(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第105話 変態探偵アリーシアじゃん

 

「と、いうわけで俺はこうして蘇ったってわけ。お分かり?」

 

 俺は地獄堕ちから復活までの経緯を一通り語った。

 事の詳細をちゃんと教えてやったのに、しかし語った後の奴等の反応と言ったら、

 

「いや最後のは何ですか!?怖すぎるんですけど!?」

「ほねほねになるまでの経緯がこわいよォ〜!」

 

 アリーシアは戦慄しながら青ざめた表情で恐怖で身悶えし、そしてタマリは泣き出した。

 

「つまりお前はアレか、神に会ったという事か?」

 

 アルカンカスが状況を整理するため眉間を右の親指と人差し指、そして中指で揉みながら俺に聞いた。

 

 あっ、コイツ今中指立てた?

 

「テメェ!何度も俺に中指立てるとは良い度胸だなオラ!どいつもこいつも馬鹿にしやがって!許さんぞ!」

 

 俺は反射的にアルカンカスを叱咤し、兇弾した。

 もはや今の俺は人間の指を見るだけであの忌々しい骨野郎を思い出し、怒りで身体を満たしそうだった。

 

「なにいってんのサビター?アルカンカンは中指なんかたててないよ?」

「アルカンカス、だ」

 

 タマリの言葉にアルカンカスは付け加えるように喋る。

 

「女神っていうからどんな神々しい女かと思えば、案外俺達みたいな俗っぽい人間みたいな奴だったな。あっ、でも地獄はマジであったぞ。もう二度と行きたくないな。俺、これから真人間になって天国に行くぜ!」

「「サビター(さん)がァ〜?」」

 

 アリーシアとタマリが眉間に皺を寄せて口をへの字に曲げながら胡散臭いものを見るような目で俺を見て言った。

 

「人間の汚い部分煮詰めて結晶化したようなサビターさんがァ〜?諦めた方がいいですよ、どうせ無理です」

「そうそう」

「うるせぇぞ脛に傷ありのロクデナシ共が!俺は今日から正義マンになる!ゴミは拾うし老人は甲斐甲斐しく助けるし日々感謝して生きていくんだ!」

「良い人になる理由が地獄に行きたくないって、それで良いんですかね」

「まぁ宗教は人間が悪い事をしない為に人間が作ったんだからそれが上手く機能しているからいいんじゃないか?」

 

 アリーシアが唸りながら疑問を口にしているとアルカンカスが鼻で笑いながら俺を見て言う。

 

「ヨシ!それじゃあ今までの事はもう水に流して、俺は良い人間になる!それで良いなお前ら!」

 

 俺の無理やり納得させるような声に、全員は渋々、適当に、はいはいと頷く。

 

 一人を除きながら。

 

「サビターさん。私はまだ納得していないんですけど」

「…ナニ?」

 

 俺は「ハァ〜〜〜」と長いため息を吐きながらセアノサスを見据える。

 

「私達を散々騙しといてその態度は何ですか?まだ反省が足りないのでは?」

「お前こそなんなワケ?もう謝罪もしたし弁明もして生き返ったのに、まだなんか文句あるんか?」

 

 俺が「あん?」と睨んで凄んだその時、セアノサスはダァンと机を両手で叩いて「それだよその態度ォ!」と叫んだ。

 

「私はまだ全然許してないからっ!死んだふりなんかしてホントに死んで、そのまた更に死んで生き返るなんて馬鹿にするにも程があるっ!」

「「「確かに」」」

 

 セアノサスの言葉に俺以外のバカ3人は同じ言葉同じ口調でハモる。

 

「いちいちそんな事気にすンなよ!ケツの穴が小さ過ぎるんじゃねぇのか?」

「ケツの穴小さいのは可愛い女の子の証だから!」

「それおしりが小さな女の子であってアヌスは関係ないのでは…?」

 

 セアノサスの言葉にアリーシアがクソほどどうでも良い訂正を加えながら訝しげにメガネをクイッと指で押し上げて呟く。

 

「反省しろっ!このっこのっ!」

 

 セアノサスはそう言って俺に近づき俺の頭を叩き始めた。

 

「痛ェ!痛ェ!このアマ!調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 俺は負けじと右手で彼女の両頬を掴み、激しく揉み始めた。

 

「ぐわぁ!何するの!やめろ!」

 

 俺とセアノサスはお互いの頬を引っ張ったり壁に押し付けあって何度も何度も衝突し合った。

 

「もう帰りましょうか」

「「賛成」」

 

 アリーシアの提案にまたもや全員意見があった3人はドアのベルを鳴らしながら店を出た。

 この状況で自分達が出来る事は何もない。

 後は二人で辞退に収集をつけて仲良くしてもらおう、3人は言葉に出さずとも魂で理解し合い、それぞれ帰路へと戻って行った。

 

 サビターとセアノサスは己の手で店を壊しながら喧嘩を一晩中続けていた。

 

 そして、時間はあっという間に過ぎ、朝日が昇った。

 

「おはようございます」

「おざーす」

「……」

 

 アリーシア、タマリ、アルカンカスの3人はそれぞれ挨拶をしたりしなかったりしながらドアノブに手をかけ、捻って扉を開ける。

 アリーシアがドアを開け、それぞれタマリとアルカンカスを通す。

 

 開けてみると店内は酷い有様だった。

 嵐が通り過ぎた後のように店内は荒らされていた。

 椅子は無造作に放置され、皿やフォーク、ナイフと言った食器類が割れたり割れていなかったり、状況は良くなかった。

 

「どれだけ憎み合っていればこんな有様になるの……?」

 

 アリーシアは力が抜けるようなため息を吐きながら店内を回る。

 

 そこで彼女は何かを踏んだ事に気づいた。

 固い物ではなく薄く柔らかい、布のような物だ。

 

「……?」

 

 アリーシアは何を踏んだのか確認すべく、足を退けて床に落ちていたある物を拾い上げる。

 

「……これは」

 

 アリーシアは拾った物をまじまじと観察する。

 

 それは、触れればサラサラとした心地の良い手触りにオートクチュールのような豪華な装飾の刺繍が施された桃色の──

 

「パンティーだ!」

 

 タマリが目を輝かせて指を差して叫ぶ。

 そう、床に落ちていたのは下着だった。

 しかも女性用の、だ。

 下半身用だけでなく上半身用のブラジャーまで落ちていた。

 

「このような女性の下着が何故ここに……そしてタマリ、パンティーではなくパンツと言いなさい」

「かわんないじゃん」

「いえ、パンティーは少々スケ…淫靡な表現。パンツ、又は下着の方がまだ美しい言い方です」

「かわんないじゃん」

 

 不満気なタマリに振り返る事なくアリーシアは顔を険しくさせ思案に耽る。

 

「この下着、普通の下着とは明らかに質が違う。まるで殿方を誘う為に作られたようなエロ…エロティックな仕立て……何故こんなところに、このタイミングで……」

「エロもエロティックもかわんないじゃん」

「気持ちは分かるが彼女の戯言に付き合っていたらキリがないぞタマリ」

「わかったよアルアル」

「アルカンカスだタマリ。俺の名前はパンダのようなありきたりな名前じゃない」

 

 タマリとアルカンカスが笑いながら話していたがアリーシアの推理は未だ止まる事はなかった。

 

「この刺繍……これは巷でも有名な仕立て屋で施されるデザイン。これだけで私の給料2ヶ月分。一体誰が、どのような目的で……」

 

 そう言ってアリーシアはピンク色の下着を自分の顔に近づけ、スン…と一嗅ぎした。

 

「え」

「ア、アリーシア?お前何を……」

 

 アリーシアの奇行に目をギョッとさせて驚いた二人は驚きと恐怖がないまぜになったような顔でお互いの顔を見合いながらアリーシアを見る。

 

「使い込まれた形跡は極端に少ない。買ってからまだ数回、少なくても一、二回程しか使われていない。劣化具合を見ても買ってからまだ日は浅い……」

 

 アリーシアはの顔つきは先程よりもさらに険しくなり、完全に別人の顔と化していた。

 そんな彼女にタマリとアルカンカスは完全にドン引きし、引き攣った表情になっていた。

 

「変態探偵アリーシアじゃん……」

「アリーシア……」

「シッ!静かに!誰か、います……!」

 

 アリーシアは人差し指を自分の口に当て姿勢を低くする。

 

「いや、どうせサビターとおししょーでしょ」

 

 タマリがそう言った時、「ん?」と自分で放った言葉に疑惑の感情が生まれた。

 何故サビターとセアノサスしかいないこの店に女性用の下着が落ちていたのか、何故?そう考えているうちに、二階の階段からギシギシと音が聞こえてくる。

 

「全くお前は一度始めたら止まんねぇな。危うくやり過ぎて死ぬ所だったぜ」

「貴方が死なないのは私が一番よく知ってる。だから一晩中ぶっ通しで朝までしてたんじゃない」

 

 男女の仲睦まじい雰囲気の声が二階から一階に下る度に大きくなっていき、彼らの全貌が見えてくる。

 

 現れたのは黒のボクサーパンツのみを履いたサビターと、ピンク色の布面積の極端に少ないネグリジェを着用したセアノサスだ。

 それだけではない。

 サビターがセアノサスを俗に言うお姫様抱っこをしながら階段を降りてきていた。

 

「は?」

 

 アリーシアは目を大きく見開きながら大口を開けて呆けた顔をしながら見上げていた。

 タマリやアルカンカスもまた、びっくり仰天といったような表情であんぐりとまた口を開けながら呆然と見続けている。

 

「お前キスマ付けすぎ。簡単には消えねーぞこれ」

「良いんじゃない?どうせ治るんだし。いくらでもつけ放題って事でしょ?」

 

 そう言ってセアノサスは両腕をサビターの首元に回し、彼の頬にキスをした。

 サビターもまた「オイオイ」と言いながらも満更ではない表情をしていた。

 

「お前なぁこのドスケベおん…な……」

 

 ところが途中でサビターはアリーシア達が店に入ってきている事を視認し、それに気づかないセアノサスは未だにサビターに子猫のように甘えていた。

 

「セアノサス、おい、セアノサス。おいって」

「なによ……もう少しこうさせてよ私の王子様……」

「いや、アイツら来てる」

「えぇ?アイツらってだ、れ……」

 

 セアノサスはチラリと視線をサビターから前方にいるアリーシア、タマリ、アルカンカスのいる方へと向ける。

 セアノサスは暫し思考が完全に停止し、理解できない物を見るかのような目で見つめていたが、次第に状況を理解し、つま先から頭の先端まで彼女の着ているピンク色の服よりも濃い色へと紅潮させ、涙目を浮かべた。

 

「あ、あ、あぁ……!!」

「どうやら、お楽しみだったみたいですね……」

 

 そう言って、アリーシアは手に持っていた下着の匂いを軽く息を吸い込んでそう言った。

 

「い や あ あ あ あ ! ! !」

 

 セアノサスは街中に響き渡る程の声量で叫んだ。

 

 サビターの鼓膜は破裂した。

 

 

 

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