも詰っていたな」

 

 アルカンカスは「まぁ俺の責任だから仕方ないが」と訂正の言葉を挟みつつも苦い顔をしながら振り返る。

 

「ははっ、すげぇ。俺達の仲間を悪く言うな!とかを期待してたがほぼ全員愚痴だらけか。アイツも随分と嫌われたモンだ」

 

 ウィローは愉快そうに笑った。

 

「おいウィロー…故人に対してそんな言い方は無いだろ。謝ったらどうだ?」

 

 ウィローのこの場に相応しくない態度にナックルは難色を示し、控えるよう彼の肩にそっと手を置き窘める。

 

「なんで俺よりぼろくそ言ったコイツ等より俺が先に謝んなきゃいけないんだよ!?おかしいだろ!?」

「彼等は自分の大切な仲間、いえ家族を失ったのよ?少しくらい態度を改めたらどうなの?」

「そうだよ!しかもここ墓地で今日は葬式だぞ!」

「モラルないの?」

「酷過ぎるわ……!撤回しなさい!」

「ありえないぞウィロー」

「恥を知れ」

 

 イアリスもまたウィローの軽薄な態度に軽蔑するかのような表情で言う。

 ウィローが理不尽だと思い始めていた時、ナックルやイアリス以外にもニーニルハインツギルドの幹部達はこぞってウィローを責め立てる。

 

「な、なんだよ…!そこまで言わなくても良いだろ……?」

 

 ウィローが半泣きで訴えかけるような目で泣き始めた。

 

「お前らだってアイツの事めっちゃ口汚く罵ってたじゃねぇか!ナックル!お前そういえばアイツの事私利私欲で動くパッパラパーってバカにしてたじゃねぇか!」

「う!?や、そんな事言ってねーよ!」

 

 ウィローの言葉にナックルは不意に刃物で刺されたかのようなバツの悪い顔になる。

 

「ナックル…貴方この国を救った英雄にそんな事言ってたの?最低ね……」

 

 ナックルに対しイアリスは心底軽蔑したような冷たい目で彼を見る。

 しかしナックルは「何が最低だよ」と鼻で笑って彼女を見やる。

 

「お前の方こそサビターの事いつも女の身体にしか興味ない性欲不死身猿とか言ってたじゃねぇか!善人ぶってんじゃねーぞ!」

「な!?かはぁ!?」

 

 ナックルの突然の暴露に涼しい顔をしていたイアリスは腹痛で腹を下したかのような険しい表情になる。

 冷や汗をかいて顰めた面をしている彼女は、とてもじゃないが美しいとは言えない。

 

「なんだいアンタら。サビターの事全然よく思ってないじゃないの。ホントにいくつもの戦場を駆け抜けた仲間なの?」

 

 ヘリエスタが開かれたようにため息混じりに呟くと、ウィローとナックル、そしてイアリスが「お前が言うなッ!!!」と険しい剣幕で吠え立てる。

 

 そこから先はドミノ倒しのように幹部達がそれぞれサビターについてどれだけ不満と愚痴、そして悪口を言っていたかの暴露大会と化していた。

 

 参列している冒険者達や一般人は唖然とした表情で一部始終を見守り、彼らが全て吐き出すように言い終えた頃には、息を切らして肩で呼吸をするように上下させて疲労困憊の姿を見せていた。

 

「お、お前ら……揃いも揃ってクズばっかかよ……」

 

 ウィローが地面に寝転がりながらゼェハァゼェハァと息を整えようとしながら苦しげな顔で溢すように呟く。

 

「やはり皆さん思うことは同じ、ですか」

 

 疲れ切った幹部達を前に、セアノサスはクスリと愉快そうに笑った。

 

「確かに彼はクソ野郎と呼ぶべき人。それは間違いないです」

 

 先程まで黙っていたままのセアノサスが唐突に口を開き、一同は一斉に彼女に顔と関心を向ける。

 

「皆が言ったようにスケベだし意地悪だしサボり癖があるしゴキブリ並みの生命力だししつこい頑固汚れみたいな人ですけど……」

「いや別にそこまで言ってないですけど」

「さすがにいいすぎ」

 

 アリーシアとタマリが首を横に振って否定しながら訂正するかのように答える。

 

「でも私は知っています。あの人は一番仲間や家族の事が大切で、守る為なら自らが身体を張って困難に立ち向かう事を。皆さんも…それは既にご存知でしょう?」

 

 セアノサスの言葉に幹部達は皆真剣な表情で彼女を見た。

 皆言葉には出さずともそれぞれ理解はしていた。

 

 サビターという男は倫理や道徳に平気で背く男だが、仲間や家族の為なら頭で考えずとも行動を起こす男だという事を。

 

「お前ら……聖炎葬の前に何をやっているんだ」

 

 ニーニルハインツギルドの構成員達を束ねる長、ジョニーが無表情ながらも若干呆れたような声色で皆に声を掛けた。

 

「思い出話に花を咲かせるのも良いが、それは後にしろ。これから奴の身体を焼く。お前らもふざけていないで参加しろ」

 

 ジョニーはそれだけ言うと彼らの元から離れていった。

 団長と呼ばれるだけあってやる事はたくさんあるようだ。

 

「あの人はマジでいつも通りだな。顔色一つ変えないとはよ」

 

 ウィローの言葉に他の幹部達も各々頷く。

 ジョニーだけはサビターの死には怒りや悲しみといった感情を表にも裏にも出さず、ただ粛々と葬儀に向けて準備をしていた。

 

「20年付き合いのある友人とは聞いていたが、流石にああも無反応を貫かれると流石のあのサビターも拗ねるんじゃないか?」

 

 ナックルが両腕を組みながら唸るように呟く。

 

「いいえ。あの人はちゃんと悲しんでいると思います」

 

 セアノサスはナックルの言葉を丁寧に否定し、首を横に振った。

 

「人にはそれぞれの悲しみ方があります。涙を流し悲嘆に暮れるだけが故人を偲ぶことではないと思うんです。だから、団長もきっと……」

 

 セアノサスはそう言ってジョニーを見つめる。

 そんな彼は忙しなく聖炎葬の準備に追われていた。

 サビターに関わって来た人間の中で、彼だけが喜怒哀楽の感情を見せず、平静を保ったままではあった。

 しかしサビターの聖炎葬の総指揮をし、的確に指示を出しながら自身も作業に取り組んでいる。

 

「まぁ、確かに……悲しみ方は人それぞれだね」

 

 ギズモが機械音声を混じらせた声でくぅんと声を漏らしながらセアノサスの言葉に同意する。

 

「ギズモの言ったように…俺達もそうだ」

 

 ウィローが独白するかのように突然語り出す。

 

「俺達はサビターの事をめちゃくちゃ罵ってたが、死んでよかったとはこれっぽちも思ってない。アイツはセアノサスが言ったようにクソ野郎だが、良いクソ野郎だ。小さい悪巧みばかりするが、仲間や王国に危険が迫っていた時、必ずアイツは文句を言いながらもそれら全部をどうにかしてきた。だからまぁこんな事絶対本人の前じゃ言えないが…尊敬は、してるぜ」

 

 ウィローは鼻頭を人差し指で擦りながら恥ずかしさを誤魔化すように語ると、他の幹部達が便乗して「俺も!」「私も!」「僕も!」と手のひら返しをするかのように言って来た。

 

「ニーニルハインツギルドの皆さんは随分と意見が変わるんですね……」

「さっきまでぼろくそ言ってたのにね」

「まぁ、私が所属してた時も変わらない感じでしたよ。嫌われ者ではありましたけど、なんやかんや言いながらも好かれてはいました。それが彼の魅力の一つでもありましたから……」

「皆、そろそろ思い出話はその辺に。大方準備は完了した。席に座ってくれ」

 

 セアノサスが語り終えたすぐあとで、ジョニーが再び幹部達に声を掛ける。

 彼等だけでなく他の団員や冒険者、一般市民達に声を掛け、それぞれ用意した椅子に座るよう促した。

 

「協力に感謝する」

 

 ジョニーは全員が椅子に座るのを見守ると謝辞を述べ、檀上に立つ。

 彼の声は低く、人々に厳粛なイメージを与えた。

 そしてその姿はやはり威厳に満ち溢れ、鋭い眼光、堂々とした立ち振る舞い、何者も寄せ付けない雰囲気を放ち、それらは人々に少しの緊張感を与えた。

 

「聖炎葬をする前に、俺から少し話しておきたい事がある。サビターについてだ」

 

 

 

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