(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第113話 責任?俺の一番嫌いな言葉だぜ

 

 スウィートディーラーは今日も盛況…というわけではなかった。

 

 店内は数人程の客がまばらにいて、テイクアウトをする者と店内で食べる者といたが、後者の方もそれもすぐに食べ終わり、店を後にする者達が大半であり、彼等の店は珍しく閑古鳥が鳴いていた。

 

 そのせいか、真面目なアリーシアも気が緩んで壁に寄りかかって天井を見つめていた。

 

「今日はお客さん、来ませんねぇ」

「良い事だ、その分俺が漫画を読める」

 

 暇を持て余したのか、アリーシアはサビターに話題を振って話しかける。

 サビターはあくびをして漫画を読みながら適当に答えた。

 

「いや全然良くないですけど。ちなみに何を読んでるんですか?」

「飯食った奴が裸になる漫画だ。面白ぇぞ。老若男女問わず全員全裸になるんだぜ」

「それだけの説明で面白さを感じることができるほど感受性豊かじゃないですよ」

 

 サビターはパラパラと漫画のページを指でめくりながら楽しそうに読んでいた。

 2日前に真面目に働くと宣言はしたものの、客が来なくては真面目に接客などできるものか、と彼はのたまい、足をテーブルにかけながらただ漫画を読んでいた。

 

「セアノサス、俺達も客の服が千切れる菓子を作ろうぜ。美味かったら絶頂して服がビリビリにはだけるような、そんな感じの菓子をよ」

「そんなお菓子作れるわけないでしょうが。ウチは健全なお菓子屋さんですよ?服が破けるとか絶頂するとか、そんな卑猥で危険な物を取り扱うわけにはいきませんよ」

「だが俺達は違法ポーションとかいう法に触れまくるを通り越して胸ぐら掴んでビンタするような行為を散々やってきただろう」

 

 アルカンカスの言葉にアリーシアは「あっ…」と呟いて黙り込むが、ハッとして何故かボーッとしているタマリの方へと顔を向けて助力を求める。

 

「タマリもそんな変なお菓子作るなんて反対ですよね?やっぱり作るのなら皆が美味しさで笑顔になれるようなお菓子を作りたいですよね?」

 

 アリーシアはタマリに半ば無理矢理にでも言わせようとしたが、当の聞かれた本人はというと、

 

「んぁ〜?」

 

 魂の抜けた目の焦点が合っていない顔と声で適当に答えると、また思案に更け始める。

 

「えっ……タマリ?どうしたんですか?」

「この子今日ずっとこうなのよ。声をかけても呆っとしてるし、でも錬金術はちゃんとやってるのよね。仕事はこなしてくれてるから良いけどいつも以上にアホの子になってるの。なんでこうなったか誰か知らない?」

「えぇ〜怖……」

 

 アリーシアはセアノサスの話を引きながらタマリを見る。

 タマリはドン引きされてもなんのその、「うぇぽぴ〜」と鼻水を垂らしながら錬金術で何かを作っていた。

 

「あれもう病院連れてった方がいいだろ」

「病院って、ウチのタマリは痴呆なんかじゃありませんよ!いい加減にしてください!」

「コイツ教師に特別支援学級勧められた時の母親の顔しながら言ってるぜ」

「妙に具体的なのは何故なんだ…?」

 

 アルカンカスが両腕を組んで首を傾げながら言うと、カランカランと店の来店を促すベルが鳴った。

 

「あっ、いらっしゃいませー」

 

 アリーシアは仕事モードに切り替えて姿勢を正し、店員として挨拶をする。

 店の中に入ってきたのは二人組の男達だった。

 一人は痩せ身で黒の半袖服と青のズボン、そしてハンチング帽を被った男、そしてもう一人は前者とは反対に、体型はふくよかではあるものの、これまた同じ服装を着た男だ。

 

「すみません、先日取材の連絡を致しましたキベルザと申します。私の隣はカラブです。店長さんはいらっしゃいますか?」

「取材ィ?」

 

 細い方の男、キベルザが自己紹介をしながらこの店の一番偉い人間を指名する。

 サビターは心当たりのなさそうな怪訝な顔をしていたが、この店の一番偉い人間はという質問に、彼は自身を持って応える。

 

「この店の一番上の人間は……俺(私です)(ぼくだね)(私よ)だ!」

 

 しかし実際に店の主は誰かという質問に何故かサビター以外にアリーシア、タマリ、セアノサスの三人が答えた。

 全員が全員顔を見合わせて「は?」といった顔をする。

 

「俺は店長兼オーナーだぞ。この肩書きの意味が分からないのかな?文字の読み書きはできるか?おれはてんちょーけんおーなーだぞ」

「私はこの店のお客さん達全てを捌き切る潤滑油ですよ?潤滑油が無い機械は錆びて動かなくなるんです。私こそ一番偉いと思いますが」

「いやいやあのね、この店はスイーツを売りにしてるの。そしてそのスイーツを作っているのは誰か、それはわ、た、し!私無くしてこの店は成り立たないんだから一番偉いのは私よ!」

「ぼくはそのコックちょーを支えるえんのしたのちからもち。日々材料の下拵えをしていつでも錬金術をすむーずにできるようにしてるんだから偉いのはぼくだよ」

 

 四人はそれぞれ自分の主義主張を通そうとし、お互いを睨み合う。

 

「お前等の言い分聞く限り、店内の掃除と皿洗いをしてる俺もその権力闘争に参加していいように聞こえるが」

「皿洗い如きが口出すんじゃねぇ!てめぇはキュッキュッと音立てて皿と床に泡つけてるだけじゃねぇか!調子乗んな!」

「いや、それは職業差別ですよ」

 

 アリーシアは冷静に指摘して反論する。

 サビターは「うるせぇ!」と論理的思考など微塵も感じられない声で黙らせようとした。

 

「あ、あの、ここの責任者は一体どちらでしょうか」

 

 カラブは恐る恐るキベルザの質問を少しニュアンスを変えて再度聞いたが、責任者という言葉を聞いた途端、サビターはみるみる内に高揚していた気分が下がった。

 

「責任者……?じゃあそりゃ俺じゃねぇな。責任って言葉は俺の人生には似合わねぇ」

 

 サビターは両手を肩の位置まで上げて首を横に振りながら否定する。

 

「いやこの人店長です。しかもオーナーです。めちゃくちゃ責任ある立場の人間です」

「そうね。サビターさんは店長さんですもの。そして私のマイスウィーテストラバー。色々とセキニンある立場の人間よ」

「ぼくただの助手。サビターが一番えらいです」

「この腰抜け共が……!」

 

 しかし、あれだけ誰が一番上か争っていたアリーシアが責任者という言葉が出た途端、三人は全員サビターに押し付ける。

 二枚も三枚も舌を持つ三人にサビターはピキピキと額に青筋を浮かべて口元をガチガチと歯軋りさせながら怒りを全身で表した。

 

「そ、それじゃあここの責任者はサビターさんという事でよろしいでしょうか?」

 

 キベルザがヒヤヒヤしながら姿勢を比較して伺うとサビターは眉間に皺を寄せて「あぁ!」と何かを思いついたかのように声を出す。

 

「ここの責任者は全員だ!誰が一番偉いとか無い!全員がこの店の責任者だ!そうだろオイ!」

 

 サビターはキラキラした目で無理やり全員肩に手を回し誤魔化すように大袈裟に笑って誤魔化す。

 

「うっわこの人私達にも被せてきましたよ」

「責任って言葉聞いた途端態度変えちゃって、流石責任逃れの天才サビターさんね」

「ガキかよ」

 

 サビター以外の四人が腐敗物を見るような光の灯ってない目つきで睨む。

 

「そうですか、わかりました」

 

 キベルザとカラブはこの問答にはキリがないと悟ったのか、話を進めようとする。

 キベルザは茶色の肩掛け鞄から一枚の紙を取り出してサビター達全員に見えるように差し出した。

 

 

「実は私、魔導テレビのディレクターをやっておりまして、スウィートディーラーさんのドキュメンタリー番組を制作させて頂きたいんです」

 

 

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