(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第108話 あの性獣共を人間に戻そう

「彼等の肉体的接触を中止する方法……それを成功させるのはタマリ!貴方です!」

「えぇ?ぼく?」

 

 私の名指しの指名にタマリはビクッとしながら驚いた顔で私を見つめる。

 

「ほう、タマリがどう活躍するんだ?」

 

 アルカンカスさんは私の話に興味を持ち始めたのか身体を前傾姿勢にさせて耳を寄せる。

 

「タマリ、貴方は錬金術士セアノサスさんの一番弟子であり魔法薬学のエキスパート。貴方のその類稀なる才能を発揮すれば、セアノサスさんをライラさんに戻す事も可能ということです!」

「ぼ、ぼくが?おししょーと同じ薬を作るってぇ?」

 

 タマリはとぼけた顔をして「いやいやいや」と手と首を横に振る。

 

「ぼくまだ見習いのレベルだよ?おししょーのアレは肉体を細胞レベルから変化させるすっごい難しいんだよ?いうならば身体を作りかえる薬。ぺーぺーのぼくにできるようなものじゃないよ」

 

 タマリはそう言って自信なさげに徐々に声量を小さくさせる。

 この子にはセアノサスさんという存在は尊敬もしているけど、それと同時にとてつもなく高い壁だと感じているのだろう。

 

「でも私は知っていますよ。貴方がセアノサスさんに追いつくために、日々錬金釜で技術を磨いている事を」

 

 私はそんなタマリに励ますように優しく声を掛ける。

 ただ慰めたり元気づけるだけの言葉じゃない、私自身が心から思っている想い。

 タマリは今はまだ錬金術士としてはまだ低い位置にいるのかもしれない。

 でも私達はこの子が店の営業が終わった後でもセアノサスさんに教えを乞い、実践していることも、いつも大量の付箋が付いた錬金術のレシピ本を読んで勉強していることを知っている。

 

「ああ、それは俺も知っている。今はセアノサスには及ばないが、そのうちお前は彼女と並ぶ錬金術士になれる」

 

 アルカンカスさんも考えている事は同じだった。

 ただでまかせで言っているわけじゃない、この子なら出来ると、私達二人は心の底から信じている。

 

「それに貴方は錬金術士見習いであると同時に魔法使い。二つの力があるんですから、彼女とは違う別の道を行く事だってできます」

 

 私はタマリの手を包み込むように握り、元気付けるように声をかける。

 

「たまには師匠の影に隠れず、実力を誇示しても良いのではないですか?」

「……」

 

 タマリは少しの間俯いて黙った後、顔を上げ私の目を見た。

 

「わかった。ぼく、やるよ。おししょーをちっちゃくしてみせる」

「それでこそ男の子!貴方には期待してますよ!」

「じゃあ、いくつかためしたい素材があるからふたりとも採取をてつだって」

 

 タマリはそう言って紙にペンを走らせ、材料名を書き出した。

 タマリのやる気も引き出し、後は私とアルカンカスさんで素材を拾ってくるだけ。

 

 それから私達は仕事が終われば材料採取のため、市場へ行ったり王国の外などに出かけ魔物を狩り、その魔物の肉や爪、そして骨なども採取した。

 材料をタマリに渡し、あの子が自分の家で錬金釜を用いて錬金術で試作品を作り、研究をする。

 仕事が終わればそそくさと帰る私達にサビターさんとセアノサスさんは全く疑いの目を向けなかった。

 ずっこんばっこんするのに夢中で私達の事などどうでも良いようだ。

 普通一度行為が終われば賢者の時間に入るはずだがあの人達は一生おバカなので賢者になる事は生涯ないだろう。

 

 タマリが試作品を作り、失敗する。

 私とアルカンカスさんで日々異なる材料を調達し、タマリが錬金術で試作品を作り、またもや失敗する。

 

 調合、失敗、調合、失敗、失敗、失敗、調合、失敗、調合、調合、調合……

 

 私達が材料調達するたびにタマリは試作を行い、何度も調合と失敗を繰り返し、しかし繰り返す毎に改善を何度か繰り返し、精神と身を少しずつ削りながら2週間が経過したある日の事…

 

 タマリは錬金釜に材料を投入して、あの子の2倍はある長さの杖をかき混ぜていた。

 タマリは集中していたからか風呂にも入らず休憩も取らず、髪はボサボサで目には隈が浮かんでおり、既に限界は近いかとうに超えていたが、目だけはまだ光が灯っており、真剣な表情で釜の中を混ぜていた。

 私達はタマリが倒れたりした時のためにいつでも介抱できるように様子を見守っていた。

 

「あっ…できた……」

 

 タマリのポツリと出た言葉を、私とアルカンカスさんは聞き逃さなかった。

 

「本当か?完成したのか?」

「見せて!見せてください!」

 

 私とアルカンカスはタマリを囲むように近寄る。

 タマリは手のひらサイズの小瓶の中に入った黄昏色の液体を私達に見せつけた。

 

「完成……その名もメタモポニータシロップ」

「メタモポニータシロップ……これでセアノサスをライラの時のように少女にできるのか?」

「ぼらんてぃあする人ー」

 

 タマリはそう言って私とアルカンカスさんを交互に見る。

 

「ああ、そういえばまだ実験はしてなかったですもんね……わかりました、私がやりましょう」

 

 私がそう言うと、タマリは小さなスプーンに小さじ半分ほどのメタモポニータシロップを舐めた。

 味はパンケーキに掛かっている甘い蜜のような味で、これがまさか人体の機能を弄ることが出来る薬だと気づく人間はいないほどよくできたシロップだった。

 舐めてから数秒経過しても特に変化はなかった。

 

「…特に何も変わら──」

 

 私は早とちりしてタマリにそう言おうとしたが、ここからが本番だった。

 私の手先が突然痙攣し、身体の自由が利かなくなる。

 そして瞬きをした次の瞬間には私の手は一気に縮み始めた。

 

「ひ……」

「わ、すご」

「これは……」

「い  や  あ  あ  あ  あ  あ  あ  !」

 

 タマリとアルカンカスさんが目を見張るように驚いた顔で興味深く私の腕を見ていた。

 私は恐怖によって顔が引きつり、絶叫した。

 しかも腕だけでなく、足が、胴が、頭が、私の身体のあらゆる部位が小さく縮んでいった。

 

「う、ウソ……私の身体、本当に子どもみたいに小さく……」

「はいすがたかがみ」

 

 タマリがえっさほいさと声を出して私の前に姿鏡を持ってきた。

 そこに映し出されたのは細く美しい脚、そして出る所が出たしっかり出ているグラマラスな体型ではなく、若さ溢れる赤ちゃん肌の延長線上のような小さくもちもちとした黒髪の少女の姿が映っていた。

 

「これが、これが私?しかも声が幼い…!?」

「やったぁ!調合成功だぁ!」

 

 タマリは私の姿を見て飛んで跳ねて喜んだ。

 その姿は年頃の男の子に相応しい明るくて柔らかい表情だった。

 

「すごい……すごいですよタマリ!本当に作ってしまうなんて!これをセアノサスさんに飲ませれば……!」

「ああ、サビターのサビターは機能停止し、セアノサスも身体的な事情によりそういった事もできなくなるな…!」

「あの、何かにはいりょされてます?」

 

 私の姿を見たアルカンカスさんも珍しく感情を表に出し、興奮気味に声に出す。

 

「さ、こーかはじっしょーできましたしもう元に戻して構いませんよ!」

 

 私はそう言ってタマリに両手を差し出す。

 子供の身体になったためか口内も舌足らずで子供のような喋り方になってもどかしい気分だった。

 

「…?なにしてるの?」

「じょーたい解除のお薬です!もう効果はじっしょーされましたからね!」

「そんなもの…ないよ」

「え」

 

 え、え。

 

「今作った薬はお師匠に使う物よりもすっごく薄めた物だから一日くらい経てば元に戻るよ」

「それを早く言ってくださいよ!あやうくいっしょーこのままだと思ったじゃないですか!」

「ふふ、大人のアリーシアだったら怖かったけど、子供のアリーシアなら全然怖くないし、なんなら可愛いかもね」

「ふんがー!」

 

 私は怒ってタマリを軽く叩き続けたが、「痛くない痛くない」と笑って受け止めていた。

 

「ふぅ、まぁいいですよ。ちゃんと戻るのなら。今日はもうおそいですし、あした、さくせんをかいししましょう」

 

 そう言って私は皆に向けて言うと、私も含めた全員が自信を持った顔で頷き笑った。

 

「あの性獣共を人間に戻そう」

「「おおっ!」」

 

 アルカンカスさんの言葉に私とタマリは腕を上げて声を出した。

 覚悟するがいいですよ、お二人共。

 明日で色欲に塗れた時間は終わりを告げるんですから!

 

 私達は明日の作戦を成功させるために、解散し身体を休めた。

 

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