(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第115話 インタビューは意外といらない事まで喋ってしまうものだ

 

 サビターの取材許可が降りてから一日が経過し、ドキュメンタリーの撮影が早速開始された。

 

 黒い精密機械がサビターをレンズ越しに捉え、長い棒の先端に着いた灰色のふわふわしたボンボンのような物がサビターの真上に見下ろすように掲げられていた。

 

「本日は撮影の許可を頂き誠にありがとうございます。先ずは改めて自己紹介をして頂いてもよろしいでしょうか」

「自己紹介、ねぇ……そんなもんする必要あるのか?俺が誰だか分からないってこたぁねぇだろ?」

「ドキュメンタリーで自己紹介しない奴いないでしょうよ」

 

 したり顔で頬杖をつきながら言うサビターにアリーシアが突っ込む。

 

「いえ、流石サビターさんです。カメラの前でも極悪なアウトロー感がしっかり出てますね。その調子で取材を受けてもらって問題ないです!」

「だってよ?」

「えぇ…?」

 

 明らかに調子に乗っているサビターを肯定するキベルザと、それに対して首を高速で縦に振るカラブ。

 

「まぁ知らない奴もいるかも知れないから教えてやる。俺は不死身のサビター、この店のリーダー。この国最強のギルドの冒険者、ぜってぇ死なない傭兵だ」

「え、え、なんですいきなり?」

「なんでラップでじこしょーかいしてるの?」

 

 アリーシアとタマリが目を見開きながらサビターを見やった。

 サビターはいつの間に準備をしていたのか黒い鋭利な三角形の形をしたサングラスと金のゴツゴツしたネックレスを身につけてガムをくちゃくちゃ噛みながらラップを続けていた。

 

「俺は生粋のアウトロー、トーシローみてぇなどーしよーもねー奴等とこの店切り盛りしてる一番偉い奴さ」

「何をするかと思えばBボーイなファッションでラップて……サビターさんのアウトロー観って案外普通なんですね…」

「あぁ!?ディスるんならラップで来いや!いつでもやってやるぞ女ァ!」

「ハァ!?女ってなんですか女って!急にラップしてんじゃねーよ気持ち悪ぃからよォ!」

 

 サビターとアリーシアは互いの額を擦り付けながら喧嘩口調でお互いを罵り合う。

 

「はは、ばかでぇ〜」

 

 タマリはその様子をスナック菓子を食べながら愉快そうに見ながら言った。

 その隣にセアノサスとアルカンカスも並び、タマリからお菓子を分けてもらいながら鑑賞していた。

 

「あの、彼女はいつもあのサビターさんに喧嘩をふっかけているのですか?」

「アリーシアっていうか、私達全員ね。皆サビターの事この店の一番偉い奴なんて思ってないのよ。上も下もないって言えば聞こえは良いかしら」

「は、はぁ……」

 

 キベルザは困惑しながらカメラを言い争いをしている二人にフォーカスする。

 

「俺はバッドのBのBボーイだゴラァ!」

「ボーイって年じゃねーだろぉがよ35のおっさんがよぉ!」

 

 アリーシアとサビターはにらみ合いから殴り合いにまで発展した。

 アリーシアがサビターの金髪を掴み彼の右頬を殴った。

 サビターは引き下がるまいと負けじとアリーシアの胸倉を掴んで揺さぶる。

 すると彼女の白いチャイナドレスの下に隠れている豊満な胸部がブルンブルンと揺れて動く。

 

「ちょ!?何変なところ触って、あまつさえ引っ張ってるんですか!やめてください!」

 

 アリーシアは顔を赤面させて胸元を手で隠そうとする。

 しかしサビターは完全に頭と下半身に血が回っているのかまるで彼女の話など聞き入れない。

 

「あっやばい。こどもにはみせられないしーんがこれから始まっちゃう」

「そろそろ止めるか」

「仲が良いのは結構だけど、乳繰り合うような所は見たくないわね」

 

 そう言ってタマリ、アルカンカス、セアノサスの三人が喧嘩をしている二人を仲裁するために割って入り、止めようとする。

 

「あ?なんだ?俺達今忙しいんだよ。コイツの乳剥ぐのに忙しいんだ出直せ!」

「それを聞いたら尚更止めないといけないだろうが。カメラがあるんだ見苦しい真似はさっさとやめろ」

「アリーの胸はぼくのものだよ~」

「そんなにおっぱいを見たいなら私が見せてあげるからやめなさい」

「お前のジュニアボディなんか興味ねぇんだよ!そんなに見せたけりゃおっぱい体操でもやって胸デカくしてから出直してこいや!」

 

 サビターのあまりに無遠慮な言葉にセアノサスは「かっちーん」と言葉にして怒りを露わにする。

 

「だぁれが好きでこんな身体になったと思ってんのよ!元はといえばこの節操なしのゾウさんがいけないんでしょ!?」

 

 セアノサスはサビターと同様に完全に怒りで我を失いながら彼に飛び掛かってぽこすかと顔を殴り始めた。

 

「うわぁこれやばいよしゅーしゅーつかない」

 

 タマリがあわあわと右往左往しながらアリーシアの乳を溢れさせようとしているサビターとそれを阻止するために引き剥がそうとするアリーシア、そして自分の身体を貶された事に腹を立て、サビターの顔を引っ張るセアノサスという混沌を極めた様子が写っていた。

 

「オイ、これ以上はまずい。一旦カメラ止めろ」

 

 アルカンカスは呆れながらもキベルザとカラブの前に立ち塞がってカメラを止めるよう言い放つ。

 

「あ、ああでもこんな良い映像、もう少しだけ撮らせて頂いても……」

「いや、これ以上はこの店のイメージに関わるからやめてくれ」

 

 そう言ってあるかんかすはカメラに手を翳して撮影を半ば強引に中断させた。

 キベルザは渋々カメラの電源を切り、カラブは「仕方ないですよ」と言いながら宥めるように言う。

 

 サビターとセアノサスとアリーシアの喧嘩が収まるまで撮影と開店は中止し、一通り落ち着いた所をキベルザ達はそれぞれ一人ずつインタビューを行った。

 

「そ、それではサビターさん。何故あなたのお店の従業員達はあなたに暴行を?ほとんど乱闘に近いものでしたが……」

「さぁ?アイツら脳味噌足りねーからだろ。もう少し頭に栄養持っていって欲しいもんだけどなぁ」

「次の質問です。貴方は何故ギルドの冒険者を辞め、このお店を開いたのですか?」

 

 キベルザの質問にサビターは「あー…」と三秒程間を空け、鼻から一息吐き出す。

 

「自分から進んで辞めたわけじゃねぇ。辞めさせられたんだ。無実の罪でな。俺は真面目に仕事をしてたのにアイツ等俺の力を妬ましく思ってでっち上げの罪を俺に着せて追放したのさ。そんな時にライラ…いやセアノサスに出会ったんだ」

 

 サビターはそう言うと視線をセアノサスに移し、インタビューの対象を彼女に切り替えた。

 

「セアノサスさん。我々が調べたところ、貴方は元ニーニルハインツギルドの回復術士を務めていたとか。そして今は錬金術士へと職を変え、このお店で働いていると。その辺をくわしくお聞かせください」

 

 キベルザにそう聞かれたセアノサスは「うーん」と困ったような笑顔を浮かべてどう答えようものかと思案していた。

 

「長くなっちゃうから割愛させてもらうけど、私は回復術士として思い悩んでいた時に、サビターさんに救ってもらったの」

 

 セアノサスはサビターをチラリと見ながら語る。

 

「当時サビターさんには問題があって、あの人の助けになりたいと思ったけど、当時の私は力不足だった。このままじゃダメだって思って錬金術師に弟子入りして修行したの。10年くらい時間がかかっちゃったけど、成長した私を見せて驚かせるために変装して彼の元に現れたら何を思ったのか、あの人いきなり私を襲ったのよ」

 

 セアノサスの言葉にうんうん頷いていたサビターは突然ビクリと止まり、「あ、オイ」と声を掛けた。

 

「襲ったとは?」

「性的に、よ」

 

 セアノサスは顔をポッと赤く染めながら口元を手で隠しながら言う。

 サビターは「その話はやめろ!」と苦そうな顔をしながら遮った。

 

「私は最初お金を稼いでギルドの連中を見返すために違法ポーショ……オッホン!人々の為になるお菓子屋さんを開業しないかって誘ったの。この国では酒場は沢山あってもお菓子屋さんはないから、老若男女問わず沢山の人が来るだろうって思ってね。そしたら私の読み通り大反響!今では沢山稼いで、愛しい人と楽しい日々を過ごせているわ」

 

 そう言って彼女はサビターの腕にするりと自分の腕を絡ませ、身体を密着させる。

 

「セアノサスさん、貴方はサビターさんと恋愛関係にあるのですか?失礼ですがその、大分年が離れているとは思いますが……」

「あら、こう見えても私は20はとっくに超えてるわよ?ただ、ある日あの子たちに薬を盛られてこんな身体になっちゃったの。早く私も元の身体に戻りたいけど、戻しちゃ嫌だって反対されちゃって……」

 

 あの子たちとセアノサスが言った視線の先にはアリーシアとタマリとアルカンカスの姿があり、再度インタビューの対象が差し代わる。

 

「私とタマリはバイト募集の張り紙を見たのがきっかけです」

 

 アリーシアはタマリを膝の上に座らせながらインタビューに答えた。

 

「元々冒険者をやっていて、個人的な事情でお金が必要だったのもそうですが、お客さんに素敵な時間を過ごさせる事ができるというのも魅力的でこのお店に入りました。サビターさんがちょっとアレなのは難点ですが、それ以外は楽しく働かせてもらってます。私、お客さんのお菓子を食べてる時の笑顔が大好きです!」

「それは素晴らしい心がけですね。一つ小耳に挟んだのですが、アリーシアさん、貴方は裏社会でスティンガーと呼ばれる殺し屋だったという噂があるのですが、これは本当でしょうか?」

 

 今度はキベルザではなく、カラブがさりげなく質問をした。

 こんな人当たりの良い綺麗で優しい女性がまさか冷酷殺人鬼なわけがないだろうと半ば冗談のつもりで聞いてみたつもりだった。

 

「あっ…そっ、そんなわけ、ソンナワケナイジャナイデスカー!ヤダナモー!」

 

 アリーシアは目が上下左右あらゆる場所にホッケーみたいに縦横無尽に移動して顔を青ざめさせ、冷や汗を滝のように流しながらガタガタガタガタと身体を激しく痙攣させながらカラブの言葉を否定した。

 

「そうですよね。アリーシアさんみたいな人が、あの標的を指先一つで相手を木っ端微塵にして破壊する殺戮暗殺マシーンなわけないですもんね!ははは!」

「そ、そうですよもー!あんまり笑えない冗談言ったら人差し指で魔孔を突いて爆殺しますからねー!」

「えっ」

 

 アリーシアの妙に具体的な殺し方に違和感を感じたカラブは目を丸くしながら彼女の言葉を聞き返した。

 

「えっあっいや」

 

 それに対して口を滑らせたアリーシアはあっやべと口をあんぐりと開けて視線が明後日の方へと向きながら「あっえーと」などと苦し紛れに考えるフリをしていると、

 

「次は俺にも質問してくれないか?初めてのインタビューなんだ俺も早く体験したい」

 

 それを見かねたアルカンカスが彼らしくない柄にもないことを言って視点を自身に向くようにさせる。

 キベルザは「あまり時間があるわけでもないですし、そうですね」と言いながらアルカンカスにカメラを向ける。

 カラブだけが何か得体の知れない、凍りつくような違和感を感じていたが、取材はそのまま続いた。

 

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