(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第118話 僕達が撮りたいのは②

 

 その後、ニーニルハインツギルドの幹部達への取材は完了し、彼等に取材のお礼にお土産のお菓子が入った紙袋を持たせて帰らせた。

 彼等はスウィートディーラーのお菓子目当てに取材を快諾していた。

 

 取材班の二人はサビターについて更にもっと別の取材をしたがっていたが、アリーシアは何故かこのことについて消極的だった。

 

 彼女はサビターについてよりも店に焦点を当てて欲しいようで、アリーシアはキベルザ達に店内をもっと撮影して欲しいと訴えかけた。

 その熱心な説得が功を奏し、店内の営業している様子をカメラに収めてもらうことになった。

 しかし、取材班の彼等はあまり気乗りしていなさそうだった。

 

 次の取材は実際にスウィートディーラーが営業している様子を撮影する事だ。

 

 キベルザとカラブは日を改めて後日店を訪れ、店前には『テレビ取材中』と書かれた看板が立てかけられていた。

 

「次のお客様どうぞー!」

 

 アリーシアの快活な声が店内に響く。

 取材陣の二人がカメラを回していても好奇心で見つめる客はいたが、それも直ぐに消え失せ、目の前の甘味に意識が向いていた。

 

 セアノサスとタマリはキッチンにて巨大な二つの錬金釜を使って調理中であり、アルカンカスは皿洗い、そしてサビターと言えば。

 

「ありあとやしたー」

 

 気の抜けた声と表情でテーブルの皿を片付けて汚れを拭き取り、ホールの仕事をこなしていた。

 

 その様子をカメラ越しに見ていたキベルザとカラブは、何やら不満そうな表情だった。

 

「テメェコラァ!」

 

 店内で男の怒号が聞こえ、カメラはすぐさま声の鳴る方へと向かった。

 

「俺が注文したのはモーモープディングだ!白くて甘いガウのミルクの味がする、お口の中が甘くて幸せになるスウィーツだ!なのになんだこれは!?普通のプディングだし、俺が注文したモーモープディングをアイツは美味そうに食ってやがるぞ!?」

「ウメッシュ」

 

 中年の男が怒鳴り散らしながら、自分が食べたかった品を別の人間に食べられて顔を真っ赤にして怒っていた。

 

「ったくしょうがねぇ奴等だ全く」

 

 サビターは呆れながらそう呟き、客のいざこざを仲裁しに行った。

 キベルザ達もカメラをすぐに向けて向かう。

 これは良い物が取れそうだと、嬉しそうに寄っていく。

 

 何故彼等が嬉しそうにしていたかというと、サビターの行う仲裁とは、大抵が客を殴りつけて訴えかける直接的で暴力的な行為だった。

 周りの客達はそれを承知しながら己が注文したスイーツに舌鼓を打ち、我関せずといった様子だった。

 キベルザ達も、おそらくそうなるだろうと見越してカメラをサビターに向けていたが、彼はピタリと止まり、硬直した。

 

 アリーシアから、尋常じゃない殺意を背後から感じていた。

 しかもそれだけじゃない、殺意と共に念を送るかのように「カメラの前で客を殴ったら殺す」と魔力と共にオーラを発してサビターを御していた。

 

「お、おまえら。けんかはほどほどにな?」

 

 そう言ってサビターは精一杯の作り笑いを見せた。

 

「……え」

 

 サビターの通常なら絶対にしない微笑みを見た常連の中年男性は、突然のサビターの異常事態に目を点にしながら見つめる。

 

「え、え?サビター……さん?なに、なにを言ってるんですか?お、俺、そこまで酷いことしましたか?」

 

 サビターの異常行動にえも言われない恐怖感を感じた中年男性の客は冷や汗を額から流しながら、席から立ち上がり数歩下がった。

 

「何を言っているんだね。僕はいつもこんなだよ?さぁ、喧嘩は犬も喰わないから、お菓子を食べ直しなさい。新しいのをあげるから」

「す、すいませんでした!もう二度と騒いだりしません!だから犬の餌にするのは勘弁してください!どうか!どうかご堪忍を!」

「だれもそんなことは言ってないよ?さぁ、土下座はやめて席に座って、スイーツを食べなさい」

 

 何故かサビターが敬語と笑顔を使って客に接していて、それをサビターからの最終警告と勘違いした客は財布ごと店に置いて立ち去って行った。

 

 サビターはどんよりとした疲れた表情でチラリと後ろにいるアリーシアを見ると、彼女は35点と書かれた小さなプラカードを掲げて見せた。

 対応としてはあまり良くなかったのだろうか、ため息を吐きながら接客へと戻って行った。

 

「さぁさぁ皆さん!今日も一日美味しいスイーツを食べて行ってください!持ち帰ってお家で食べるのも良いでしょう!いつもご来店いただきありがとうございます!」

 

 サビターはダメ押しで作り笑いを再度浮かべながらできるだけ丁寧な口調で周りの客に明るい声で言ったが、普段のサビターから出ない言葉と態度に違和感と恐怖を感じたのか、先程まで騒がしかった店内は森の中で虫も鳴かないような静寂で異質な空間へと変貌した。

 

「サビターさん、今のは一体何なのでしょうか……?」

「あ?何がだ…何がですか?僕はいつも通りの接客をしているだけですよ?」

「い、いや、その声と喋り方、全然普段と違うではないですか。もっとこう、豪快で荒々しく、傍若無人な感じの……」

「ここは接客の場ですよ?そんな態度でお客様に接するわけないじゃないですかやだなぁもう!」

 

 サビターの不自然な喋り方と雰囲気に嫌悪感を示したのか、何人かの客が拒否反応で嘔吐していた。

 

 アルカンカスがおしぼりと水が入ったバケツ、そして雑巾を持って来て清掃を始めた。

 

「どうしたんですかサビターさん!?貴方今日変ですよ!」

「そうですよ!いつものサビターさんを見せてください!」

 

 キベルザとカラブが説得するかのようにサビターに訴えかける。しかしサビターは作り笑いを浮かべたまま

 

「何を言っているんだい?僕はいつもこんなじゃないか。あまり良い加減なことを言うもんじゃないよ?怒るよ?」

 

 若干彼の本性が滲んで出ていたが、あくまで自分はいつもの調子だと言い張る。

 何故ここまでサビターは己を偽り続けるのか、それは昨日に起こったある出来事がきっかけだった……

 

 一日前、スウィートディーラーにて。

 

「やっぱり、怪しいと思うんです」

 

 アリーシアがきっぱりとサビターに告げた。

 

「はぁ?怪しいって、何がだよ?」

「あのカメラマンの人達ですよ!サビターさんを尊敬してるなんて、絶対嘘か何かかと思うんです!」

 

 アリーシアは毅然とした表情と態度でサビターに言った。

 しかしサビターは「そうかぁ?」と言ってあまりまともに取り合おうとしない。

 

「良いじゃねぇかウソでもホントでも。俺の噂が好評であれ悪評であれ、俺の存在感は上がるんだから万々歳だろ」

「好評は良いとしても悪評はダメです。お店の評判にも繋がるんですから」

 

 サビターは「こまけー女だ」と言いながら漫画雑誌を両手で開いた次の瞬間、紙の本である漫画雑誌は真っ二つに両断された。

 

「だーっ!?俺の今週の楽しみが!?てめぇなにしてくれてんだアリー…シア……?」

 

 サビターはアリーシアを睨みつけながら怒ったが、次第に語尾が小さくなって、しまいには言葉が消えていった。

 アリーシアはサビターに対して本気で怒っている目で逆に睨み返された。

 

「サビターさん。貴方は少々自分本位でこの世を生き過ぎです。貴方に振り回される私達の身にもなってください。貴方の行動一つでこのお店の今後が良い方にも悪い方にも変わるんです。その自覚が、貴方にはまるで足りてない」

 

 アリーシアの正論にサビターは「っす…」だの「はい…」だの「すませ…」だの一応反省の返事をしていた。

 

「明日、サビターさんはカメラの前ではお行儀良くお客さんに接してください。三つ星レストランのスタッフ、とまでは言いませんからせめて一般のお店レベルには愛想良くしてください。もし破ったら、貴方には死を渇望するほどの痛みを発動させる魔孔を突きます。死ぬまで」

「いやいや!そんなアリーシアさん、冗談キツいっすよ〜!俺にそこまで求めるの、は……」

 

 サビターは茶化すようにアリーシアの胸部を突きながら言ったが、彼女の目を見ると、「本気で殺すぞこの虫ケラが……」と言った冗談では済まされない本気の殺意と侮蔑の感情が彼女の瞳の奥から垣間見え、サビターは背筋も下半身も縮こまり、両膝を木製の床に着き、両手と頭も床に着いて「かしこまりました」とブルブル震えながら返事をした。

 

「私めは貴方様の忠実なる下僕、卑しい豚よりも薄汚いクソに集るハエでございます、なんなりとご命令をお申し付けください……」

「そこまでは言ってませんよ」

 

 冷えた目で見下ろしながら端的に言うアリーシア。改めてスウィートディーラーの真の支配者は誰か、誰に逆らってはいけないか、それが満場一致で決まり、アリーシア以外の全員の頭と魂に刻まれた瞬間であった。

 

 そして時は現在に戻り、店内ではお通夜ムード細々とでスイーツを食べる客と、恐怖に完全に屈しているサビター。

 

とアリーシア、タマリ、アルカンカス、そして滞りなく業務が行われている事、そしてお店がテレビで映る事を無造作ながら楽しそうに笑顔で接客するアリーシアをそれぞれカメラに映しながら、キベルザとカラブは、不満そうな、退屈そうな顔でカメラのレンズ越しに店内を見ていた。

 

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