(法を)お菓子屋さんへようこそ!   作:新田トニー

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第132話 ダサいと思う奴は前に出てこいよ!全員殴って黙らせてやるから……

 

「試着会?そんなのする必要ありますか?」

「あるに決まってんだろ。お前自分の格好見て何も思わないのか?」

「え?変ですか?別に変じゃないですよね?……いや、なんですかその顔。私普通の格好してますよね?」

 

 アリーシアは困惑しながら問いかけるが、俺はダメだコイツ……という哀れみのこもった眼差しを向けた。

 

「お前らなぁ、そんなナメた気持ちであの国入ったら……死ぬぞ」

「死ぬ!?そこまでですか!?」

「こわいね」

「あの国は暴力、窃盗、強盗、殺人なんてザラにあるんだ。今のお前ら他の国から観光に来たおのぼりさんって感じでかっこうのカモだぜ」

 

「だから」と言って俺は四人にそれぞれ衣服の一色を渡し、着替えてくるように指示をした。

 

「この服は今のお前らにぴったりなものを俺が直々に選んだ。これさえ着ればお前ら全員シティーボーイだ」

「しつもーん。アリーシアとおししょーはシティーガールでは?」

 

 タマリの質問に女性陣の二人はそうだそうだと同意を求めた。

 

「お前何言ってんだ。20過ぎたらもうババアだろ。シティーガールじゃなくてシティーババアァァァァァァァァァァ!?」

 

 俺はタマリの質問に呆れるように答えたが、俺の言葉のとこにキレたのか知らんが俺の両足の脛をそれぞれ思い切りローキックで蹴り上げた。

 魔力により身体能力を底上げされた彼女達の本気の蹴りは、俺の脛をことごとく破壊し、二足歩行を不可能にした。

 

「この人まだゲームの影響受けてますよ」

「ハタチはまだ女の子よ!サビターさん、いくらなんでも今の発言は聞き捨てならないわ。今のあなたはロリコンよロリコン」

「20を過ぎた女が自分を女の子と名乗っている時点で他人からしたら痛い風に見えるが……」

「アルカンカスさん?人間の脛ってとんな音で壊れると思いますか?あなたの身体で実演してあげてもイイんですよ?」

「20代はまだ少女だな。アイドルグループを作っても許される年齢だ」

 

 アルカンカスめ、即座に肯定の言葉を使うとは、変わり身の早い奴だ。

 

「それじゃちょっとそれ着て、生まれ変わった姿を見せてくれないか」

 

 俺は服を着るように催促すると各々更衣室に入り、着替え始めた。

 衣擦れの音がし、順調に着替えている音が確認できる。

 

 俺がこゆなことを提案したのにはいくつか理由があった。

 

 まずはじめは潜入任務がバレないようにすること。

 

 俺は顔が割れているためそれなりの変装はするが、潜入任務などまともにやったこともないようなアイツらは正直いつボロを出してもおかしくない。

 

 だからちゃんとバレずに危険を冒さずに、安全に帰るために必要なことだ。

 

 そして二つ目は俺の性癖を改善するためだ。

 

 今の俺はまだ二次元のゲームヒロイン中毒から抜け出せていない。

 さっきのハタチはババア発言だって、本来の俺ならばそんなことは絶対言わない。

 俺は35だぞ?ジジイに足先突っ込んでいる男が20の女をババア扱いするって、どんなギャグだよ。

 俺は今こそ現実の女の素晴らしさを再認識し、元の自分に戻らなければならない。

 

アニメやゲームの女に恋をするなど、そんなダサい真似はできないのだ。

 

「待たせたな」

「せたな」

 

 先に出てきたのはアルカンカスとタマリだった。

 アルカンカスには筋肉質なガタイを生かすためノースリーブの表が黒で裏地が黄色のジャケット、その下には黒のTシャツ、グレーのデニムストレッチパンツ黒のシューズにした。

 首周りには収縮可能な電光付きのフードが付いており、赤いバイザーのようなサングラスを装着させた。

 

 続いてタマリには黄色の革ジャケット、肩から上腕二頭筋あたりにワインレッドが入っており、その下には性病持ってそうな意地の悪い顔をした猫のイラストがプリントされたタンクトップ、青色のダボダボズボン。

 靴は黄色と黒が特徴的な、本人の足のサイズよりやや大きい靴を履かせた。

 

「これ……お前が本当にコーディネートしたのか」

「どうだ。カッケェだろ」

「お前のセンスなのかマッドギアの住民のセンスかはわからんが、俺からするとダサく見えるんだが」

「ダサくねぇよ!なぁタマリ、お前もそう思うよな!?」

「服にこだわりないからわからんちん」

 

 くそ、こいつに聞いても意味がないか。

 俺は間違いなくかっこいいと思って選んだが、ここはあの国の奴らの独特なセンスということで後で誤魔化しておこう。

 

「さて!次はメインディッシュの女達だ!さぁカモンカモン!」

「なんかぼくたちの時と打って変わってたいどかわったんだけど」

「なんかムカつくな」

 

 外野のヤジなんて聞こえませーん。

 俺は俺の道を行きまーす。

 さぁ、俺に見せてくれ!

 

「お待たせしました」

 

 アリーシアがセアノサスよりも前に早く出た。

 彼女が着ていたのはヘソと腹が丸見えな白いトップスとそれを覆うように着込んだ同じ白のレザージャケット、太ももや股関節などチラッと見えそうな、意図的に見えるように設計された黒のショートパンツとガーターベルト、そして茶色のニーハイブーツだ。

 そして極め付けはいつもかけていたメガネを外してもらった。

 マッドギアはメガネなんぞかけてたら男だろうが女だろうがゲイ認定される恐ろしいナードな奴には厳しい国だからな。

 

「なんかその、いろんなところが見え隠れしてたりスースーして恥ずかしいのですが……」

「やっぱお前はこうでなくっちゃな。お前はそういう格好した方が間違いなく輝くぜ」

「サビターさんの趣味がなんとなく垣間見えました……」

 

 アリーシアは目を細めて頬を絡めながら俺を睨んでそう言った。

 なんだよ、文句があるならはっきり言えよ。

 俺はエスパーじゃないから、お前が何に怒ってて羞恥心を感じているのか俺にはちっともわからないんだなぁこれが。

 

 しかし、アリーシアもそう言った表情ができるとは……今のは当然グッと来た。

 これなら二次元キモオタクの洗脳を解除するのも時間の問題かもな……

 

「真打登場……かしら」

 

 俺たちの背後からセアノサスの声が聞こえた。

 

 セアノサスの格好は髪型を地毛の藍色の髪をゆるふわなウェーブがかかったスタイルの髪にし、彼女の体より大きい黒のフード付きパーカー、そして布面積の少ないホットパンツ、黒のニーハイにピンクと黒が混ざった靴だ。

 

「どう?おしゃれでしょう?何着ても似合うでしょう?」

「ああ、さすかは俺の女だ。二次元の女共とはまるでレベルが違う。やっぱり彼女を作るのなら絵よりも現実の女とだよな!」

「その通りよ!サビターさん!鳥は空を飛ぶように、魚は海で泳ぐように、人間は人間と恋に落ちるのが普通という物。アニメの絵の中のキャラクターとはおさらばよ!」

「その通りだ!俺は不死身のサビター!ウィルヒル王国を何度も救い、ジョニー・ニーニルハインツと同率一位を誇る国最強ギルドの幹部さ!」

「「「「元な(ね)(です)」」」」

 

 アホ共四人は完璧なタイミングで言ったが、俺には意味のない言葉だ。

 何故なら今の俺は完全に病気が治ったからな。

 ゲーム画面でふひふひ言いながら存在しない女に欲情していたのが嘘のようだ。

 やはり愛すべきは現実の女とそれについてるデカい乳とケツである。

 

「ん……もう着いたって」

 

 タマリはピクリと瞼を動かしながら反応した。

 どうやって魔法動物とコミュニケーションを取っているのかは知らんが、遂に俺達はあのマッドギアへ辿り着いた。

 

 ここから先はウィルヒルの法律や正義は一切通用しない。欲望と暴力が渦巻く、電子と鋼鉄の修羅共が蠢く危険な国だ。

 

 俺もマッドギアへ潜入するため、奴等に溶け込めるように専用のアウトフィットを用意した。

 

 背中に機械と狼が融合したようなデザインのイラストがプリントされた茶色の革ジャケット、襟が黄金色に発光しており、中には黒のTシャツ、下はワインレッドのレザージーンズ、そしてマッドギアで流行りの白と黒が特徴的な高性能シューズを履いていた。

 この靴凄いんだぜ、履いた瞬間最適な締め付けで靴のサイズの調整をしてくれるんだ。

 

「それじゃあお前ら、覚悟はいいか?繰り出すぜ」

 

 俺の言葉に一同は頷き、ドアを開けて外を出た。

 外はまだ昼間で、太陽が目に差し込み、俺は思わず顔を顰める。

 

 陽光に目が慣れ、外の景色を見渡す。

 俺達は魔法動物が載せていた荷馬車ならぬ荷魔車から降り、入国する為のゲートへと近づく。

 

 通常、ここでは厳しいセキュリティチェックが入り、少しでも様子がおかしければ入国はできずボコ殴りにされて蹴り出される。

 

 のだが……

 

「むほっ!リリアちゃん今日もKAWAII……」

 

 国や街を脅かす侵入者を阻む門の管理者である警備隊の人間が何やら雑誌を読んでニヤニヤしていた。

 

 これから国へ入ろうとしている正体不明の人間を全く注視していない。

 むしろ注視しているのは雑誌の方であった。

 

「な、なぁ。俺達この先通りたいんだけど……」

「え?ああ。いいよ勝手に通って」

「は?いやでも身分確認とか……」

「だからいいよって。俺今忙しいの」

「いやいやでも……」

「うるさい!俺今忙しいの!見て分かんないかな!?」

 

 そう言って警備隊の男が見せてきたのは、『コミックじかんシャララ』の文字が載った、可愛い女の子のイラストが載った漫画雑誌であった。

 明らかに某漫画雑誌をもじってパクっている。

 これ訴えたら勝てるだろ。

 

「え?お、お前これアニメの漫画だろ……こんなの読んでたら同僚に馬鹿にされるだろ?随分肝が据わってるな……」

「は?何言ってるんだ?皆読んでるよ。神漫画しか載ってないからね。特にこの『ご注文はケンドリックジャベリンズですか?』とかな」

 

 そう言って俺たちに見せてきたのは著作権という言葉を理解していないような既視感しかない女の子ばかりが映っている漫画だった。

 

「まぁそういうわけで俺忙しいから、通るならとっとと通って」

「サビターさん?守衛さんもこう言ってますし行きましょう?」

 

 アリーシアの進言に、俺は「あ、ああ」と締まり切らない返答をしながら門を通った。

 

 一瞬警備隊の男の様子がおかしかったが、門の先は俺が見た時と変わらない景色が広がっているはずだ。

 サイボーグ達が日々犯罪を犯し、衛星や倫理観が終わってるあの懐かしい日々が、再び俺を待っているはずだ。

 

 そう信じて俺は先を進む。

 

 そして、俺の祈りは見事に打ち砕かれた。

 

「え……」

 

 俺は口を半開きにして立ち尽くした。

 

 俺の目の前にある景色は、かつてのサイバーパンクらしい街並みじゃ無かった。

 

 俺の目の前にあったのは、アニメの女の子のイラストや電光掲示板、そしてテレヴィジョンなどにデカデカとビルに張り出し、映し出されていた。

 

「う、ウソだ」

 

 俺はワナワナと身体を震わせ、幽鬼のようにフラフラとその辺をおぼつかない足取りで歩いた。

 

 仲間達の心配する声が聞こえた気がしたが、今の俺はそれだからでは無かった。

 何故ならば、俺の第二の故郷とも言える街並みが一変していたのだ。

 

「いて!」

「あだぁ!」

 

 俺は見知らぬ誰かとぶつかってしまった。

 しかし俺にとってはそれは好都合なことだった。

 マッドギアに住んでいる奴らは脳みそを物欲と闘争本能と生殖本能で支配されており、肩がぶつかっただけで某ヤクザゲームのように喧嘩になるからだ。

 

 俺はぶつかった相手の反応を待った。

 これからぶつけてくるであろうセリフ候補①。

 

『なんじゃワリャア!?命刈り取ッゾォオオオ!?』

 

セリフ候補②

『ナニシテッだァァァァァァァァァァ!?お前のケツでキャラバンを演奏してやろうカァ!?』

 

セリフ候補③

『オマエコロス。ダイスキココス』

 

 個人的には①がやはり定石だが、②もあり得る。

 もしかしたら③がダークホースの可能性もあるが……と、俺はそうこう考えてるうちにぶつかった男はくるりとこちらを振り返った、ら

 

「いやぁ〜失敬失敬拙者嫁グッズを買い過ぎて前が見えていなかったで候!怪我はないでござるか?この度はご無礼してしまったこと、お詫び申し上げる!これからは気をつけて歩くから安心めされよ!では!」

 

 男は、否オタクはそう言って離れて行った。

 俺の予想は全て外れて数秒呆然とした後、両膝をがくりと着いて倒れてしまった。

 

「サビター!大丈夫!?」

 

 セアノサスが俺に駆けつけ、両肩を揺さぶる。

 しかし、俺は彼女の不安げな表情でさえ、どうでも良くなってしまった。

 

「今ぶつかった男……」

「え?」

「今ぶつかった男、見た目はオタクなくせして、身体にはタトゥーと身体改造の手術の後があった。アイツは機械化手術を受けている……」

 

 俺は見たことそのままを言葉にして喋り続けた。

 セアノサスは「それがどうしたのよ」と疑問を口にするが、俺はそれに対する返答はせず、虚ろなまま店を見上げ巨大なビル群を見た。

 

『オタクに優しい国、マッドギアへようこそ!アニメ、フィギュア、ゲーム、その他沢山のサブカルが目白押しです!ぜひご観覧ください!』

 

 ビルの壁にはマッドギアへようこそ!と書かれている看板と、3Dアニメーションで投影されているアニメはあの美少女が宣伝をしていた。

 

「可愛いキャラクターですね。あれはなんて名前なんでしょう?」

 

 アリーシアは見上げながら言うと、通りがかりの男これもオタクが「ああ、あれはね」と言った。

 

「キリアン・マッドギアだよ。最近偉人を美少女にして遊ぶソシャゲが流行っててね、彼、いや彼女もそのうちの一人になったんだよ」

「それ訴えられたりしないんですか?普通に侮辱罪だと思うんですが」

「いや、訴えないでしょwだって死んでるんだから」

 

 それだけ言うとオタクは通り過ぎて行った。

 

「し、死人に口無しって事ですか……えげつな……」

 

アリーシアは顔を引き攣らせてドン引きしていた。

 そして俺は、その話を聞いて全てに絶望した。

 

「ここはマッドギアだったんだ……!畜生!オタク共め!オタクなんか地獄に落ちてしまえっ!」

 

 俺は地面に悔しさを拳で地面にぶつけ嗚咽した。

 この国は、オタクに支配されてしまったのだ……

 

「さるのわくせいごっこしてる?ぼくもやっていい?」

 

 タマリは俺の気持ちなぞ微塵も触れずに、キラキラして目で俺に問いかけた。

 

 第二の故郷がオタクに支配されたディストピアと化していた事に、しばらく俺は立ち直れなかった。

 

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