(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第124話 こんなオタクしらないよ

 

 スウィートディーラーは今日も客のざわついた声と店員の快活な声、そしてたまに客とキッチン担当の店員の奇声が響いていた。

 

「やっぱろこのお店のケーキは最高!」

「タルトおいしい!」

「おい!このあまりにもうますぎるショートケーキを作ったのは誰だ!?」

「あまあま!あまあま!うぉいちぃ~!」

「砂糖!砂糖の味する!砂糖の味するよ~!」

「ほげぴ~ぱらぴらぱらぷぷぷぁ」

「ギャアアアアア!ジャンプオレンジが私の目に入ったぁ!いだぁ~!」

「ししょ~かわいそ~」

 

 店はいつも通りの日々が続いていた。

 だがその中に、一つだけ欠けていたものがあった。

 皆忙しくて、食にうつつを抜かして、誰も気づいていなかった。

 

「はぁ~疲れたぁ~」

 

 アリーシアは椅子にどかっと座りながら女性らしからぬ足の開き方で豪快に息を吐いた。

 

「あぁ~目がぁ、目がぁ」

「セアノサス、お前まだ目が治ってないのか」

「なんかしつよーに目を狙われたらしーよ」

 

 未だ目を抑えて痛みに喘ぐセアノサスと、それを心配しながらも呆れるアルカンカス。

 そして魔導書のページを捲りながら全く気にするそぶりすら見せないタマリ。

 

「アリーシア、客が居ないからってそのようなだらしない恰好は控えろ」

「すみません、完全に気が抜けてました……」

「アリーシア、貴方なんだか私達みたいな感じになってきてるわね。なんかこう……ダメな感じが」

「わかる」

「めちゃくちゃ心外なんですけど!?」

 

 アリーシアは露骨に嫌そうな顔をし、その反応を見た三人はゲラゲラゲラと指をさして笑っていた。

 

「この感じ、ずっと続けばいいね」

 

 ふとタマリが頬を緩ませながら唐突にそんな事を言った。

 

「このよにんで笑って泣いて怒って、そんなひびがずっと続けばいいなっておもった」

「タマリ……」

「あれ?私達四人でしたっけ?もう一人誰かいませんでした?」

「しらね」

「俺も分からん。誰かいたか?」

「いないわね」

 

 アリーシアはそんなタマリを愛おしそうに見つめ、片膝を地面につき、彼と同じ目線に立った後優しく抱きしめた。

 この場にいないもう一人については四人共記憶から抜け落ちているのか、それとも知らんふりをしているのか、まるで話題にも出さなかった。

 

「私もするわ!」

 

 セアノサスも彼女に続きタマリをアリーシアよりも短い両手で抱擁し、アルカンカスも「俺もやった方がいいのか」と困惑しながらも三人でタマリを抱きしめ合う。

 

「くるしいよ〜!」

「タマリ、私達はこれからもずっと一緒ですよ。誰かが欠けたり、離れたりする事は絶対ありません」

「そうだ。俺達は出自は違うが血よりも濃い絆で結ばれた運命共同体だ。誰にも壊されたりしない」

「そうですぞ。某達は出会い方に難あれど、ここまで共に戦った同士。死ぬまで仲間であり家族でもありますからな」

「そうよ!私達の友情は、絶対切り裂けないんだから……?…?………………?え?」

 

 四人の中に一人異物が混じったような気がして、セアノサスは隣にいる人物に顔を向ける。

 そこには黒髪を赤いバンダナでまとめて黒縁の丸メガネをかけ、チェックTシャツと淡い水色のジーパンを身につけた変な男がいた。

 

「え!?え!?だ、誰!?」

「誰ですか貴方は!?」

「誰だお前」

「誰?こんなオタクしらないよ」

 

 四人は謎の人物に驚き飛び退き、怪訝な目で男を見つめた。

 見た目は完全にオタクだった。

 しかも古いタイプの。

 何故この店にいるのか、鍵を閉めたのにどうやって入ったのか、そもそも何者なのか、そして何故平成のオタクみたいな格好をしているのか、彼らにとってはまさに分からない事だらけであった。

 

「あ、もしかしてお客様ですか?」

 

 先に口を開いたのはアリーシアだった。

 

「申し訳ないのですがもう既に閉店の時間となってまして…また明日改めて来店いただいてもよろしいでしょうか?」

 

 彼女は目の前の男が客だと思い、営業モードで丁寧に対応をする。

 アリーシアの態度にオタクは首を傾げて何を言っているのか分からなさそうな顔で彼女を見つめ返す。

 

「ちょw某は客ではござらん!水臭いですぞアリーシア氏〜〜〜某と過ごした日々をお忘れか!?」

「も、申し訳ないのですが貴方のようなオタクとは面識がございませんが……」

「済まないがもう閉店時間だ。食事処を探したいのなら今日は他所へ行ってくれ」

「ちょっとアルカンカスさん!失礼ですよ!」

「いや、先ほどの君の言葉も割と失礼だと思うんだが……」

「オタクはスイーツショップくんなよ」

「タマリ!?」

「そうよそうよ!オタクはアニメイトとかコミケにでも言ってなさいよ!」

「セアノサスさん!?」

 

 タマリとセアノサスは相手が客じゃないと判断したからか、容赦のない罵声を浴びせてきた。

 

「これは手酷いwww酷いですな〜〜〜拙者ですよ拙者!」

 

 そう言ってオタクはメガネとバンダナを外し、素顔を表した。

 

「なにがせっしゃだこのやろー。一人称くらい統一しろオタクこのやろ──……!?」

 

 タマリはガルガルと男に警戒しながら罵声を浴びせていたが、彼の素顔を見てタマリは目玉が飛び出す勢いで見開き、驚嘆の表情を見せた。

 そしてそれは他の三人も同じだった。

 

「拙者拙者!サビターでごさるよ〜〜〜!」

 

 四人の前に突如現れた変なオタクは、彼等の仲間であり中心人物のサビターその人であった。

 

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