(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第117話 僕達が撮りたいのは①

 

「それでは、仕切り直して、お次はサビターさんについて深掘りさせてください」

 

 

 キベルザとカラブはサビター達から謝罪の証としてもらった白いTシャツと黒い短パンの替えの服に着替えた後、改めてサビターにインタビューを始めていた。

 

「その服は私の錬金術で作った特別製よ。汚れたら自動的に浄化するし、劣化防止作用も含んでいるから、百年着ても大丈夫だからね」

「本当ですか?セアノサスさんは本当に優秀な錬金術士なんですね……!」

 

 カラブがそう言うと、セアノサスは「そんなないけどぉ~」と言って鼻を伸ばしながら照れていた。

 

「セアノサスさん、なんであんなに美味しいお菓子や服も作れるのにほんの一雫のエッセンスのつもりで変な物を作るんですか……?」

「さぁ?バカなんだろ」

 

 サビターはチラリとまた天才的なものを作ってしまったと誇らしげな顔のセアノサスを見て、「バカでも俺の女だからな」と笑って言った。

 

「それで深掘りって言ってたが、俺の何を聞きたいんだ?」

「頭からつま先までです」

「それ尺に収まるんですか?」

「まぁそこはうまく編集してくれるだろ、楽勝楽勝。それにしても、俺の過去か……」

 

 サビターは顎に手を当て、考え込むように俯く。

 彼は己の記憶の中で過去を振り返り色々あったな、と笑って口を開き始める。

 

「あの頃は生きてるだけでも儲けモンて言えるくらい死がありふれた国だった。残飯食らったり盗みもしたし、必要なら殺しもやった。殺伐とした思い出しかないな」

 

 サビターの思い出語りにウゲェ、と舌を出して吐く素振りを見せるタマリとアリーシア。そんな様子をサビターは「あぁん?」と怪訝な顔で睨みつける。

 

「30年前のウィルヒルは戦争全盛期で、今よりも過酷な環境で貧富の差が激しく、辺りには死体が転がっているのが普通だったとか。当時まだほんの子供だった貴方が、どうやって今日まで生き残ってきたのですか?」

「赤子の頃から俺は強かった、とは流石に言えないな。俺がガキの頃、ある男が俺にこの街での戦い方を教えてくれたんだ」

「えっ?サビターさんにもセンセイが居たんですか?初耳です」

 

 アリーシアは心底意外、といったようなハッとした顔でサビターに言う。

 

「だから今話してるだろ。ソイツからはたくさんのことを学んだぜ。魔力持ちの弱点の見つけ方と攻め方、銃の使い方にどれくらい殴れば人は死ぬか、多対一で勝つ方法、色んな事を学んだ」

「まともな教育をしていないのはわかりました」

「まぁソイツは俺がガキの時の時点で今の俺と同じ年齢だったから、もうジジイだろ。既にくたばってるかもな」

 

 サビターは鼻で笑いながら語る。

 

「でももしかしたら生きてるかもしれないじゃないですか。会いたいとは思わないんですか?」

 

「その方の名前は?もしかしたら我々の方で探せるかもしれませんよ?」

 

 アリーシアとキベルザはサビターに進言するが、サビターは手を左右に振って「いやいや」と言って否定する。

 

「今更会いたいとも思わねぇよ。俺に生きる術を仕込んだのもアイツの気まぐれだしな。俺からしたらありがたかったが、礼を言う為だけに会う気はないな」

 

 取材陣の二人は「そうですか…」と若干残念そうな様子で言うと、気持ちを切り替え、「それでは」と次の質問へと移行する。

 

「今度はサビターさんをよく知る人物達からインタビューを行なっていきたいと思います」

「ん?インタビューならもうこいつらにしただろ?」

「いえ、これから質問を伺うのは、スウィートディーラーの方々よりもより深く親交がある方達です」

 

 そう言ってキベルザは言うと、カラブが店のドアを開けて誰かを中に引き入れた。

 

 そこに現れたのは、サビターのかつての仲間であるニーニルハインツギルドの幹部達だった。

 全員ではないが、『透視』のイアリス、『剛腕』のナックル、『癒し』のキルラ、『番犬』のギズモ、『魔導』のフログウェール、五人の幹部が店内に入り、椅子に座る。

 

「ジョニーや残りの幹部は来てないのか」

「うん。団長や他の幹部達は任務があったり、密偵や書類仕事とかでタイミング悪く手が離せない状況なんだ。ホントは全員でここに来たかったらしいよ」

 

 ギズモがワンと吠えながら機械音声で答える。

 

「アイツ忙しそうでよかったわ。全員で押しかけられたら危うくダンスフロアになるところだった。それにしても、お前ら暇なのか?」

「そう言うなよ。居場所が変わっても俺達は仲間だろ?楽しくやろうぜ」

「お前その仲間に顔の形変わる威力のパンチ繰り出したの忘れたのか?」

「顔の形が変わったとしても、お前は俺の仲間さ!」

 

 サビターの顔面が真っ赤になり、怒りがマックスになり、腰にあるB.B.に手を添えるが、イアリスがサビターの目を見据える。

 お前のやることはわかっている、と目で言われたサビターはバツが悪そうに手からB.B.を離し、うんざりした表情で「それで?」と言う。

 

「コイツらから俺の何を聞きたいんだよ?」

「それは勿論、昔のサビターさんの脂が乗りに乗りまくっていた時の伝説ですよ!昔の貴方を知る面々なら何かメディア映えする話が聞けるかもしれません、いや聞ける、いや聞く!」

「乗りに乗ってるのは貴方達では……?」

 

 アリーシアはそう言い、ソソソ…とイアリスの元に近づき、こそこそと彼女に耳打ちをする。

 

「あの人達ちょっと怪しいんですよ。サビターさんを英雄視したり神格化したりしてるんです。ありえないですよね?絶対何か悪い事を企んでるはずです。少し心を覗いてみてくれませんか?」

「確かに。あんな俗物を尊敬するなんて天地がひっくり返ってもありえないわ。少し覗いてみましょうか」

 

 そう言ってイアリスは目に翡翠のような光を宿し、文字通り目の色を変えた。

 二秒ほど経過した次の瞬間、イアリスは目をカッと見開いて手を口に当ててえづき、突然何の前触れもなく嘔吐した。

 

「えええ!?ちょっ、大丈夫ですかイアリスさん!?」

「あ、ありえない……あの二人、サビターをハリウッド映画顔負けのフィルター加工して本気で崇めてるわ!し、しかもレモン頭の化け物がチラついてキモ、キモチワルイ……」

「おいタマリ。洗面台に案内してやれ」

「うい」

「私も行くわ~魔法で気分を和らげてあげなくちゃ」

 

 イアリスはタマリとキルラにお手洗い室に案内され一時的に姿を消し、三人を覗いた一同は困惑の表情で彼女等を見つめていた。

 

「いきなり来て吐く奴がいるかよ。アイツ大丈夫なのか?病気なのに無理して来たんじゃねぇだろうな?」

「んなこたないさ。さっきまでは健康そのものだった。見たところお前を見て吐いてたな。顔が気持ち悪かったんじゃないか?」

「その無駄にデケェ筋肉削いで豚に食わすぞコラ」

「おうやるか?そのお腰につけたおもちゃで俺と戦っても結果は決まってると思うがな」

「ちょっと!喧嘩はやめてよ!」

「若い奴等は血気盛んで結構結構……」

 

 サビターとナックルの間で一触即発になり、それをギズモが宥め、フログウェールが見世物を見るかのように笑う。

 

「ていうかナックルも人の子と言えないじゃん。ギルドに入った理由、なんだっけ?」

「ああ、合法的な理由で人を殴れるからな。うっかり殺しても全員悪人だから感謝されるんだよ。自分の趣味が活かせるのは最高だぜ!ギズモ、お前だってギルドで幹部やってる理由は?」

「ただそこにいるだけでお金が貰えるから。しかも悪い奴噛み殺せばもっとお金が貰えるからね」

「お前も大体ろくでもねぇな!」

 

 ナックルとギズモは大声でわっはっはっと笑う。

 その様子に何故かキベルザとカラブは満足そうに頷いていた。

 

「やはり貴方達を連れてきて正解でした。これならサビターさんの過去を深堀りすることができそうです」

 

「ああそうか。サビターの過去について聞きたいんだったな」

 

 ナックルが話を戻すように言うと「まずこいつはな」とサビターを親指で示すと

 

「コイツは口は悪いが良い奴さ。色々法に触れてる時もあるが、仲間や弱い奴にはなんやかんや言いながら手を差し伸べる男だ」

 

「え……?あ、あのサビターさんが、てすか?」

 

 キベルザやカラブは面を喰らうような表情で驚く。自分達の予想していた答えとは大分かけ離れていたようだ。

 

「サ、サビターさんは敵も味方も強者も弱者も己の糧になるなら何の躊躇いもなく駆逐する人ではないのですか!?」

「そ、そうですよ!我々はそんなサビターさんだからこそ尊敬しているんです!」

「流石に言い過ぎだろそれ。そこまで俺は鬼畜じゃねぇよ」

 

 キベルザとカラブが困惑しながら捲し立て、その言葉にサビターは呆れた口調で言う。

 

「確かに、そう思われても仕方がない人相はしていますが……」

 

 アリーシアはそう呟き、「オイコラ」とサビターはツッコむ。

 

「だが此奴はどれだけ肉体が傷つこうとも決して膝をつかなかった。精神と肉体の強さが限りなく近く、戦士としては正しく理想的な人間だ。このゴミみたいな人格を除けばな」

「だからなんで俺の性格ばかり指摘するんだよ!?そんなに俺悪い奴じゃねぇだろ!?」

「功績は認めるけど、敵に容赦しなさ過ぎるのがちょだと、ねぇ……」

「敵に一切の慈悲を与えないのは戦士としては優秀だが、人間的には完全に終わってある」

「まぁ性格がゴミカス野郎でもコイツは俺達の仲間さ!俺はあんま気にしないぜ、そういうの」

 

 フログウェール、ギズモ、ナックルが言葉を揃えてサビターを褒めながら罵倒する。

 

「そうよ……サビターは女性にも常にセクハラするし、どれだけ袋叩きにされても絶対やめない女の敵だけど、やるべきことは必ずやるし、仲間思いな良い人間ではあるのよ」

 

 トイレから戻ってきたイアリスが体調を戻しながらキルラに肩を抱えてもらいながらやって来た。

 

「なんか皆同じ事言ってるから私からは敢えて言わないけど、これだけは言わせてもらえる?サビターは仲間を大事にする良い人よ~」

「さんざ人をバカにしてきたお前等の事なんか信じられるか!おうイアリス!試しにコイツ等の頭の中覗いてみろ!罵詈雑言のバーゲンセールだぜ!」

「い、いや。気持ち悪い物を見たせいで今は能力使うの無理……次使ったら胃丸ごと吐きそう……」

 

 サビターと幹部達が騒ぎ立てる中、キベルザとカラブは神妙な顔になりながら唇を噛み締め、何かを決意したような顔をしていた。

 

「これではだめだ」

「ええ。こんなのは、認められない……」

 

 二人が俯きながら小さく呟いたのを、その時その場に居た人間は誰も分からなかった。

 

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